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2015年8月9日(日)



一つ興味深いプレスリリースを見かけましたので紹介します↓。

 

2015年5月18日
日本瓦斯株式会社
業績連動報酬制度の導入、役員退職慰労金制度の廃止および株式報酬制度の導入に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1248465

 

2015年7月29日
日本瓦斯株式会社
役員向け株式報酬制度の導入に伴う第三者割当による自己株式処分に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1271691

 

日本瓦斯株式会社が、従来の役員退職慰労金制度を廃止し、新たに株式を交付する業績連動報酬制度を導入することにした、
という内容になります。
詳しい内容はプレスリリースを読んで頂きたいのですが、信託銀行に自社株式と金銭を信託するという形になっておりまして、
プレスリリースの解説図を見ても、報酬の支払い方法は非常に複雑な仕組みになっているな、という印象を持ちます。
ただ、プレスリリースの解説図を見ていて思ったのですが、このような株式交付の方法はないのではないか、と思いました。

 

「業績連動報酬制度の導入、役員退職慰労金制度の廃止および株式報酬制度の導入に関するお知らせ」
5. 本制度の概要
(3/7ページ)



対象取締役は報酬として株式を受け取ります。
つまり、株式を受け取る対価などありません。
それは、信託銀行は、無償で株式を対象取締役に交付するという意味ですが、
それでは信託銀行に株式譲渡損が計上されるのではないでしょうか?

 


詳しい信託の仕組みについては分からないのですが、
解説図には、「④当社株式」と「④代金の支払」とありますので、
信託銀行は日本瓦斯株式を取得する、ということではないでしょうか。
現に、日本瓦斯株式会社は信託銀行に対し「第三者割当による自己株式処分」を実施するわけです。
それは自己株式の処分の結果、現に信託銀行が日本瓦斯株式会社の株主になる、ということでしょう。
信託銀行からすると、退任した取締役に日本瓦斯株式に交付をするとは言うものの、
交付に際して何らかの対価を受け取らないと、ただの株式の無償譲渡になってしまうのではないでしょうか。
かと言って、対象取締役が信託銀行に株式の対価を支払ったのでは、報酬にならないわけです。
「第三者割当による自己株式処分」を引き受けるに際し、信託銀行は日本瓦斯株式会社に対し「④代金の支払」を行わなければ、
結果的に信託銀行に損益は発生しないことになるとは思いますが。
このたびの「第三者割当による自己株式処分」の処分価額は1株につき3,776円(直近の終値から10.00%ディスカウント)ということで、
信託銀行としては、1株当たり3,776円以上の価額で日本瓦斯株式を交付するようにしないと、株式譲渡損が計上されてしまいます。
また、このたびの信託において、
信託銀行が所有している日本瓦斯株式については議決権は行使しない、という契約になっているようです。
この点について解説図を見ますと、「信託管理人」と呼ばれる人物が信託銀行に対して「⑥議決権不行使の指図」を行う、
という契約になっているようです。
この「信託管理人」という人物は、日本瓦斯株式会社や日本瓦斯株式会社の子会社6社と利害関係のない第三者、
ということのようです。
しかし、そもそもこのたびの信託自体が日本瓦斯株式会社と信託会社との間の契約であるわけです。
日本瓦斯株式会社と利害関係のない第三者が信託の管理を行う、というのはおかしな話ではないでしょうか。
信託銀行所有の日本瓦斯株式について信託銀行が議決権を行使しないというのは、
紛れもなく日本瓦斯株式会社の意思・意向・信託方針であるわけです。
利害関係のない第三者の立場から信託の管理をしています、などと言われても意味不明ではないでしょうか。
そして、この「⑥議決権不行使の指図」は結局のところ日本瓦斯株式会社に基づくものなのだとすると、
これはまさに「会社が株主に対して議決権を行使しないで下さい。」と指図していることと同じなのです。
会社は全株主に対して平等な取り扱いを行わねばなりません。
会社が一部の株主に対してだけ、株式譲渡を制限することや議決権の行使を制限することは、株主平等の原則に反するわけです。
株主同士で株式の取り扱いに関して意思疎通を行ったり意思統一を図るのは自由ですが、
会社と一部の株主との間で株式の取り扱いに関して意思疎通を行ったり意思統一を図るのは、株主平等の原則に反するわけです。
その意味では、日本瓦斯株式会社が信託銀行(れっきとした株主)に対して「⑥議決権不行使の指図」を行うというのは、
株式会社の法理・概念に反するものだ、と言わねばならないでしょう。

 

From a standpoint of this trust company, what is a consideration of the stocks which it will deliver to retired directors?

