2015年11月4日(水)



2015年11月4日(水)日本経済新聞
もしものホーム法務 
家裁の活用法 多額の借金抱え父が死亡 相続放棄、申請が必要
(記事)





【コメント】
亡くなったお父さんの借金は、残された家族が代わりに返済しなければならないのかどうかについての解説記事です。
原則的な考え方は、「亡くなったお父さんの借金は、残された家族が代わりに返済しなければならない」となっているようです。
ただ、相続放棄を行うことによって、残された家族が代わりに借金を返済する義務を免れることはできるようです。
相続放棄を行う場合、資産だけを相続するということはできません。
基本的には、全ての資産負債を相続するか、全ての資産負債を相続しないか、しかないわけです。
「限定承認」という相続方法もあるようですが、記事を読む限りは「限定承認」とは「単純承認」と同じようなことだと思います。
なぜなら、結局全ての資産負債を相続した上で、その資産により負債を返済していくことになるからです。
記事には、「限定承認」の場合は”資産額の範囲内で負担”と書かれていますが、
結局、相続する資産額>負債の場合は「単純承認」を行い、相続する資産額<負債額の場合は「相続放棄」を行う、というだけでしょう。
逆から言えば、資産額の範囲内で負債を負担しきれない場合は、「相続放棄」を行う、というだけであると思います。
昨日、シティバンク銀行の貸借対照表(個人向け事象の売却)を題材にして、
「貸借対照表の借方と貸方は分離できない」
と書きましたが、相続する資産と負債も分離できないものだ、と考えなければならないのだと思います。
ところで、「相続」の考え方で参考になるのは、やはり元祖民法(明治三十一年民法)だと思います。
元祖民法における相続は、現行民法の考え方とは大きく異なっています。
戦前には、借金(負債・債務)という考え方がなかった(債権もなかった)ので、
戸主が借金を抱えて死亡するということ自体がなかったのだと思います。
ですので、戦前の相続では戸主の借金を長男が相続するか否かで悩むことはなかったと言っていいと思います。
いずれにせよ、戦前と今とでは「家」の考え方が根本的に異なるのだけは確かでしょう。
その本質部分を端的に言えば、戦前は「家」は続くもの、
現代は「家」は結婚により作られるもの(「家」はいずれ途絶える)、となると思います。
戦前の相続は「家」の内部で行われるもの、現代の相続は「家」から別の「家」へと行われるもの、となると思います。
戦前の各法律は、(個人ではなく)あくまで「家」を中心に物事・社会を作り上げていた、と言っていいと思います。
個人単位で見ると、資産を相続した新戸主に所得税がかかることになるわけですが、
「家」という単位で資産を見ていますから、資産を相続した新戸主には所得税がかからない、
と元祖所得税法(明治三十二年所得税法)では整理されていた(相続税ももちろんない)のだと思います。

 


"Inheritance on the primitive Civil Code"
(元祖民法における相続)


On the primitive Civil Code, what you call inheritance is made
within a family register or from the dead former head of a family to the new head.
That is inheritance.
But on the modern Civil Code, inheritance is made
not based on a family register but from one family register to another family register.
The reason for it is that a marriage makes a new family register.
From a standpoint of the primitive Civil Code, a marriage of the modern Civil Code makes a family apart legally
or it makes a child of parernts not a child of them legally.
Inheritance is inheritance because assets of a family remain belonging to the head of a family.
Inheritance is not regarded as a transfer of assets because the assets remain to be inside of a family (register).
If assets belong to from one family register to another family register,
it is regarded as merely a transfer of assets.
Assets of a family belong to the legal position "the head of a family", not a natural person himself.
In this context, the first-born son has no concept "the renunciation of inheritance" with him.

元祖民法では、相続と呼ばれるものは、
同一戸籍内で行われるもの、すなわち、亡くなったかつての戸主から新しい戸主へと行われるものでした。
それが相続なのです。
現代民法では、相続は、戸籍に基づいて行われるものではなく、ある戸籍から別の戸籍へと行われています。
その理由は、結婚により新しい戸籍が作られるからです。
元祖民法の観点から言えば、結婚により家族は法的にばらばらになってしまう、
すなわち、両親の子供は法的に子供ではなくなってしまうのです。、
家族の資産が戸主に帰属するままだからこそ、相続なのです。
相続は、資産の譲渡とはみなさないのです。
なぜなら、資産は家族(戸籍)内に留まるからです。
資産の帰属先がある戸籍から別の戸籍へと移ったならば、それは単なる資産の譲渡であるとみなされるわけです。
家族の資産は、「戸主」という法的地位に帰属しているものであって、自然人その人に帰属しているものではないわけです。
この意味において、長男には「相続放棄」という概念はないのです。