2015年1月15日(木)



2015年1月15日(木)日本経済新聞 ニュース一言
キューピー 三宅社長
(記事)

 

 



【コメント】
キューピー社の社長のコメントして、

>通常時の販売価格には値上げが反映されているが、セールをする小売店が多く、消費の現場では安さへの要求が強い。
>再値上げはもう少し我慢しなければならない。

と書かれています。
しかし、この言葉は少しおかしいと思います。
というのは、キューピー社はあくまで製造業者です。
あくまで卸売業者へ自社で製造した製品を販売するまでがその商業活動の範囲です。
一方、キューピー社の社長のコメントでは、小売店における販売価格の話をしています。
これはおかしいわけです。
なぜなら、キューピー社には、卸売業者へ自社で製造した製品を販売する際の価格(いわゆる卸売価格)は決定できますが、
キューピー社には、それ以降の流通段階における価格、すなわち、
卸売業者が小売業者へ販売する価格(これも卸売価格と呼ぶかと思います)や小売業者が店頭で消費者に販売する価格(小売価格)を
決定することは、基本的にはできないと考えるべきだからです。
文脈を踏まえると、キューピー社が製品を製造するに際して使用する原材料の価格は目下上昇している、ということなのだと思います。
それで、キューピー社としては製品製造原価が上昇していますので、卸売業者へ自社で製造した製品を販売する際の価格を
最近になって値上げした、ということなのだと思います。
この段階では、キューピー社にとっては、自社製品の販売価格を値上げした、という表現になると思います。
ただ、理屈では、そこから先の流通段階における製品価格に関しては、キューピー社はある意味全く関係がないわけです。
より法理的に考えると、キューピー社が卸売業者に対し製品を販売しその代金の回収(製品の納入・引渡し・決済)までが完了した時点で、
キューピー社が製造した製品の所有権は完全に販売先である卸売業者にあるわけです。
つまり、キューピー社には、たとえ自社が製造した製品であろうとも、卸売業者の所有物に何らかの注文を付けることはできないわけです。
そして、その卸売業者も、その所有物であるキューピー社が製造した製品を、
小売業者に対し販売しその代金の回収(製品の納入・引渡し・決済)までが完了した時点で、
キューピー社が製造した製品の所有権は完全に販売先である小売業者にあるわけです。
つまり、流通段階がその段階になりますと、キューピー社にも卸売業者にも、
たとえ自社が製造した製品であろうとも、そして自社が納入した製品であろうとも、
小売業者の所有物に何らかの注文を付けることはできないわけです。
つまり、小売業者が店頭で消費者に販売する価格(小売価格)に関して、キューピー社にも卸売業者にも、
販売価格を決定する権利はないわけです。

 



キューピー社の社長のコメントを踏まえますと、キューピー社が卸売業者へ販売する際の価格(卸売価格)は値上げをしたということで、
その卸売価格の値上げ分は、小売業者の店頭での通常時の販売価格には反映されている、ということなのだと思います。
その店頭での小売価格の値上げは仕入価格の上昇に伴う値上げということで、それはそれで小売業者の判断であろうと思います。
それで、消費の現場では安さへの要求が強いということで、小売業者としては、店頭では、
セールをして製品を販売することが多いようです。
セールをするということは、仕入価格の上昇分は、小売業者が利幅を削って販売を行っているというだけであり、
これもまた、商品価格戦略の1つということで、小売業者の判断であろうと思います。
小売業者は値上げをして販売した方がより儲かると判断した時には値上げをして販売するというだけであり、
そして、セールをした方がより儲かると判断した時にはセールをするというだけなのです。
つまり、キューピー社はキューピー社で自社にとって最も利益額が大きくなるように自社製品の製造販売を行っていけばよく、
卸売業者は卸売業者で自社にとって最も利益額が大きくなるように製造業者の製品を仕入れ小売業者に納入を行っていけばよく、
小売業者は小売業者で自社にとって最も利益額が大きくなるように卸売業者から商品を仕入れ消費者に店頭で販売を行っていけばよい、
というだけなのです。
自社の商業活動の範囲以外の流通段階の販売価格に対して何らかの注文を付けることは、
商行為としてもおかしいですし、法理的にもおかしいですし、場合によっては経済学(社会の富の最大化)的に見てもおかしい、
ということになると思います。
ですから、キューピー社としては、再値上げを行う方がより儲かると判断できるのであれば、再値上げは全く我慢しなくてよいのです。
キューピー社は、再値上げを行う方がより儲かると判断できるのであれば、今すぐ再値上げを行うべきなのです。
仮に、その値上げによって小売価格までもが上昇し、自社製品の販売が落ち込み利益額の減少が起こってしまうようであれば、
より儲かると判断できる販売価格(卸売価格)を再設定すべきでしょう。
それが価格戦略というものではないでしょうか。
小売業者もできる限り儲けようと思って小売価格を設定するわけですから、小売価格の設定は小売業者に任せるべきでしょう。
どの販売価格(小売価格)が一番儲かるのかは、一番消費者に近い流通段階にいる小売業者が一番よく熟知していることでしょう。
小売業者が設定したある販売価格(小売価格)により一番儲かることが、ひいてはキューピー社が一番儲かることにつながるのです。
小売業者が一番儲かる販売価格(小売価格)、それがキューピー社が一番儲かる価格です。
これが大きな視点で見た、価格のメカニズムなのだと思います。