この信託銀行の立場からすると、退任した取締役へ交付する株式の対価は一体何でしょうか?

 


会社が業務を行っている者に対する報酬の一形態として自社株式を信託している例としては他に、
「従業員持株会信託型ESOP」と呼ばれる信託方法があるようです↓。

 

2013年11月19日(火)日本経済新聞
■イーピーエス 日本版ESOPを導入
(記事)


2013年11月18日
イーピーエス株式会社
「従業員持株会信託型ESOP」の導入に関するお知らせ
ttp://pdf.irpocket.com/C4282/bSZL/varm/QGSr.pdf

3.本制度の仕組み
(2/3ページ)

先ほどの日本瓦斯株式会社の事例同様、このイーピーエス株式会社の「従業員持株会信託型ESOP」も極めて複雑だな、と思います。
意味がよく分からないと言いますか、「持株会信託」が購入した株式を「持株会」に売却する、というところがよく分かりません。
「持株会信託」は従業員に対して「⑦財産の分配」を行うとのことですが、
その利益分配の原資は株式売却益であるわけです。
誰がその株式を買うのかと言えば、従業員が資金を拠出している「持株会」であるわけです。
お金がぐるぐると「持株会信託」と「持株会」と「従業員」との間を回っていると言いますか、
株式を「持株会」が買うのなら、「持株会信託」に株式売却益が計上されても従業員には何の意味もないのではないでしょうか。
従業員の立場からすると、「持株会信託」に株式売却益が計上されても、それは自分が株式を高く買っているだけであるわけです。
「持株会信託」の存在意義自体が根本的に意味不明であるように思います。

 

Why does an employees' stock ownership association buy the shares in person?

なぜ従業員持株会が直接株式を買わないのですか?

 



「株式の売却」と言えば、次のような公告がありました↓。

 

2015年8月3日(月)日本経済新聞 公告
所在不明株主の株式売却に伴う異議申述の公告
エース証券株式会社
(記事)


所在不明株主の株式の取り扱いについては今までに何回か書きましたが、
理論上一番いいのはやはり「会社がその株式を無償で取得する」ことだと思います。
というより、法理に沿って正確に言えば、
会社法第百九十八条に則って所在不明株主の株式を売却するに際しても、
実際には、”会社は一旦所在不明株主の株式を無償で取得している”と考えるべきなのだと思います。
そうでなければ、株式を売却できないからです。
所在不明であろうがなかろうが、株主は株式の所有者です。
その株式を売却するというわけですから、株式の所有権は一旦会社が持つ必要があるでしょう。
会社法としては、長年株主の義務を果たしていないのであればその株主から株式の所有権を否定しても問題はない、
と考えているのではないでしょうか。
なぜなら、株主がその義務を果たさないと、会社の運営に支障をきたすからです。
ただ、株主は会社に対して資金を拠出したのも事実ですので、会社法としては、
株主の地位を失った株主には、競売等の代金の請求権のみは残している、ということだと思います。
ただ、やはり、理論的には、所在不明株主の株式を会社が売却するというのはおかしな考え方だと思います。
会社が自社株式を売却したとなりますと、それはいわゆる増資です。
増資に際して売却益という概念はないわけです。
増資の際に発行する株式に取得価額があるでしょうか(自己株式の処分では自己株式に取得価額はあるわけですが)。
要するに、会社が所在不明株主の株式を売却するということ自体に説明が付かないのだと思います。
結局のところ、所在不明株主の株式に関しては、「会社がその株式を無償で取得する」という方法しかないと思います。
所在不明株主からは株式の所有権はなくなりますし、また、競売等の代金の請求権もない、と整理するべきなのだと思います。
当然、株主名簿からも株主名は削除されるというだけだ、と考えるべきなのだと思います。
簡単に”所在不明株主の株式を売却する。”と言いますが、株式売却のためには株式の買い手が必要であるわけです。
株式の買い手がいない場合、所在不明株主の株式はどう取り扱うべきだというのでしょうか。
「株式の売却」では、何の解決にもなっていないのではないでしょうか。
「会社がその株式を無償で取得する」ということであれば、株式の取り扱いに際し相手はいりません。
問題解決を図るならば、会社だけでその問題が解決するように、また、法理にも添う形で、条文を定めるべきだと思います。