2015年12月29日(火)
昨日のコメントに一言だけ追記します。
昨日、「貸借対照表に資産として計上できるのは、将来税法上損金算入される費用や取得価額だけである。」と書きました。
この考え方は、「元祖貸借対照表理論」とでも呼ぶべきかもしれないな、と自分で思っているところなのですが、
元来、貸借対照表は、法人税法の定めを基礎としている、という言い方ができるのだと思います。
それで、将来税法上損金算入されない費用や取得価額を貸借対照表に計上することの問題点についてなのですが、
端的に言えば、それは「保守主義の原則」に反するわけです。
簡単に言えば、計上されている費用や取得価額は将来収益と結び付かないわけです。
費用計上せずに資産計上を行った価額の分、当期純利益が過大計上されていることになりますし、
間違って計上されている資産の価額の分、利益剰余金がかさ上げされていることになるわけです。
それは会社財産が本来の金額よりも過大に流出してしまう、ということを意味するわけです。
したがって、将来税法上損金算入される費用や取得価額のみを資産計上してよい、という考え方になるわけです。
他の言い方をすれば、正しく資産計上されている費用や取得価額により会社が将来十分な収益を獲得できることは、
理論上は法人税法が言わばお墨付きを与えている、という言い方ができるわけです。
お墨付きというと少し違うかもしれませんが、要するに、債権者の立場からすると、
将来税法上損金算入される費用や取得価額が資産計上されてしまうことは、水戸黄門の印籠を見せられたがごとく、
債権者は容認するしかない、という意味です。
債権者の立場からすると、本来は一切の費用や取得価額は資産計上されて欲しくないわけです。
他の言い方をすれば、債権者の立場からすると、本来は全ての費用や取得価額はその期に費用計上されて欲しいわけです。
なぜなら、そちらの方が会社の当期純利益と利益剰余金が減少するからです。
会社の当期純利益と利益剰余金が減少すると何がよいのかと言えば、会社財産の社外流出額が減少するからです。
会社としては、それら費用や取得価額に関する現金流出は既に完了しているわけです。
あとは、どのようにそれら費用や取得価額を費用計上するかだけであるわけです。
会社内の現金額に変わりはない以上、債権者からすると、それら費用や取得価額は即座に費用計上して欲しいわけです。
ところが、法人税法では、それら費用や取得価額は将来の収益に結び付くものである、
だから、それら費用や取得価額を費用計上するのは、それら費用や取得価額に関連する収益の実現時である、と考えるわけです。
何と言いますか、法人税法は会社において絶対的なものと考えるしかないわけです。
平たく言えば、債権者は、会社から、
「この資産計上は法人税法上認められたものです。」(法人税法上まだ費用計上しなくてよいものです。)
と言われれば、内心どんなに不本意であっても、会社が費用計上しないことを是認するしかないわけです。
したがって、債権者としては、本来はそれら費用や取得価額を即座に費用計上してもらいたいものの、
法人税法が、それら費用や取得価額を費用計上するのは収益の実現時である、と言っているものですから、
債権者としては会社に即座に費用計上せよとは言えない、ということになっているわけです。
これが、会社がそれら費用や取得価額を資産計上してよい理論的背景ですし、また、
将来税法上損金算入される費用や取得価額しか資産計上できない理論的背景です。
法人税法では、益金と損金しか定義しませんから、
会社が税法上損金不算入の費用を資産計上していること(費用計上しなかったこと)
については、特段問題とはしません。
法理的には、会社が税法上損金不算入の費用を資産計上した(費用計上しなかった)場合の当期純利益額や利益剰余金の金額も、
法人税法としては法律上確定した当期純利益や利益剰余金だ、という考え方になると思います。
他の言い方をすれば、会社がどの費用や取得価額を資産計上しどの費用や取得価額を費用計上したかは、
法人税法としては見ない、ということです。
法人税法が見るのは、益金はいくらであり損金はいくらか、だけであるわけです。
ですので、会社が税法上損金不算入の費用を資産計上した(費用計上しなかった)、ということに関しては、
会社法の方で制限を課していくことになるわけです。
と言っても話は簡単であり、
@法人税法上将来損金として算入されない費用や取得価額は資産計上はできない、
と定めるだけのことです。
そして、さらに保守主義の原則を強化するならば、
A各資産の回収可能額を判定し、資産単位で回収可能な額まで資産の価額を切り下げなければならない、
と定めると、早期に損失を計上することで債権者保護に資することができます。
他の事業からの益金が十分にありますと、その資産から生じる損金を吸収できてしまいます。
課税所得額の計算は資産単位や事業単位ではなく会社単位(法人単位)です。
全ての益金と損金とが通算されてしまうのです。
他の事業からの益金が十分にある場合は、資産の減損処理をしてもしなくてもトータルでは同じ結果になってしまうわけですが、
減損処理は会社の将来の業績を保守的に考えることに意味があるわけです。
たとえトータルでは同じになるとしても、早期に損失を計上することは債権者の利益保護に資することなのです。
それで、以上2つの制限のうち、「A」の「資産の減損処理」に関しては会社法に明文の規定があろうかと思います。
しかし、「@」の「法人税法上将来損金として算入されない費用や取得価額は資産計上はできない」という制限に関しては、
会社法に明文の規定はないと思います。
実務上は、何となく漠然と、それは保守主義の原則に反するのではないか、といった感じで判断がなされているだけだと思います。
もしくは、せいぜい、会社法に基づいた減損の判定という形で、
包括的に資産の計上の可否が判定されている(結果的に、収益と結び付かない費用や取得価額の資産計上は否定される)、
ということかと思います。
”せいぜい”とは書きましたが、会社法に基づいた減損の判定という形であっても、
全資産を網羅的・包括的に判定するということであるならば、
結果的には費用や取得価額の間違った資産計上はなされない、ということにはなります。
実は、会社法としては、この考え方に立っているのかもしれません(減損という形で資産計上を否定すれば十分だ、という趣旨)。
しかし、今日は、会社法ではなく法人税法の観点から、貸借対照表の基礎理論を踏また上で、資産の減損処理ではなく、
より明文化した形で間違った資産計上を否定するためにはどのような定めが必要か、という点について考えてみました。