 



仮に、高いブランド・イメージが保つ必要があることから、
自社製品の消費者に対する販売価格に関しては自社で決定したい、と製造業者が考える場合は、
製造業者自身が店舗まで開設して消費者に対する販売まで手がけるべきなのです。
製造業者自身が店舗まで開設して消費者に対する販売まで手がけることは、
商行為としても全くおかしくないですし、法理的にも全くおかしくないですし、
経済学(社会の富の最大化)的に見ても全くおかしくありません。
要するに、それぞれの流通段階にはその流通段階における商業活動が最も得意な商行為者がいるわけですから、
他の流通段階にいる商行為者は、その流通段階の商業活動(販売価格の決定など)には口を出すべきではない、
という考え方になるのだと思います。
自社製品の消費者に対する販売価格に関しては自社で決定したい、と製造業者が考えるということは、
自社製品の消費者に対する販売価格を自社で決定することが、その製造業者にとっても最も利益額が大きくなる、ということです。
ですので、そのような販売戦略をその製造業者は行っていくべきなのです。
このことは裏を返せば、例えばキューピー社は、キューピー社自身が店舗まで開設して消費者に対する販売まで手がけても、
キューピー社の利益額は最大化されない(そうするより卸売業者に販売する方がキューピー社はより儲かる)、ということを意味します。
極端に言えば、キューピー社は、消費の現場では安さへの要求が強いかどうかで、再値上げを行うかどうかを決定する必要はないのです。
小売価格をどう設定するかは小売業者が決めることです。
仮に、本当に消費の現場では安さへの要求が強い場合は、キューピー社の製品の売り上げが落ちるということになりますので、
値上げ後の卸売価格では小売業者もキューピー社の製品を仕入れないということになるわけです。
それで、キューピー社は値上げを我慢した方がいいかどうかを決定すればよいだけのことなのです。
そういった川下から川上に向かう需要と供給に関する波及効果を受けて、キューピー社は値上げを我慢した方がより儲かる場面がある、
というだけなのです。
極端に言えば、キューピー社には消費の現場のことは全く関係ないわけです(上記の波及効果を踏まえれば結果として関係はあるが)。

 



もう1つ別の論点としては、製造業者が消費者への製品販売価格に関する決定権を持った上で卸売業者や小売業者へ販売を行う、
という商取引の形はあると思います。
書籍類であれば、再販売価格維持制度、と呼ばれる商取引の形はあると思います。
一昔前であれば、系列店を通じた自社家電製品の販売に関して、
製造業者が製品販売価格に関する決定権を持った上で小売業者へ販売を行う、
ということがあったと思います。
それらについては、返本や返品が商取引上の前提になっているかと思いますので、
一種の委託販売と同じ様な商取引(もしくは系列販売店はショールームに近い存在)になっているのだと思います。
もしくは、製造業者自身が店舗まで開設して消費者に対する販売まで手がけるという形に概念的には近いのだと思います。
ですので、そういった家電製品の販売方法に関しては、商行為としても法理的にも経済学的にもおかしいわけではないと思います。
逆から言えば、返品等の条件が付いていない限り、小売業者としては、
製品小売価格の拘束要求には(商行為としても法理的にも)応じられないはずだ、という言い方になると思います。
書籍類の再販売価格維持制度については、文化的・社会的理由もあると思います。
そういった分野は私の研究の対象外ですし、そもそも学問や理論でもないと思いますので、
いいとも悪いとも思いませんのでコメントはありません(個人的には助かっていますが)。

 


Who should decide a retail price?
Should a retail price be influenced by a wholesale price or hope of a manufacturer?

小売価格は誰が決定するべきだろうか?
小売価格は卸売価格や製造業者の希望に影響を受けるべきだろうか?