2015年11月15日(日)
2015年11月2日(月)日本経済新聞
リーガルの窓 電子書籍に出版権
海賊版差し止め、出版社も可能に
(記事)
>通常、紙の書籍では作家が著作権をもっている。
>出版社は独占的に発刊できる出版権の契約を著作権者と結ぶことで、著作権侵害の恐れのある書籍などの差し止めを請求できる。
>しかし電子書籍には出版権がなかったため、オンラインの海賊版が流通しても、著作権者本人が差し止め請求するしかなかった。
と書かれています。
ここでの論点は、「従来は電子書籍には著作権法上出版権の定めがなかった。」という点なのだと思いますが、
個人的見解になりますが、「紙の書籍に出版権があるのなら、電子書籍にも当然に出版権がある。」、というふうに思います。
少なくとも、著作権法に電子書籍には出版権がある旨の明文規定はないのだとしても、
当然に電子書籍には出版権があると解釈するべきなのではないか、と個人的には思います。
その理由は、電子書籍も出版社を通じて販売されている(有料配信されている)からです。
作家の文章を印刷したり製本したり書店(もしくは「取次」)まで流通させたりすることを、
出版社が作家に代わり包括的に代行すること(権利)を出版権、と呼ぶのだと思いますが、
結局、電子書籍の場合も、作家の文章を電子データ化したりダウンロードし閲覧可能なファイルにしたり
電子書籍専用サイトにアップロードしたりファイルや課金の管理をしたりすることを、
作家に代わり包括的に代行する、ということを出版社は行っているわけなのですから、
その時点で電子書籍にも出版権はある、という解釈になるのではないでしょうか。
少なくとも、紙の書籍の場合と全く同じ内容の権利と義務を電子書籍に関しても出版社は有しまた負う、
というふうに、出版に関する契約を出版社が作家と結ぶことは、著作権法に明文の規定はなくとも可能なことだ、と私は思います。
逆から言えば、著作権法に定めはなくても、出版社と作家との間の私的な契約でもって電子書籍に(擬似的な)出版権を作り出す
ことは可能なことなのではないか、と思います。
記事によりますと、著作権法に出版権の定めがなければ出版社に差し止め請求をする権利が発生しない、ということのようです。
しかし、著作物に関する第一義的な権利者は出版社ではなく作家です。
ですから改正前著作権法でも、作家本人であれば電子書籍に対しても差し止め請求は当然にできたわけです。
要するに、出版社というのは、商取引の観点からも法律的にも「作家の代理人」という位置付けになるわけです。
そういう意味では、改正前著作権法でも、出版社は直接に差し止め請求をすることはできなかったのだとしても、
作家の意向を受けて有形無形の形で作家が行う差し止め請求に参加をする、ということはできたわけです。
作家本人が差し止め請求を行う場合でも、結局は著作権法が専門の弁護士に差し止め請求に関して依頼をするわけです。
つまり、実際には弁護士が作家の代理として差し止め請求を行うわけです。
それと同じで、出版社が差し止め請求を行う場合も、結局、著作権法が専門の弁護士に差し止め請求に関して依頼をするわけですから、
要するに簡単に言えば、作家の差し止め請求に出版社が力を貸すことは全く自由であるわけです。
著作権侵害について作家に報告するのも自由であるわけです。
一緒に差し止め請求をしましょう、弁護士はこちらで用意します、と出版社が作家に持ちかけることも自由であるわけです。
著作物に関する第一義的な権利者作家の立場から見ると、そして、実は出版社にとっても、
今年1月の著作権法改正は商取引の観点からも法律的にも影響はあまりなかったのではないか、という気がします。
差し止め請求を行う元々の主体(原告という言い方になるでしょうか)には確かに法律上は作家本人しかなれなかったのだとしても、
出版社としては著作権改正前は、自社が出版した電子書籍の著作権侵害に何もできなかった、手をこまねいて見ているしかなかった、
などということは決してなかったと思います。
作家と出版社とは運命共同体というと言い過ぎですが、少なくとも書籍の販売に関しては利害関係が完全に一致しているわけです。
作家が差し止め請求をしたいと考える著作権侵害は出版社も差し止め請求をしたいと考えますし、
出版社が差し止め請求をしたいと考える著作権侵害は作家も差し止め請求をしたいと考えるわけです。
ですので、結局、「作家本人は著作権法改正前から電子書籍について差し止め請求をすることができた」という一点で、
著作権法改正前から電子書籍にも出版権があった、という解釈をしても間違いではないと思います。
仮に、著作権法改正前は作家本人でも差し止め請求はできなかった、
というのならこのたびの改正は非常に大きなインパクトを持ったであろうと思いますが、
しかしそれは「電子書籍には著作権はない」と言っていることと同じでしょう。
著作権の概念から言っても、著作権法に明文の規定はなくても電子書籍にも作家の著作権は当然にあるわけです。
出版社は「作家の代理人」という見方をすると、このたびの著作権法改正の影響は小さいのではないか、というふうに思います。