2015年1月3日(土)
>財務省は13年10月、機関投資家向けに物価連動国債の発行を5年ぶりに再開した。
>個人投資家の保有は物価連動債から得る利益への課税が難しいとして禁じていた
と書かれています。
まず、記事のこの部分からコメントしますと、端的に言えば、
物価連動債から得る利益への課税が、個人に対して難しいのなら、法人に対しても難しいはずです。
今までは、物価連動債から得る利益に関して、法人に対してはどのように課税を行っていたのでしょうか。
個人に対しても、法人に対してと同じ様に、全く同じ考え方によって課税する、ということでよいのではないでしょうか。
今までは、物価連動債から得る利益に関して、法人に対してはどのように課税を行っていたのかは分かりません。
しかし、物価連動国債を所与のものとするなら、税務理論上は、国債の償還時に「増加後の元本額−当初の元本額」を益金と見なす、
という考え方になると思います。
その理由は、税務理論上は、国債の元本額が物価上昇により増加したというより、
ただ単に債務者から債権者へ別途寄附を行っただけだ、という見方になるからです。
物価上昇の影響を考慮して何か差額のようなものを算出し、調整の意味合いで債権者と債務者との間で現金のやり取りをすることは自由です。
ですから、税務理論上は、通常通り元本の償還を行った後、当事者間で現金のやり取りを行って別途差額相当分を調整した、
という考え方をしなければならないわけです。
物価が下落して元本額が減少した場合は、通常通り元本の償還を行った後、逆に債権者から債務者へ別途(改めて)寄附を行った、と考えます。
元本額が増加した場合は、調整した差額分は、債権者にとっては増加額が益金算入となり、債務者にとっては増加額は損金不算入となります。
元本額が減少した場合は、調整した差額分は、債権者にとっては減少額が損金不算入となり、債務者にとっては益金算入となります。
この考え方は、法人に対してであろうが個人に対してであろうが全く同じになります。
元本を償還するというだけですと、債権者にとっても債務者にとっても、それは益金でも損金でも何でもないわけですが、
元本額が変動したという考え方をしますと、以上の書きましたように、
差額分の取扱いは、債権者にとっても債務者にとっても、税務上は非常に不利なものとなります。
なぜこのような考え方になるのかと言えば、理由を端的に一言で言えば、
税務理論上は「元本の価額は決して変動しない」からです。
まさにこのたびの物価連動国債のように、債権者と債務者との間で「物価の変動分は元本額によって調整する」という特約を結ぶことは、
それは契約自由の原則の範囲内のことであり、当事者間で全く自由に決めてよいことです。
しかし、税務理論上は「元本の価額は決して変動しない」と考えるわけです。
その理由も極めて単純であり、元本額と償還額に関する透明性・公平性・客観性を担保するためです。
当事者間で元本の価額を任意に変えてよいとなりますと、当初は意図的に小さな元本額とし、
償還する時は大きな元本額と設定することで大きな金額を償還する、ということができてしまいます。
つまり、元本額が変わったのだ、ということを口実にして、差額を課税なしに相手方に寄附をすることができてしまうわけです。
元本の価額は最初から最後まで決して変動しない、元本の価額と償還の価額との間に差額がある場合は相手方への寄附と見なす、
これが税務理論上の考え方です。
先ほど、当事者間で元本の価額を任意に変えてはならない、と書きましたが、元本が物価によって変わることも認められません。
物価上昇によって元本額が変わると言いますが、物価とは具合的には何を指すのかは文脈によって異なります。
物価と聞くとマクロ経済の用語でありますから、万人に共通のことなのではないか、と思われるかもしれませんが、
決してそんなことはありません。
例えば次のような記事があります↓。
2014年12月24日(水)日本経済新聞
日本精蝋の今期単独 最終赤字1.4億円
(記事)
2014年12月22日
日本精蝋株式会社
平成26年12月期通期業績予想の修正に関するお知らせ
ttp://www.seiro.co.jp/UpPdf/2/h2612tuukigyousekiyosounosyuusei.pdf
記事には、
>原油価格の急落で在庫評価損が膨らむほか、火力発電用重油の採算が悪化する。
と書かれています。
プレスリリースにも、
>期末棚卸評価損の売上原価計上と火力発電用重油の急激な採算悪化
と書かれています。
