2015年10月10日(土)


2015年10月7日(水)日本経済新聞
「新興国通貨安」対応急ぐ 車部品大手 KYBなど現地在庫圧縮 リケン、為替予約を拡大
(記事)


 



【コメント】
この記事を読んで、外貨建て取引の会計処理はどうあるべきなのだろうか、とふと思いました。
特に、”為替予約”という言葉を見て、収益認識はどのタイミングであるべきだろうか、とふと思いました。
というのは、現行の企業会計基準上も法人税法上も、収益の認識は、現金決済時ではなく掛取引時、すなわち、
商品の引渡しによる金銭債権の確定日に行うことになっているからです。
外貨建てによる商品販売の場合、現行の企業会計基準上も法人税法上も、
その取引発生時点の為替相場による円換算額で記録しなければならない、と定められています。
このことは、外貨建て取引を行った日に収益を認識する、という意味です。
しかし、考えてみますと、外貨建て取引の場合、金銭債権の金額は実は確定していないのです。
なぜなら、現金決済時の外国為替相場がいくらになるか確定していないからです。
日本では、収益は「円」で認識することになっています。
その「円」の金額が、金銭債権の金額として確定する時、収益を認識するわけです。
ところが、外貨建て取引(取引通貨は米ドルだとします)の場合、取引時に売上債権の金額は米ドルでは確定しますが、
「円」では確定しないわけです。
その売上債権の金額がいつ「円」で確定するのかと言えば、まさに決済時であるわけです。
そうしますと、外貨建て取引を行う場合は、
企業会計基準上も法人税法上も、実は現金決済時まで収益を認識してはならない、ということになるわけです。
取引時に米ドル建てで金銭債権の金額が確定するのは確かですが、そのことを会計帳簿に反映させることは間違いであるわけです。
取引時に米ドル建てで金銭債権の金額が確定しても、会計上は仕訳は切らない、ということになります。
米ドル建ての金銭債権では、「円」で債権の金額が確定しているとは言えないのです。
会計上掛取引を行う(確定債権でもって収益を認識する)とは、
実はカウンター・パーティー・リスクはない(貸し倒れは絶対に起きない)ということを前提にしている、ということです。
その意味において、会計上貸倒引当金を計上する(そのような概念のことを考える)というのは、実は会計上の矛盾とすら言えます。
掛取引を行う(確定債権でもって収益を認識する)場合、会計上カウンター・パーティー・リスクはありません。
しかし、掛取引では外国為替相場の変動の影響までは度外視できません。
要するに、取引の相手方は100パーセント代金を支払ってくれるわけですが、それはあくまで米ドル建てで必ず債務を履行してくれる、
という意味であって、日本円建てである確定した金額を支払ってくれるという意味では決してないわけです。

 


記事の内容を踏まえて書けば、収益の認識は確定した日本円建ての金銭債権でもって行うということを収益認識の前提とするならば、
外貨建て取引の収益の認識は、取引時ではなく、為替予約の締結時、ということになるわけです。
なぜなら、米ドル建ての金銭債権は、為替予約の締結によって、日本円建てで確定するからです。
注意が必要なのは、米ドル売り・円買いのプット・オプションを持っていても、収益の認識はできない、という点です。
なぜなら、外国為替相場の動向次第では、そのプット・オプションを行使しないかもしれないからです。
債権の最低回収金額が確定しているだけでは、収益は認識できないわけです。
一旦最低回収金額分だけ収益を認識し、プット・オプションを行使しなかった場合は差額は追加で収益を認識するというのは、
おかしな話でしょう。
なぜなら、債権の確定も回収は1回だから(金銭債権の発生と決済は1回だけだから、取引は1回だけだから)です。
この場合の差額というのは、取引そのものに由来するのではなく、外国為替相場に由来するものです。
究極的なことを言えば、外国為替相場に影響を受けないことも含んだ上で、「確定」と呼ぶべきなのです。
外国為替相場の影響を受けてしまう時点で、それは確定債権ではないのです。
少なくとも、日本から見れば、ですが(米ドル建てでは確かに確定していますが)。
例えば、固定為替相場制ならば、米ドル建てであっても確定した金銭債権であると言えますが。
なぜなら、固定為替相場制ならば、米ドル建て金銭債権は日本円で確定するからです。
まあ、極めて細かいことを言えば、たとえ固定為替相場であっても、取引後後為替レートが切り上げ・切り下げられるリスクや、
変動為替相場制にその後移行するリスクなどがありますが、ここではそれらのリスクは無視するとしますが。
いずれにせよ、「日本円建てで金銭債権の金額が確定していること」、これが収益の認識のためには必要なのです。
現行の企業会計基準上も法人税法上も、その後為替差損益を計上することを前提にしたうえで、収益の認識を行っているわけですが、
企業会計基準であれも法人税法であれ、収益というのはそもそも確定していなければならないわけです。
為替差損益を計上することを前提にしているということは、
実は収益の金額はまだ確定していないということを前提にしている、ということです。
結論を言えば、外貨建て取引の場合は、取引時ではなく、現金決済時か、さもなければ為替予約締結時に、収益を認識する、
という収益認識方法が求められると思います。
言うまでもないと思いますが、為替予約を締結する相手方は、当然に外貨建て取引の相手方とは異なる相手(第三者)になります。
なぜなら、外貨建て取引の相手方と為替予約を締結するというのは、始めから日本円建てで取引を行うことと同じ意味になるからです。

 

As at what kind of date is the value of a monetary obligation vested?

金銭債権の価額はどのような日をもって確定するのですか?