2015年7月5日(日)
2015年6月10日(水)日本経済新聞
お金の言葉 エージェンシー問題
(記事)
【コメント】
agent という単語を辞書で引きますと、基本的には「代理人」という意味であるわけです。
agent
という単語の語源は、「(物事を)行う人」という意味だそうです。
一言で言えば、「依頼主に代わって行う人」という意味なのだと思います。
株式会社の文脈で言えば、株式会社でいう
agent
とは、選任された取締役のことであり、
株式会社でいう依頼人とは、選任する株主のことであるわけです。
株式会社では、選任された取締役(agent)が株主(依頼人)の利益を最大化するような行動を取らないことが問題となるわけです。
そのことを「エージェンシー問題」と呼んでいるわけです。
端的に言えば、「エージェンシー問題」の根本的な解決策はただ1つだと思います。
その解決策とは、そもそも「委任を行わないこと。」です。
自分以外の誰かが経営を行うから、依頼人からすると「それは私の利益を最大化する行為ではない。」と映る場面が生じるわけです。
自分が経営を行えば、自分の意思とは異なる経営が行われること自体がないわけです。
次に、自分以外の誰かに経営を委任することを前提とするならば、
少なくとも「会社経営に関する業務指図は依頼人が行う。」ということが必要になります。
会社の業務執行自体は代理人である選任された取締役が行うにしても、
業務指図は依頼人である株主が行うようにしないと、取締役の判断・意思決定で行った業務執行が株主には、
やはり「それは私の利益を最大化する行為ではない。」と映る場面が生じてしまうわけです。
取締役が株主からの業務指図通りの業務執行を行う限り、取締役が株主の利益を害することは決してないわけです。
翻って、現代の株式会社制度では株主と取締役の関係はどうなっているでしょうか。
率直に言えば、「株主は取締役を選任するだけ。」となっているわけです。
株主が会社経営に関する業務指図を行うことは、会社法制度上は全く前提とはされていません。
会社経営に関しては、全面的・包括的に取締役に委任されている形になっているわけです。
具体的な業務執行に関しては、株主には口を出す権利はなく、株主は会社経営の蚊帳の外にいるわけです。
これで「株主の利益が最大化されない場面がある。」などと言われても、
それはもはや制度上の前提ではないのか、とすら言いたくなるくらいです。
委任された取締役の立場からしても、どのような業務執行を行えば株主の利益は最大化されたと言え、
どのような業務執行は株主の利益を害することにつながり得るのか、判断はつかないのではないでしょうか。
なぜなら、取締役は株主自身ではないからです。
仮に私が株主から委任を受ける取締役の立場に立つとするならば、やはり「このような業務執行を行っていってもらいたい。」と、
日々執行する具体的な業務指図くらいは受けたい(そうでないと怖くて業務執行を行えない)、と思います。
「会社経営に関して全面的・包括的に委任を受ける。」というのは、株主の意向や利益の方向性が取締役には分からない以上、
実は簡単には受けることはできないことなのだと思います。