マクロ経済としても、原油価格というのはもちろん重要な物価項目の1つなのだとは思いますが、
取り扱っている製品の性質上、日本精蝋株式会社にとっては、
原油価格という物価項目は他の会社や人々よりもはるかに大きな重要性を持つわけです。
経営上、日本精蝋株式会社にとっては他の物価項目は比較的重要性は低いが、
原油価格という物価項目だけは経営の根幹を揺るがす物価項目であるわけです。
つまり、一言で物価と言いますが、その重みは、個別具体的な物価項目によって、そして各当事者にとって、
極めて大きな違いがあるわけです。
この物価項目を基準に使えば、元本額変動の基準として透明性・公平性・客観性は担保される、
などということは決してないわけです。
ですから、税務理論上、元本の価額は最初から最後まで決して変動しないのです。
また、「価額が変動しない」のは、債券の元本額だけではありません。
煎じ詰めれば、全てのものについて、ものの価額は最初から最後まで決して変動しないのです。
あるものの価額が途中から変動するとなりますと、その理由は何だ、という話になるわけです。
まず第一に、そのもの自体に変動はないわけですから、単純にそのものの価額も変わらない、という考え方があると思います。
100円で買ったものはいつまで経っても100円だ、100円で買ったという事実に変化はない、100円で買ったものが80円になることはない、
という極めて単純な考え方がまずあるかと思います。
第二に、あるものの価額を途中から変えるとなりますと、どうやって変えるのか、いくらに変えるのか、その基準はどうするのか、
という問題が出てきます。
例えば、固定資産には減価償却手続きという考え方があるわけですが、では棚卸資産にはなぜ減価償却手続きがないのか、
という話になるわけです。
棚卸資産は販売を前提としており固定資産は販売を前提とはしていないからだ、という説明も可能ではありますが、
最後まで販売できずに廃棄する棚卸資産も中にはあるでしょうし、固定資産を減価償却手続きの途中で売却するということもあるでしょう。
土地以外の有体物というものは全て、時間の経過につれてどうしても劣化が進みその価値が下がってしまうわけです。
そして、その劣化の進み具合や価値の下がり具合というのは、
その有体物の使用状況や保存状態や場合によっては経営環境等によって大きな差が生じるわけです。
劣化が進んだ程度や価値が下がった程度を数値化するのは究極的には不可能であるわけです。
固定資産の減価償却手続きに関しては、独立した第三者が客観的な立場から価額を減少させる基準を予め定めているから、
まだ相対的に透明性・公平性・客観性が高いというだけだ、という言い方はできるわけです。
その固定資産の減価償却手続きに従う場合ですら、その固定資産自体に変動はないわけですから、
単純にその固定資産の価額も変わらない、という考え方はあるわけです。
現代の税務理論では、固定資産の価額は変わる、と考えていますが、
有体物と無体物という違いはありますが、債券の元本額は変動しないように、固定資産の価額も変動しない、という考え方はあるわけです。
究極的な透明性・公平性・客観性を求めるならば、「ものの価額は変動させない」ということが重要であるわけです。
ただ、現代の企業会計上は、債権者保護の観点から、税務理論上の考え方からは離れて、
資産の価額を切り下げる、という考え方を行っています。
資産の価額を減少させると言っても、それには2つあります。
1つ目は、法律より・税務理論よりの考え方です。
法律より・税務理論よりの考え方は、資産の価額は決して変動しないが基本なのですが、
現代の税務理論上は、固定資産の価額だけは減価償却手続きにより減少する、と考えます。
2つ目は、現代の企業会計上の考え方です。
現代の企業会計上は、全ての資産の価額を回収可能な価額まで減少させる、と考えます。
これを資産の減損処理と言います。
この現代の企業会計上の考え方(減損処理)は、税務理論上の考え方からは離れて行うものです(両考え方は理論上は完全に異なる)。
なぜこのような違いが生じるのかと言えば、それは客観性に重きを置いているのか債権者保護に重きを置いているのか、が理由です。
現代の企業会計における貸借対照表では、借方に計上されている資産の価額の大小が、
分配可能な利益剰余金の金額に直接的に影響を与えます。
現代商法そして現代の企業会計上の考え方というのは、債権者保護を目的としています。
会社財産の過剰な社外流出を防ぐため、貸借対照表の借方に計上されている資産の価額を適正に減少させる必要があるわけです。
