2015年12月8日(火)


2015年12月8日(火)日本経済新聞 公告
発行価格等の決定に関するお知らせ
株式会社ビジネス・ブレークスルー
発行価格等の決定に関するお知らせ
株式会社ラックランド
(記事)



 


2015年12月8日(火)日本経済新聞
エーザイ、年150円増配維持 今後5年間最低でも 資金効率改善で原資確保 今期末にも実質無借金
(記事)




【コメント】
記事を読んで思ったのですが、”配当の原資”について少しおかしな記述があるように思いました。
一般に、”配当の原資”という時には、「利益剰余金」を指します。
保有している現金のことは、”配当の原資”とはあまり言わないように思います。
もちろん、現金がなければ株主に配当はできないわけですが、
配当を行うためには絶対的に貸借対照表に「利益剰余金」が必要なのです。
借入金の返済と対比させて考えてみると分かると思います。
借入金の返済のためには、とにかく現金さえあればよいわけです。
利益剰余金があろうがなかろうが、たとえ債務超過であろうが、とにかく会社に現金さえあれば借入金は返済できます。
しかし、配当の場合は、いくら会社に現金があっても、会社に現金があるというだけでは配当は行えません。
配当を行うためには、必ず「利益剰余金」が必要なのです。
その理由は、結局のところ、配当というのは利益の分配のことだからです。
配当というのは利益の分配のことですから、利益(利益剰余金)がないと、配当はできないわけです。
その意味において、”配当の原資”という時には、「利益剰余金」のことを指すわけです。
この点、借入金の返済というのは、利益の分配や稼いだ利益を元にした債務の弁済などとは根本的に異なるわけです。
借入金の返済は、純粋に現金さえあればできることなのです。
以上の議論を踏まえますと、十分な利益剰余金があるということは借入金を返済する原資があることとは全く関係がない、
ということが分かるかと思います。
会社が利益剰余金を設備投資や棚卸資産の取得に既に使っているかもしれないわけです。
つまり、貸借対照表にいくら多額の利益剰余金があっても、会社に現金は全くないかもしれないわけです。
この場合は、利益剰余金がいくらたくさんあっても会社は借入金を返済できないわけです。
借入金の返済の原資というのは、最初から最後まで現金一本なのです。
会社の損益の状況は全く関係がないわけです。
黒字でも借入金を返済できないかもしれませんし、赤字でも借入金を返済できるかもしれません。
要するに、会社の損益の状況や資本の状況というのは、借入金の返済(原資)とは何ら関係がないものであるわけです。
この点、配当の原資という場合は、乱暴に言えば”会社に現金は既にある。”ということが議論の前提になっていると言えます。
なぜなら、利益というのは、現金のことだからです。
利益剰余金があるということは、利益剰余金の価額に見合う(バランスする)だけの現金が会社にある、という意味なのです。
ただ、会社は経営戦略として、利益剰余金を配当として社外流出させるのではなく、
会社内部に留保して再投資に使用したために、会社には現金勘定としてはない、ということになっているだけなのです。
ですから、配当の原資という時には、一般に「利益剰余金」のみのことを指すわけです。
この時、会社にはその利益剰余金にの価額に見合う(バランスする)だけの現金が会社にある、ということを議論の前提にしています。
仮に、利益剰余金を他の用途(再投資等)に既に使用している場合は、”配当を行う”という議論にならないはずなのです。
会社は配当を行わずに再投資を行うと決めた、だから、会社に現金はないわけです。
会社は配当を行わずに再投資を行うと決めたのに、
会社に現金がある(会社に現金はない場合はどう資金を捻出するか)と考えるのは矛盾でしょう。

 



以上の議論を進めていきますと、ある答えに行き着くかと思います。
それは、借入金の返済の原資というのは本来は「借入金による調達資金を投じた投資」から得られるものだ、という結論です。
100円借り入れて、100円設備投資を行い、合計100円稼いだとします。
この場合、損益はゼロですが、100円の借入金をちょうど返済できるわけです。
要するに、借入金を返済するのに、本来は資本金も利益剰余金もいらないわけです。
本来は、借入金を返済するための資金を捻出する、という考え方はしないわけです。
もちろん、100円借り入れて、100円設備投資を行い、合計80円しか稼げなかったとします。
この場合は、借入金をそもそも返済できないわけです。
合計80円しか稼げなかったのになぜ借入金を100円返済できるのかと言えば、資本金や利益剰余金があるからであるわけです。
しかし、そのことはおかしくないでしょうか。
たまたま資本金や利益剰余金があるから、債務不履行にならなかったというだけのことでしょう。
資本金や利益剰余金は、様々な用途に使える(現金だから)からこそ、運よく債務不履行を避けられただけなのです。
本来は、借り入れた金額以上の金額を稼ぎ切れないといけないわけです。
しかし、理論上は、投資した金額以上に必ず稼げる投資、などというものはないわけです。
ないからこそ、株式会社では「資本」という考え方をするのではないでしょうか。
債務の履行という観点から言えば、資本はどれだけ毀損しても構わないわけです。
そのための資本でしょう。
投資した金額以上に必ず稼げるのなら、そもそも株式会社である必要は全くないわけです。
そういったことを考えますと、株式会社が借入金を借り入れるというのは矛盾とすら言っていいと思います。
借入金を借りる場合というのは、借り入れ金額以上に必ず稼ぐことができないといけないわけです。
しかし、投資した金額上に必ず稼ぐことができるのなら、例えば資金の出し手はそのお金を貸し付けたりせず、
自分自身で投資を行うことでしょう。
人にお金を貸し付けても、貸した金額以上のお金は返ってきませんし、最悪の場合は貸したお金が返ってこないかもしれないわけです。
株式会社というのは、出資者が「これだけのお金のみを事業に投じる。」という考えを持って設立し、事業を開始するものです。
なぜ株式会社という形を取るのかと言えば、一言で言えば会社のリスクを自分から遮断するためでもあるわけですが、
他の言い方をすれば、事業に投じるお金を限定するためであるわけです。
万が一事業が上手くいかなくても、出資した金額のみ損をするだけで済むようにするわけです。
株式会社の議論には、株式会社ではリスクのある事業を行う、という前提があるわけです。
必ず儲けることができる事業を営む、などという前提は、株式会社にはないわけです。
そういったことを考えますと、株式会社が借入金を借り入れるということは理論上はおかしいと言えますし、
また、債務を弁済するためにはリスクを負ってはならない(リスクを負うことはできない)わけですから、
株式会社が法律上債務者になれる、というのはまさに矛盾だと言わねばならないでしょう。

