2015年12月2日(水)


2015年12月2日(水)日本経済新聞
ルノーへの出資増を検討 日産、仏政府に対応迫る 影響力保持なら株売買制限を破棄 11日のルノー取締役会が期限
(記事)

 


【コメント】
記事中の「シナリオ@ 日産がルノー株を25%まで買い増し」の図を見てびっくりしました。
日産がルノー株を25%まで買い増した場合、ルノーの日産に対する議決権は消滅する、と書かれています。
この点について、記事の本文には、

>日本の会社法は25%以上を出資する企業が持ち合う株式の議決権を認めていない。
>ルノーの日産に対する議決権は消えれば、仏政府による間接的な関与を消せる。

と書かれています。
そんな話は初めて聞いたぞと思って会社法の条文を見てみましたら、第308条に以下のような定めがありました。

>(議決権の数)
>第三百八条  株主(株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて
>株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、
>株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。
>ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。

この条文を読んだだけでは何回読んでも個人的にはいまいち意味が掴み切れないわけですが、
記事の内容に即した意味になっているだろうかと思いながら読んでみますと、
何となく、25%以上を有している株主は議決権を行使できない、という意味に取れるような気がします。
狭義の会社法だけではなく、広義の会社法、すなわちこの場合、会社法施行規則も見てみるとより正確な意味が分かるかと思います。
記事に簡単に書かれていますように、この会社法第308条は、
”25%以上を出資する企業が持ち合う株式は議決権を有しない”という意味なのだろうと思います。
私が驚いたのは、旧商法では、たとえ子会社が25%以上を保有していても、親会社は子会社に対し議決権を行使できる、
という定めではなかっただろうか、と思ったからです。

 



会社法施行により、持ち合い株式の議決権についての定めが改正されたということなのだろうか、と思っているところですが、
仮に私の記憶や理解が正しいなら、親子会社間で株式の持ち合い(25%以上)をしていた場合は、
会社法施行と同時に、親会社は親会社でなくなった、ということが実際に起こったのではないかと思います。
例えば、親子上場をしていたのだが、子会社の株式時価総額の方が大きくなったために、株式移転を行ったという場合、
持株会社は当然両子会社の株式の100%を保有しているわけですが、
旧親会社の方は、株式移転に伴い持株会社の株式(旧子会社株式)も一定以上(25%以上)に保有しているわけです。
そのような場合は、持株会社は旧親会社(現完全子会社)に対し、議決権を行使できない、ということになるわけです。
旧親会社(現完全子会社)の株式は持株会社が100%保有していますから、
旧親会社(現完全子会社)には議決権を行使できる株主が1人もいない、ということになります。
当然、株主総会で議案の議事を決することができないわけです。
持株数ベースで言えば、株式移転を行った持株会社の筆頭株主は実は完全子会社だ、という会社は一定数あるのではないでしょうか。
持株会社から完全子会社に対する議決権が消滅したとなりますと、
持株会社はその完全子会社に対する経営や意思決定を一切行えない、ということになるわけですが。
株式の持ち合いの是非や25%という割合の線引きについてはここでは触れませんが、
少なくとも会社法の現行の規定(第308条)は会社運営に支障をきたす(特に株式移転後の持株会社)場合があると思います。
この問題点の本質は、結局のところ、株式から議決権をなくしている点だと思います。
誰が株主であろうが、株式の権利内容に関係はないわけです。
個人株主Aさんが持っている株式1株と、機関投資家Bさんが持っている株式1株と、親会社が持っている株式1株は全て同じ株式です。
この株主が持っている株式からは議決権をなくす、という考え方自体が根本的に間違いであろうと思います。
旧商法では、子会社が保有している親会社株式(25%以上)には議決権は発生しない(配当を受け取る権利のみある)、
という定めではなかったかと思いますが、
この場合も、子会社が保有している株式からは議決権をなくしているという点で、やはり法理的には根本的に間違っていると思います。
株式の取り扱い・権利内容に誰が株主かは関係ない、という点については以下のような記事がありました↓。

 


2015年12月2日(水)日本経済新聞
■香港鉄路(MTR、香港の地下鉄運営会社) 政府に3100億円特別配当
(記事)


香港鉄路、政府に3100億円特別配当

 ■香港鉄路(MTR、香港の地下鉄運営会社) 香港政府に対し195億香港ドル(約3100億円)の特別配当を支払う計画を発表した。
広東省広州市と香港を結ぶ高速鉄道の工事の遅延に伴う費用を事実上肩代わりする。
 MTRは香港政府から高速鉄道の香港区間の建設を請け負ったが、工事が難航し、開業時期は目標の2015年中から
2018年夏にずれ込む。建設費用も844億香港ドルと当初計画(650億香港ドル)に比べ大幅に膨らむ見通しとなった。
 194億香港ドルの追加費用の負担を巡りMTRは政府と協議を続けてきたが、最終的には政府が追加費用を支出する代わりに、
MTRが76%の株式を保有する政府に特別配当の形で同額を支払うことで合意した。
今後の工事で費用がさらに上振れした場合は、MTRが全額を負担する。
 一般株主向けを含めた特別配当額は合計258億香港ドルに上る。MTRは銀行からの借り入れで必要な資金を調達するとしている。
 香港政府による追加費用の支出には立法会(議会)の承認、MTRの特別配当支払いには株主総会での承認がそれぞれ必要になる。
工事遅延の責任の所在などを巡り一部議員からは今回の枠組みを疑問視する声も出ており、実現には曲折も予想される。(香港=粟井康夫)
(日本経済新聞 2015/12/1 22:52)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDX01H07_R01C15A2FFE000/

 


こちらの記事も意味がよく分からないな、と思います。
香港政府が会社に必要な追加費用を支出する代わりに会社は株主である香港政府に配当を支払う、と書かれています。
会社は株主に配当を支払えるということは、会社には内部留保がそれだけある、という意味なのですから、
この場合、会社は香港政府に配当も支払わないし、
香港政府も会社に必要な追加費用は支出しない(会社は内部留保で資金を賄えるはずだから)、
というだけで済む話ではないでしょうか。
記事には、

>MTRは銀行からの借り入れで必要な資金を調達するとしている。

と書かれていますが、仮にここで言っている必要な資金というのが配当を支払うための資金のことを指しているのだとすれば、
会計上は根本的に間違っているということになります。
配当の原資は利益剰余金のみです。
借り入れた資金(借入金)を原資に配当を支払うことは絶対にできません。
また、会社が配当を支払うという場合は、全株主に平等に配当を支払わなければなりません。
一部の株主にだけ配当を支払う、ということは決してできません。
記事には、”特別配当”と書かれていますが、記事を読む限りは、香港政府にだけ配当を支払うという意味ではなく、
一般株主も含めて全株主に配当を支払う、という意味のようです。
”特別配当”の特別とは、一部の株主のみに支払うという意味ではなく、
この場合「臨時の」(etraordinary)、という意味なのだと思います。

 


One part of shares have a voting right and the other part of the shares don't.

一部の株式には議決権があり、一部の株式には議決権がないのです。

 

One part of shares have a right to earn a dividend and the other part of the shares don't.

一部の株式には配当を受け取る権利があり、一部の株式には配当を受け取る権利がないのです。