その資産の価額を適正に減少させる方法の1つが税法上の固定資産の減価償却手続きであるわけですが、
それだけでは資産の価額の減少額が不足している場合は、やはり別途資産の減損処理を行う必要があるわけです。
特に棚卸資産は減価償却手続きを行いませんから、棚卸資産の減損処理は固定資産の減損処理よりもある意味重要なのです。
全ての資産の価額を回収可能な価額まで減少させますと、利益剰余金を社外流出させても債権者の利益を害することにはなりません。
なぜなら、理論上は、全ての資産の価額は回収可能だから、すなわち、その後資本の欠損が生じることは決してないから、です。
逆から言えば、貸借対照表の借方に計上されている固定資産の価額が、減価償却手続き後の固定資産の価額であったとしても、
その価額が回収可能な価額を超えている場合は、利益剰余金を社外流出させることは債権者の利益を害することになるのです。
なぜなら、理論上は、資産の価額に回収不可能な価額があるから、すなわち、その後資本の欠損が生じる可能性があるから、です。
一方、法律より・税務理論よりの考え方からすると、資産の価額を減少させるなどというのは基本的には全く考えられないことなのです。
なぜなら、税務理論では債権者保護は全く目的とはしていないからです。
貸借対照表上の資産の価額を減少させるというのは、純粋に現代の企業会計上の話であるわけです。
法律より・税務理論よりの考え方も現代の企業会計上の考え方も、
それぞれ目的が異なるわけですから、どちらも正しいとしか言いようがありません。
2014年12月30日(火)日本経済新聞
アダストリア純利益47%減 3〜11月
(記事)
資産の回収可能な価額は、将来のことですから誰にも分からないと言えば誰にも分からないという言い方もできるかもしれません。
極端なことを言えば、債権者保護の観点・保守主義原則の観点を徹底するならば、
全ての資産の回収可能な価額は0円と考える他ないのかもしれません。
極端な話ですがこの場合、
Why is a company allowed to pay a dividend when the value of assets on its
balance sheet is not 0?
(貸借対照表上の資産の価額は0ではないのに、なぜ会社は配当金を支払うことを許されているのか?)
ということになります
固定資産で言えば、固定資産の価額は0ではないのに、なぜ減価償却後の帳簿価額のままで配当金を支払ってよいのか、という議論になります。
念のため書いておきますが、日本精蝋株式会社の記事には、
>原油価格の急落で在庫評価損が膨らむ
と書かれていますが、実はこのこと自体は間違いです。
日本精蝋株式会社にとって、原油は他社から仕入れる原材料であるわけです。
つまり、原油価格の下落は日本精蝋株式会社にとって有利なことであるわけです。
そして、原油価格の下落と本精蝋株式会社の製造製品の販売価格とは関係がありません(むしろ利幅は大きくなる)から、
日本精蝋株式会社にとっては保有している在庫の収益性(回収可能性)は全く下がっていないわけです。
したがって、日本精蝋株式会社は原油価格の急落しても在庫評価損を計上する必要は全くないのです。
Price-level changes can't be reflected in the value of everything.
あらゆるものについて、物価水準の変動は、ものの価額に織り込みようがありません。
From a viewpoint of creditors',
the account "Inventories" on a balance
sheet is also seen as the amount residual or the costs unrecorded yet.
債権者の観点から言えば、
貸借対照表上の「棚卸資産」勘定もまた、残余の価額すなわちまだ費用計上していない価額であると見えるのです。
Ultimately speaking, the defect in the depreciation is that the
depreciation is done
for the purpose of both the calculation of profits and
losses and protection of creditors' interst.
究極的なことを言えば、減価償却の欠点は、減価償却は損益額の計算と債権者の利益保護の両方を目的に行われる、ということなのです。