2014年12月20日(土)



昨日の最後に、もう一言二言書きたいことがありますので続きは明日書きたいと思いますと書きましたので、
一言だけ追加をしたいと思います。
昨日、株式会社電通が個別上そして連結上計上する固定資産譲渡益の金額に関して、


>そして、このたびの固定資産の譲渡の結果、連結(日本基準)ベースでは241億円、単体(日本基準)ベースでは198億円、
>固定資産譲渡益を計上する見込みとなっています。
>また、連結(IFRS)ベースでは、294億円、固定資産譲渡益を計上する見込みとなっています。


と書きました。
固定資産譲渡益の金額が、単体(日本基準)ベースと連結(日本基準)ベースとで異なるのはこの場合は特に問題はないわけですが、
問題なのは、固定資産譲渡益の金額が連結(日本基準)ベースと連結(IFRS)ベースとで異なるという点でしょう。
固定資産譲渡益の金額は、連結(日本基準)ベースでは241億円、連結(IFRS)ベースでは294億円となっています。
固定資産譲渡益の金額は、連結(IFRS)ベースの方が連結(日本基準)ベースよりも53億円大きいわけです。
この点についてはどのように考えればよいでしょうか。
適用する会計基準によって譲渡価額が変わることはありません(どの会計基準を適用する場合でも譲渡価額は同じ)ので、
適用する会計基準によって固定資産譲渡益の金額が異なるということは、
適用する会計基準によって譲渡時の固定資産の帳簿価額が異なる、ということになります。
さらに、適用する会計基準によって取得価額が変わることはありません(どの会計基準を適用する場合でも取得価額は同じ)ので、
適用する会計基準によって固定資産の帳簿価額が異なるということは、
適用する会計基準によって譲渡時の固定資産の「@減価償却累計額」もしくは「A減損処理額」が異なる、ということになります。

 


ではまず、「@減価償却累計額」から考えてみましょう。
「@減価償却累計額」が適用する会計基準によって異なることは、意外に思うかもしれませんが、
実は企業会計上は全くあり得ることなのです。
一番分かりやすい例が、減価償却の方法の違いです。
このたびの例で言えば、日本基準では定額法、IFRSでは定率法を適用したとしますと、固定資産に関しては常に、
定率法を適用した場合の減価償却累計額>定額法を適用した場合の減価償却累計額
となりますので、この結果、
定率法を適用した場合の固定資産の帳簿価額(≒未償却残高)<定額法を適用した場合の固定資産の帳簿価額(≒未償却残高)
となります。
ですので、同一の固定資産に関し、日本基準では定額法、IFRSでは定率法を適用したとしますと、
その固定資産の譲渡益の金額は、
日本基準における固定資産譲渡益<IFRSにおける固定資産譲渡益
となるわけです。
同一の固定資産に関し、日本基準では定額法を適用しIFRSでは定率法を適用するなどということが認められるのか、
と思われるかもしれませんが、会計理論上は、日本基準を適用した財務諸表とIFRSを適用した財務諸表とは何の関連もないと言いますか、
両者はただ単に、異なる会計基準を適用した財務諸表が2つというだけなのです。
日本基準とIFRSとで異なる減価償却方法を行うことは、いいも悪いもないわけです。
Aという会計基準を適用した財務諸表と、それとは別のBという会計基準を適用した財務諸表という2つの財務諸表があるだけなのです。
株式会社電通がどのように財務情報開示を行うのかは分かりません(両方を開示するのか一方のみを開示するのか)が、
日本基準を適用した財務諸表とIFRSを適用した財務諸表との間には整合性や関連性や連続性のようなものは全くなくてよいわけです。
もちろん、この場合、減価償却の方法から異なるとなりますと、
日本基準を適用した場合の利益額とIFRSを適用した場合の利益額とは異なることになります。
日本基準を適用した場合の利益額とIFRSを適用した場合の利益額、どちらの利益額が正しいのかについてはここでは議論の対象とはしません。
定額法と定率法の両方を所与のものとするなら、両方の利益額もまた正しい、ということになるでしょう。
そして、仮に、どちらか一方の減価償却方法のみを認めることにすれば、
各期に計上される減価償却費の金額の透明性・公平性・客観性はより高まる、ということになるでしょう。

 



さらに、IFRSの場合は、固定資産の減価償却期間を任意に決めてよいわけです。
そうしますと、同じ定額法を採用する場合であっても、日本基準とIFRSとで各期に計上される減価償却費が異なることになるわけですから、
必然的に日本基準とIFRSとで「@減価償却累計額」が異なることになります。
そうなると当然、日本基準とIFRSとで固定資産譲渡益の金額も異なることになるわけです。
ある減価償却期間を基礎に算出した場合の利益額とそれとはまた別の減価償却期間を基礎に算出した場合の利益額、
どちらの利益額が正しいのかについてはここでは議論の対象とはしません。
両方の減価償却期間を所与のものとするなら、両方の利益額もまた正しい、ということになるでしょう。
そして、仮に、どちらか一方の減価償却期間のみを認めることにすれば、
各期に計上される減価償却費の金額の透明性・公平性・客観性はより高まる、ということになるでしょう。
ところで、日本基準の場合は、固定資産の減価償却の方法は税法の定めに即した方法ということになると思います。
企業会計基準委員会が策定している企業会計基準の第1号から第26号までの中には、減価償却の方法については定めはないようです。

