2015年12月21日(月)



2015年12月21日(月)日本経済新聞
ここが知りたい軽減税率
零細商店の経理は大変? 「みなし」3手法 事務負担を軽減
(記事)


 


【コメント】
消費税の理論については既に書き尽くしたように思います。
最近では、販売商品毎に消費税率を変更することが話題になっているようです。
”軽減”税率という言い方をするということは、基準となる消費税率がある、ということでしょう。
その基準となる消費税率というのは、現時点では8%ということなのだと思います。
軽減税率の逆、例えば、加重税率とでも言いましょうか、すなわち、8%を超える消費税率を商品に適用するという課税方法は
現在のところ検討されてはいないようです(数年後に(言わば基準となる)消費税率が10%に引き上げられるということではなく)。
税率に軽減という概念があるのなら、加重という概念もあるのだろうか、とふと思ったわけです。
ひょっとすると、かつてありました物品税という税目は、現在の消費税の加重税率ということに概念的には近いものなのかもしれません。
物品税があったころは、物品税が課される商品以外の消費税率はゼロ%だった、と考えてみると、
私が何を言いたいか分かると思います。
また、刑法とは異なり、税法というのは、まさにその税率だけ納付しなければならない、ということを定めるわけです。
刑法は、逆に、国家を縛るという理論的背景があるということなのでしょうが、
刑罰は例えば「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」といった具合に定められているわけです。
税法では、「所得税は40%以下(または以上)の納付」「消費税は8%以下(または以上)の納付」という定め方はしないわけです。
理論的に考えると、純粋に理論上の話をすると、やはり「この犯罪Cを行った場合は5年の懲役である。以上。」というふうに、
問答無用といいますか、犯罪と刑罰とを明確に一対一に結び付けなければならないのだと思います。
理論上は、犯罪Cを行った場合には。最大5年間の懲役となる(5年以下の懲役となる)、と考えるのでなく、
必ず5年間の懲役になる、と考えるのだと思います。
ただ、現実には、犯罪者には様々な背景や情状があるということを考慮して、
5年以下の懲役、といった具合に刑罰が定められているのだと思います。
刑法には国家を縛るという側面もある、ということの理論的背景は、国家が無制限な刑罰を科することを禁止することにある、
と言っていいわけですが、理論上は罪刑法定主義の時点で実は既に国家を縛る役割は果たせている、と言っていいのだと思います。
いずれにせよ、様々な背景や情状に配慮して、刑法では刑罰の最大値を定めているわけです。
犯罪に対し個別に刑罰を定める場合には、それら様々な背景や情状を考慮して、その最大値から刑罰を減軽するもしくは刑罰を免除する、
という方法が取られているわけです。
これに対し、税法の場合は、納付する税率の最大値もしくは最小値を定める、という考え方はないわけです。
所得税率が40%なら、40%以外ないわけです。
納税者が、所得税を30%納付することも間違いですし、50%納付することも間違いであるわけです。
このことは当たり前であるかのようにも思えますが、刑法と関連付けて考えてみると、
犯罪者とは異なり、刑法のような背景や情状は納税者にはない、ということが理論的には背景としてある、と言えるでしょう。
額に汗して稼いだから軽減税率が適用され所得税率は30%、楽して稼いだから加重税率が適用され所得税率は50%、
などという話は税法にはないわけです。
税法では、納税者個別の背景や情状は特に配慮する必要はないことから、
公平性・透明性・客観性に重きを置いた、言わば統一的な課税がなされている、と言っていいのだと思います。

 



以上のようなことが頭にありまして、それで、では消費税の場合はどのように考えられるのだろうか、と思ったわけです。
軽減税率という言われ方はされていますが、それでも、この商品の消費税率は8%、この商品の消費税率は5%、といった具合に、
商品毎に消費税率が事前に明確に一意に定められてはいるわけです。
高額所得者にはより高い消費税率が課せられるであったり、同じ商品なのに別の小売店では低い消費税率が課せられる、
といったことは一切ないわけです。
このことは、消費税においても、消費者個別の背景や情状は配慮されず、事業者個別の背景や情状は配慮されない、
という言い方をしていいのではないかと思います。
そういったことを考えますと、軽減税率という言われ方はされていますが、
どちらかというと、小売店での販売商品毎に消費税率が異なるだけである、という言い方ができると思います。
軽減税率を適用するに際し、生活必需品には軽減税率が適用され、それ以外の商品には標準税率が適用される、という、
消費者にとっての生活や事情等は確かに考慮されていますが、それはあくまでマクロ的な観点から税率を変えているだけだ、
という言い方をしていいのだと思います。
ちょうど、刑法では、犯罪者個別のではなく、マクロ的な観点から、重い犯罪には重い刑罰を科している、
ということと同じなのではないかと思います。
税法でも刑法でも、マクロ的な観点から、課するもの(科するもの)(税率や刑罰)を変えるというのは、
犯罪者個別の背景や情状を配慮したのとは異なり、恣意性のようなものは全くないと言っていいでしょう。
そのようなことを考えますと、消費税では加重税率という考え方はしないものの、
軽減税率という考え方は間違ってはいないように思います。
軽減税率について刑法との関連で言えば、標準税率が消費税率の最大値である、という捉え方をすれば説明が付くだろうか、と思います。
加重税率という表現は消費者にとって印象が悪い、という言い方も国にとってはできるかもしれません。
いずれせによ、小売店で生活必需度に応じて商品毎に消費税率を変えることは間違いではないと思います。

 


