2014年12月6日(土)


2014年8月9日(土)日本経済新聞
東洋エンジ4〜6月 最終黒字16億円
(記事)



2014年8月8日
東洋エンジニアリング株式会社
平成27年3月期 第1四半期決算短信
ttp://www.toyo-eng.com/jp/ja/ir/library/account/pdf/2014_1Q.pdf



2014年11月13日
東洋エンジニアリング株式会社
平成27年3月期 第2四半期決算短信
ttp://www.toyo-eng.com/jp/ja/ir/library/account/pdf/tanshin2Q_ja.pdf

 


【コメント】
今から約4ヶ月前の2014年8月9日の記事になります。
この記事は2015年3月期第1四半期の決算に関しての内容なのですが、
この4ヶ月の間に2015年3月期第2四半期の決算発表がありましたので、両方の決算を見比べてみることにしましょう。
記事には、

>貸倒引当金の戻し入れで営業外収益が膨らんだ

と書かれています。
まず先に結論を端的に言えば、貸倒引当金戻入益は、会計理論上は特別利益に計上すべきだと思います。
その理由は、貸倒引当金の戻し入れは極めて異常な損益項目だからです。
売上債権にせよ貸付債権にせよ、債権者は債権は必ず全額が弁済されるであろうと見込んだ上で債務者と取引をするわけです。
債権は弁済されないだろう、などと考えて債務者と取引をする債権者など1人もいないわけです。
債権は弁済されないだろうと予想できる場合は、債権者はそもそも債務者とは取引をしないものです(はじめから債権自体が発生しない)。
その意味において、取引後、貸倒引当金を積まねばならない時点で、債権者にとってはそれは異常な事態であると言わねばならないわけです。
考えてみると、会計理論上は、貸倒引当金繰入は実は特別損失に計上すべきなのではないかとすら思うくらいです。
現行の会計基準では貸倒引当金繰入は販売費及び一般管理費に計上するよう定められているかと思いますが、
それではまるで貸し倒れが発生することを前提に商取引を行っているようではありませんか。
貸し倒れが発生することを前提に商取引を行う会社など1社もないわけですから、
会計理論上は、貸倒引当金繰入の時点で特別損失に計上すべきであろうと思います。
さらに、その貸倒引当金の戻し入れとなりますと、ますます異常な事態であると言わねばならないでしょう。
確かに、貸倒引当金を積んだ時点では、その債権の将来の正確な債権回収額は分かりませんから、
実際には非常に大まかな貸倒引当金を積んでいくしかありません。
むしろ、保守主義の原則の観点から言えば、非常に多めに貸倒引当金を積んでおく方が望ましいとすら言えるでしょう。
そういったことを考えますと、貸倒引当金の戻し入れが発生すること自体は、
保守主義の原則の観点からも経営上の観点からもむしろ望ましいと言えるわけです。
しかし、貸倒引当金というのは全くデタラメに積んでよいわけではないわけです。
あくまで合理的に見積もることができる金額を計上しなければならないわけです。
判断が難しい場面では、追加損失を計上する事態になるよりはまだましだという意味において、多目に積むことが認められるだけなのです。
その意味では、やはり、貸倒引当金の戻し入れは異常な事態であると言わねばならないでしょう。
以上のことを踏まえますと、貸倒引当金戻入益は、会計理論上は特別利益に計上すべきだと思います。

 



次に、東洋エンジニアリング株式会社の平成27年3月期第1四半期の決算短信と平成27年3月期第2四半期の決算短信を見比べていて、
貸倒引当金戻入益について驚くような記載がありました↓。


四半期連結損益計算書 第1四半期連結累計期間
(8/11ページ)

四半期連結損益計算書 第2四半期連結累計期間
(9/13ページ)



