2015年11月19日(木)


2015年11月19日(木)日本経済新聞 公告
準備金の額の減少公告
エヌエヌ生命保険株式会社
公開買付開始公告についてのお知らせ
フジ住宅株式会社
(記事)



2015年11月18日
フジ住宅株式会社
自己株式の取得及び自己株式の公開買付けに関するお知らせ
ttps://www.fuji-jutaku.co.jp/uldoc/topnews_ir/20151118160104_1.pdf

 


【コメント】
エヌエヌ生命保険株式会社の「準備金の額の減少公告」について、コメントします。
まず、法務面についてコメントします。
エヌエヌ生命保険株式会社が発表している公告には、会社法上要求される債権者保護手続きの1つとして、

>なお、最終貸借対照表の開示状況は次のとおりです。

として、以下のURLと報告書が記載されています(公告はURLだけですが)。


エヌエヌ生命の現状 2015 平成26年度決算版
ttps://www.nnlife.co.jp/documents/10181/57912/2015+Disclosure.pdf/


この「エヌエヌ生命の現状 2015 平成26年度決算版」の39ページに、
エヌエヌ生命保険株式会社の2015年3月31日付けの貸借対照表が開示されているわけです。
この「エヌエヌ生命の現状 2015 平成26年度決算版」の開示日や作成日などは記載されていません。
エヌエヌ生命保険株式会社のサイトのトップページからも、この報告書のリンクへは辿れなかったように思います。
いつの日付の報告書なのかは分かりません。
参考までにPDFファイルのプロパティを見てみると、
PDFファイルの作成日は2015年7月16日、更新日は2015年7月24日にはなっていますが。
日付はこちらが先なのだと思いますが、同じ「2015年3月31日付けの貸借対照表」は、以下の決算発表資料にも記載されています。


2015年5月28日
エヌエヌ生命保険株式会社
平成26年度決算のお知らせ
ttps://www.nnlife.co.jp/company/news/20150528

平成26年度決算のお知らせ[PDF]
ttps://www.nnlife.co.jp/documents/10181/55605/NN_Financials_H26.pdf/a73e66f0-f23a-4611-8dc1-1d4800787a73


いずれにせよ、公告に記載のあるここでの「最終貸借対照表」とは、
「2015年3月31日付けの貸借対照表」のことを指しているわけです。

 



しかし、エヌエヌ生命保険株式会社のサイトには、以下のようなプレスリリース(決算の報告書)が開示されています。


2015年8月10日
エヌエヌ生命保険株式会社
平成27年度 第1四半期報告
ttps://www.nnlife.co.jp/company/news/20150810

平成27年度 第1四半期報告[PDF]
ttps://www.nnlife.co.jp/documents/10181/55605/NN_Financials_H27Q1.pdf

>エヌエヌ生命保険株式会社(代表執行役社長:サティッシュ・バパット、本社:東京都千代田区)の
>平成27年度第1四半期(平成27年4月1日〜平成27年6月30日)の業績をお知らせします。


この四半期報告の開示日は2015年8月10日であり、開示されている貸借対照表は2015年6月30日付けの貸借対照表です。
本日2015年11月19日に「最終貸借対照表」と呼ぶのならば、
「2015年3月31日付けの貸借対照表」ではなく、こちらの「2015年6月30日付けの貸借対照表」のことを指すべきだ、
という考え方になる気もします。
さらには、既に2016年3月期の第2四半期も終了しているわけですから、
本日2015年11月19日における「最終貸借対照表」は、第2四半期末である「2015年9月30日付けの貸借対照表」のことを指すべきだ、
という考え方になる気もします。
ただ、2015年11月19日現在、エヌエヌ生命保険株式会社からはまだ「平成27年度 第2四半期報告」は発表されていませんが。
いずれにせよ、本日2015年11月19日において開示されている、「最終貸借対照表」は「2015年3月31日付けの貸借対照表」ではない、
という言い方はできるように思います。
ではなぜ、エヌエヌ生命保険株式会社は本日2015年11月19日における「最終貸借対照表」として、
「2015年3月31日付けの貸借対照表」を記載しているのでしょうか。
私が思うに、これは、「会社法はどの計算書類を会社法上の正式な計算書類と見ているか」の問題なのだと思います。
結論を端的に言えば、会社法は「事業年度の末日付けの計算書類」のみを会社法上の正式な計算書類と見ている、ということになります。
他の言い方をすれば、例えば四半期財務諸表は会社法上の正式な計算書類ではない、ということです。
四半期財務諸表は、あくまで金融商品取引法であったり、業種業界固有の法律(保険業法や銀行法等)に基づいて作成されるだけであり、
少なくとも会社法上は「事業年度の末日付けの計算書類」のみが正式な計算書類だ、という位置付けなのだと思います。
これはおそらく、法人税法が原因・理由だと思います。
法人税額は、法人税法上正式・厳密には、1年に1回、事業年度の末日にしか確定しません。
したがって、会社法としては、法人税法と整合性を取るべく、「事業年度の末日付けの計算書類」のみを正式な計算書類と定め、
例えば債権者保護手続き等の際には、最終の「事業年度の末日付けの計算書類」を参照するように定めているのだと思います。

