2015年11月6日(金)
2015年11月6日(金)日本経済新聞
消費税 軽減税率の論点 D
かすむ低所得者対策 消費額大きいほど恩恵
(記事)
【コメント】
昨日書いたコメントに、少しだけ追記をします。
昨日は製造業を例に出し、製造業者は「仕入れたものは全て販売する」という前提を置いている、と書きました。
そうでないと、その「販売されなかった部分」というのは、
一消費者としての自己消費なのか、製造業者としての加工なのか、不明確になるからだ、と書きました。
さらに昨日は、消費税は商品毎に把握されなければならない、すなわち、消費税も個別法により算定されなければならない、
と書きました。
これらの点についてまず追記をしたいのですが、食品加工を手がけている製造業者があるとしましょう。
この製造業者が、期末日である3月31日に、
ある原材料(例えば小麦粉1kg)を108円(本体価格100円、消費税8円)で仕入れたとしましょう。
この製造業者は、3月31日に小麦粉500gを原材料として用い食品加工(パンを作った等)を行いました。
そして、翌4月1日に、残りの小麦粉500gを原材料として用い食品加工(パンを作った等)を行いました。
この時、この製造業者の消費税はどのように考えなければならないでしょうか。
昨日のコメントのように、製造業者は「仕入れたものは全て販売する」という前提を置きますと、
仕入れた小麦粉は全て販売されるわけですから、
支払った消費税「8円」全てが確定した仮払消費税というふうに捉えることができるかと思いますが、
例えば、消費税に関しても「費用・収益対応の原則」を守ることを考えてみるとといいますか、
消費税に関しても期間配分のようなことは考えられるだろうか、と思ったわけです。
昨日私が考えました「消費税未決算」勘定を用いて考えてみると、
当期は、使用した小麦粉500g分だけ、すなわち、「4円」分だけを消費税未決算勘定から仮払消費税勘定へ振り替え、
残りの小麦粉500g分は、すなわち、「4円」分だけは消費税未決算勘定のまま次期へ繰り越す、
という会計処理は理屈では考えられそうだな、と思ったわけです。
要するに、仮受消費税(収益の結果)と仮払消費税(言わば費用の結果)についても、
各期で対応を取ることが求められるのではないか、と思ったわけです。
上記の例は、正確に言うと、当期中に製造したパンが販売されるとして、
製造したパンが販売された時に、小麦粉500g分だけ、すなわち、「4円」分だけを消費税未決算勘定から仮払消費税勘定へ振り替える、
と言わねばならないかもしれませんが。
ちょうど、製品が販売された時に、製品を棚卸資産勘定から売上原価勘定へ振り替えるように。
理論上厳密に言うと、小売業者であれ製造業者であれ、仕入れたものが販売された時に、仮払消費税は確定する、
という考え方になるのではないか、と思います。
つまり、理論上は、仮受消費税の確定と仮払消費税の確定は同時だ、ということです。
ちょうど、個別法においては、売上高の確定と売上原価の確定は同時であるように。
昨日は、消費税額の算定は商品単位だ、個別法でなければならない、と書きましたが、
それは販売実現(収益の実現)によって、(仮受消費税はもちろん)仮払消費税が初めて確定する、という意味でもあるのだと思います。
販売実現(収益の実現)によって仮払消費税が初めて確定する、という考え方に立ちますと、
昨日書きました、製造業者は「仕入れたものは全て販売する」という前提は置かなくてもよい、ということにはなると思います。
ただ、昨日も書きましたように、仕入れたもののうち不可避的に販売されない部分というのが加工においては生じるわけです。
小麦粉であれば、仕入れた1kg全部使用できますし、全体のうち何グラムだけ使用・販売した、というふうに算定できますが、
他の食材ですと、果物の皮と種の部分は捨てるであったり魚の骨の内蔵の部分は捨てる、ということになりますから、
捨てた部分はいくらか、などとても算定できないわけです(つまり、製造で全部使ったという前提を置くしかない)。
工業製品製造のために使う原材料や素材であっても、切れ端など捨てざるを得ない半端な部分は生じますし、
液体であれば蒸発してしまう部分も生じるわけです。
捨てた部分や蒸発した部分はいくらか、などとても算定できないわけです(つまり、製造で全部使ったという前提を置くしかない)。
製造業においては、消費税の金額を算定するに際しては、やはり一定度の前提は置かざるを得ない、ということになると思います。
企業会計において、費用と収益とは対応していなければならないように、
消費税の計算においては、仮払消費税と仮受消費税とは対応していなければならない、
というのが理論上の答えなのだと思います。
仮受消費税は、金額も確定時期も明確だ、と言っていいでしょう。
つまり、販売実現時が仮受消費税が確定する時です。
しかし、仮払消費税の金額や確定時期に関しては、どのような前提を置くかで結論が変わってくるのだと思います。
特に製造業の場合は、上の方で書きました小麦粉500gのように、仕入れた原材料や素材の一部だけを使用する、
ということが現実には起こりえるわけです。
販売には「半分だけ販売する」はありません。
