2015年10月8日(木)

2015年10月7日(水)日本経済新聞
車用金型大手「富士テクニカ宮津」 東洋鋼板、93億円で買収
(記事)





2015年10月7日(水)日本経済新聞
▼富士テクニカ宮津へのTOB
買い手=東洋鋼板
価格=普通株式626円(第1回)、普通株式(第2回)
期間=2016年1月ごろ
(記事)



2015年10月6日
東洋鋼鈑株式会社
株式会社富士テクニカ宮津株券等(証券コード6476)に対する公開買付けに関するお知らせ
ttp://www.toyokohan.co.jp/ja/ir/download/topics151006.pdf

 

2015年10月6日
株式会社富士テクニカ宮津
東洋鋼鈑株式会社による当社株券等に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ
ttp://www.fuji-miyazu.co.jp/ir/pdf_i/news_release1-20151006.pdf

 



【コメント】
東洋鋼鈑株式会社が株式会社富士テクニカ宮津の全株式を取得する計画であるようですが、
株式公開買付の実施時期は2016年1月ごろの予定ということで、何とも気の早い発表であると思います。
さらに、現在、富士テクニカ宮津株式の82.12%は投資ファンドが所有しているのですが、
その投資ファンドを主な対象とした株式公開買付(第1回目の公開買付)の買付価格は626円、
市場の一般の投資家を対象とした株式公開買付(第2回目の公開買付)の買付価格は930円、となっています。
企業買収に際し、特定の大株主から株式を取得するという場合、
このように大株主からは相対的に低い価格で株式を買い付ける、ということがよく行われます。
このこと自体は何ら法令に違反はしていないのですが、
逆に言うと、第1回目の公開買付に応じる大株主は低い価格での株式売却に応じた、ということを意味するわけです。
個人株主が自分が所有する株式を低い価格で売却するのは全く自由であるわけですが、
株主の利益を最大化させる義務を負っている会社の経営陣の場合は、会社が所有している株式を任意に低い価格で売却するのは
経営的に考えると間違っていると言えるでしょう。
このたびの事例の場合でも、大株主は投資ファンドですが、投資ファンドにもファンドに対する出資者がいるわけです。
ファンドに対する出資者の利益を最大化させるのが、投資ファンドの業務執行者が当然に負っている責務でしょう。
相対的に低い価格での株式売却に応じることが、果たしてファンドに対する出資者の利益を最大化させる行為なのかというと、
答えは分からないのではないでしょうか。
もちろん、将来他に株式の買い手が現れるとも限りません。
特にファンドは、自分が事業を手がけるわけではありませんから、所有株式を売却するとしたら(所有株式の買い手が現れたら)、
できるだけ一度に売却してしまいたい、と考えがちであるわけです。
一定以上の価格(それは少なくともファンドの取得価額よりは高い価額でなければならないでしょうが)であれば、
まとめて売却してしまった方が、利益になる、とは考えられます。
ただ、ファンドが所有株式を低い価格で売却するとなりますと、ファンドへの出資者の立場からすると、
ファンドと株式取得予定者とが裏で通じているのではないか、などという懸念も抱きかねないわけです。
この問題は、「意思決定と業務執行を委任する」ということを行う限り、構造的に避けられない問題だと思います。
会社と取引相手とが通じていないことを担保する唯一の方法は、出資者が意思決定を行い業務を執行することだけなのです。
「意思決定と業務執行を委任する」から、業務執行者の意思決定と業務執行が出資者の利益を最大化させるものなのかどうか、
分からない(正確に言うと、答えが出ない)わけです。
自分で意思決定を行っていれば、それが必ず正しい答えなのです。

 



以上の論点と関連する記事ということになりますが、
次のように、買収を提案するに際して公開買付価格を引き上げる、という事例があります↓。


2015年10月8日(木)日本経済新聞
ビール世界首位のインベブ 12兆円で買収提案 2位SABに
(記事)



