2015年1月6日(火)
2015年1月6日(火)日本経済新聞
東京綱スチールコード事業 今期4期ぶり営業黒字
(記事)
>東京綱は前期までに北上工場(岩手県)の減損処理や拠点整理などを実施しており、減価償却費などのコストが減る見通し。
と書かれています。
生産体制の見直しの結果、とのことですが、1年近く前のプレスリリースになりますが、
関係のあるプレスリリースはこれのことだと思います↓。
2014年2月7日
東京製綱株式会社
国内ソーワイヤ事業生産拠点の再編のお知らせ
ttp://www.tokyorope.co.jp/ir/pdf/20140207_3.pdf
このプレスリリースには、工場閉鎖を行うと書かれています。
工場集約の目的は、端的に言えば「生産効率と収益の向上を図ること」であるわけですが、
より会計面の観点から収益改善方法を説明しますと、「固定費削減」を行うということになります。
確かに、工場を閉鎖するとなりますと、貸借対照表上の該当する工場勘定(有形固定資産)が全額償却されることになりますから、
その後、本来は損益計算書上で計上する予定であった減価償却費の金額は減少することになるわけです。
損益計算書上計上する減価償却費の金額が減少するとなりますと、それは直接的に固定費が減少する、ということを意味するわけです。
記事には、生産体制の見直しによるコスト削減という言葉も書かれていますが、
それは、貸借対照表上の工場勘定(有形固定資産)を早期に全額償却する、という意味なのです。
そして、その会計処理は前期までに完了している、記事には書かれてあるわけです。
このプレスリリースには、工場の集約の時期として、
>平成26 年5 月末までに集約完了の予定。
と書かれてありますが、この「2014年5月末までに」という時期は、経営上そして法律上の正式な手続き完了予定時期と意味であり、
企業会計上は、2014年2月7日の時点で正式に工場を閉鎖することは決定しているわけですから、
2014年3月期の決算で固定資産減損損失を計上しなければなりません。
2014年3月末の時点では、工場閉鎖に関する法律上の正式な手続きは完了していないではないか、と言われればそれは確かにそうです。
しかし、企業会計上は、債権者保護の観点からそして保守主義の原則の観点から、早期に減損損失を計上すべきだと思います。
物事を捉える視点によっては、工場勘定について早期に減損損失を計上するのは間違いだ、という考え方もあると思います。
それは、法律より・税務理論(税法)よりの観点から見た場合です。
すなわち、工場閉鎖に伴い会社の利益剰余金が実際に減少する(工場勘定が実際に全額償却される)のは
あくまで2015年3月期中のことなのだから、工場閉鎖に伴う費用はあくまで2015年3月期に負担させるべきだ、
という考え方です。
例えば、税法上、その工場勘定が損金算入(税法上償却)されるのは、実際に工場が閉鎖される2015年3月期のことになるわけです。
そうであるならば、企業会計上も2015年3月期に費用計上するべきだ、という見方はあるわけです。
特に、株主が受け取る配当金のことを考えますと、2014年3月期の株主にとっては、2014年3月期の決算で減損損失を計上されてしまうと、
受け取る(ことが可能な)配当金が減少してしまうわけです。
利益剰余金を減少させることが減損損失を早期に計上する目的であるわけですから、それはむしろ当たり前のこととも言えます。
しかしそうすると、2015年3月期の株主が受け取る(ことが可能な)配当金の金額が増加することになるわけです。
そのことは、他の言い方をすれば、受け取ることができる配当金の一部が、2014年3月期の株主から2015年3月期の株主へと移転する、
という言い方もできると思います。
大まかに言えば、閉鎖する工場勘定の貸借対照表価額の分だけ、配当金が2014年3月期の株主から2015年3月期の株主へと移転する、
ということになると思います。
さらに、その工場勘定が損金算入(税法上償却)されるのは、実際に工場が閉鎖される2015年3月期のことになりますから、
2015年3月期の株主は課税所得額の減少まで享受することになります。
損益計算書上、2015年3月期の株主は、前期の減損損失額と当期の法人税の減少額の両方を享受できることになります。
利益剰余金に関して、2015年3月期の株主は、二重に得をすることになる、という言い方ができるわけです。
このことは確かに、当期の株主と当期の利益額との関係、という観点から言えば、おかしいということになると思います。
しかし、現代会計・現代の株式会社制度では、債権者保護を大前提に構築されているわけです。
株主に帰属している利益額の移転を問題視するよりも、債権者保護の方を重視せねばなりません。
株式会社制度が債権者保護を大前提に構築されている以上、たとえ法律上・税法上の価額からは離れている・ズレる部分が出てきても、
企業会計は企業会計で、債権者保護を目的とした価額・会計処理方法を追求するべきなのだと思います。
注意が必要なのは、このことは、企業会計上早期に減損損失を計上することだけではなく、
実際に工場を閉鎖して工場勘定を税務上全額償却することに関しても当てはまる、ということです。
結局のところ、減価償却にせよ減損処理にせよ閉鎖に伴う特別な償却にせよ、
それらの会計処理というのは全て、「既に貸借対照表に計上されている固定資産勘定を費用化しているだけ」に過ぎないのです。
簡単に言えば、固定資産勘定を費用化する方法やタイミングが違う、というだけなのです。
究極的なことを言えば、企業は現金を獲得するために経営を行っているわけです。
そして、固定資産(貸借対照表上の全ての資産がそうですが)に関しては、既に現金の支出は終わっているわけです。
現金を支出して取得した、だから、貸借対照表に固定資産が計上されているわけです。
つまり、その固定資産をどのように費用計上しようが、現金としては全く増減しないのです。
固定資産を費用化すればその費用が税法上損金算入できる分、法人税という現金支出額がその後減少するという効果はもちろんありますが、
少なくとも固定資産云々というだけでは取得のために支出した現金が取得後直接的に企業に入ってくるわけではないわけです。
企業に現金が入ってくるためには、売上高を計上する(所有している何らかの資産を現に売却する)以外ないわけです。
企業は現金を獲得するために経営を行っているということを考えれば、売上高を伸ばしていくことはもちろんですが、
経営上は貸借対照表上の固定資産の価額を減少させることに重点を置くのではなく、
「現金支出額そのものを減らす」ということに重点を置くべきなのです。
減価償却にせよ減損処理にせよ閉鎖に伴う特別な償却にせよ、それらの会計処理だけでは現金支出額は全く減少しないのです。
Whether a depreciation is given or not, the amount of cash expenditure
for a fixed asset is all the same.
減価償却が所与のものであろうがなかろうが、固定資産への現金支出額は全く同じなのです。