第1四半期連結累計期間(自 平成26年4月1日 至 平成26年6月30日)の貸倒引当金戻入額は「1,166百万円」、
第2四半期連結累計期間(自 平成26年4月1日 至 平成26年9月30日)の貸倒引当金戻入額は「1,000百万円」、
となっています。
第1四半期連結累計期間に比べ、第2四半期連結累計期間は貸倒引当金戻入額の金額がなんと減少しているのです。
これは絶対にあり得ないことだと思います。
損益計算書上の貸倒引当金戻入額は、期間が長くなれば長くなるほど、増加する方にしか向かわないはずです。
というより、正確に言えば、損益計算書上の全ての各損益項目(各細目)は、一度計上したらその金額が減少することはありません。
これは考えてみれば当たり前のことであり、一度獲得した収益がその後減少することなど絶対にないでしょうし、
また、一度支払った費用がその後減少することなど絶対にないでしょう。
損益計算書上の全ての各損益項目(各細目)は、足し算することしかできないわけです。
一定数の損益項目(細目)を通算した結果は、具体的には、営業利益や経常利益や税引前当期純利益や当期純利益は、
各損益項目(各細目)の増加具合により、通算の結果その金額が減少することがあるというだけなのです。
したがって、貸倒引当金戻入額の金額が、第1四半期連結累計期間に比べ第2四半期連結累計期間は減少することなど、
絶対にあり得ないことなのです。

 



敢えて好意的に解釈するとすれば、貸倒引当金戻入額と貸倒引当金繰入額とを通算した結果、
貸倒引当金戻入額の金額が第1四半期連結累計期間に比べ第2四半期連結累計期間は減少した、
と想像できなくはありません。
しかし、その会計処理方法は様々な点で間違っています。
まず第一に、貸倒引当金の戻し入れと貸倒引当金の繰り入れとは、全く異なる会計事象である、という点です。
貸倒引当金の繰り入れは、債権の回収に疑義が生じた結果、回収不可能と合理的に見積もれる金額を費用処理するという会計事象であり、
貸倒引当金の戻し入れは、前期末以前に計上していた貸倒引当金が回収可能であると分かったため、
その貸倒引当金は利益として戻し入れるという会計事象です。
貸倒引当金繰入額の発生原因は債権回収可能性に対する疑義であり、貸倒引当金戻入額の発生原因は債権回収可能性の回復です。
発生原因が異なる、すなわち、会計事象として異なる2つの損益項目を通算することなどできません。
次に、貸倒引当金は債権個別個別に対して計上していくものだ、という点が挙げられます。
簿記の教科書などには、設例として「貸倒実績率を2%と見積り〜」といった文言が書かれていますが、
これは「過去の貸倒損失総額÷過去の債権総額」により貸倒実績率を算出していることになるわけです。
ただ、この貸倒実績率というのは全く意味をなしません。
貸し倒れというのは各債権(法人)毎に発生するものであって、トータルで何%だけ貸し倒れる、という性質のものではないわけです。
そのことを踏まえますと、貸倒引当金繰入額を計上した債権と、貸倒引当金戻入額を計上した債権とは、異なる(法人の)債権であるわけです。
同じ債権に対して貸倒引当金戻入額と貸倒引当金繰入額の両方を計上することは理論上できないわけです。
敢えて考えてみると、同一の債権に対する貸倒引当金戻入額と貸倒引当金繰入額であれば両損益を通算するという考え方が出てきそうですが、
同一の債権に対して貸倒引当金戻入額と貸倒引当金繰入額の両方を計上すること自体があり得ないわけです。
貸倒引当金戻入額も貸倒引当金繰入額も、期末日時点での貸倒引当金の金額を正しく表示するためのものです。
期中に保守的に考え一旦貸倒引当金を繰り入れたのだが、その後しばらくすると債権の回収可能性が高まったので、
期中に貸倒引当金を戻し入れるということはあり得ますが、
損益計算書上の損益としては、貸倒引当金繰入額か貸倒引当金戻入額かのどちらかになるわけです。
そして、その次の期になりますと、当期の損益は前期の損益そのものに影響を与えることはできないわけです。
なぜなら、損益計算書は前期末日で完全に締め切られているからです。
したがって、以上のような簿記の原理を理由として、貸倒引当金繰入額と貸倒引当金戻入額とを通算することがあり得ないわけです。

 