しかし、製造には「仕入れたうちの半分だけ使用する」があり得るわけです。
消費税は有体物1つ毎に決まると考えると、仮受消費税はその有体物1つにより一意に決まるわけですが、
製造業の場合、1つの有体物を分けて使うということがあり得るため、
本来は分割できない1つの金額であるはずの仮払消費税の金額を、使用割合に応じて分けて計算する、
というような理論上の矛盾が生じるわけです。
上の方で書きました小麦粉の例で言えば、消費税の金額には「8円」しかないわけです。
「4円」という消費税額など、どこにもないわけです。
その意味では、原材料や素材の使用分量を正確に量れる場合であっても、
「有体物と消費税」という観点から見れば、消費税額を分けられない、ということになると思います。
工業簿記の原価計算のように、使用分量を配賦基準として”消費税額を配賦する”というような考え方はできなくはありませんが、
消費税額を分割してしまうと、どこか消費税(の転嫁)の連鎖が途切れているように感じます。
イメージとしては完全な受注生産の形態になるかと思いますが、受注を受けて初めて全ての原材料・素材を仕入れ、
そして製造において仕入れた全ての原材料・素材を使用して製品を完成させ、そしてお客様に納品(販売)する、
という形ですと、仮払消費税が分割されることはありませんから、消費税(の転嫁)の連鎖が続いている、と感じるわけです。
事業者が取り扱う有体物1つにつき、仮払消費税額が1つ、仮受消費税額が1つ、という関係が、消費税の基本形なのだと思います。
製造業の場合は、仮払消費税が複数(原材料と素材が複数だから)に対して仮受消費税は1つ、という関係になるわけですが、
少なくとも、仮払消費税が分割される、というのは概念的におかしい(税に分割するという概念はない)、と思います。
以上の論点のまとめというほどのこともありませんが、「仮払消費税の確定のタイミング」について表を書いてみました。
仮受消費税の確定のタイミングは事業者の業種業態を問わず金額も含めてあまりにも明らかである一方、
仮払消費税の確定のタイミングはどのような前提を置くかで全く話が変わってくる、ということが分かると思います。
この点について考えてみますと、さらには、取り扱い商品によって消費税率を変えるという点について考えてみますと、
これならばいっそのこと、「消費税は小売段階でのみ課するもの」というふうに消費税を定義した方がよいのではないか、
と思いました。
消費税は付加価値税とも呼ばれるわけですが、各流通段階における付加価値だ何だという理屈を持ってくるよりも、
この世の全ての製品は最終的には(事業者ではなく)消費者が購入するわけですから、
結局小売の段階でのみ消費税を課するようにすればそれで事足りるのではないか、という気がするわけです。
小売の段階でのみ消費税を課するようにすれば、小売業者が店頭で商品ごとに消費税率を変えることも簡単にできるわけです。
消費税が全流通段階で課される理由は、結局売り手には、
相手が事業者として買っているのか消費者として買っているのか分からないからなのだと思います。
事業者が、小売店で商品を買ってその商品を(再)販売しても、商取引上何の問題もないわけですが、
この逆パターンが消費税の課税上問題になるわけです。
つまり、全流通段階で消費税を課するようにしないと、
消費者が消費税を負担しないまま事業者のふりをして商品を買うことができてしまうわけです。
そのような消費税回避が発生するのを避けるために、全流通段階で消費税が課されているのだと思います。
全流通段階で消費税を課していれば、買い手が事業者として商品を買おうが消費者として商品を買おうが、
課税上は問題ない(徴税する消費税額に影響を与えない)、ということになるわけです。
確かに、理論上は「消費税は全流通段階で課さなければならない」だとは思います。
ただ、理論の話ではなく現実的な話になってしまいますが、
商品の販路といいますか販売チャネルといいますか、消費者が商品を買える場所というのは現実には決まっているわけです。
何と言いますか、いっそのこと「この場所で商品を買う場合は消費税が課税される」というふうに、
消費税の定義を変えてしまった方がいいのではないか、と思うわけです。
法理上は商取引に制限はないわけですが、現実には大規模小売店舗立地法をはじめ、商取引には様々な制限があるわけです。
この小売店ではこの商品のみを売ってよくそしてその販売には消費税が課税される、というふうに消費税を定義すれば、
仮払消費税はいつ確定するか、という問題は解決するわけです。
要するに、仮払消費税という概念がなくなれば、小売店で消費税率を商品毎に変えることは極めて簡単だ、と思ったわけです。
一般消費者が事業者のふりをして商品を買うことは現実には不可能に近い以上、小売段階のみの課税が現実に即していると思いました。
As at which time is the amount of a suspense payment of the Consumption Tax
finalized?
(仮払消費税の金額はどの時点で確定するのか?)
仮払消費税の確定のタイミング
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