2015年4月5日(日)
昨日紹介したインド国営火力発電公社(NTPC)についての翻訳とコメントに少し間違いがありました。
訂正も含め、改めてプレスリリース全文を翻訳し、コメントを追記したいと思います。
NTPC Ltd. has issued, by way of bonus, one fully paid-up, secured debenture
of Rs. 12.50 each,
for every one fully paid-up equity share of Rs. 10 held by
its shareholders.
This is the largest ever Bonus Debenture Issue of Rs 10307
crore in India
and the issue created the largest Debenture holders base of
over 7 lakh investors thus adding depth to debt market.
In order to reward
its shareholders in the 40th year of incorporation of the Company,
it has
been decided to issue Bonus debentures.
The transaction was a unique capital
restructuring exercise
resulting in conversion of Rs. 10,306.83 crore from
the free reserves of NTPC Ltd. into debentures.
It offered a win-win
situation for the Company and its shareholders by improving the gearing
ratio
and ROE of the Company and rewarding the shareholders with 8.49% fixed
coupon bearing security,
tradable at ease on NSE and BSE.
The debentures
are secured in nature and are rated Triple AAA by all the three rating
agencies.
The door-to-door maturity of debenture is 10 years and the
instrument is redeemable in 8th, 9th and 10th year.
These Bonus Debentures
have been allotted on 25.03.2015 and in terms of the Scheme.
By virtue of
74.96% shareholding in NTPC, Government of India receives 618.06 crore bonus
debentures
amounting to Rs. 7725.76 crore.
In addition, Govt. also
received Rs. 2061 crore (approx.) as dividend distribution tax on these
debentures.
In order to mark the historic occasion, a replica of the
Certificate of Bonus Debenture
was presented by CMD and other members of the
Board of NTPC to the Hon’ble Minister of Finance,
in the presence of Hon’ble
Minister of Power on Thursday, 26th March, 2015.
The transaction was executed
in shortest possible time of 93 days from Board Approval to Allotment
as
against 12 - 36 months taken by other issuers.
Seamless co-ordination amongst
Ministry of Power, Ministry of Corporate Affairs, Ministry of Finance
and
team NTPC could achieve this feat.
NTPC became the first PSU and First
Maharatna to undertake such innovative capital restructuring exercise.
【参謀訳】
2015年3月27日
インド国営火力発電公社
インド国営火力発電公社が10307クローレ・ルピーという過去最大の特別ボーナス社債券を発行しました
インド国営火力発電公社は、特別ボーナスとして、そして全額が払い込まれたものとして、
弊社の株主様が所有している全額払い込み済みの持分株式10ルピー1株に対し、
1口12.50ルピーの担保付社債を発行いたしました。
これは、10307クローレ(1030.7億ルピー)という、インドで過去最高の特別ボーナスの社債発行であり、