 


株式会社の資本金制度というのは、実は「会社は永遠に利益を計上し続ける」ということをどこか前提にしている、
と言えるのかもしれません。
会社が稼いだ利益のみを分配するためには、資本金だけは会社に残しておかなければならないが、
資本金勘定というのはそのための数値計算上の金額に過ぎないのではないか、
という気すらします。
「会社は利益を計上する。」という前提があるのなら、債権者保護を目的とした資本金制度は機能するでしょう。
なぜなら、資本金制度により、会社が稼いだ利益以上の会社財産は社外に流出しないからです。
しかし、「会社は損失も計上し得る。」となりますと、途端に資本金制度の意味がなくなってしまうように思います。
会社が計上した損失は出資者が補填する(言わば義務的追加出資)、とでも言うのでしょうか。
他の言い方をすれば、期末日時点で資本金の金額は必ず当期首日時点の金額と同じである、
ということが法制度上担保されるのなら、
「会社は損失も計上し得る。」という前提があっても債権者保護を目的とした資本金制度は機能するでしょう。
会社が損失を計上し資本の欠損が生じた場合は、出資者が責任を持って資本の欠損分は期末日までに追加出資しなければならない、
という法制度であれば、債権者にとって資本金制度は機能するといえるでしょう。
なぜなら、出資者の追加出資により、資本金の金額に相当する会社財産は社内にある、ということが担保されるからです。
ただ、期中に会社が倒産した場合は、もはや手の打ち様はない(債権者の利益は守り様がない)わけですが。
資本の欠損が生じていなくても(利益剰余金がどんなに多額にあろうとも)、債務不履行は生じ得ます。
そういったことを考えますと、「株式会社は法律上債務者になれない。」というのが結論と言えば結論だと思います。

 



現行の株式会社制度や資本金制度や債権者保護制度を叩き台として、「会社は損失も計上し得る。」ということを前提に、
貸借対照表の資本金勘定の価額に意味を持たせるためにはどのような法制度でなければならないか
(資本の欠損が生じている(利益剰余金がマイナス)状態では、資本金勘定の意味がない(相当する会社財産が社内にないから))、
について考えてみました。
一般に(会計上、というべきでしょうか)、資本金という時には、「期末日の資本金勘定」のことを指すわけです。
もちろん、法律上(会社法上)は期中も資本金はあるわけですが、
債権者保護との関連で言えば、資本金とは前期末日の資本金勘定のことを指すわけです。
合併公告などでも、債権者保護手続きや資本金に関して「最終の貸借対照表を参照して下さい。」といったことが書かれている
と思いますが、それはまさに資本金とは期末日の資本金のことを意味しているからに他なりません。
登記簿その他には365日資本金はあるわけですが、債権者保護やそのための資本金制度ということを考えますと、
やはり法律上も資本金とは期末日の資本金のことを指している、と理解するべきだと思います。
期末日とは、貸借対照表日のことです。
今日のまとめも兼ねて、最後に記事についてもう一言だけ追記します。
記事には、エーザイは”資金効率の改善で配当原資を賄う。捻出した資金で借入金も返済する。”と書かれていますが、
煎じ詰めれば、配当原資は利益のみ、と理解するべきだと思います。
資金効率をいくら改善しても、配当の原資は確保されません。
資金効率を改善しても、資金繰りが楽になるだけです。
借入金の返済原資は損益の状況とは全く無関係に現金のみであり、また、利益剰余金は借入金の返済原資には全くなり得ない、
というふうに理解するべきだと思います。
資金効率を改善すれば、借入金の返済原資は確保しやすくなるとは言えますが。

 

The debit side and the credit side balance with each other.

借方と貸方はバランスします。