2015年10月31日(土)
2015年10月31日(土)日本経済新聞 公告
資金決済に関する法律に基づく払戻しのお知らせ
Happy
Elements株式会社
(記事)
【コメント】
公告には、このたびの前払金の払戻しに関する「払戻申出期間」を「2015年10月31日(土)15:00〜2016年1月29日(金)15:00」
と定めた上で、
>上記の申出期間内に払戻しのお申出がない場合は、この払戻しの手続きから除斥されます。
と書かれています。
民法には、債権等の「消滅時効」について第166条から第174条に定めがあります。
第167条には「債権は、十年間行使しないときは、消滅する。」と書かれています。
この「債権は、十年間行使しないときは、消滅する。」が債権の消滅時効の原則規定であるわけですが、
債権の種類によっては、消滅時効が短く定められている場合があります。
例えば、「医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権は、三年間行使しないときは、消滅する。」
と第170条に定められています。
また、「弁護士の職務に関する債権は、二年間行使しないときは、消滅する。」
と第172条に定められています。
他にも、以下のように、第173条と第174条に、
それぞれ二年間行使しないときに消滅する債権と一年間行使しないときに消滅する債権が定められています。
第百七十三条 次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
一 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三
学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
第百七十四条 次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。
一 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二
自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三 運送賃に係る債権
四
旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
五 動産の損料に係る債権
例えば、売上債権(売掛金や受取手形など)は、民法第173条の規定により、2年間行使しなかった場合は消滅するわけです。
また、従業員が労働の対価として受け取るいわゆる給与を受け取る権利は、
民法第174条の規定により、1年間行使しなかった場合は消滅するわけです。
では、このたびの公告のような「『前払金』の返還を受ける権利」の消滅時効は何年間でしょうか。
少なくとも、民法には特段の規定はありません。
したがって、「『前払金』の返還を受ける権利」は全般的な債権の1つという位置付けになり、
原則規定が適用される結果、「『前払金』の返還を受ける権利」の消滅時効は10年間、ということに民法上はなるように思います。
ただ、この「『前払金』の返還を受ける権利」というのは極めて特殊な債権であるように思います。
そもそも、この「前払金」は返還することを前提としたものなのか、という話になるように思えます。
この「前払金」はあくまでスマートフォンゲームで使用・消費するために消費者が前払いしたものであるわけです。
もちろん、債務者が当初のサービスを消費者に提供できないという事態になったならば、前払金は返還しなければならないわけですが、
前払いを行った消費者の立場からすると、債務者が当初のサービスを消費者に提供できないという事態になって初めて、
前払金の返還を受ける権利が消費者に発生する、という考え方になるように思います。
より正確には、このたびの前払式支払手段に関する約款に定められているかとは思います。
ひょっとしたら、消費者は前払いを行った後任意に払戻しを会社に請求できるという約款になっているかもしれません。
個別具体的には、約款を見てみないと分かりませんが、
任意に払戻しを請求できるという場合、債権の発生時期というのはいつなのか、明確ではないように思えます。
請求できる権利があるというだけですと、少なくとも確定した金銭債権ではないとは言えると思いますが。
消費者は請求前にポイントを使用・消費もできるわけですから、債権の金額としては確定していないと言わざるを得ないでしょう。
いずれにせよ、このたびの「前払金」の返還に関しては、会社がサービスを提供できなくなったために、
消費者に「『前払金』の返還を受ける権利」が発生したということになりますので、
消費者にはその時点で確定した金銭債権が発生したと言っていいと思います。
では、その確定した金銭債権の消滅時効はいつなのか、という話になるわけですが、
この種の前払金は民法では定めきれない形の特殊な債権ということになると思いますので、
「資金決済に関する法律」という特別法が別途定められている、ということなのだと思います。
この種の前払金のことは「前払式支払手段」と定義され、
「前払式支払手段」の払戻し(消費者に債権が発生すること)に関しては、
「資金決済に関する法律」という特別法に定められている、ということなのだと思います。
それで、「資金決済に関する法律」では、「前払式支払手段」の払戻しに関しては、
会社が「払戻申出期間」を定めることができ、さらに、
その「払戻申出期間」に払戻しの申出をしなかった債権者は払戻しの手続きから除斥できる、
というふうに定められている、ということだと思います。
民法上は、金銭債権は期日も金額も確定していることが前提だと思いますので、会社が別途何かを定めるということ自体がないわけですし、
さらに、消滅時効を除けば、弁済の手続きから債権者が除斥されるという考え方自体がないかと思いますが、
「前払式支払手段」の払戻し(消費者に債権が発生すること)の特殊性に鑑み、この特別法に特段の定めがあるということだと思います。
民法上は、「本来は債権者になる権利があるのだが何かをしなければ債権者とはならない」という考え方自体がないわけです。
つまり、民法上は、債権者を債権者から除斥するということ自体がないわけですが、
実務上・現実的なことを配慮してということかもしれませんが、本来は当初のサービス提供終了と同時に確定債権となるはずが、
「資金決済に関する法律」では、債務者が債権者を債権者とはしないことを認めているということだと思います。