2015年10月27日(火)
【コメント】
学問分野で言えば、国際経済学や国際金融論と言ったりするかと思いますが、
通貨の国際化や自由化と「国際的な資本取引」とは密接な関係があると言いますか、
両者は同じ事柄・研究対象を指したものと言えるのだと思います。
記事には、中国通貨当局が人民元通貨の自由化を制限している理由として、
>自由化すれば海外資本の流出入が大きくなる。
>国内の通貨供給量に影響するだろう。
と書かれています。
そして、中国通貨当局が懸念している過去の具体例として、韓国ウォンとタイバーツを引き合いに出して、
>1997〜98年に資本流出が起き通貨危機に発展した。
と書かれています。
それまでは韓国やタイでは海外からの投資が盛んに行われていたのだが、
韓国やタイでの景気減速をきっかけに海外資本が現地から投資を引き上げた結果、1997年に韓国ウォンとタイバーツが急落した、
という現象を、アジア通貨危機と呼んでいるわけです。
記事の図は米ドルとの比較になっていますし、米ドルは基軸通貨でもありますから、
ここでは、アメリカ人投資家(以下A氏)がタイに投資をする場合のことを考えてみましょう。
タイに投資をする場合は、結局タイバーツが必要であるわけです。
米ドルのままではタイに投資できません。
したがって、A氏は米ドルをタイバーツに両替する必要があります。
これは米ドルを売ってタイバーツを買う、ということですから、この取引の結果、タイバーツは上昇するわけです。
そして、A氏がタイバーツを用いタイで投資をする、ということ自体は、為替レートには影響は与えないわけです。
そして、A氏がそのままタイで事業を継続する、というだけでも、為替レートには影響は与えないわけです。
では、A氏の取引はいつ為替レートに影響を与えるのかと言えば、
A氏がタイでの投資や事業をやめ、タイバーツを米ドルに両替する時であるわけです。
これはタイバーツを売って米ドルを買う、ということですから、この取引の結果、タイバーツは下落するわけです。
1997年にタイバーツが急落した、というのは、
非常に多くの海外投資家・海外事業家が同時期にタイでの投資や事業をやめ、タイバーツを米ドル(や各自国通貨)に両替した、
ということになるのだと思います。
通貨の取引が全く自由でありなおかつ変動為替相場制ということになりますと、確かに、現地での景気後退をきっかけに、
現地景気の先行きを懸念した多くの海外投資家・海外事業家が同時期に現地での事業・投資を手仕舞い、
現地通貨を自国通貨に両替する、そしてその結果、現地通貨が急落する、ということは考えられると思います。
ただ、細かいことを言いますと、海外投資家・海外事業家が自国通貨(米ドル)を現地通貨(タイバーツ)に両替するためには、
「誰かが現地通貨(タイバーツ)を売ることが必要だ」ということになるわけです。
しかも、その売り手にとって、売却の対価は米ドルであるわけです。
逆から言えば、「今現在米ドルが欲しいと思っているタイバーツ保有者」を海外投資家・海外事業家は見つけなければならないわけです。
そうでなければ、海外投資家・海外事業家はタイバーツを買えないわけです。
タイバーツを買えないということは、その海外投資家・海外事業家はタイで投資・事業を行えない、ということです。
では、「今現在米ドルが欲しいと思っているタイバーツ保有者」は一体どれくらいいるのでしょうか。
タイバーツ保有者というだけであれば、もちろんタイの人は全員タイバーツ保有者でしょうが、
問題は「今現在米ドルが欲しいと思っている」という部分でしょう。
「今現在米ドルが欲しいと思っているタイ人」が一体何人いるというのでしょうか。
アメリカに旅行に行く計画を持っているタイ人は確かにいることでしょう。
しかし、その金額(旅行に持っていく米ドル)はいくらでしょうか。
海外投資家・海外事業家が必要とする投資金額・事業金額に比べれば、非常に小さな金額に過ぎないでしょう。
アメリカへのタイ人旅行者は年間を通じているのだとしても、
海外投資家・海外事業家は投資・事業のため、一度に一定額のタイバーツが必要なのです。
為替レートの変動次第では、当初の計画以上にタイバーツを買うのに必要な米ドルが増加してしまう、ということもあるでしょう。
率直に言えば、海外投資家・海外事業家は、現地での投資計画・事業計画を立てづらい(通貨両替完了までの見通しが立たない)、
ということになると思います。
国際経済学や国際金融論では、「米ドルを必要としているタイバーツの売り手は常にいる」ということを理論上の前提にしている、
と言わねばならないのだと思います。
米ドルとの交換に応じるタイバーツの売り手は、タイ中央銀行か何かであるかのような前提を置いている、と言っていいでしょう。
タイ中央銀行であれば、米ドルを保有することの是非はともかく、タイバーツを売ることだけはいつでもいくらでもできるわけですから。
しかし、各国の中央銀行が通貨交換の相手となりますと、今度は為替レートが変動する必要はない、と言えるようにも思えます。
少なくとも、本来の需給関係に基づいた為替レートとは異なる為替レートにしかならない、ということになると思います。
なぜなら、中央銀行が他国通貨を必要とすることは一切ないからです。
取引単位で見ると、通貨の交換が成り立たない、と言っていいのかもしれません。
この点が、国際経済学や国際金融論における通貨交換理論(外国為替理論)に関する矛盾点なのかもしれません。
"I shall return." (私は必ず戻ってくる。)
があります。
自国通貨の海外通貨との交換に即して表現すれば、
"Money shall return." (お金は必ず戻ってくるものだ。)
と言ったところでしょうか。
ここでの「shall」の用法は、文語表現で「不可避的とみなす事態への予言」を表わして、
「〜であろう」、「〜なるべし」の意味です。
自国通貨は、通貨の交換によっても増加はしませんし、そして自国通貨は他国では決して使えないわけです。
自国通貨は最終的には自国内に返ってきます。
海外に海外通貨のコレクターがいれば確かにその分は自国に返ってきませんが、
それは自国通貨が国内において火災等で焼失してしまった、というのと同じくらいのインパクトでしかありません。
火災等で焼失しても、通貨の絶対量は減少します。
しかしそれは、全通貨量に比べれば無視できる程度のインパクトしか持たないのです。
A baht currency can be used only in Thailand and a won currency can be used only in Korea.
バーツ通貨はタイでしか使えませんし、ウォン通貨は韓国でしか使えません。