2015年12月11日(金)
2015年12月8日(火)日本経済新聞
アジア注目銘柄
上海電気集団(中国) ―5.04香港j(4.78%高)
グループ再編を好感
(記事)
【コメント】
記事には、上海電気集団のグループ再編について、
>上海電気は重機メーカーを手放したうえで、新株を親会社に割り当てる。
>一方、親会社の傘下にある投資管理会社と遠心圧縮機を手がける会社の全株式、燃料噴射ポンプ会社の61%、
>交通設備会社の約15%の株式をそれぞれ取得する。
>さらに、親会社の複数の株主に対して第三者割当増資を実施する。
と書かれています。
この取引を図に描くと以下のようになります。
「グループ再編の概略図」
このグループ再編は、グループ内の親子会社間の取引ですから、利益計上を目的としたものではないと考えられますし、
また、グループ経営戦略上(事業再編が目的)、親会社にも子会社にも、むしろ損益は計上されない方が望ましいと言えるでしょう。
つまり、このたびの親子会社間の資産の譲渡は全てそれぞれの帳簿価額に基づいて行われる、と考えられるわけです。
このたびの事例で言えば、親会社から子会社へ譲渡される資産「株式@〜C」と子会社から親会社へと譲渡される資産「株式@」は
全てそれぞれの帳簿価額のまま譲渡される、と考えられます。
ただ、親会社から子会社へ譲渡される資産「株式@〜C」の合計額と子会社から親会社へと譲渡される資産「株式@」の帳簿価額とが
一致しないため、差額を調整する意味合いで(会社に譲渡損を発生させないために)、
子会社から親会社へと差額に相当する分だけ新株式が割当交付される、という取引になっているわけです。
このたびのグループ再編の、親会社、子会社それぞれの仕訳を書けば以下のようになります。
親会社・上海電気総公司の仕訳
(重機メーカー株式) xxx / (投資管理会社株式) xxx
(上海電気集団株式) xxx
(遠心圧縮機会社株式) xxx
(燃料噴射ポンプ会社株式) xxx
(交通設備会社株式) xxx
子会社・上海電気集団の仕訳
(投資管理会社株式) xxx
/ (重機メーカー株式) xxx
(遠心圧縮機会社株式) xxx (資本金) xxx
(燃料噴射ポンプ会社株式) xxx
(交通設備会社株式) xxx
このたびの事例では、子会社から親会社へと割当交付される新株式が貸借の調整弁の役割を果たしているわけですが、
仮にこの新株式の割当交付がない場合は、それぞれの仕訳は以下のようになると考えられます。
親会社・上海電気総公司の仕訳
(重機メーカー株式) xxx / (投資管理会社株式) xxx
(資産譲渡損) xxx
(遠心圧縮機会社株式) xxx
(燃料噴射ポンプ会社株式) xxx
(交通設備会社株式) xxx
子会社・上海電気集団の仕訳
(投資管理会社株式) xxx
/ (重機メーカー株式) xxx
(遠心圧縮機会社株式) xxx (資産譲渡益) xxx
(燃料噴射ポンプ会社株式) xxx
(交通設備会社株式) xxx
親会社・上海電気総公司の仕訳
(資産譲渡損) xxx / (投資管理会社株式) xxx
(遠心圧縮機会社株式) xxx
(燃料噴射ポンプ会社株式) xxx
(交通設備会社株式) xxx
子会社・上海電気集団の仕訳
(資産譲渡損) xxx / (重機メーカー株式) xxx
親会社・上海電気総公司にとって、子会社から譲り受けた重機メーカー株式は無償取得した、ということになります。
また、子会社・上海電気集団にとって、親会社から譲り受けた投資管理会社株式、遠心圧縮機会社株式、燃料噴射ポンプ会社株式、
交通設備会社株式は全て無償取得した、ということになります。
このことは相手方から見ると、相手方へ譲渡した株式は全て無償譲渡した、ということになります。
現行の会計基準や現行税法の定めは、組織再編や事業再編を会社が柔軟に行うことができるよう、
取得価額の承継を認めている、というふうに考えるべきなのでしょう。
このような会計処理を認めるためには、「資産には少なくとも帳簿価額の価値がある」ということが前提になると思います。
もしくは、「資産にはぴったり帳簿価額の価値がある」ということが前提だ、というべきでしょうか。
この理論的前提というのは極めて仮想的な前提に過ぎないわけです。
究極的なことを言えば、結局のところ、資産の価値を決めるのは対価として受け渡された現金であるわけです。
ある資産を買い手は100円で買った、だから、買い手にとってその資産は100円の価値がある(そしてその資産の取得価額は100円だ)、
と考えるわけです。
資産の価額が先にあるのではなく、取引により(現金の受け渡しにより)資産の価額が決まるわけです。
そういったことを考えますと、売り手の資産の帳簿価額が買い手の資産の取得価額であるとみなすためには、
「買い手は資産を売り手の帳簿価額で取得したのだ」という理論的前提・仮想に基づく前提が必要なのです。
現行の会計基準や現行税法の定めでは、そのような仮想に基づく前提を実は置いている、と考えるべきなのだと思います。
しかし、仮想はあくまで仮想です。
