2016年2月28日(日)


2016年2月13日(土)日本経済新聞
ドイツ銀、債券買い戻し 6000億円規模、信用不安対策
(記事)



CoCo債(ココ債)
読み方: ここさい
英語名: Contingent Convertible Bonds
分類: 債券|種類

CoCo債(ココ債)は、「Contingent Convertible Bonds」の略称で、日本語で「偶発転換社債」とも呼ばれ、
制限条項が付いた転換社債をいいます。
これは、主として世界の金融機関が発行する、株式と債券の中間の性格を有する新型証券(ハイブリット証券)で、
世界的な金融危機の反省から自己資本規制を強化する流れの中で、2010年頃から欧州の金融機関を中心に発行され、
その後、アジアや米国など世界中の金融機関に資本増強手段の一つとして広まりました。
(2019年にかけて新たに導入される自己資本比率規制(バーゼル3)において、
上積みを求められる中核自己資本への算入が可能になったことから金融機関で人気化)
一般にCoCo債は、発行体である金融機関の自己資本比率が予め定められた水準を下回った場合などにおいて、
元本の一部または全部が削減される、あるいは強制的に株式に転換されるなどの仕組み(トリガー条項)を有しています。
通常の転換社債では、投資家が発行企業の株価水準などを見ながら、株式に転換するか自由に判断できるのに対して、
本債券は金融機関が一定の資本不足になると普通株に強制転換されたり、元本を削減されたりする点が大きく異なり、
投資家のリスクが高くなる分、利回りが高めに設定されます。
また、他のハイ・イールド債と比べて、格付けと利回りが高いことから、
リスクはそれなりにあるものの、投資家には高い人気があります。
なお、投資対象として魅力的と思われるCoCo債ですが、一方で「商品設計の複雑さ」を問題視する声もあり、
仮に金融危機が発生し、ある金融機関でトリガー条項が発動された場合、「ドミノ崩し的に債券価値が下落する恐れがある」
と指摘されており、リスク面での注意(リスク査定等)は必要です。
(iFinance 債券投資用語集)
ttp://www.ifinance.ne.jp/glossary/bond/bon238.html


 


【コメント】
今日と呼ばれる債券について一言だけコメントしたいと思います。
「CoCo債(ココ債)」の特徴については、紹介していますiFinanceの債券投資用語集の説明が参考になると思います。
昨年2015年、大手金融機関の何行かが、
”自己資本比率が一定水準以上に下がると自動的に元本が削減される仕組みとなっている債券を発行する。”
という内容の記事をいくつか紹介したかと思います。
その時はこの名称は出てこなかったかとは思いますが、
実はそのような仕組みとなっている債券のことを「CoCo債(ココ債)」と呼ぶようです。
以前のコメントでは、私は、
”自己資本比率が一定水準以上に下がると元本が削減されるとはいうが、一体いつ時点の自己資本比率のことを指しているのか、
また、そもそも’債券の元本が削減される’とはどのようなことを指すのか、
削減されるのは、債券の元本でなく利率のことなのではないか。”
といった内容のことを書いたかと思います。
今日改めて「CoCo債(ココ債)」についてインターネットで検索していますと、
削減されるのは利率ではなく元本のことである、ということが分かりました。
最初は、”債券の元本が削減される”の意味が分からなかったのですが、
「CoCo債(ココ債)」では、普通株式へ強制的に転換されるという設計もある、転換社債の一種である、という解説を読んで、
”債券の元本が削減される”の意味がやっと分かったところです。
「CoCo債(ココ債)」の”債券の元本が削減される”とは、
文字通り、発行者が負っている債務の金額(元本部分の金額)が削減される、ということを指すようです。
通常は、元本削減後も利率は同じなままなのだと思いますので、元本の金額が小さくなった分だけ(元本削減割合と同じ割合だけ)、
「CoCo債(ココ債)」保有者が受け取れる利息金額も小さくなる、ということだと思います。
以前私が書きました大手金融機関発行の新型債券(「CoCo債(ココ債)」)についてのコメントは間違っていたようです。
ただ、元本削減時の会計処理については、少し判断が難しいかもしれません。
文字通り、債券の元本が削減される(そしてその後財務状況がいかに改善しようとも元本は決して復元しない)となりますと、
率直に言えば、これは法人税法上は発行者は寄付を受けたことになるわけです。
そして、「CoCo債(ココ債)」保有者は発行者に対して寄付を行ったことになるわけです。

 