 



次に、会計面についてコメントします。
エヌエヌ生命保険株式会社は、利益準備金を減少させる(そして利益剰余金に振り替える)、と言っているわけです。
同種の手続きとしては、資本金の額の減少や資本準備金の額の減少が事例(新聞掲載の公告)としてはよく見かけますが、
エヌエヌ生命保険株式会社は利益準備金の額の減少であるわけです。
以上の3つの手続きのいずれも、債権者の利益を害する恐れがあるため、会社法上債権者保護手続きが要求されているわけです。
つまり、以上の3つの手続きのいずれも、会社財産の社外流出可能額を増加させる手続きであるわけです。
しかし、資本金の額の減少や資本準備金の額の減少と、利益準備金の額の減少とは、本質的に異なる点があります。
それは、資本金の額の減少と資本準備金の額の減少には、会計理論上理に適う部分が全くないのに対し、
利益準備金の額の減少には会計理論上十分に理に適う、という点です。
これは、「株式と資本の関係」に着目すると分かることです。
資本金と資本準備金は払込資本です。
そして、払い込んだ金額を表象するのが株式です。
そもそもの株式の価額(株主が払い込んだ価額、原始株主にとっての取得価額)とは資本金と資本準備金の合計額であるわけです。
一方、利益準備金というのは、会社が稼いだ利益の一部分を表すものです。
正確に言えば、利益準備金というのは、利益剰余金から振り替えたものです。
利益剰余金や利益準備金に株主が払い込んだ価額は一切表れていません。
したがって、株式の価額に利益剰余金は反映されない(利益剰余金は株式にとって一種の含み益の状態になる)わけです。
それで、ここで着目しないといけないのは、それぞれが計上されるに至った会計処理(仕訳)です。
資本金と資本準備金は、払い込みの結果計上されるわけです。
ですので、その払い込んだ価額が利益(利益剰余金)になる、という考え方は会計理論上ないわけです。
一方、利益準備金は、一言で言えば利益計上の結果計上されるわけです。
正確に言えば、利益準備金は、利益計上の結果利益剰余金が計上され、その利益剰余金から振り替えることにより計上されるわけです。
利益準備金が、払い込みの結果計上されることは絶対にありません。
要するに、資本金や資本準備金と、利益準備金とでは、計上の経緯が根底から異なっており、
それぞれが表す意味も根本的に異なっているわけです。
率直に言えば、資本金や資本準備金は全く利益(利益剰余金)の性質・側面はありません。
一方、利益準備金は本質的には利益(利益剰余金)なのです。
ただ、利益剰余金の一部に維持・拘束の規制が付いているだけなのです。
会社財産(特に稼いだ「利益」額)の社外流出規制額を表しているのが利益準備金だ、というだけなのです。
したがって、「株式と資本の関係」を鑑みれば、
資本金や資本準備金を利益剰余金に振り替えるのは会計理論上全く合理性や整合性を欠くのに対し、
利益準備金を利益剰余金に振り替えるのは会計理論上十分な合理性や整合性があるのです。

 



利益準備金を利益剰余金に振り替えるのは、くだけた比喩表現を使えば、「出戻り」と言っていいと思います。
「出戻り」と言っても離婚した女性のことではなく、ここではむしろ肯定的な意味合いで使っているわけですが、
これは正式な会計用語ではありません(言わば私の造語)が、
ここでの利益準備金の「出戻り」は例えば英語で言えば、
「restoration」(返還、復元作業、もとの状態に戻ること)、になると思います。
ここでのポイントは、「利益準備金はそもそも利益剰余金なのだ。」という点です。
ですので、何回も書いていますが、
資本金や資本準備金を利益剰余金に振り替えるという会計処理は会計理論上はないのに対し、
利益準備金を利益剰余金に振り替えるという会計処理は会計理論上もあるのです。
以上の議論を図に描いてみました。
基本的にはこの図を見てもらえば、「株式と資本の関係」は理解できると思いますし、
資本の各勘定かももくの意味も理解できると思います。
少しだけこの図について補足をします。
実線は直接的・第一義的な関連を表し、点線はその亜種(現行の定めのみが原因という意味)を表します。
資本金と資本準備金は青色、利益準備金と利益剰余金は緑色で書きましたが、この両者の違いは本質的です。
資本金や資本準備金と、利益準備金や利益剰余金との間には、越えられない壁があるのです。
「利益準備金は利益剰余金の一部なのだ。」という点を理解すると、
資本金の額の減少や資本準備金の額の減少と、利益準備金の額の減少とは、本質的に異なる点があることも理解できると思います。

