2015年9月18日(金)



2015年9月18日(金)日本経済新聞
組織変更公告
ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社
(記事)

 

 


【コメント】
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」が「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社」へと、
組織変更を行うことにしたそうです。
論点はいくつかあるのだと思いますが、法理的には組織変更などない、ということになると思います。
その理由についてもいくつか説明が可能かとは思いますが、
まず会計面から説明するとすれば、組織変更とは言うものの、会社の資本が機械的に変わるということはあり得ない、
というのが理由になります。
会社の資本というのは、出資者からお金を払い込まれることにより誕生します。
合同会社から株式会社への組織変更であれ、株式会社から合同会社への組織変更であれ、新会社に資本が払い込まれはしないわけです。
資本がなければ会社は成立しませんが、その資本が新会社にはない、という見方になると思います。
旧会社の資本が新会社の資本になる、ということがあり得ないわけです。
出資者の側から見ると、旧会社に100円出資をしていた出資者は、一体いつ新会社に100円出資をしたというのでしょうか。
ある会社から別の会社へ出資が引き継がれる、という考え方はやはり法理的にはないわけです。
会社の根幹を成すものは資本であるわけですが、その資本がそもそも新会社にはない、ということになると思います。
会社は新しく設立するしかありません。
資本が変わるということはないのです。
次に、法律面から説明すると、旧会社と新会社は別の法人となるわけですが、それは会社の資産の所有権者が変わる、
ということを意味します。
所有権者が変わる時というのは、資産の譲渡がなされた時のみであるわけですが、
組織変更では資産の譲渡が行われたとは考えないと言いますか、
何か機械的に所有権者が旧会社から新会社へと変わると考えるわけです。
仮に旧会社から新会社へと資産の譲渡が行われたとすると、一体いくらで譲渡されたというのでしょうか。
例えば、会社法上株式会社が実施できる「会社分割」であれば、資産の譲渡を大拡張したものという見方ができるかもしれませんが、
組織変更の場合は何らの譲渡も行われていないわけです。
会社分割の場合は、分割会社と承継会社の法律上合計2つの会社が存在します(価額や対価はともかく2社間で譲渡が行われる)。
しかし、組織変更の場合は、旧会社と新会社の両方が同時に存在する(法律上合計2つの会社が存在する)ことはないわけです。
組織変更の効力発生日をもって、会社自体が変わると言っているわけです。
「所有権者が機械的に変わる」と考えるのは、さすがにどのような基礎概念を大拡張して考えてもあり得ないと感じるわけです。
組織変更は、資産を無償譲渡するわけでも帳簿価額で承継するわけでもないわけです。
組織変更を実施した瞬間、旧会社の資産負債が宙に浮くかのように感じるわけです。
そして、資産負債が新会社に承継されないと感じるわけです。
旧会社が資産負債を新会社に承継させるためには、先に新会社を設立しなければならない、と思います。
「承継と同時に会社を設立することはできない」という意味では、同じような問題点は実は新設分割にも存在しているわけですが、
新設分割の場合は、それでも分割会社と承継会社の法律上合計2つの会社が存在します(承継・譲渡のイメージが湧く)。
しかし、組織変更の場合は、分割会社と承継会社が一瞬たりとも同時に存在することがないわけですから、
分割会社から承継会社への資産負債の承継の行われようがない(承継・譲渡が観念できない)、と思うわけです。

 


