2015年11月28日(土)



2015年11月28日(土)日本経済新聞
アジア注目銘柄
IHHヘルスケア(マレーシア) ―6.42リンギ(2.13%安)
大幅減益が売り材料に
(記事)

 

 



【コメント】
記事を読んで気づいた点について2点だけコメントします。
記事には、

>トルコの通貨リラが主要通貨に対して下落し、トルコ子会社が抱える外貨建て債務が膨らんだことで評価損を計上。

と書かれています。
まず一点目ですが、「トルコ子会社が抱える外貨建て債務」という点についてですが、
これは「リラ通貨以外の通貨建て債務をトルコ子会社が抱えている」という意味なのでしょうか、それとも、
「親会社(マレーシア)から見るとトルコ子会社が抱えている債務はリラ通貨建てだから、その債務は親会社から見て外貨建て債務だ」
という意味なのでしょうか。
記事は、おそらく親会社の連結貸借対照表(から見た場合の)の話をしているのだと思いますが、
どちらの意味にも取れるように思います。
この記事からだけでは、どちらの意味であるとも決まらないように思います。
ただ、1つ間違いなく言えることは、「トルコ子会社が抱えている債務はトルコ子会社が弁済するしかない。」ということです。
トルコ子会社が抱えている債務を親会社が弁済することはできないわけです。
その意味では、トルコの通貨リラの為替レートが変動しても、トルコ子会社の債務弁済可能性には影響はない、と言えると思います。
日本企業が日本国内で日本円を借り入れ、日本円で返済するという場合、為替レートが関係あるでしょうか。
どんなに為替レートが変動しようとも、日本企業から見た債務の金額には全く影響はないわけです。
また、仮にトルコ子会社がリラ通貨以外の通貨で借り入れを行った(それが外貨建て債務)、ということも考えられますが、
それでも、トルコ子会社においてその外国通貨が必要でありその外国通貨建てで返済する、という返済方法が取られていると思います。
リラ通貨が必要な時に、外国通貨で借り入れを行うでしょうか。
日本企業で言えば、日本国内において米ドルを借り入れ米ドルで返済するという場合、為替レートの変動が関係あるでしょうか。
借り入れは米ドル建てだがその投資・運用は日本円建てだ、などという話はないわけです。
要するに、「借り入れた時と同じ通貨で返済する」という場合は、借り入れ期間中の為替レートの変動は全く影響はないわけです。
そして、金銭消費貸借契約とは借りた金額・通貨と同じ金額・通貨を返済することですから(さらに借りた通貨のまま投資・運用する)、
結局のところ、債務者にとっては、最初から最後まで(借り入れから返済まで)為替レートの変動は関係ないわけです。
ギャンブルをするつもりなら、米ドルを借り入れて円転し日本円で投資・運用しさらに米ドルを買って米ドルで返済する、
ということも考えられます。
この場合は、米ドルを借り入れた時は円安、米ドルを返済する時は円高、となっていれば、債務者は返済時、円高の分得をします。
しかし、為替レートはどのように変動するか分からないわけですから、
日本円が必要なら、はじめから日本円で借り入れるべきでしょう。
トルコ子会社がギャンブルを行っているわけではないのなら、
トルコ子会社(債務者)にとってリラ通貨の為替レートの変動は債務の弁済可能性に一切影響は与えない、と言えるでしょう。
親会社の連結会計上、為替レートがリラ通貨に不利なら、子会社の連結会計上の債務金額が膨らむ、というだけの話だと思います。

 



2点目なのですが、以上の論点と関連があることですが、引用した部分の後半は、
親会社はトルコ子会社株式の評価損を行った、という意味だと思います。
確かに、トルコ子会社が債務不履行を起こしそうだ、という場面であれば、
親会社はそのトルコ子会社株式を保守主義の原則の観点から早期に評価損なり減損処理なり行う必要があるでしょう。
そして、その子会社株式の評価損は、連結会計上そのまま子会社株式評価損として計上されます。
子会社株式評価損は内部取引ではないため連結上相殺消去はされません。
ただ、この記事の場合は、トルコ子会社の債務の弁済可能性は全く低くなっていないわけです。
連結会計上のトルコ子会社が抱えている債務の金額が為替換算の結果膨らんだだけであり、
トルコ子会社(債務者)にとっての債務の金額が増加したわけではないわけです。
したがって、親会社から見れば、連結子会社が債務不履行を起こす可能性は何ら高まっていないわけですから、
この場合は特段子会社株式評価損を計上する必要はない、ということになろうかと思います。
例えば、連結子会社が多額の借り入れと設備投資を行ったのだが、目下十分な収益を稼ぎ出せておらず、
連結子会社は将来借入金を返済できない可能性が出てきた、
ということであるならば、親会社としては連結子会社株式の評価損を行う、ということも必要であろうと思いますが、
連結子会社(債務者)の債務の弁済可能性は低くなっていないのであれば、親会社は子会社株式評価損を計上する必要はありません。
一般化して言えば、子会社株式の評価損を行う必要があるかどうかは子会社単位で判断しなければならない、ということです。
連結ベース(連結貸借対照表)で判断する話ではない、ということです。
この記事からだけでは正確なところは分かりませんが、記事だけから言えば、以上のようなことが言えると思います。

 

Potential default can make the value of the shares zero.

将来債務不履行が起こるという可能性は、株式の価額をゼロにし得る。