「これはこうです。」と言えるためには、価額の承継を仮想するのではなく、やはり資産の譲渡毎に現金の受け渡しを行うべきです。
仮想ではなく、実際に資産の譲渡毎に現金の受け渡しを行う場合の仕訳は以下のようになります。
親会社・上海電気総公司の仕訳
(現金) xxx
/ (遠心圧縮機会社株式) xxx
(現金) xxx
(燃料噴射ポンプ会社株式) xxx
(現金) xxx
(交通設備会社株式) xxx
(現金) xxx
(投資管理会社株式) xxx
(重機メーカー株式) xxx
(現金) xxx
(資産譲渡損) xxx (資産譲渡益) xxx
子会社・上海電気集団の仕訳
(投資管理会社株式) xxx / (現金) xxx
(遠心圧縮機会社株式) xxx
(現金) xxx
(燃料噴射ポンプ会社株式) xxx
(現金) xxx
(交通設備会社株式) xxx
(現金) xxx
(現金) xxx
(重機メーカー株式) xxx
(資産譲渡損) xxx
(資産譲渡益) xxx
本来は、1つの資産の譲渡毎に、譲渡益もしくは譲渡損の金額が決まります。
ですので、上記の仕訳では、譲渡損と譲渡益の両方を敢えて書きました。
ただ、現在の納税方法では、1年間の益金と損金を通算しますので、
トータルではこのたびの取引ではどちらの会社にも損益が発生しないように、資産の譲渡価額を調整することができます。
資産の譲渡価額を変更・調整することは、商取引としても法理的にも何ら間違っていません。
資産をいくらで譲渡しようが、買い手と売り手の自由です。
この取引においてどちらの会社にも損益が発生しないということは、どちらの会社の手許現金量も、
取引前後で増減しない、ということです(資金繰りに影響を与えることはない)。
資産の譲渡毎に現金で取引を行っても、事業運営には何らの影響も与えません。
ただし、資産の譲渡価額を調整した分、買い手の取得価額は売り手の帳簿価額とは異なっている、
という点にだけは理解しておかねばなりません。
ただ、資産の取得価額が変更になっているとは言っても、それは何ら不公正な変更ではありません。
むしろ、取引に基づいた公正な取得価額になっているというに過ぎません。
取得価額が承継されると考える方が、理論上は間違っているのです。
現金が一方から他方へと受け渡されることにより、目的物の価額はその価額であると証明されるのです。
Barter doesn't certify the value of an object at all.
物々交換では全く目的物の価額の証明になっていないのです。
Cash determines the value of an object.
現金が目的物の価額を決めるのです。
What substantiates the value of an object?
"Cash" which is paid from a
buyer to a seller as a consideration of an object does.
目的物の価額を証明するものとは何か。
目的物の対価として買い手から売り手へと支払われた「現金」が目的物の価額を証明するのです。
The book value of a seller has nothing to do with a buyer.
売り手の帳簿価額は買い手には何の関係もありません。
究極的なことを言えば、資本金の増加額が問題になるのです。
Ultimately speaking, what absolutely matters is a price at which an
asset is transferred.
究極的なことを言えば、絶対的に重要なのは資産が譲渡される価格なのです。
It is cash that determines the value of an object.
On the
accounting theory, the counter account of any account is cash.
The word
"account" derives from the word "count".
On the accounting, you count by
means of cash, not by means of other assets.
目的物の価額を決めるのは現金なのです。
会計理論上は、あらゆる勘定科目の相手方勘定科目は現金なのです。
「account」という単語は「count」に由来します。
会計では、現金によって数を数えます。
他の資産で数を数えるわけではありません。
The modern accounting presupposes innumberable theoretical
assumptions.
現代会計では、数え切れないほどの理論的想定を前提としています。
And, almost none of the theoretical assumptions are written on accouting standards nor laws.
そして、それら理論的想定のほとんどは、会計基準や法律には全く書かれていないのです。