仮に、「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」が株式会社へと”組織変更”を行おうとすれば、
以下のような手続きを取らなければなりません。
まず、「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」の既存の全出資者が、全く同じ金額だけ出資をすることにより、
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社」を設立します。
そして、「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」が「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社」へと、
帳簿価額に基づいて全資産負債を承継させます。
これで、払い込み資本の金額から全資産負債の金額まで全く同一の状態を保持したまま、
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」は「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社」へと、
会社の形態を変更したことになります。
ただ厳密に言うと、「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」の内部留保(株式会社でいう利益剰余金)の金額だけ、
資本の金額と資産の金額がズレることになります。
この場合、内部留保の相手方勘定科目が現金の場合でありなおかつ経営上その現金は余剰な現金(目下事業運営では使用しない現金)
である場合は、特段何かを問題視する必要はありません。
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」内に、
利益剰余金を相手方勘定科目としてその現金が残るというだけだからです。
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」は全資産負債の承継後は清算するわけですから、
清算手続きの中でその残余財産(利益剰余金を相手方とした現金)は出資者に分配されます。
その現金も「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社」へと承継させないと出資者は損をする、
などということはありません。
問題は、内部留保の相手方勘定科目が現金ではない(すなわち内部留保を既に事業運営で使用している)場合です。
この場合は、「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」の既存の全出資者が
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社」を設立する際に、
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」への出資金額だけではなく、
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」の内部留保をも加味した金額だけ出資をする、
ということをしなければなりません。
こうすることにより、「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」の全資産負債は、
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社」へと承継させることができます。
ただその場合、今度は、「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社」への出資金額(払込資本額)と、
「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社」への出資金額(払込資本額)とがズレることになります。
出資者の出資金額が内部留保の分どうしてもズレる、ということになります。

 



内部留保も承継させればいいのではないかと思われるかもしれませんが、
旧会社の内部留保はあくまで旧会社で稼いだものであり旧会社の出資持ち分にのみ帰属しているものです。
旧会社と新会社とでは資本が異なる、という論点と同様に、旧会社の利益と新会社の利益は異なるのです。
資産負債は承継させることができるかもしれません。
しかし、収益費用は承継させることはできないのです。
なぜなら、収益費用は会社が所有しているものではないからです。
他の言い方をすれば、収益費用は何ら会社の資産や債権債務関係ではないからです。
収益と費用は、既に実現し終わり既に発生し終わっている概念のものです。
会計事象として既に完結し終わっている概念のものに、「承継」という考え方などあるわけがないのです。
このような切り口から収益と費用を見ますと、”利益を会社内に留保する”という考え方も概念的にはおかしい、
ということになると思います。
概念的に、利益は留保(言わば会社が保有する)などできない、ということになると思います。
会社は、現金は所有できるでしょう。
しかし、利益は保有できないのです。
現代会計上・現代会社法上・現代株式会社制度上は、経営上内部留保は当たり前のこととされています。
会社は会社で法人税を負担しているわけですから、会社を1人の人として見てみれば、
税引き後の利益(増加した手許現金)を自分の資産として保有し活用していくことは何らおかしくはないとは思います。
ただ、貸借対照表を見てみると、借方の現金は会社はもちろん保有することはできるわけですが、
貸方の利益剰余金に関して言えば、少なくとも「会社は利益を保有することはできない」という見方になると思います。
税を支払い現に現金を保有しているのだからその相手方勘定科目として利益剰余金を新たに観念するべきなのか、それとも、
利益を保有することは観念できないのだから利益に相当する現金も会社は保有できない、すなわち、
利益は会社は出資者に分配してしまわねばならない、と考えるべきなのか。
絶対的な答えはない議論かもしれませんが、前者の立場を取っているのが現代会計、
後者の立場を取っているのが元祖会計理論、ということになると思います。
法人税を所与のこととするならば、前者の考え方にも一定の理はあるように思えます。
法人税に関しても、何を所与のことと考え何を所与のことは考えられないのか、で答えが変わってくる問題だと思います。
少しだけ話がわき道にそれましたが、内部留保を承継させることは利益と資本(出資持ち分)との関連を鑑みれば、
やはり不可能であろう(旧会社の利益が新会社の資本に帰属するのか)、と思いますので、
現代会計においてもやはり内部留保は承継させられない、という見方になると思います。
いずれにせよ、組織変更を行う場合は、法人は1つしかないわけですから、資産負債の動きようがない、と思います。
例えば単なる商号変更であれば、法人自体は変わっていません。
しかし、組織変更の場合は、法人自体が変わる上に法人は1つしかない(合同会社と株式会社が同時に存在することがない)、
という状態であるわけですから、資産負債が動く場面がない(承継になっていない)ということになるわけです。
会社は法人なものですから、何となくのイメージで、組織変更ということができるのではないか、と思ってしまうだけなのです。
以上の議論により、会計面から見ても法理・法律面から見ても、組織変更というのは観念できないものだ、
と言わざるを得ないと思います。