2015年1月5日(月)


2015年1月5日(月)日本経済新聞 公告
任意決算公告
弁護士法人新橋國際法律事務所
(記事)


 



【コメント】
いわゆる法律事務所が解散を行ったとのことです。
法律事務所といいますと、個人で法律業務を行っている事務所もあると思いますが、
このたび解散を行った法律事務所は、弁護士法に基づき設立される弁護士法人という法人です。
それで、弁護士法人の解散方法についてなのですが、弁護士法人の根拠法である弁護士法には、会社法を参照するように、
と書かれてあるそうです。
具体的には、会社法第六六八条第一項の規定に基づき弁護士法人は清算を進めていくように定められているようです。
では、会社法第六六八条には何と書かれてあるのでしょうか、見てみましょう。


会社法 第三編 持分会社 第八章 清算 第七節 任意清算

>(財産の処分の方法)
>第六百六十八条  持分会社(合名会社及び合資会社に限る。以下この節において同じ。)は、
>定款又は総社員の同意によって、当該持分会社が第六百四十一条第一号から第三号までに掲げる事由によって解散した場合における
>当該持分会社の財産の処分の方法を定めることができる。


第六六八条の会社法上の位置付けを見ると分かるように、
弁護士法上定義される弁護士法人は、実は会社法でいうところの「持分会社」に分類されるようです。
会社法上は、「持分会社」とは、合名会社、合資会社、合同会社の3つのみを指します。
会社法上は、弁護士法人のことは「持分会社」とは呼ばない(弁護士法人のことは「持分会社」とは定義しない)のです。
しかし、「持分会社」には、社員(会社の出資者、会社の構成員)の個性が強い人的会社である、という特徴があります。
社員の個性が強い人的会社とはどういう意味かと言えば、
所有と経営が分離されておらず、社員が会社の業務を執行する、という意味です。
「持分会社」の対極にあるのが、いわゆる株式会社です。
株式会社のことを、人的会社に対比させて、物的会社と呼びます。
株式会社では、所有と経営が分離されており、社員は会社の業務を執行しません。
会社法上は以上のように定義されるわけですが、弁護士法人は「持分会社」と性質が非常によく似た共通の特徴を有することから、
弁護士法人の任意清算に際しては会社法の規定がそのまま適用できる、と弁護士法は考えているわけです。
したがって、弁護士法人の任意清算に関しては、弁護士法に規定を置くのではなく、会社法を参照することにしているわけです。

 



それでここからが本題なのですが、私が気になったのは、このたびの公告に、弁護士法人は

>総社員の同意により解散しました。

と書かれてあることです。
そして、その清算方法については、

>総社員の同意により定めた財産の処分の方法に従い清算をいたします

と定めてあります。
もちろん、会社法第六六八条には、持分会社は、総社員の同意によって当該持分会社の財産の処分の方法を定めることができる、
と定められています。
弁護士法人の任意解散では、弁護士法の規定により会社法第六六八条をそのまま適用することになっているわけですから、
弁護士法上そして会社法上この清算方法で何ら問題ないわけです。
ただ、私が気になったのは、法理上の話です。
解散を行うことの意思決定方法について、「総社員の同意により」と書かれている点です。
以下、弁護士法人も含めて「持分会社」と書きますが、
先ほど書きましたように、「持分会社」では、社員(会社の出資者、会社の構成員)の個性が強く、
所有と経営が分離されておらず、社員が会社の業務を執行する、という特徴があるわけです。
まさに人的会社と呼ばれる所以です。
「持分会社」の解散の事由として、「総社員の同意」(第六百四十一条)と定められています。
「持分会社」の解散する時は、「総社員の同意」が必要であるわけです。
「持分会社」の解散に「総社員の同意」が必要である理由は、社員が業務を執行するからだ、というような理由になると思います。
翻って、株式会社の場合はと言いますと、会社法上は株式会社を解散するためには、株主総会の特別決議が必要になります。
つまり、議決権を行使することができる株主の3分の2が賛成すれば、株式会社は解散できるのです。
解散のための要件が、「持分会社」の場合は「総社員の同意」であるのに対し、
株式会社の場合は「株主の3分の2」だけでよいわけです。

 



私はここで、この理由は一体何だろうな、この違いはどのように整理して理解すればよいだろうか、と思いました。
1つの説明方法としては、「持分会社」は人的会社であり株式会社は物的会社だからだ、というふうにも説明できるかもしれません。
ただ、それでは何か理由として弱い気もします。
社員が業務を執行するのかしないのかの違いはそれなりに大きいとは思いますが、
「持分会社」であろうが株式会社であろうが、社員が出資をしていることには変わりはないわけですから。
解散に限らず、どの議案内容であれ、社員の決議要件に関してはどのように考えるべきだろうかと思いました。
そして、同じ株式会社でも、明治三十二年商法ではどうであっただろうかと思いました。
様々なこと考えていますと、手元にあります教科書から興味深い表が載っていましたので、
スキャンをした上で、明治三十二年商法での考え方を追記した表を作成しましたので、紹介します。

「意思決定の方法は、@総社員の同意であるべきか、それとも、A出資額に応じた多数決であるべきか?」



まだ自分の中で考えの整理がついていないのですが、この表を見ながら、
明治三十二年商法では、全ての議案に関して「総社員の同意」が必要だったのかもしれないな、と推測しているところです。
明治三十二年商法における株式会社は、所有と経営は分離しており社員は業務を執行しないという性質はあるものの、
特に会社の利益に関しては、事業体段階では課税されず出資者に直接課税、という特徴があります。
昨日も同じ様な論点について書きましたが、現代の株式会社制度に比べて、
明治三十二年当時の株式会社は、会社と株主との概念的距離が現代の極めて近いわけです。
また、明治三十二年商法における株式会社制度では、現代の株式会社制度とは正反対に、
株式会社で行う商行為は自然人が行うべき商行為の代理に過ぎない、という側面が極めて強かったわけです。
そういったことを踏まえますと、明治三十二年商法では、全ての議案に関して「総社員の同意」が必要だった、
との考えに分がありそうだなと思っているところです。

 


と同時に、仮にそうだとしたら、1つ思うことがあります。
それは、「出資とは何か?」という疑問です。
明治三十二年商法では、利益の分配は、保有株式数に応じていたかと思いますが、
それならば、意思決定を行う力の強さも保有株式数に応じていなければならないのではないか、と思うわけです。
仮に明治三十二年商法では全ての議案に関して「総社員の同意」が必要だったのだとすると、
明治三十二年商法では、持株比率に応じた議決権という考え方自体がなかった、ということになります。
持株比率は全く関係なく、全員が賛成するかそうではないか、しかなかった、ということになるわけです。
しかしそうすると、「出資額1単位(株式1株)当たりの議決権の大きさ」が、株主によって異なる、ということになるわけです。
現代風に言えば、「議決権1個の価格が異なる」ということになるわけです。
その点は法理上問題はないのだろうか、と今考えているところです。
出資を集めやすくするための工夫・措置・株式取扱い方法である、と考えることもできるかもしれませんが。
出資額は関係がない、というのは、どう考えるべきなのだろうな、と思っているところです。
続きは明日書きたいと思います。

 


Does "Dose consent of all shareholders" really stand to reason?

「全株主の同意」は本当に理に適っているのか?

 

In a stock company, the influence of a right should be directly proportional to the amount of an investment.

株式会社においては、権利の影響力は出資額に正比例するべきだ。