2016年1月27日(水)


2015年12月25日(金)日本経済新聞
富士重、特別利益482億円 国から賠償金 今期業績を上方修正
(記事)



2015年12月17日
富士重工業株式会社
上告受理申立ての最高裁判所における決定に関するお知らせ
ttp://www.fhi.co.jp/press/file/uploads/news/2015_1217_03.pdf

 

2015年12月24日
富士重工業株式会社
特別利益の計上および業績予想の修正に関するお知らせ
ttp://www.fhi.co.jp/press/file/uploads/news/2015_1224_02.pdf

 

2015年1月29日
富士重工業株式会社
訴訟(控訴審)の判決に関するお知らせ
ttp://www.fhi.co.jp/press/file/uploads/news/pdf_111262.pdf

 



【コメント】
富士重工業株式会社の一件は、簡単に言うと、次のようになるのだと思います。
富士重工業株式会社が国から受注を受けて製品を製造していたのだが、国が途中でキャンセルをしたのだと思います。
富士重工業株式会社としては、国にまだ製品の引渡しは行ってはいないものの、すなわち、
売上高はまだ計上しておらずそして売上債権もまだ発生してはいないものの、
製品製造のため一定額の現金支出は既に行ってしまっているため、
その現金支出分に関しては発注者である国に負担をしてもらいたい、と思い裁判を起こした、
ということだと思います。
会計上は、製品製造のため富士重工業株式会社が行った現金支出は「仕掛品」勘定として計上されているかと思います。
すなわち、既に行った現金支出は、販売がまだ実現していない棚卸資産の一勘定科目として貸借対照表に計上されているかと思います。
他の言い方をすれば、発注者である国に対する売上債権勘定はまだ計上していない、ということだと思います。
2015年1月29日に富士重工業株式会社から発表されている「訴訟(控訴審)の判決に関するお知らせ」によりますと、
製造の初期段階で支出される費用に関しては、国から富士重工業株式会社に対し事業年度毎に支払われる約束になっていたようです。
しかし、国がこの費用の支払を途中で拒否した、ということのようです。
このプレスリリースを読みますと、確かに富士重工業株式会社は国から製造の初期段階で支出される費用を受け取る権利がある、
というふうに解釈できるかと思います。
国としては、製品の製造や納入自体を解除したのだから、この費用の支払もする必要はない、という見解を持っていたようです。
しかし、富士重工業株式会社としては、国から費用を受け取ることを前提に受注を受けた製品の製造に着手していたわけですから、
現金支出を行った分に関しては国に負担していただきたい(残金の支払いを受けたい)、と思い裁判を起こしたわけです。
結論を言えば、裁判では富士重工業株式会社の言い分が認められたとのことです。
それはそれで一件落着であるわけですが、私が思うのは、
少なくとも会計上は、富士重工業株式会社が受け取る権利があるお金に関しては、貸借対照表に計上されてはいない、という点です。
富士重工業株式会社が国から受け取ることになっていたお金というのは、
概念的には一種の前受け金のようなイメージになると思いますが、
会計上は実際にお金を受け取って初めて前受金勘定になるわけです。
では、前受金を受け取る約束をしていた(前受金を受け取る法的権利がある)という場合はどのような会計処理になるのかと言いますと、
会計処理としては行わない(現行の会計基準にそのような定めがない)、ということになると思います。
つまり、貸借対照表に未収金額について貸借対照表に受取勘定としては計上されてはいない、ということです。
記事やプレスリリースによりますと、富士重工業株式会社はこの未収金額について支払いがなされないであろうとの判断から、
貸倒引当金を計上していた、と書かれています。
そして、このたびの裁判の確定を受けて、貸倒引当金の戻し入れ益を計上することになった、と書かれています。
貸倒引当金自体は、会計処理の性質上・特性上、減損損失とは異なり、
該当する受取勘定(金銭債権)が貸借対照表に計上されていなくても、計上することはできます。
ただ、この場合は、どちらかというと、貸倒というより、より会計的には仕掛品の販売実現が不可能になったことに対する引当金計上、
という見方をするべきかもしれません。
国から現金を受け取るという富士重工業株式会社の権利はどの程度強いのか、が争点になる(争点になった)のではないかと思います。

 



この裁判における争点と言ってもいい”受け取ることができなかった前受金”に関しては、次のように、
会計上は”未収前受金”勘定などという勘定科目を作り出すことも考えられなくはないかもしれません。

前受金を受け取る約束をした時の仕訳

(未収前受金) xxx / (前受金) xxx

前受金を実際に受け取った時の仕訳

(現金) xxx / (未収前受金) xxx

上記のような勘定科目や会計処理は考えられなくはありませんが、少なくとも現行の会計基準ではないかと思います。
前受金は、あくまで「販売代金の前受け」に関する勘定科目(製造のための現金の前受けではない)です。
しかし、経営的・概念的にはここでのこの費用とは”製造の初期段階で支出される費用”を指すとはいえ、
会計上は売上高によりその費用は回収されることを前提としていますから、会計上はやはりこの受け取りは前受金勘定になると思います。
国としては、製品製造の資金繰りに資するため、富士重工業株式会社に対し製品代金の一部を前払いした、
という考え方に会計上はなると思います。
このことは逆から言えば、製品の引渡しを受けないことにしたならば、製品代金を支払う必要もないのだから、
”製造の初期段階で支出される費用”を富士重工業株式会社に対し支払う義務も国にはない、という考え方になるわけです。
ただ同時に、富士重工業株式会社としては、製品製造には一定の時間がかかる関係上、
製品製造に際しては製造にかかる費用の一部を前受けするという約束をしていたわけですから、
たとえ製品の引渡しは行わないとしても、製品製造のためにかかった費用は発注者の責任ということで負担をしてもらいたい、
ということで、裁判で争ったのだと思います。
製品製造を途中でキャンセルした場合の取り扱いについて、事前に契約書に定めていない場合は、
この事例(事件)のように、どちらの主張が正しいと言えるのか、絶対的な判断は付かないのだと思います。
ただ、会計的な観点から言えば、国からお金を受け取ることを前提に富士重工業株式会社が行った現金支出は、
仕掛品勘定という形で貸借対照表に計上されていますので、仕掛品勘定そのもののは金銭債権ではないものの、
仕掛品勘定が発生した理由は国からの発注であることから、裁判所としてはその因果関係を認め、
仕掛品勘定の金額(正確には初度費の未償還額・残高)の支払いを国に命じたのだと思います。


Is a cash expenditure as insurance a deductible expense?
And, is a cash revenue as insurance a taxable income?

保険金の支払いとしての現金支出額は、税務上損金算入可能な費用なのですか?
そして、保険金の受け取りとしての現金収入額は、税務上益金なのですか?