この発行により、700,000人を超える投資家からなる最大の社債券保有者層が誕生することになり、
その結果、負債市場は深さを増すことになります。
設立から40年目となる弊社株主様に報いるために、弊社では特別ボーナス社債券を発行することを決定いたしました。
この取引は、ユニークな資本再構成の実行でありまして、10,306.83クローレ・ルピーの価額が、
インド国営火力発電公社の任意積立金から社債券へと転換されました。
この取引は、弊社のギヤ比とROEを向上させ、また、
ムンバイ証券取引所とナショナル証券取引所で気楽に売買可能な8.49%の利息が付いている証券を株主様に交付することによって、
弊社と弊社株主様の双方に利益をもたらしました。
このたびの社債券は、事実上担保が付いており、格付会社3社全てからトリプルAAAの格付けが付与されております。
社債券の発行から償還までの満期は10年間であり、この証券は8年目、9年目、10年目の年に償還が可能となっております。
このたびの特別ボーナス社債券は、2015年3月25日に割り当てられておりますが、これは計画案に記載されていることです。
インド国営火力発電公社の74.96%の株式を所有していることから、インド政府は、
618.06クローレの特別ボーナス社債券をお受け取りになっており、これは価額で言えば7725.76クローレ・ルピーに相当します。
さらに言えば、インド政府は、このたびの社債券にかかる配当の受け取りに対する税金として
(約)2061クローレ・ルピーを同時に納税されています。
この歴史的な出来事を記念するために、2015年3月26日木曜日、
インド国営火力発電公社の取締役会の会長兼マネージング・ディレクターと他の取締役達が、
このたびの特別ボーナス社債券(証書)のレプリカを、電力大臣閣下同席の下、財務大臣閣下へプレゼントいたしました。
他の社債発行者では12ヵ月から36ヵ月かかるところ、弊社では、取締役会の承認から割り当てまで93日間という考えられる最短の期間で
この取引を実行いたしました。
電力省、企業省、財務省そしてインド国営火力発電公社の面々が皆でよどみなく協力したからこそ、このようなことが達成できたのです。
インド国営火力発電公社は、以上のような革新的な資本再構成の実施を企画した、最初の国営企業となりましたし、
そして最初のMaharatnaステータス企業となりました。
【コメント】
インド国営火力発電公社が実施したこのたびの”社債券の無償発行”というのは、
昨日書きましたような形の社債の無償による割り当て交付ではなく、
どうやら内部留保(任意積立金)を原資とした(?)社債発行であったようです。
内部留保(任意積立金)を原資とした社債発行と聞いても、率直に言えば完全に意味不明であるわけですが、
会計上は、使途に制限がない任意積立金勘定を、社債勘定に振り替える、というようなことを会社は行ったようです。
負債(借入金など)を資本(株式)に振り替える、というデット・エクイティ・スワップであれば日本の会計基準上はありますが、
概念的にはこのたびの社債発行というのはデット・エクイティ・スワップの逆のイメージになる取引であるようです。
”エクイティ・デット・スワップ”、とでも言うのでしょうか。
昨日書きました内容とはある意味正反対になりますが、この社債券は、会社には負債勘定としては計上されます。
ただし、同額だけ、任意積立金勘定が減少するようです。
そして、株主の方の会計処理が少し分かりづらいのですが、
社債を受け取った結果、株主には課税がなされるといったことがプレスリリースには記載されていますので、
会社が発行した社債の価額(=任意積立金の減少額)を持つ社債を株主は現に受け取った、と考えるのだと思います。
つまり、株主の貸借対照表には投資有価証券勘定として、インド国営火力発電公社株式に加えインド国営火力発電公社社債が計上される、
ということになります。
この時、株主が従来から所有してきたインド国営火力発電公社株式の価額は減少しないのだと思います。
つまり、会社が通常通り配当金を支払っても株主の貸借対照表の株式の価額は減少しないように、
会社が任意積立金勘定を社債勘定に振り替えても(=株主資本が減少しても)、株主の株式の価額は減少しないのだと思います。
なぜこの点に触れているのかと言えば、デット・エクイティ・スワップの場合は、
債権者の持分(貸付金勘定など)は株式勘定に変わるからです。
つまり、債権者の持分の価額(総額・合計額)は、デット・エクイティ・スワップ前後で変化しないわけです。
ところが、インドにて実施される”エクイティ・デット・スワップ”では、
株主の会社に対する持分(株式勘定と新社債勘定)の価額(総額・合計額)は増加するようです。
会社が通常通り配当金を支払っても株主の貸借対照表の株式の価額は減少しないという観点から言えば、
インドにて実施される”エクイティ・デット・スワップ”後も株主の貸借対照表の株式の価額は減少しない、
という考え方に分があるようにも思えます。
一方で、資本の払い込みにせよ資金の貸し付けにせよ、投資者の会社に対する持分(株式や債権)が増加するためには、
現に会社にお金を振り込むということが必要であるわけです。
仕入債務の場合でも、現に会社にその価額のものを引渡す、ということが必要である(納品された分棚卸資産勘定が増加する)わけです。
無償やボーナスなどという形ですと、価額が動いていないと言いますか、投資者の会社に対する持分が増加する要因がないように思えます。
このたび発行された社債のどこが「fully
