2015年10月16日(金)



2015年10月16日(金)日本経済新聞
子会社で不正な会計 マツキヨHD
(記事)




2015年10月15日
マツモトキヨシホールディングス株式会社
当社連結子会社における不正な会計操作について
ttp://www.matsumotokiyoshi-hd.co.jp/news/data/541749f7488aa340c1a31587de5f7d80.pdf

1. 不正な会計操作が判明した経緯
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【コメント】
記事には、マツモトキヨシホールディングス株式会社の子会社で行われていた不正な会計操作について、

>在庫水増し処理で架空の棚卸し資産を計上していた

と書かれています。
プレスリリースには、

>在庫水増し処理により架空棚卸資産を計上するという不正な会計操作が行われていた

と書かれています。
この会計操作はどのような手口かと言いますと、
まず、仕入れてもいない商品(棚卸資産)を仕入れたと偽り、商品を仕入れた仕訳を切ります。

(棚卸資産) xxx / (買掛金) xxx

棚卸資産の相手方勘定科目は買掛金ですから、棚卸資産を仕入れるのに現金はいりません。
また、実際には棚卸資産は仕入れないわけですから、この棚卸資産の増加は会計帳簿上だけのものです。
次に、仕入れた商品を販売した時の会計処理方法についてなのですが、
まず売り上げに関する仕訳は以下のようになります。

(現金) xxx / (売上) xxx

 



この売上に関する仕訳を切ると同時に、販売した商品を棚卸資産勘定から売上原価勘定へ振り替えなければなりません。
この時、棚卸資産勘定から売上原価勘定へ振り替える価額が問題になるわけです。
販売した商品の取得原価をそのまま売上原価勘定に振り替えるのであればもちろん何の問題もありませんが、
現代の企業会計基準や法人税法では、販売した商品の取得原価以外の価額を売上原価勘定に振り替えることが認められているのです。
「販売した商品の取得原価をそのまま売上原価勘定に振り替える」会計処理方法を個別法といいます。
一方、「販売した商品の取得原価以外の価額を売上原価勘定に振り替える」会計処理方法が、
先入先出法、後入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法といった会計処理方法になります。
個別法であれば、

(売上原価) 100円 / (棚卸資産) 100円

の仕訳を切るはずであったのに、他の会計処理方法ですと、

(売上原価) 90円 / (棚卸資産) 90円

という仕訳を切ることができてしまうわけです。
売上高の金額はどちらも同じですから、他の会計処理方法を行う場合は個別法に比べて「10円」だけ利益額が大きくなるわけです。
そして、棚卸資産の貸借対照表価額は、他の会計処理方法を行う場合は個別法に比べて「10円」だけ価額が大きくなるわけです。
このことを記事やプレスリリースでは、在庫水増し処理といったり利益の架空計上(営業損失発生の隠蔽)といっているわけです。
ただ、この種の不正な会計操作は、実地棚卸高を調べれば、棚卸資産の単価が不自然に上昇しているという兆候を示していますから
見抜きやすいと思います(実際の棚卸資産の個数は販売により減少しているのに会計上の棚卸資産の金額は相対的に大きいまま)。
また、実際には棚卸資産を仕入先から仕入れたわけではありませんから、
計上した買掛金がいつまで決済されないまま貸借対照表に滞留することになります。
つまり、買掛金の金額がそれまでに比べ大きい金額で推移することになります。
ですので、買掛金の発生と決済の状況を調べれば、不正会計は見抜けると思います。

 



以上がこのたびの不正会計の手口になるわけですが、コメントを書いていて気づいたのですが、
「売上計上と同時に棚卸資産を売上原価勘定に振り替える」という会計処理を行うことができるのは
実は個別法を適用する場合のみだ、と気づきました。
なぜなら、他の会計処理方法の場合は、期中に売上が実現した時点では、その売上に対応する売上原価の価額は確定しないからです。
正確に言うと、他の会計処理方法では、期末日時点の全棚卸資産の価額のうち、「期末棚卸高はいくらである」と確定させることによって、
結果的にその差額を売上原価と見なしているからです。
ですので、他の会計処理方法では、期末日にならないと売上原価が確定しないのです。
つまり、期中に棚卸資産勘定を売上原価勘定に振り替えるという会計処理を行いたくても行えないのです。
このことは、個別法以外の会計処理方法では、取引単位の「費用・収益対応の原則」は守られていない、ということを意味している、
と言っても過言ではないわけです。
財務諸表単位では、期末時の棚卸資産の残高の確定により、一応期間費用を正しく確定させているという考え方になるのでしょうから、
財務諸表単位の「費用・収益対応の原則」は守られていると言える(見なすことができる)のかもしれませんが。
ただ、そもそも1つ1つの取引の結果が財務諸表であるわけです。
取引単位の「費用・収益対応の原則」は守られていないが財務諸表単位の「費用・収益対応の原則」は守られている、
というのは、やはり考え方としてはおかしいわけです。
経済学に「合成の誤謬」という用語があります。
確かに「合成の誤謬」ということは現実にあると思いますが、「合成の誤謬」の逆、すなわち、
ミクロの視点では間違っているが、それが合成されたマクロ(集計量)の世界では正しい、
などという話はやはりないわけです。
その意味では、個別法以外の棚卸資産の価額の確定方法そして売上原価の確定方法は会計理論上はおかしい、
と言わざるを得ないと思います。


 


"Costs of goods sold" themselves are not a cash-out-flow, actually.

「売上原価」それ自体は、実はキャッシュ・アウト・フロー(現金流出)ではないのです。

 


The purchase of goods (inventories) is a cash-out-flow.

商品(棚卸資産)の仕入れがキャッシュ・アウト・フロー(現金流出)なのです。

 


Only by means of a specific identification method, this kind of accounting manipulation can be avoided.
Or rather, accounting treatment methods other than a specific identification method
have enabled this kind of accounting manipulation.

個別法を適用するだけで、この種の会計操作を防ぐことができます。
というより、個別法以外の会計処理方法を用いるせいで、この種の会計操作が容易になってしまっているのです。