この記事には、

>インベブは、1株当たり38.00ポンドを提案したが拒否され、40.00ポンドでも「意義ある対話なしに却下された」としている。
>今回の買い付け価格は9月にインベブによる買収の打診が表面化した前の株価より44%高い。

>インベブは価格を引き上げなければ、買収を断念するか、敵対的買収に切り替えるといった選択肢がある。

と書かれています。
被買収企業の経営陣は、株式買い取り価格をできる限り引き上げるべく、交渉を行っているわけです。
一見、正しい行動のように思えます。
しかし、経営陣が買収者に株式買い取り価格を引き上げさせているというのも、実は買収者と通じた演出かもしれないわけです。
本当に公正な株式買い取り価格は50.00ポンドなのかもしれないのに、
経営陣は、最初は38.00ポンドだったが交渉して40.00ポンドにさせました、などと言っているだけなのかもしれないわけです。
こうなりますと、本当に経営陣が株主の利益を最大化させているのか分からないわけです。
先ほども書きましたが、もう一度繰り返します。
会社と取引相手とが通じていないことを担保する唯一の方法は、出資者が意思決定を行い業務を執行することだけなのです。
「意思決定と業務執行を委任する」から、業務執行者の意思決定と業務執行が出資者の利益を最大化させるものなのかどうか、
分からない(正確に言うと、答えが出ない)わけです。
自分で意思決定を行っていれば、それが必ず正しい答えなのです。

 



The fisrt phase takeover bid is substantially similar to
a face-to-face transaction between the acquirer and the big shareholder.

第1段階目の株式公開買付は、買付者と大株主との間の相対取引に実質的に近いものです。

 


Investors of this big shareholder should be angry because the profit of the big shareholder will not be maximized.

この大株主への出資者達は怒るべきなのです。なぜなら、大株主の利益は最大化されないからです。

 


When a person other than you makes a decision, there is no knowing that the decision-making is the best for you.

あなた以外の人が意思決定を行うと、その意思決定があなたにとって最善のものなのかがどうか分からなくなります。

 


An answer which you give to yourself for yourself, that is a correct answer.

自分で自分に出した答え、それが正しい答えなのです。

 

 



2015年10月8日(木)日本経済新聞
ルノー、日産に議決権検討 筆頭株主介入に備え 仏政府の影響力けん制
(記事)






【コメント】
フランスの会社法のうち、株式の議決権に関する改正部分のことを「フロランジュ法」と呼んでいるようです。
「フロランジュ法」というのは、簡単に言えば、長期保有の株主の議決権を2倍にする、という定めのことです。
「フロランジュ法」のこの考え方を極めて一般化して言えば、
「同一の株式であっても、株式発行後、一部の株式のみ権利内容が変動することを認める。」
となると思います。
簡単に言えば、「フロランジュ法」は「同一株式間で、権利内容が異なっていてもよい。」、と言っているわけです。
普通株式と種類株式とでは権利内容が異なるというのならまだ分かりますが、
「フロランジュ法」は、ある普通株式とある普通株式とで権利内容が異なる、という状態を認めるといっているわけです。
これはやはり考え方としては根本的におかしいと言わざるを得ないでしょう。
「同一株式間で、権利内容が異なっていてもよい。」と言っている時点で完全におかしいわけですが、
敢えてこの点に少しだけ考察を加えてみます。
一部の普通株式のみ権利内容が変動する要因についてなのですが、
「フロランジュ法」ではその変動要因は、「株主による株式所有期間」となっています。
本来、株式の権利内容というのは、株式そのもののみによって決まるわけですが、
「フロランジュ法」のように、株式そのもの以外の要因によって株式の権利内容が変動する、となりますと、
様々な要因を理由に、株式の権利内容を変動させてよいことになります。
例えば、会社の資産内容や負債内容等によっても株式の権利内容が異なっていてもよい、という考え方が出てくるかと思います。
例えば、借入金が多額であったり資本の欠損が生じている時に会社が発行した新株式の議決権を他の株式の2倍にする、
といったことが考えられるわけです。
財務状況が悪化している時に新株式を引き受けるのには、通常時よりもリスクが伴います。
そこで、新株主が背負ってくれたリスクに報いるために、その株主の議決権だけを2倍にするわけです。
また、例えば自己資本比率が10%を切っている時に株式を取得した株主には、議決権を2倍にする、といったことも考えられます。
もしくは逆に、2016年3月期の基準日は2016年3月31日なのですが、デイトレーダーや配当目的のみの短期保有株主を排除するために、
2016年3月1日から2016年3月31日の間に株式を取得した株主には議決権を付与しない、といったことも考えられます。
前回の株主総会で会社提出のある議案に賛成の票を投じてくれた株主には、議決権を2倍にする、といったことも考えれらます。
もしくは逆に、前回の株主総会で会社提出のある議案に反対の票を投じた株主には、議決権を付与しない、といったことも考えれらます。
議決権だけではなく、配当金の金額に関しても、長期保有により2倍にする、といったことも考えられます。
あの議案に賛成票を投じてくれたら配当金を2倍にする、という条件付けだってできるわけです。