paid-up」なのか、私にはよく分かりません。
社債が「fully
paid-up」とは、社債の価額の全額が「新たに」会社に貸し付けられた、という意味ではないでしょうか。
任意積立金勘定の相手方勘定科目(一定額の借方の資産)が発行される社債の相手方勘定科目だ、と言いたいのかもしれませんが、
社債発行に際し、少なくとも会社の貸借対照表の借方(資産)は一切増加していないことだけは確かでしょう。
投資者の会社に対する持分が増加するためには、会社の貸借対照表の借方が増加する必要があるのではないか、と思うわけです。
そういった観点から言えば、インドにて実施される”エクイティ・デット・スワップ”後は株主の貸借対照表の株式の価額は減少する、
という考え方に分があるようにも思えます。
ただし、株式の価額が減少した分、交付を受けた社債の価額が増加する、ということになりますから、
投資者の会社に対する持分(株式と債権)の価額(総額・合計額)は、デット・エクイティ・スワップ前後で変動しない、
ということになります。
この論点は、明治三十二年商法における”仮想株式会社”を頭の中にイメージすると分かりやすいと思います。
社債勘定への振り替えの原資(振り替え元)は、任意積立金勘定ではなく、資本金勘定だ、と考えてみて下さい。
資本金勘定を減少させるのなら、株主の株式の価額を減少させなければならないのではないか、と分かると思います。
そのイメージを応用して考えてみると、株主資本が減少したのなら株式の価額も減少する、とイメージがつかめるのではないでしょうか。
配当金の支払い(利益剰余金の減少)に関しては、単に当期に稼いだ利益を株主に支払っただけだから株式の価額は減少しないわけです。
内部留保がある場合、会社が配当金を支払っても株主の株式の価額が減少しないのは、
株式の含み益が減少しただけだからだ、といった具合に理解するとよいかもしれません。
確かに、このたびの事例では、資本金勘定ではなく、これまでの利益の留保の結果である任意積立金勘定が減少する形ではあります。
しかし、それでも、配当金をいくら受け取っても、それだけでは株主の会社に対する持分は一切増加はしないでしょう。
そういったことを考えますと、株主が保有する社債の価額が増加するのなら、株式の価額は減少しないといけないように思います。
会社側の仕訳
@社債券発行時の仕訳
(任意積立金) 100円 / (社債)100円
A社債券の利息の支払い時の仕訳
(支払社債利息) 10円 / (現金) 10円
B社債券の元本の償還時の仕訳
(社債) 100円 / (現金) 100円
株主(新社債券保有者)側の仕訳
@´社債券取得時の仕訳
(満期保有目的債券(社債)) 100円 / (投資有価証券の割当交付に関する利益) 100円
(所得税) 40円 (現金) 40円
A´社債券の利息の受け取り時の仕訳
(現金) 10円 / (受取有価証券利息) 10円
B´社債券の元本の償還時の仕訳
(現金) 100円 / (満期保有目的債券(社債)) 100円
会計理論上の話をすると、
無償増資(利益の資本組入れ)と呼ばれる勘定科目の振り替えもおかしいですし、
デット・エクイティ・スワップ(債務の株式化)と呼ばれる勘定科目の振り替えもおかしいですし、
そして、”エクイティ・デット・スワップ”(利益の債務化)と呼ばれる勘定科目の振り替えもおかしいわけです。
今日の結論を一言で書けば、
投資者の会社に対する持分(株式や債権)が増加するためには、会社の貸借対照表の借方が増加する必要がある、
となります。
会社の貸借対照表の借方、それは資産ということです。
「星の王子さま」という小説の名言に、「大切なものは、目に見えない。」という台詞があります。
しかし、星の王子さまは嘘つきです。
本当に大切なものは、目に見えます。
目に見えないものを信用してはいけません。
どんな場面においても、目に見えるものだけを信用して下さい。
It is absolutely only with the head, never with the heart, that one can
see rightly.
What is really essential is visible to the eye.
In the scene
of love and marriage, what is really essential is exactly a notification of your
marriage.
You must not believe those who talk about love.
And, in the
context of business, what is really essential is, after all is said and done,
the debit side of a company.
物事を正しく理解するために必要なのは、絶対的に頭なのです。
決して心ではありません。
本当に大切なものは、目に見えます。
恋愛や結婚の場面では、本当に大切なものとは、紛れもなく婚姻届のことです。
愛を語る人物を信用してはいけません。
そして、ビジネスという文脈においては、本当に大切なものとは、やはり会社の借方なのです。
The capital accounting is certainly important.
But, at the same time,
an asset account is also important.
資本会計はもちろん重要です。
しかし同時に、資産勘定も重要です。