2015年11月14日(土)


2015年11月12日(木)日本経済新聞
インベブ、SAB買収発表 ビール最大手 米合弁、1.5兆円で売却
9.2兆円借り入れ 史上最大規模
(記事)



1ヶ月前のプレスリリース(共同通信PRワイヤーによる日本語訳)ですが、提案内容は基本的には変わっていないと思います↓。

2015年10月13日
アンハイザー・ブッシュ・インベブ
アンハイザー・ブッシュ・インベブがSABミラー買収で修正提案を正式発表
ttp://prw.kyodonews.jp/opn/release/201510134565/

 


【コメント】
紹介したプレスリリースを読んで思ったことを一言だけコメントします。
アンハイザー・ブッシュ・インベブは、SABミラー株式を取得するに当たり、
SABミラー株主に対し、「現金買い取り」と「特殊株」のどちらかを株主が選択することができる、という提案を行ったとのことです。
それぞれプレミアムで言えば、「現金買い取り」は48%のプレミアムとなり、「特殊株」の選択肢は33%のプレミアムとなるようです。
日本の会社法では、株式交換の対価は完全親会社株式だけではなく、任意の資産でよい、と定められていますが、
それでも、完全子会社株主は、株式交換に際しては皆同じ対価を受け取らなければならないわけです。
日本の場合は、株主によって異なる対価を受け取る株式交換は実施できません。
アンハイザー・ブッシュ・インベブはベルギーの会社である一方、SABミラーは英国の会社です。
アンハイザー・ブッシュ・インベブは英国のSABミラー株式を取得しなければならないことを考えると、
英国では対価の異なる株式交換を実施することができる(この場合の完全親会社はアンハイザー・ブッシュ・インベブ英国法人)、
ということなのだと思います。
株式交換という手続きを所与のこととして考えてみると、株式交換の対価はやはり皆同一のものでなければならないでしょう。
なぜなら、対価の種類が異なると対価の価額が明確ではないからです。
例えば、株式交換の対価の選択肢として、
@SABミラー1株当たり43.50英ポンドで現金買い取り
ASABミラー1株当たり40.00英ポンドで現金買い取り
の2肢が提案されているとしましょう。
この時、SABミラー株主はどちらの選択肢を選択するでしょうか。
当然、選択肢「@」を選択するでしょう。
例えば、株式交換の対価の選択肢として、
@SABミラー1株当たりアンハイザー・ブッシュ・インベブ株式1.3株
ASABミラー1株当たりアンハイザー・ブッシュ・インベブ株式1.2株
の2肢が提案されているとしましょう。
この時、SABミラー株主はどちらの選択肢を選択するでしょうか。
当然、選択肢「@」を選択するでしょう。

 


では、提案されている選択肢が、
@SABミラー1株当たり43.50英ポンドで現金買い取り
ASABミラー1株当たり特殊株(制限株)の0.483969株を受け取り、SABミラー1株当たり3.56ポンドの現金を受け取る
の2肢の場合はどちらが有利でしょうか。
率直に言えば分からないでしょう。
選択肢@は48%のプレミアム、選択肢Aは33%のプレミアム、だから選択肢@が有利だ、とは実は決して言えません。
なぜなら、特殊株(制限株)の価額は不明だからです。
どちらの選択肢が有利か分からないのは、プレミアム率の相違が原因ではないのです。
これはプレミアム率以前の問題なのです。
基本的には、対価という時には、「現金」のみを指します。
なぜなら、現金によって対価の価額が決められる・決めることができるからです。
逆から言えば、対価が現金以外の場合は、対価の価額は実は不明なのです。
合併や株式交換の対価は以前は存続会社株式や完全親会社株式のみであったわけですが、
その理由は、全株主が同じ対価を受け取るからこそ認められていたことだ、ということだと思います。
つまり、合併や株式交換の対価は実は不明であったと言っていいわけです。
対価の価額は不明ではあるものの、全株主が同じ対価を受け取るわけですから、
少なくとも株主間に不平等はないということで、価額が不明な点は度外視されていたのだと思います。
このことを考えますと、株主によって受け取る対価が異なる株式交換というのは、
全株主が同じ対価を受け取る(全株主は平等だ)ということすら度外視している、という言い方になると思います。
このたびの事例では、複数の選択肢が用意されているということで、一見、投資家に配慮した買収提案であるように思えます。
しかし、取引の相手方から見ると、買い手は「同一の株式」を取得するわけですから、
その対価も同一でなければならない、と言わねばならないわけです。
「同一の株式」を買ったのに、対価が異なる、ではおかしいでしょう。
究極的にはやはり、対価という時には現金のみを指す、と理解するべきでしょう。
これは、対価だけではなく、ものの価額というのは現金によって決まる、と理解するべきなのです。
昨日、会計処理に関するガイドブックをスキャンして、
借り入れを目的として手形を振り出すという時、借入額と手形額が異なる場合の会計処理について考えました。
このことに関して言えば、「借り入れ額によって借入金の帳簿価額(元本額)が決まる。」と考えなければならないわけです。
つまり、借入金の帳簿価額(元本額)が先にあるわけではないわけです。
借入金の帳簿価額(元本額)が会社にいくら現金が入ってきたで決まるわけです。
その意味では、借り入れ金額と借入金の帳簿価額との間に差額が生じるはずがないのです。
差額を発生させ、差額を前払費用であったり支払利息相当などと解釈することはできないのです。
貸借契約では、借主は「借りたものを返す」わけです。
金銭消費貸借契約では、借入人は「借りた金額を返す」のではないでしょうか。
結論を一言で言えば、「ものの価額は現金でしか測れない。」、となります。