2015年12月5日(土)
2015年11月2日(月)日本経済新聞 経済教室
相澤 英孝 一橋大学教授
特許保護へ国内法整備を
国際的視点が不可欠 中韓の「制限」政策、要注意
ポイント
○新興国は知財保護を低下させる政策を採用
○中国・韓国に独禁法で自国産業保護の動き
○日本で権利制限を議論すれば国際的誤解も
(記事)
【コメント】
この記事はこの記事でもっともな内容だと思います。
特許も国際化していく昨今、国内の特許を保護しつつ、国際的に他の国々と協調しながら他国の特許も国内に取り入れていく、
ということがどの国にも求められるのだと思います。
この記事での主な論点は、特許をどのように国際的に保護していくのか、ということかと思います。
国内の特許の保護に重点を置き過ぎると、過度な国際産業保護だとの批判が国際的に生じるでしょうし、
かといって、他国の特許ばかりを保護するとなりますと、一体何のための国内法か、という批判が国内外から生じるでしょう。
この記事は、非常に説得力の高い内容になっているのではないかと思います。
ただ、この記事では1つだけある重要な視点が抜け落ちていると思います。
それは、「そもそも特許を保護してもらいたいと思っているのは、国ではなく、権利者(特許権者)である」という視点です。
この記事では、国レベルの話しかしていないわけです。
確かに、国際的な特許保護についての記事ですから、国レベルの話になるのはある意味当たり前ですが、
記事を読みますと、あたかも”国自身が特許権者”であるかのような内容になっているかと思います。
特許権者というのは、基本的には自然人です。
法人も法律上特許権者になれるのかどうかは知りませんが、法人がものを考えることができるわけがありませんから、
法理的には特許権者は自然人のみであろうと思います。
いずれにせよ、国が特許権者であることはあり得ないわけです。
国は、国内における特許権者の権利を守る義務がある、という位置付けに過ぎないわけです。
そういった、自然人(特許権者)から見た観点というのが、この記事では欠けているように思います。
国際的な特許保護だとは言いますが、「日本の特許」という場合は、日本人が特許権者である特許のことを指すわけです。
「日本の特許」とは日本国が特許権者である特許のことは指さないわけです。
記事本文を読んでも記事の図を見ても、国が特許権者であるかのような論調になっているように思います。
しかし、特許権者は国ではなく、自然人です。
事の本質は、「特許権者がどのように自分の特許を守ってもらいたいか」から議論を始めることだと思います。
最近話題の国際協定もそれはそれで大切だとは思いますが、
特許権者の立場からすると、昨日までは国内で法律上保護された特許だったのに、
国際協定批准と同時に特許ではなくなった、というような事態が一番困るわけです。
ですから、国が国際的な特許保護と言う場合には、必然的に国内産業保護的にならざるを得ないのではないか、と思うわけです。
他国から国内へ同種の技術が入ってくることにより特許権者の特許が特許でなくなってしまう、というようなことというのは、
国際協調などでは決してなく、それは単なる特許法の廃止でしょう。
自分の知的財産を法律によって保護してもらいたいと思うのは、その知的財産権の保有者なのです。
It is very easy for the government only to protect the domestic
industry.
政府にとって、国内産業を保護するというだけなら非常に簡単なのです。
In other words, inbound intellectual property is easy for the government
to control,
but outbound intellectual property is impossible for the
government to control.
他の言い方をすれば、国内に入ってくる知的財産を政府がコントロールするのは簡単なのですが、
海外へ出ている知的財産を政府がコントロールするのは不可能なのです。
From a standpoint of an owner of the right, his right has already been
protected by law inside his home country.
Then, how will his right be
protetced by law for example in U.S.?
This is a U.S. government issue.
So,
an international protection of intellectual property is an international
agreement between the government.
知的財産権の保有者の立場から言えば、本国内において法律によって権利は既に保護されているわけです。
ではこの時、例えば米国内では、どのように法律によってその権利は守られるでしょうか?
これは、米国政府の問題になってくるわけです。
ですから、知的財産の国際的な保護というのは、政府間の国際的な合意になってくるわけです。
政府が保護しなければならない対象者というのは、その国に戸籍を持っている知的財産権保有者なのです。
In case an American who owns some intellectual property in U.S.
wants his right to be proteced by law in Japan,
on the principle of
law, the American should be as it were registered in Japan or
the American
should found a juridical person in Japan at first.
Thus, the right which the
juridical person owns is protected by law in Japan.
On the principle of law,
an American himself is not able to own any rights in Japan.
Perhaps, an
international agreement between the government enables an American himself
to
directly own the right of his intellectual property in Japan, though.
アメリカで何らかの知的財産を保有するアメリカ人が、日本でも自分の知的財産権を法律で保護してもらいたいと思う場合は、
法理的には、そのアメリカ人は言わば日本でも戸籍を持たなければなりません。
すなわち、そのアメリカ人はまず日本で法人を設立しなければなりません。
このようにして、その日本法人が保有している知的財産権は日本でも法律で保護されるわけです。
法理的には、アメリカ人その人は日本ではいかなる権利も持つことはできません。
ひょっとしたら、政府間の国際的な合意により、
アメリカ人その人が日本でも自分の知的財産権を直接に保有することができるようになるかもしれませんが。
The most important part which the government plays in the country
is
not the promotion of globalization but the protection of life, property,
and rights of the citizens.
政府が国内において果たすべき最も重要な役割とは、
グローバル化を促進することではなく、国民の生命、財産、そして権利を守ることなのです。