2016年1月20日(水)


2016年1月15日(金)日本経済新聞
日生が劣後債15億j発行
(記事)



2016年1月14日
日本生命保険相互会社
米ドル建劣後特約付社債の発行について
ttp://www.nissay.co.jp/news/2015/pdf/20160114.pdf

米ドル建劣後特約付社債の概要
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【コメント】
日本生命保険相互会社が米ドル建劣後特約付社債を発行する、とのことです。
プレスリリースには、社債発行の目的として、

>財務基盤の一層の充実

と書かれています。
また、記事には、この社債発行により、

>健全性の指標となるソルベンシーマージン(支払い余力)比率は約11ポイント上昇する。

と書かれています。
記事を読んで最初に思ったのは、負債をいくら発行しても支払い能力は高まらないはずだ、ということです。
なぜなら、負債はいずれ弁済しなければならないからです。
確かに、負債を発行すると手許現金が増加します。
ですので、保険金の支払いに当てることができる資金が増加するわけです。
それは確かにそうなのですが、負債というのは必ず返済期日に返済しなければなりません。
負債を返済するためには、必ず調達した金額と同じだけの現金を返済期日に手許に持っておかなければならないわけです。
そして、負債を返済すると、財務状況は負債調達前に戻ってしまうだけですし、
また、万一負債を返済しきれないと、会社はそのまま倒産するわけです。
要するに、負債発行時の手許現金額だけを見ると、支払能力が高まったかのように感じるだけであり、
その現金はいずれ返済しなければならない以上、会社の保険金支払能力は本質的には高まってはいないのです。
保険会社の支払能力を本質的に高めるのは、資本の発行です。
資本には返済するという概念がありませんから、資本発行による手許現金の増加はそのまま支払能力の増加につながります。
そして、実は、保険金支払いのための準備金の計上も保険会社の支払能力を高めるのです。
確かに、準備金をいくら計上しても、会社に現金が入ってくるわけではありません。
しかし、準備金の計上は費用計上を伴います。
費用計上を行うと、その分利益剰余金が減少します。
これは、会社財産の社外流出額を減少させる効果をもたらします。
つまり、会社財産の社外流出額が減少する分、社内に留保される現金額が相対的に増加するわけですから、
準備金の計上は保険会社の支払能力を高めるのです。
少なくとも、準備金を一切計上しない場合に比べれば、支払能力が高まるのだけは確かです。
保険業に関する法律では、保険会社は準備金を非常に厳格に計上するよう定められているかと思いますが、
それは支払能力を積極的に高めていくよう、規律付けを行っているからだ、という言い方をしてよいのだと思います。
以上が記事を読んでまず最初に思ったことです。

 



記事を読んで次に思ったことは、負債を発行することで、短期的には保険会社の支払能力は高まるとは言えるな、ということです。
負債発行により、保険会社の手許現金は確かに増加することは増加するわけです。
保険会社がその手許現金を保険金の支払いに使用することはできると言えばできるわけです。
その意味では、確かに、負債の発行により、保険会社の支払能力は高まるわけです。
しかし、やはりその支払能力の向上は一時的・短期的です。
いつまで保険会社の支払能力は高まるのかと言えば、負債の弁済期日までであるわけです。
負債の弁済期日が到来すると、弁済により手許現金は少なくなってしまうわけですから、結局支払能力は低下するわけです。
他の言い方をすれば、負債の弁済期日までは支払能力は高いが弁済期日後は支払能力は低い、ということになるわけですが
このことを「保険契約者」の立場から見ると、弁済期日前は保険金を受け取れる可能性が高いが、
弁済期日後は保険金を受け取れる可能性が低い、ということになるわけです。
生命保険というのは、非常に長期間に渡る契約になるわけです。
保険金を受け取る日というのは、いつのことになるのかは当然事前には分からないわけなのですが、
保険金の受け取り日が負債の弁済期日前であれば保険金を受け取れる可能性が高く、
保険金の受け取り日が負債の弁済期日後であれば保険金を受け取れる可能性が低くなる、
というのは、保険契約者にとっては、保険会社の支払能力が高いと言えるのか低いと言えるのか不明確な状態であると言えるでしょう。
仮に、「今保険金を受け取るとしたら」、今時点の保険会社の財務状況(手許現金額等)により支払能力を測ることができるでしょうが、
そもそも保険金を受け取る日というのは誰にも分からない(保険金を受け取ることすら結局ないかもしれない)わけですから、
結局のところ、特定の期日の到来により支払能力が変動するということがないよう、
支払能力というのは基本的には「資本」(そしてもちろん手許現金額)で測る必要があるように思います。
このたび日本生命保険相互会社が発行する米ドル建劣後特約付社債は、
期間は30年(償還期限は2046年1月)ということで、確かに非常に長期の負債ではあります。
償還期限である2046年1月以前に保険契約の期限が切れる保険契約者にとっては、
このたびの社債発行は保険会社の支払能力を絶対的に高めると言えるでしょう。
他の言い方をすれば、償還期限である2046年1月以前に保険契約の期限が切れる保険契約者にとっては、
このたびの社債発行は資本の発行と同じだと言えるでしょう。

 



しかし、償還期限である2046年1月以後に保険契約の期限が切れる保険契約者にとっては、
このたびの社債発行は保険会社の支払能力を高めるとも言えますし全く高めないとも言えるでしょう。
償還期限である2046年1月以前に保険金を受け取る事象・事由が生じたならば、社債発行により支払能力は高まったと言えるでしょう。
ところが、償還期限である2046年1月以後に保険金を受け取る事象・事由が生じた場合は、
社債発行により支払能力は全く高まっていないと言えるでしょう。
保険金を受け取る事象・事由が生じる日がいつなのかは、誰にも分からないわけです。
他の言い方をすれば、償還期限である2046年1月以後に保険契約の期限が切れる保険契約者にとっては、
このたびの社債発行は、自分と関係があるか関係がないか分からない支払能力の向上、という言い方ができると思います。
保険契約者にとって、保険会社の支払能力とは、「自分が保険金を受け取る日の支払能力」のことを指します。
その日がいつのことになるのか、事前に算定できはしないのです。
自分がいつ死ぬのか、そして、自分がいつ交通事故を起こすのか、事前には分からないのですから。
そして分からないから保険に入るのではないでしょうか。

 


The issue of a debt doesn't enhance a company's solvency.
Either the issue of capital or an allowance (reserve) for an insurance enhances a company's solvency.

負債を発行しても、会社の支払能力は高まりません。
資本の発行か保険金支払いのための引当金(準備金)のどちらかが、会社の支払い能力を高めるのです。

 

The solvency is enhanced only for the policyholders
who will potentially receive insurance before the repayment day of this bond.

日本生命の保険金支払能力が高まるのは、
この社債の償還期限の前に保険金を受け取る可能性がある保険契約者にとってのみなのです。

 

Can you tell when you will die?

あなたは自分がいつ死ぬか分かるのですか。