すると、「CoCo債(ココ債)」の元本削減時の、発行者、保有者それぞれの仕訳を書くと、次のようになるわけです。


○「CoCo債(ココ債)」発行者の仕訳

(CoCo債) xxx / (債務免除益(益金)) xxx


○「CoCo債(ココ債)」保有者の仕訳

(寄付金(損金不算入)) xxx / (CoCo債) xxx


この仕訳のポイントは、元本削減時には、発行者の債務勘定だけではなく、保有者の有価証券勘定も価額が減少する、という点です。
債務者の金銭債務の金額と債権者の金銭債権の金額とはイコールです。
したがって、両方の勘定をそれぞれ削減せねばなりません。
また、益金と損金という観点(取引の対称性の観点)から見ても、
発行者が保有者から寄付を受けたということは、保有者は発行者へ寄付を行った、ということです。
発行者が債務免除益という収益(益金)を計上するということは、
保有者は一種の債権放棄という損失(損金不算入)を計上する、ということです。
”社債の元本削減”とだけ聞くと、発行者のみが会計処理を行えばよいかのように思ってしまうかもしれませんが、
取引というのは全て、当事者にとって対称的なものです。
発行者の債務が減少するということは、保有者の債券が減少するということです。
”社債の元本削減”という場面では、保有者も取引に即した会計処理を行わなければなりません。

 


それで、最初の方でも書きましたが、私は昨年(2015年)、
大手金融機関発行の新型債券(「CoCo債(ココ債)」)についてのコメントで、
自己資本比率低下時における社債の元本削減とは、元本ではなく利率が削減されることを指すのではないか、と書いたわけです。
このコメント自体は確かに間違っていたわけですが、では仮に、自己資本比率低下時において、
社債の元本削減とは利率が削減されることを指している、としたら、それぞれどのような仕訳になるでしょうか。
「CoCo債(ココ債)」の利率削減時の、発行者、保有者それぞれの仕訳を書くと、次のようになるわけです。


○「CoCo債(ココ債)」発行者の仕訳

(仕訳なし)


○「CoCo債(ココ債)」保有者の仕訳

(仕訳なし)


実は、利率を削減した場合の仕訳は、どちらも「仕訳なし」なのです。
この理由は、元本は変動しないからだ、と説明付けてもよいですし、
利息部分は社債の勘定に含まれない(利息部分の金額は債権債務の金額にはじめから貸借対照表に計上されない)からだ、
と説明付けてもよいと思います。
いずれにせよ、元本部分を削減する場合と比較すると、利率を削減しても、
発行者に益金(債務免除益)は発生しませんし、保有者にも債権放棄損失(損金不算入)は計上されません。
当初の契約内容(契約当初の両者のトータルの債権金額と債務金額)と比べると、元本が削減されようが利率が削減されようが、
債務者にとってはどちらも有利な状態に金銭債務の金額が変動した(間違いなく債務の合計金額は減少した)ことになるわけですが、
元本の削減は益金(収益)になる一方、利率の削減は何らの収益も生じないわけです。
これは端的に言えば、会計と呼ばれる会社の計算の手法の限界なのです。
会計(特に貸借対照表)では、利息部分ははじめから度外視している以上、
利率の変動を会計上把握し計算書類に反映させることは、はじめからできないのです。
利息の支払い・受け取りは損益取引だが、元本の発行・償還は損益取引ではない、という会計上の差異は、
原理的にはその違いの原因としてはここではあまり関係はないと思います。
会計では債権債務の元本部分のみしか把握できないということが、会計原理上の理由だと思います。

 


