2015年7月12日(日)



2015年6月3日(水)日本経済新聞
転換社債で300億円調達 飯田GHD 子会社借り入れ返済
(記事)





2015年6月2日
飯田グループホールディングス株式会社
2020年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1254584

 


2015年6月2日
飯田グループホールディングス株式会社
2020年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行条件等の決定に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1254604

 


【コメント】
プレスリリース「2020年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行条件等の決定に関するお知らせ」を読んでいますと、
飯田グループホールディングス株式会社が発行を計画している「2020 年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債」について、
興味深い記載があることに気付きました。
以下、会社法制上定義される「転換社債型新株予約権付社債」を所与のこととして書きます。
プレスリリースには、この「転換社債型新株予約権付社債」のうち、
社債のみを「本社債」、新株予約権のみを「本新株予約権」という、
と書かれています。
このような書き方をされますと、あたかもこの「転換社債型新株予約権付社債」を社債部分と新株予約権部分とに
分けて取り扱うことができるかのように思ってしまいます。
しかし、「転換社債型新株予約権付社債」を社債部分と新株予約権部分とに分けて取り扱うことはできません。
「転換社債型新株予約権付社債」は社債部分と新株予約権部分とが一体的になった証券です。
逆から言えば、「転換社債型新株予約権付社債」の社債部分は新株予約権の行使(払い込み)にしか使用できない、
という言い方ができるのだと思います。
つまり、「転換社債型新株予約権付社債」の社債部分を現金で償還するということはできない、
という言い方ができるのだと思います。
会計処理(仕訳)で言えば、この社債は資本金に振り替えるという会計処理しか行えない、ということになります。
確かに、プレスリリースを読みますと、「転換社債型新株予約権付社債」には満期償還(償還期限)の定めもありますし、
一定の条件が満たされた場合に発動する繰上償還の定めもあります。
その意味では、この「転換社債型新株予約権付社債」は社債部分と新株予約権部分とに分けて取り扱うことができる、
と言えるかと思います。
しかし、現在の会社法上定義される「(転換社債型)新株予約権付社債」というのは、
その定義から言えば、社債部分と新株予約権部分とに分けて取り扱うことができない、ということではないかと思います。
この論点では、「平成13年度商法改正により、新株予約権が単独で発行できることになった。」ということが関連してくるわけです。
現在の会社法で定義される「新株予約権付社債」というのは、旧商法でいう「新株引受権付社債の非分離型」に該当するのではないか
と思います。
また、旧商法では、「転換社債」が定義されていたわけですが、
旧商法で定義されていた「転換社債」も、現在の会社法でいう「新株予約権付社債」の一類型であったわけです。
旧商法でいう「新株引受権付社債の非分離型」と「転換社債」に共通しているのは、
どちらも「新株予約権は社債からは分離されない」そして「社債も新株予約権からは分離されない」という点なのだと思います。
他の言い方をすれば、「社債と新株予約権はそれぞれ独立して存在できない」ということになると思います。

 


プレスリリースには、この点について何と書かれてあるでしょうか。
関連がある部分を引用してみましょう。


>3. 新株予約権と引換えに払い込む金銭
>本新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする。
(2/11ページ)


>(9) 新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする理由
>本新株予約権は、転換社債型新株予約権付社債に付されたものであり、本社債からの分離譲渡はできず、
>かつ本新株予約権の行使に際して当該新株予約権に係る本社債が出資され、本社債と新株予約権が相互に密接に関係することを考慮し、
>また本新株予約権の価値と本社債の利率、払込金額等のその他の発行条件により当社が得られる経済的価値とを考慮して、
>本新株予約権と引換えに金銭の払込みを要さないこととする。
(5/11ページ)


「新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しない」ということがまさに、新株予約権付社債の定義だ、とすら言っていいと思います。
定義という言葉が少し違うなら、定義から必然的に導き出される設計・取り扱いだ、と言っていいと思います。
新株予約権の行使に際し金銭の払込みを要するということは、新株予約権と社債とが分離しているということでしょう。
また、社債部分だけを償還できるということは、同じく、新株予約権と社債とが分離しているということでしょう。
新株予約権付社債では「本社債と新株予約権が相互に密接に関係する」とまで書かれています。
それはまさに、新株予約権付社債では、社債以外を対価に新株予約権を行使することはできないという意味であり、
新株予約権の行使以外の目的で社債を取り扱うことはできないという意味でしょう。
分離できない、それぞれ独立して存在できない、とはそういう意味ではないでしょうか。

 



現在の会社法の条文を見てみましょう。


>(定義)
>第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
>二十二 新株予約権付社債 新株予約権を付した社債をいう。


>(新株予約権の譲渡)
>第二百五十四条  新株予約権者は、その有する新株予約権を譲渡することができる。
>2  前項の規定にかかわらず、新株予約権付社債に付された新株予約権のみを譲渡することはできない。
>ただし、当該新株予約権付社債についての社債が消滅したときは、この限りでない。
>3  新株予約権付社債についての社債のみを譲渡することはできない。
>ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権が消滅したときは、この限りでない。


これらの条文だけからは、社債部分だけを償還できるか否かは明示的ではありませんが、
「新株予約権付社債に付された新株予約権のみを譲渡することはできない。」、
「新株予約権付社債についての社債のみを譲渡することはできない。」、
というこれらの文言はやはり、株予約権付社債の社債と新株予約権は一体的であり分離できないものだ、と解釈するべきでしょう。
これらの条文のうち、”社債が消滅したとき”、”新株予約権が消滅したとき”という文言の意味はよく分かりませんが。
これは実は社債部分のみの償還を暗に前提にしているということであるとも解釈できなくはありませんが、
それを言うなら、そもそも「社債部分のみの償還」ということが「社債のみを譲渡することはできない。」ということに反している
ように思えます。
確かに、譲渡と償還は異なりますが、譲渡はできないが償還はできるというのもおかしいのではないでしょうか。
株予約権付社債の社債部分の譲渡が行えない理由は、社債権者と新株予約権者とが異なる状態を作り出さないためであろうと思いますが、
その論理立てから言っても、償還の結果、社債権者はいないが新株予約権者はいる、という状態はおかしいのではないでしょうか。
社債権者と新株予約権者とは同じでなければならない(同じであることが株予約権付社債ということだ)、ということであるならば、
新株予約権付社債の社債部分だけを償還することは会社法上できない、という結論になると思います。
仮に、このたび飯田グループホールディングス株式会社が発行する新株予約権付社債のように、
社債部分だけの償還も行えるような”新株予約権付社債”を発行したいならば、
現在の会社法上は、ただ単に「社債と新株予約権の同時発行」という定義付けでもって社債を発行するべきなのです。
旧商法で言えば、旧商法でいう「新株引受権付社債の分離型」という定義付けでもって社債を発行するべきなのです。
あとは、社債の発行要項(募集要項・募集事項)でと言いますか、会社と引き受け手との間で、
新株予約権の行使や社債の満期償還や繰上償還について、適宜定めていけばいい、という形になるわけです。
飯田グループホールディングス株式会社が発行する新株予約権付社債は、少なくとも会社法上は実は新株予約権付社債ではないのです。