 



「Relationship between a share and equity.」 (株式と資本の関係)


株主が会社に払い込んだ金額を表すのが資本金。
ただし、現行会社法上は、株主が会社に払い込んだ金額の一部は、資本準備金に計上することができる。
資本金と資本準備金はほとんど同じと言ってよい。

会社が稼いだ利益は「全額」が利益剰余金である。
ただし、現行会社法上は、利益剰余金の社外流出に際し、流出額とは別に、その一部を利益準備金に計上しなければならない。
利益準備金は社外流出させることはできない。
資本の維持・拘束の観点から言えば、資本金、資本準備金、利益準備金は同じ意味を持つと言ってよい。

まず第一に、資本額の全額が株式に帰属している(=株式の価額は資本額)。
ただし、資本の維持・拘束の観点(債権者保護の観点)から言えば、
すなわち、資本の社外流出可能性の観点(債権者保護の観点)から言えば、
全資本額のうち、株式に帰属しているのは「利益剰余金」のみである。
この観点から言えば、資本金、資本準備金、利益準備金は、株式に帰属してはいない。

全資本額のうち、社外流出可能なのは、利益剰余金のみ。

同じ資本でも、払込資本と稼いだ利益とは根本的に異なる。

*利益準備金は利益剰余金の一部

 



以上の議論(資本金、資本準備金と、利益準備金の違い)を言葉ではなく仕訳で端的に表現すると以下のようになります。
仕訳の方が分かりやすいと思います。
まず、それぞれが利益剰余金に振り替えられる時の仕訳は以下のようになります。

(資本金) xxx     / (利益剰余金) xxx
(資本準備金) xxx / (利益剰余金) xxx
(利益準備金) xxx / (利益剰余金) xxx

ここで、話をさかのぼれば、資本金、資本準備金が計上された際の仕訳は、

(現金) xxx / (資本金) xxx
(現金) xxx / (資本準備金) xxx

であったわけですが、
利益準備金が計上された際の仕訳は、

(利益剰余金) xxx / (利益準備金) xxx

であったわけです。
つまり、

(現金) xxx / (利益準備金) xxx

などという仕訳ではなかったわけです。



要するに、利益準備金を利益剰余金に振り替える仕訳は、利益準備金を計上する際の「逆仕訳」に過ぎないわけです。
そして、資本金、資本準備金を利益剰余金に振り替える仕訳は、利益準備金を計上する際の逆仕訳とは根本的に異なるわけです。
ここでの会計理論上の論点を言えば、「元はと言えば、利益準備金は利益剰余金だった。」という点なのです。
それに対し、資本金や資本準備金は元々は利益剰余金だったなどということは全くないわけです。
利益準備金が利益剰余金に振り替えられるのは会計理論上はおかしな話とは決して言えないわけです。
むしろ、資本の維持・拘束の観点(債権者保護の観点)から言えば、
会計理論上は払込資本(資本金と資本準備金)のみが社内に留保されねばならない、という考え方になりますので、
利益剰余金を利益準備金という形で維持・拘束させることの方が会計理論上はおかしいわけです。
しかし、資本金、資本準備金は会計理論上は利益剰余金とは全く関連がない(ある意味対極にある)勘定科目であるわけですから、
資本金や資本準備金を利益剰余金に振り替えるという会計処理は根本的におかしな考え方であるわけです。
結論を言えば、資本金を利益剰余金に振り替えようが、資本準備金を利益剰余金に振り替えようが、
利益準備金を利益剰余金に振り替えようが、
資本の維持・拘束の観点(債権者保護の観点)から言えばどれも同じ効果を持つわけですが、
会計理論上の「株式と資本の関係」の整合性の観点から言えば、
「利益準備金を利益剰余金に振り替える」ことのみが認められる、ということになるわけです。