2015年7月20日(月)


2015年6月2日(火)日本経済新聞
■融創中国(中国・天津を地盤とする不動産開発大手) 同業への支援打ち切り
(記事)


 

2015年6月4日(木)日本経済新聞
東芝、夏の賞与を仮払い 業績反映分算出できる
米法律事務所が訴訟を呼びかけ 東芝不適切会計
(記事)



 



【コメント】
融創中国の記事には、

>佳兆業は前金として受け取っていた23億香港ドル(約370億円)を年末までに返却する。

と書かれています。
そして、東芝の記事には、

>東芝は7月上旬に支給する夏の賞与を仮払いで対応する。

と書かれています。
東芝では、賞与は業績連動報酬制となっているようですが、2015年3月期の決算がいまだに確定していないということで、

>決算が確定次第別途支払う方針だ。

と書かれています。
この2つの記事が何か関係があるのかと思われるかもしれませんが、
佳兆業が融創中国から受け取るお金、そして、従業員が東芝から受け取るお金の法的位置付けが
非常によく似ているのではないだろうか、と思いました。
融創中国が佳兆業に対して行うこの場合の金融支援というのが具体的にどのような内容なのかは分かりませんが、
年末までに受け取ったお金は返すとは書かれていますが、”前金”という表現をしているということは、
これは通常の貸付金ではなく、返済する必要はない事業運営支援金のような位置付けなのではないだろうかと思います。
貸付金のことを”前金”という言い方はあまりしないように思います。
私の想像ですが、融創中国としては今後一定期間に渡り継続的に事業運営支援金を佳兆業に支払っていく計画であったわけですが、
佳兆業は再生の見通しが立たないと判断したので、それ以上の事業運営支援金の支払いはやめることにしたのではないでしょうか。
そして、当初の支援契約では、再生の見通しが立たない場合は受け取ったお金は返済する、
という約束になっていたのではないでしょうか。
詳しいことは分かりませんが、いずれにせよ、返済しなければならないということは、
佳兆業が融創中国から受け取ったお金は「佳兆業のものではない」ことだけは確かであるわけです。

 



一方、東芝の事例についてですが、”仮払い”という表現が使われています。
確かに、決算が確定しないと賞与の金額も確定しないということではあるものの、
従業員の士気にも影響を与えかねませんので、全く支払わないというのも問題だ、という経営上の判断があったのでしょう。
ですので、正式には決算は確定していないものの、大まかな金額を見積もって、従業員に賞与を支払うことにした、
ということなのだと思います。
そのことを記事では”仮払い”と表現しているわけです。
経営上の判断などについては確かに意味は分かります。
ただ、この賞与の支払いは、簿記(会計処理)上は決して「仮払金」ではありません。
ここで使われる勘定科目はやはり「賞与」勘定になります。
なぜなら、「従業員に賞与を支払った」という法律行為は既に確定しているからです。
他の言い方をすれば、従業員は受け取った賞与は返済しなくてよいからです。
さらに他の言い方をすれば、会社が従業員に支払った賞与(現金)は、会社のものではなく既に従業員のものだからです。
会計上用いられる「仮払金」というのは、決して仮払いを受けた者のお金ではないのです。
お金(仮払金)自体は依然として会社のものであるわけです。
都度現金を渡すのが実務上は煩雑になりますので、必要となる現金額を見積もり、
会社が従業員に事前に渡すことを仮払いと呼ぶわけです。
仮払金は従業員のお金ではなくあくまで会社のお金ですから、
差額(余り)が生じた場合は従業員は会社にお金を返還しなければならないわけです。
一言で言えば、仮払金(現金)は従業員のお金ではなく会社のお金です。
このことを踏まえますと、東芝が従業員に支払う賞与は、少なくとも会計上は仮払金ではないわけです。
万が一東芝が従業員に賞与を払い過ぎていた場合は、と言い出すと、それは説明は付かない話です。
東芝としては従業員に過剰だった賞与を返還せよとはとても言えないでしょう。
また、賞与が過剰だった場合は返還しなければならないという条件で賞与を支払うとしたら、
そのような条件が付いている時点で、その賞与(現金)は従業員のものではなく会社のもののままだ、と言わねばならないでしょう。
仮払金は特定の使途があって会社が従業員に支払うものですが、賞与には特定の使途など従業員は会社から指定されないでしょう。
その意味においても、東芝が従業員に支払う賞与は仮払金ではない、と言えるでしょう。
様々な意味において、東芝が従業員に支払う賞与は決して簿記(会計)上仮払金ではないのです。
本来的な話をすれば、決算の確定を受けて初めて賞与の金額も確定するということであるならば、
会社は見積もりに基づく賞与を仮に支払うというようなことは行うべきではありません。
その仮に支払ったお金の所有権が不明確になるでしょう。
従業員の士気云々のことを考慮するならば、2015年夏の賞与は一時的・臨時的に「業績連動報酬ではないものとする」、
という経営上の判断を行うべきなのだと思います。
「2015年夏の賞与は業績連動報酬ではありませんので、その賞与の金額で確定です。」というふうに、
確定した金額の賞与を支払うことで対応を取っていくべきだと思います。

 



今日の記事に次のような記事がありました↓。

 

2015年6月2日(火)日本経済新聞
社債発行で400億円調達 クレディセゾン
(記事)





クレディセゾンが、個人投資家の需要を見込んで、夏のボーナスの支給時期に少額から投資できる個人向け社債を発行する、
という内容です。
夏のボーナスで個人向け社債を買うことは当然できるわけですが、
それは「その受け取った夏のボーナスはその従業員個人のものだ」という前提があってのことです。
特定の使途を会社から指定されて従業員が受け取ったお金は決してボーナスではありません。
会社から仮払いで受け取ったお金では、従業員個人は社債を買うことは決してできないのです。

 


The biggest problem in what you call a "separation of ownership and management"
is exactly a separation of a provider of cash and a user of cash.

いわゆる「所有と経営の分離」における最大の問題点は、まさに資金を出す人と資金を使う人とが分かれていることなのです。

 


A suspense payment doesn't involve a transfer of ownership of the cash.

仮払金は、現金の所有権が移転することを意味するわけではありません。

 


If the money is yours, you can use the money quite at free will. If it isn't, you can never use the money at will.

そのお金があなたのものなら、あなたはそのお金を全く自由に使うことができます。
そのお金はあなたものではないのなら、あなたはそのお金を決して自由に使うことはできません。