ただ、なのです。
ただ、実は非常に大きな、いや、以上の考え方の根幹を否定する問題点がそこにはあるのです。
それは、小売店で商品毎に消費税率を変えることはできない、という問題です。
なぜ小売店で商品毎に消費税率を変えることはできないのかと言えば、消費税では価値が連鎖する、という考え方をするからです。
消費者が8%の消費税を負担するためには、それ以前の流通段階の全てで8%の消費税が課されていなければならないわけです。
消費者以前の流通段階の全てで8%の消費税が課されているからこそ、
消費者が8%の消費税を負担することに正当性が生じるのです。
消費者自身は税務当局に消費税を納付しないため、消費者以前の各流通段階がそれぞれ消費税を税務当局に納付することになります。
消費者以前の流通段階それぞれが税務当局に納付した消費税の合計額=消費者が小売店の支払った消費税額、です。
各流通段階は、価値の増加分(付加価値額)に相当する消費税をそれぞれ税務当局に納付するわけです。
事業者は、上流の事業者から価値が付加された商品を仕入れ、自社もさらに価値を付加し、そして下流の事業者へ販売するわけです。
価値が連鎖するとはそういうことです。
この図式が成り立つためには、全流通段階で消費税率は同一でなければならないわけです。
なぜなら、そうでなければ、
消費者以前の流通段階それぞれが税務当局に納付した消費税の合計額=消費者が小売店の支払った消費税額
にならないからです。
このことを考えると、小売店でのみ消費税率を変えるということは絶対に不可能なのです。
例えば、ある商品を5%の消費税率で仕入れたが8%の消費税率で販売した、という場面を考えてみて下さい。
金銭の話だけをすれば、「仮受消費税−仮払消費税」を計算し、税務当局に納付すればよさそうですが、
それではその5%や8%の税率が何か、全く説明が付かないわけです。
逆に、ある商品を8%の消費税率で仕入れたが5%の消費税率で販売した、という場面を考えてみて下さい。
支払った消費税額が多い場合、税務当局から還付を受けることになるのでしょうか。
還付を受けないと確かに益税ならぬ”損税”になってしまいますが、やはり、では消費者はどの消費税率でその商品を買うのか、
という点から考えると、全く説明が付かないわけです。

 


要するに、消費者が負担する消費税率で各事業者は取引を行わなければならないわけです。
消費者が消費税を負担するわけなのですから、消費者が負担する消費税率に合わせて各事業者は取引を行うしかありません。
そうでなければ、消費者の代わりに納付することなどできないわけです。
しかし、例えばファーストフードなどですと、
店内で食べるのと持ち帰りとでは、トレイに乗せているか紙袋に入れているかの差しかないわけです。
これでは、各流通段階にまでさかのぼって消費税率を変えることなど、絶対にできないわけです。
以上のようなことを考えますと、軽減税率を適用することを考えれば、消費税の概念を変えるしかないのだと思います。
すなわち、「消費税は小売店でのみ課税するものだ。」というふうに消費税の定義を変えるしかないと思います。
小売店以外の事業者は消費税を納付しない(もちろん仮受・仮払もしない)、と定義するわけです。
消費税を負担するのは消費者のみ、消費税を納付するのは小売店のみ、と定義するわけです。
このように消費税を定義すれば、小売店で商品毎に消費税を変えることが可能になるのです。
結局、私が今提唱している新消費税では、小売店以前の流通段階では消費税を消費者の代わりに納付するということをしないので、
このようなことが可能になるわけです。
現行消費税では、事業者には、代わりに納付する以上は、取引には消費者と同じ税率が適用される、という考え方になるわけです。
現行消費税の場合と比較しても、私が今提唱している新消費税においても、消費税者が負担する消費税額に違いはありません。
消費者の負担額が増減するということは全くありません。
また、税務当局にとっても、徴税する消費税額に増減はありません。
税務当局は全く同じ消費税額を徴税できます。
小売店が全額納付するようになるというだけです。
そして、小売店以外の事業者は消費税は一切納付しません(もちろん、仮受・仮払もしません)。





今日紹介しました記事では、消費税に関する零細事業者の事務作業軽減について書かれていますが、
私が今提唱している新消費税では、小売店以外の事業者ではそもそも消費税を取り扱いませんし(消費税に関する事務はゼロになる)、
また、小売店においても仮払消費税が全くなくなります。
仕入伝票から消費税が完全に消えるわけです。
小売店は、単に消費者から受け取った消費税をそのまま税務当局に納付するというだけで済むわけです。
複雑な計算をする場面が全くないわけです。
消費者が商品を買う場所というのは、事実上小売店が全てである(消費者が例えば卸売業者から商品を買うことはない)わけですから、
消費税は消費者のみが負担するものであるのならば、価値の連鎖というようなことは消費税の概念からはなくし、
消費税は小売店でのみ課税する、というふうに、消費税の定義を変えるべきであろうと思います。
ところで、以上私が書きましたことは、特段物品税を参考にしたといことはありませんが、参考までに言いますと、
物品税では価値の連鎖というようなことは考えず、物品税は単に小売店でのみ課税される、という考え方であったと思います。
物品税でできるのなら(物品税も税目の1つとして理論上の整合性は取れていたのなら)、消費税でもできるはずです。
物品税があったころは、消費税率はゼロ%であったというだけなのですから。


 

When a company purchases an object at 8 percent of a consumption tax,
the company must sell the object at 8 percent of a consumption tax.
The reason for it is that a cunsumer pays 8 percent of a consumption tax when he buys the object.

会社がある目的物を消費税率8%で仕入れた場合は、その会社はその目的物を消費税率8%で販売しなければなりません。
その理由は、消費者がその目的物を買う時、消費者は8%の消費税率を支払うからです。