2015年4月3日(金)
【コメント】
日本アイ・ビー・エム株式会社は、顧客に対し様々なソリューションやサービスや製品を提供しているわけですが、
会社の経営戦略としては、サーバー製品・ソフトウェア製品・ストレージ製品といった自社製品を販売することよりも、
他社の製品を組み合わせたシステム・インテグレーション事業やコンサルティング事業を行っていくことに重点を置いているようです。
それで、日本アイ・ビー・エム株式会社の決算公告を見ていて思ったのですが、
ITシステムの構築では、手数料部分のみを売上高として計上し、顧客に納入するITシステムの機器類の金額は売上原価や売上高に含めない、
という会計処理方法を日本アイ・ビー・エム株式会社をはじめとする、システム・インテグレーターでは行っているのだと思います。
この点に関しては、「弊社では当期から売上高についての会計処理方法の変更を行います。」と発表を行うといった事例が現にあるように、
「会計処理方針の変更」により売上原価と売上高の認識が変わってくる、と思われがちです。
しかし、システム・インテグレーターにとっての「顧客に納入するITシステムの機器類の金額」のように、
ある資産の金額を売上原価と売上高に含めるか含めないかは、適用する会計基準や採用する会計方針によって決まるのではなく、
「その資産を会社が所有したか否か」で一意に決まる、というふうに理解しなければならないと思います。
システム・インテグレーターで言えば、最終的に顧客に納入するITシステムの機器類は最初から顧客の所有物であるという場合は、
すなわち、それらの機器類は顧客の代理として会社が仕入れただけであり、システム構築の間だけ顧客から預っているだけだ、という場合は、
それらの機器類の金額は売上原価にも売上高にも含まれない、ということになるわけです。
逆に、最終的に顧客に納入するITシステムの機器類は会社の所有物であるという場合は、
すなわち、それらの機器類はソリューションやサービスの提供を行うために会社が仕入れたものであり、
システム構築の間も自社の所有物として納入のために工程を進めていっている、という場合は、
それらの機器類の金額は売上原価と売上高に含まれる、ということになるわけです。
この違いは、その資産は会社所有の資産かそれとも顧客所有の資産か、の一点だけで決まる話であり、
「会計方針の違い」から生じているわけでは全くないわけです。
自社の所有物を販売した、だから、その所有物の取得価額は売上原価を構成する(その取得価額は当然に売上高(譲渡価額)に含まれる)、
ということになりますし、また、
顧客の所有物を預りシステム構築を手がけ顧客に納入した(一種の外注加工を行っただけだ)、
だから、その所有物の取得価額は売上原価を構成しない(その取得価額は売上高(手数料)に含まれない)、
ということになるわけです。
過去、日本アイ・ビー・エム株式会社でも会計方針の変更を行い、売上高は手数料のみを表示するように変更したのではなかったか
と思いますが、それは会計方針の変更以前に実ははじめから売上原価と売上高の過大計上だったのだと思います。
また逆に、たとえ顧客に納入するためだけに仕入れたのだとしても、自社の所有物を販売したにも関わらず手数料の部分だけを
売上高として計上したのだとすると、それは売上原価と売上高の過少計上、ということになります。
端的に言えば、資産の保有期間や預かり期間の長短はこの論点では全く問題ではなく、
資産の所有権は会社と顧客のどちらにあったのか、の一点だけで、会計処理方法が一意に決まる、ということになります。