2016年1月25日(月)
2016年1月25日(火)日本経済新聞
吸収分割公告
タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(記事)
【コメント】
昨日のコメントに一言だけ追記します。
図表Q30-2の設例を題材にしたいのですが、図表Q30-2の設例は会社分割全般に当てはまる仕訳であるのだと思います。
つまり、図表Q30-2の設例や仕訳は、新設分割と吸収分割の両方に当てはまる仕訳であるのだと思います。
それで、図表Q30-2の設例に即して、会社がある事業を子会社に承継させる、という場合について考えてみたいのですが、
ここでは「事業を承継させる会社はまだ設立していない」という場面を想定してみましょう。
このように書きますと、それなら新設分割を行えばよい、という話になるわけですが、
「事業を承継させる会社はまだ設立していない」という場合でも、吸収分割により事業を承継させることはできるわけです。
といっても、吸収分割では会社は設立されませんので、事業の受け皿となる会社を吸収分割の前に設立しておかねばなりません。
このように書きますと、それは「事業を承継させる会社はまだ設立していない」という場面で吸収分割を行うこととは少し違う
のではないか、と思われると思うのですが、それは確かにそうですが、実はこの点が今日のポイントになるので敢えて書いたわけです。
「事業を承継させる会社はまだ設立していない」という場合、まず受け皿となる会社を設立しなければならないわけですが、
その新設会社の資本金額・手許現金額はいくらでなければならないでしょうか。
図表Q30-2の設例では、”受け入れる事業は資産500、当該事業の時価は1,000とする。”となっていますが。
承継の対価の種類は現金の場合を考えているわけですが、
「承継会社(新設会社)は分割会社に対しいくら対価を支払うのか?」がここでは問題となるわけです。
図表Q30-2の設例では、”現金を対価とする場合、対価の金額は1,000(時価)とする。”と書かれています。
そうしますと、承継会社(新設会社)は現金を1,000持っていなければならないことになります。
すると、会社設立に際し、会社の資本金額・手許現金額は1,000でなければなりません。
したがって、受け皿会社の会社設立時の仕訳は次のようになるわけです。
(現金) 1,000 / (資本金) 1,000
そして、共通支配下の取引として行われるものとして事業を承継させる時の仕訳は次のようになるわけです。
(資産) 500 / (現金) 1,000
(のれん) 500
会社設立直後に事業を承継させるわけですから、上記2つの仕訳をまとめると、次のような仕訳(以下「仕訳@」)になるわけです。
(資産) 500 / (資本金) 1,000
(のれん) 500
上記仕訳@と図表Q30-2の設例の仕訳(株式対価)とを比較しますと、
仕訳@では、資本金の金額が500違っており、また、のれんが500計上されている、ということが分かります。
分割会社が受け取った対価というのは、事業の承継の対価としては確かに現金ですが、
会社設立時に資本の払い込みの対価として受け取ったのは「株式」であるわけです。
会社設立という取引と事業の承継という取引とは、確かに別の(separate)取引です。
しかし、会社設立直後に事業を承継させるわけですから、
この場合は新設分割と吸収分割とではトータルでは同じ仕訳にならないと整合性が取れていないように思うわけです。
特に仕訳@の場合は、のれんを相手方勘定科目として資本金を増加させている、という見方もできるわけです。
もちろん、会社設立時には確かに1,000の払い込みがありましたから、資本金が1,000になるのは正しいわけです。
そうしますと、今度は、のれんが計上されている、ということがやはりおかしい、という考え方になるように思うわけです。
結局、現金で1,000の対価を支払うということは、資産の価額が1,000ということではないでしょうか。
この矛盾の原因は、煎じ詰めれば、昨日のコメントを引用すれば、
>図表Q30-2の特に「株式対価」の仕訳を見ますと、「資産の価額から対価の価額が決まっている」という状態になっているわけです。
という点だと思います。
共通支配下の取引では、「資産の価額が確定している」ということを前提に会計処理を行うわけですが、
やはりそのことが様々なひずみを生じさせていると思います。
買い手にとって、売り手の資産の帳簿価額は全く関係ないわけです。
売り手に対し買い手が支払った資産の対価の金額が、買い手にとっての資産の価額になる、というだけなのです。
ところが、共通支配下の取引では、売り手の意思決定機関の支配者と買い手の意思決定機関の支配者とは同一人物である、
ということを特に鑑みて、資産の帳簿価額の承継を認めているということなのでしょうが、
法律行為の主体としては売り手と買い手とはやはり別の主体であるわけです。
資産の所有権者は事業の承継により現に変動しているわけです。
法律上の権利者が現に異動している以上、売り手の意思決定機関の支配者と買い手の意思決定機関の支配者とは同一人物であろうとも、
承継の結果、資産の価額は必然的に変わる、というふうに考える他ないように思います。
「資産の帳簿価額の承継を認める」とは、「資産の価額が確定している」という意味です。
「資産の価額は対価の金額により決まる」という観点から見ますと、
「資産の帳簿価額の承継を認める」という考え方が間違っているように思います。
仮に、本当に、「資産の価額が確定している」のなら、図表Q30-2の設例の仕訳(現金対価)の貸借の差額は、
「のれん」ではなく「寄付金」になるのではないでしょうか。
額面金額500円の国債を1,000円で買ったとします。
差額の500円は寄付金にならないでしょうか。
それとも、共通支配下の取引として行われるものとすれば、差額の500円は「寄付金」ではなく「のれん」になるのでしょうか。
個別上の「のれん」が損金算入されるとなりますと、この場合「寄付金」が損金算入される、
ということになるのではないかと思います。