企業会計基準(企業会計基準委員会)
ttps://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/accounting_standards/21_30.shtml

また、金融庁が策定している「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(財務諸表等規則)にも、
減価償却の方法については定めはないようです。
財務諸表等規則には、「固定資産の減価償却の方法」を注記しなければならない(第八条の二)と書かれてあるだけで、
具体的な減価償却手続きについての定めはないようです。
しかし、財務諸表等規則において記載がある「固定資産の減価償却の方法」とは当然に税法を指している、と解釈すべきだと思います。
財務諸表等規則は税法を前提に策定されている、と考えるべきでしょう。
したがって、(財務諸表等規則も含めた)日本基準では、IFRSとは異なり、固定資産の減価償却期間を任意に決めることは認められません。
以上書きましたように、日本基準とIFRSとで「@減価償却累計額」が異なる要因はいくらでもあることになります。
したがって、日本基準とIFRSとで固定資産譲渡益が異なることは全くおかしくない、ということになります。

 


次に、「A減損処理額」について考えてみましょう。
日本基準とIFRSとで、「A減損処理額」が異なることなどあるでしょうか。
固定資産の減損処理では、固定資産を回収可能な金額まで減損処理するわけです。
ここで、「固定資産の回収可能な金額」というのは、適用する会計基準には左右されません。
減価償却の方法にも「固定資産の回収可能な金額」は左右されません。
「固定資産の回収可能な金額」は理論上は一意に決まるわけです。
その理由は、「固定資産の回収可能な金額」そのものはキャッシュ・ベースだからだ、と説明できると思います。
「固定資産の回収可能な金額」は、何らかの会計処理を行って算出していくものではなく、
その固定資産が将来に渡って生み出すキャッシュ・フローの合計額によって決まります。
もちろん現実にはその将来キャッシュ・フローの予測が難しいわけですが、
少なくとも減価償却の方法や減価償却期間などによっては「固定資産の回収可能な金額」は全く左右されないわけです。
「固定資産の回収可能な金額」はその固定資産そのものによってのみ決まります。
日本基準とIFRSとで固定資産の将来キャッシュフローが異なることはないのです。
そういったことを考えますと、日本基準とIFRSとで、「固定資産の回収可能な金額」が異なることはないわけです。
適用する会計基準に関わらず、「固定資産の回収可能な金額」は全く同じです。
そうしますと、固定資産の取得価額が同じである以上、日本基準とIFRSとで「A減損処理額」が異なることはない、ということになります。
したがって、基本的には、日本基準とIFRSとで固定資産譲渡益は同じになる、ということなります。
ただ、1点だけ日本基準とIFRSとで固定資産譲渡益が異なる結果になり得る要因が考えられます。
それは、「減損損失の戻し入れ」です。
過去に計上した固定資産減損損失を戻し入れるとなりますと、固定資産の帳簿価額が大きくなりますので、
固定資産譲渡益は小さくなります(極端な場合ですと固定資産譲渡損になります)。
日本基準では「減損損失の戻し入れ」は認められないのですが、IFRSでは認められるはずです。
過去に固定資産の減損処理を行ったがその後経営状況が改善したため「固定資産の回収可能な金額」が大きくなることはあるわけです。
「固定資産の回収可能な金額」が一意に決まるのは、ある1時点における算出の場合です。
したがって、「固定資産の回収可能な金額」が大きくなった場合は固定資産の帳簿価額も大きくするという考え方になり、
「減損損失の戻し入れ」を行うという考え方が出てくるわけです。
ただ、保守主義の原則の観点から言えば、会計理論上はやはり「減損損失の戻し入れ」は認められないわけです。
しかし、IFRSでは「減損損失の戻し入れ」が認められますので、固定資産の減損処理を行った後、
日本基準に比べIFRSでは固定資産の帳簿価額が大きくなり得ますので、結果的に、
IFRSでは日本基準よりも固定資産譲渡益が小さくなることがあり得るということになります。
以上の議論をまとめますと、株式会社電通の場合は、IFRSでは日本基準よりも固定資産譲渡益が大きいということになっていますから、
「A減損処理額」の大小は関係ない(株式会社電通は譲渡する固定資産の減損処理は過去行っていない)ということだと思いますので、
考えられるとすれば、何らかの手続きの違いにより「@減価償却累計額」が日本基準とIFRSとで異なる、という結論になると思います。