さらに、これは上記の理由が結局のところ背景になっているわけですが、
貸倒引当金繰入と貸倒引当金戻入とでは損益計算書での表示区分が異なるから、というのも理由になると思います。
販売費及び一般管理費の費用と営業外収益の収益とを通算することはやはりおかしいでしょう。
また、それぞれに理由があって各損益を計上しているわけですから、
例えば営業外収益と営業外費用とを、そして、特別利益と特別損失とを通算するというようなことも決して行うべきではありません。
ただ、この理由は非常に表面的な理由に過ぎず、より本質的には上記2つの理由になります。
また、以上の議論からも明らかかと思いますが、Aという債権に対する貸倒引当金繰入額とBという債権に対する貸倒引当金戻入額とを
通算することもできません。
なぜなら、この場合も、貸倒引当金繰入額と貸倒引当金戻入額との発生原因が異なるからです。
さらに一般化して言えば、全ての収益にはそれぞれに応じた固有の発生原因があり、
全ての費用にはそれぞれに応じた固有の発生原因があるわけですから、
基本的には、全ての損益は通算できない、と考えなければなりません。
一言で言えば、全ての損益は「総額表示」でなければならない、ということです。
純額表示を行ってよい損益など1つもありません。
また、同様の理由により、全ての資産負債は「総額表示」でなければならない、ということです。
純額表示を行ってよい資産負債など1つもありません。
ただ単に、当期のトータルの損益を表示するという目的があって、
営業利益や経常利益や税引前当期純利益や当期純利益の金額を、それぞれの段階に応じた損益を通算することで表示しているだけなのです。

 



最後になりますが、今改めて考えてみますと、
貸倒引当金戻入額の金額が、第1四半期連結累計期間に比べ第2四半期連結累計期間は減少することは結果としてあり得る、
ということが分かりました。
それは、第1四半期末時点では債権の回収可能性は高いと判断し貸倒引当金を戻し入れたのだが、その後再び回収可能性に疑義が生じ、
第2四半期末時点で再び貸倒引当金を繰り入れた、という場合です。
この場合、第1四半期末を1つの期末日と考え損益計算書を作成しているものの、
第2四半期末の損益計算書では、第1四半期の期首日を第2四半期の損益計算書の期首日と考えていますから、
結果、第1四半期(4〜6月)中の貸倒引当金の戻し入れと第2四半期(7〜9月)中にの貸倒引当金の繰り入れが相殺されることになり、
貸倒引当金戻入額の金額が、第1四半期連結累計期間に比べ第2四半期連結累計期間は減少する、ということになるわけです。
しかし、それは、収益や費用の計算ということを考えますと、やはり矛盾にも近いと思います。
累計期間という考え方をすれば、このたびの「平成27年3月期 第2四半期決算短信」の損益計算書の損益で正しいわけですが、
やはり累計期間という考え方自体が間違いだと思います。
累計期間という考え方をしますと、今日議論しました「貸倒引当金戻入額」のように、
「第1四半期に計上した損益はどこへ行ったのか?」、「第1四半期に確定した損益は消えたということなのか?」
という話になるわけです。
このような矛盾が起こる理由は、累計期間という考え方の場合、
第2四半期(累計期間)の期首日を第1四半期首日と捉えていることにあるのです。
ある期の財務諸表を作成するに際し、6月30日を期末日と決めたわけです。
そうであるならば、次の会計期間の期首日は必ず7月1日でなければならないわけです。
6月30日以前の日(例えば4月1日)を次の会計期間の期首日とすることはできないのです。
3月期決算の企業であれば、
第1四半期の期首日は必ず4月1日であり、第1四半期の期末日は必ず6月30日であり、
第2四半期の期首日は必ず7月1日であり、第2四半期の期末日は必ず9月30日であり、
第3四半期の期首日は必ず10月1日であり、第3四半期の期末日は必ず12月31日であり、
第4四半期の期首日は必ず1月1日であり、第4四半期の期末日は必ず3月31日なのです。
前期末日以前の日を当期首日とすることは、簿記の原理から言って絶対にできないのです。
他の言い方をすれば、帳簿は前期末日に締め切られているのです。
それは、帳簿から一度精算表に転記した内容は二度と使ってはならない、という意味です。
二度使うから、このたびのように、前回は通算されなかったが今回は通算されたなどという矛盾が生じるわけです。
帳簿は前期末日以前の日には原理的に戻れないのです。