 


要するに、株式以外の要因で株式の権利内容が変動してよいとなりますと、どんなことだって考えられるわけです。
概念的に言えば、株式会社では、株主が平等に議事を決することができるように、株式一本で判断するようにしているわけです。
このような条件であれば議決権はこうだ、あの条件が満たされれば議決権を2倍だ剥奪だ、などという考え方は、
株式会社の根幹に反する考え方(議決権で議事を決するという根本の部分が否定されている)であるわけです。
ですから、会社は、議決権の行使に際しては、「株式だけを見る。」という態度が求められるわけです。
誰が株主かやその株主の保有期間や過去の議決権の行使状況等は一切考慮してはならないわけです。
これまで、株式に長期保有という考え方はない、といったことを書きましたが、
概念的に言えば、株式も会計期間(事業年度)毎に切れている、と考えるべきなのでしょう。
議決権の行使に際しては、「基準日の株式一本」、これだけで全てを判断しなければならないわけです。
前回以前の基準日(前回以前の株主総会や議決権行使や受取配当金等)は、全く関係ないのです。
大恩ある創業者が保有していても、1株は1株です。
デイトレーダーが保有していても、1株は1株です。
会社倒産危機に増資を引き受けてくれた寛大な株主が保有していても、1株は1株です。
死んだ親父さんから無償で大量の株式の相続したバカ息子が保有していても、1株は1株です。
バブル時に高掴みしてしまった株式も、1株は1株です。
「基準日の株式一本」、これだけで判断するのが、株式会社と呼ばれるものなのです。
フランスの「フロランジュ法」は、株式会社の根本を否定する法律であろうと思います。
参考までに、以上の議論の概念図がこちらになります↓。
株式は株式のみによって決まるのです。

 

「株式の権利内容は、株式のみよって決まる。」

 

 



The rights of a stock is determined only by a stock itself, not by the other factors.

株式の権利内容は株式そのもののみによって決まります。そのほかの要素では決まりません。

 


A common stock is different from a class stock in the rights,
but all of the common stocks should have quite the same rights.
But, common stocks of Renault have different kinds of rights.
Some shares have both a voting right and a beneficial interest,
some shares have both a double voting right and a  beneficial interest,
and other shares have no voting riggt and a beneficial interst only.
No one can design the rights of a stock.
The rights of a stock is defined only according to the fact that a stock is a stock.

普通株式は権利内容という点において種類株式とは異なる株式なのですが、
全ての普通株式は完全に同一の権利内容を持っていなければなりません。
それなのに、ルノーの普通株式には権利内容の種類が複数あるのです。
議決権と配当を受け取る権利の両方がある株式もあれば、
2倍の議決権と配当を受け取る権利の両方がある株式もあれば、
議決権はないが配当を受け取る権利だけがある株式もあるのです。
株式の権利内容は誰かが決めるものではありません。
株式の権利内容は、株式が株式というだけで決まるのです。