利率の削減であれば、会計上は、債務免除益も債権放棄損失も計上されないわけですが、
本当に元本を削減するとなりますと、発行者には法人税法上益金が発生し、保有者には損金不算入となる損失が計上されます。
その後の財務状況の改善次第では、削減した元本を復元したいという考えが発行者・保有者双方に出てくる場面もあると思います。
しかし、一旦元本を削減した後に、当初の元本金額の償還を行うと、今度は逆に、法人税法上、
発行者は保有者に差額分の寄付金を支払ったことになります(損金不算入という取り扱いになります)し、
保有者は発行者から差額分の寄付金を受け取ったことになります(益金という取り扱いになります)。
元本の削減というのは、その後の起こり得る動向を鑑みると、法人税法上は極めて不利なのです。
そういったことが頭にありましたので、以前大手金融機関発行の新型債券(「CoCo債(ココ債)」)についてコメントした時は、
元本ではなく利率の削減ではないのか、と書いたわけです。
仮に自分が当事者なら、元本の削減というのは、最後の交渉(取引)にしたいわけです。
会計上は、元本が変動するというのは、極めて影響が大きいわけです。
一旦元本を削減してしまうと、復元(restore)させるのは法人税法上極めて不利ですので、
元本の削減は最後の手段(last resort)にしたい、と当事者は考える、と私はその時思ったわけです。
また、元本の削減というのは、法人税法上の取り扱いとは別に、他の点でも影響が極めて大きいのです。
それは、まず第一に財務状態に与える影響です。
先ほど、「CoCo債(ココ債)」は転換社債の一種だ、と書きました、
ここで、自己資本比率低下時に社債が株式に転換されるのであれば、理論上取引は論理的だと思います。
なぜなら、「CoCo債(ココ債)」が株式に転換される結果、社債勘定は資本金勘定に振り替えられるからです。
ところが、「CoCo債(ココ債)」の元本が削減されるとなりますと、理論上取引としては論理的ではないと思います。
なぜなら、「CoCo債(ココ債)」の元本が削減されると、社債勘定は収益となり、そして利益剰余金勘定を増加させるからです。
どちらも負債勘定が減少し資本勘定が増加するのだから、自己資本比率の増加に寄与するではないか、と思われるかもしれません。
確かに、どちらの場合も自己資本比率の増加には寄与します。
しかし、「CoCo債(ココ債)」が株式に転換されるのか元本が削減されるのかでは、決定的な違いがあるのです。
それは、資本金勘定は社内に維持・拘束されるのに対し、利益剰余金勘定は社外に流出してしまう、という決定的違いです。
発行者は今、資金繰りに窮している状態であるわけです。
自己資本比率という財務指標の低下ももちろん目下の財務上の問題としてあるわけですが、
より本質的には、負債の弁済に充てるべき現金が減少している(不足している)、という問題が発行者にはあるわけです。
それで、今後の現金流出額・支出額をできる限り削減するべく、金銭債務の金額を何とか減少させたり(利率や期日の再交渉など)、
元本を株式へ転換したり、といった手段を会社は模索しているわけです。
そんな状況下において、会社で一番大切なことは、「会社から現金が出ていかないこと」そのことなのです。
そうであるならば、元本を株式に転換するという手法が、現金が社外に流出しないという点において、財務上は望ましいと思います。
また、元本の償還期日をそのまま一定期間延長する(この場合でも会計上は仕訳は不要、益金等は一切発生しない。)という手法も、
現金が社外に流出する日を一定期間先送りできるという点において、財務上は望ましいと言える思います。

 



これらの観点から言えば、資金繰りの改善手法として財務上一番望ましくないのは、実は元本の削減なのです。
なぜなら、会社には現金は1円も入ってこないまま、利益剰余金(社外流出可能額)の金額が増加してしまうからです。
そしてさらに、法人税法上、元本削減金額がそのまま益金となってしまい、法人税の支払い負担まで発生するからです。
もちろん、そのまま債務不履行となってしまうよりは、債務免除を受けた方が会社にとってより望ましいのは言うまでもありません。
また、利益剰余金の金額が増加するとは言っても、利益を社外流出させずいわゆる内部留保を行うことは会社は当然できます。
ですので、債務不履行を起こしてしまうくらいであれば、債務免除(もしくは元本の削減)を受けられるのであれば、
会社はもちろん債務免除(もしくは元本の削減)を受けるべきです。
しかし、財務的には、資金繰りに困っている状態で、”現金は増加しないまま利益剰余金が増加する”という状態は実は回避したい
という見方になるわけです。
その意味では、ある社債について債務不履行を起こしそうな場面では、元本を削減するのではなく、
償還期日の延長を第一に考えるべきだと思います。
会社に負債があること自体は経営上も財務上も何の問題もありません。
負債を弁済しなければならないことが、そして期日に負債を弁済できないことが、問題なのです。
社債保有者としても、元本の削減に応じるよりは、その後の財務状況の改善可能性次第では、
償還期日の延長に応じる方が、法人税法上・所得税法上も有利だ、と言えます。
その後会社の財務状況が改善する可能性は極めて低いという場面では、あるいは「今日返せる分返してくれ。」と言う方が
弁済金額は多くなることも実務上はあり得ます(その後の清算手続きにおける弁済では弁済金額が相対的に小さくなり得るから)。
ただ、例えばいわゆる金融支援といった文脈であれば、元本の削減(もしくは債務免除)ではなく、
償還期日の延長を行った方が、自分の趣旨にも適いますし税法上も不利ではないわけです。
償還期日の延長を行った後、延長後の期日よりも繰上償還を行うことは全く自由(税法上も全く不利ではない)なのですが、
元本の削減を行った後、削減前の元本の償還を受けることは、特に税法上は極めて不利なのです。
また、元本を株式に転換するという手法も、資本会計上の論点を度外視すれば、財務上は望ましい手法だと思います。
ただ、その場合は、会社の既存株主の意向が問題になる(会社の株主は1人だけの場合など)でしょう。
上場企業のように、既存株主の他にも新たに株主が誕生しても問題はあまりない、という場面では、
元本を株式に転換することは財務上は望ましいと思います(税法上も発行者・保有者双方にとって全く不利ではない)。

 



最後に、会社倒産時の「CoCo債(ココ債)」の取り扱いについて一言だけ書きます。


ニューバーガー・バーマン・グループ
2014年9月
CoCo債の台頭について
ttp://www.nb.com/web/japan/pdf/201409_J_WP_The%20_Rise_Contingent_Convertible_Bonds.pdf

「AT1」CoCo債の性質
(3/5ページ)



「CoCo債(ココ債)」では、発行時・引受契約時に、元本の取り扱いや会社倒産時の取り扱いについて、
当事者間の事情に応じ様々な個別の設計が可能なのだと思います。
紹介しているニューバーガー・バーマン・グループのリサーチ・レポートでは、
CoCo債の性質として、弁済順位、償還期限、裁量的クーポン、トリガー条項について解説がなされています。
自己資本比率が低下していたり資金繰りに困っているという状況下では、会社倒産時の弁済順位が常に問題になるわけですが、
「CoCo債(ココ債)」では特に元本が削減されるという考え方(設計)をしますので、元本の削減に関連して、
会社倒産時の(清算手続き時における)債権者の会社に対する請求権(請求金額)が問題になります。
ただやはり基本的には、一旦元本の削減を行った後は、削減後の元本金額が債権者の請求権(金額)になると思います。
このように敢えて書きましたのは、一度元本の削減を行った後でも、削減前の(すなわち当初の)元本金額を
債権者の請求権(金額)とする、という取り扱いは法律上可能なのだろうか、と思ったからです。
元本の削減に応じたのは、その時の会社の窮状を鑑みた金融支援の側面があったわけですから、
会社倒産時の債務の弁済という場面であれば、発行者としても保有者としても、
削減前の(すなわち当初の)元本金額を債権者の請求権(金額)としたい、という考えが出てくるのはおかしな話ではないわけです。
債権放棄を行った挙句に、会社倒産時には少ない金額の弁済しか受けられないでは、
踏んだり蹴ったりと言いますか、泣きっ面に蜂と言いますか、会社窮状時の恩や厚意があまりにも報われないように思えるわけです。
また、発行時・引受契約時に、契約書にはっきりとした形で、元本の削減やさらには削減後の元本の復元について条項を明記し、
そして、会社倒産時は削減前の元本を請求権(金額)とする旨の条項を明記している場合は、
何ら恣意的な債権放棄・債務免除などではないわけです。
事前に明確にその旨契約書に定めているわけですから、
せめて、会社倒産時には削減前の(すなわち当初の)元本金額を債権者の請求権(金額)とするべきだ、
という考え方は間違ってはいないと思うわけです。

 



ただ、法人税法としては、基本的方針として、法人税法に則った商取引を行ってもらいたい、という考え方があると思います。
法人税法の定めにない商取引を行った場合は、包括的に寄付と同じ取り扱いをする、
という考え方を法人税法では行っているわけです。
たとえ元本の取り扱いについて事前に明確に契約書に定めていても、
法人税法ではそのような考え方はしない以上、法人税法上の取り扱いとしてはそのような取り扱いは認められない、
という考え方になるわけです。
法人税法では、税に関する取り扱いについて全法人に「共通の」取り扱いを定めているわけです。
「共通の」取り扱いは、個別の契約では変更できない、というふうに考えるわけです。
極端な例え話をすれば、「このお金の授受は寄付ではない。」と事前に契約書に明記した上で当事者間でお金の授受を行っても、
それは法人税法上は寄付という取り扱いになる、ということになるわけです。
「契約自由の原則」という考え方はもちろん法人税法においても適用されるわけですが、
商取引の類型としては、個別の契約内容ではなく法人税法の規定が常に強制的に適用される、
というふうに理解しなければならないわけです。
ですので、「CoCo債(ココ債)」の元本の取り扱いについても、
法人税法の解釈としては、個別の条項次第というわけにはいかないと思います。
そういったことを踏まえましても、やはり元本の削減は最後の最後であるべき(法人税法の縛りを受けるから)であろう、と思います。

 


The theory of taxation can sometimes differ from that of the Civil Code and economics.

課税の理論は、時に、民法の理論や経済の理論とは異なり得るのです。

 

Notwithstanding detailed clauses predetermined and written clearly in a contract made by parties,
the amount of a principal is defined only by provisions of the Corporation Tax Act.

当事者で作成した契約書にはっきりと事前に定められ明記されている詳細な条項に関わらず、
元本の金額は法人税法の定めのみによって定義されます。

 

Law prevails over a contract.

法は契約に勝る。