2014年11月30日(日)



2014年11月1日(土)日本経済新聞
ヤマハの今期 純利益17%減
(記事)




2014年10月31日
ヤマハ株式会社
平成27年3月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
ttp://jp.yamaha.com/about_yamaha/ir/accounting/pdf/2015q2_tanshin_yamaha.pdf

 

2014年10月31日
ヤマハ株式会社
2015年3月期第2四半期(累計)連結業績の概要と通期連結業績予想について
ttp://jp.yamaha.com/news_release/2014/pdf/1410310101.pdf

 

2014年10月31日
ヤマハ株式会社
半導体生産子会社の譲渡に関する基本合意締結について
ttp://jp.yamaha.com/news_release/2014/pdf/1410310201.pdf

 


【コメント】
記事には、業績予想が従来予想を下方修正した理由について、

>半導体生産子会社の譲渡に伴い、人員削減などの構造改革費用18億円を特別損失に計上することが響く。

と書かれています。

「2015年3月期第2四半期(累計)連結業績の概要と通期連結業績予想について」には、

>半導体生産子会社の譲渡に関する基本合意の締結に伴い見込まれる18 億円の構造改革費用を特別損失として織り込んだ

と書かれています(2/3ページ)。
しかし、これらは「『業績予想』に織り込んだ」という意味であって、
このたび発表した平成27年3月期第2四半期の決算に費用の見越し計上を行ったという意味ではありません。
平成27年3月期第2四半期の決算には、記事や決算短信や業績予想に記述がある構造改革費用は一切計上されていない、
という点には注意が必要です。
構造改革費用18億円は半導体生産子会社の譲渡が実施される期に発生する見込みである、という意味だと思います。
気になる点がありまして、「半導体生産子会社の譲渡に関する基本合意締結について」によりますと、

>5.今後の日程
>契約締結は平成27年3月、譲渡は平成27年10月を想定しております。

と書かれています(2/2ページ)。
”半導体生産子会社の譲渡に関する基本合意”を締結したのだが、
”半導体生産子会社の譲渡に関する譲渡契約”は締結していない、
ということのようです。
譲渡の方法や譲渡の価額の詳細については今後詰めていく予定だが、
半導体生産子会社の譲渡を行っていくというお互いの意思や方針に関してはあらまし合意をした、というようなことなのでしょう。
それで、実際の契約締結は2015年3月を予定しているとのことです。

 


そうしますと、”半導体生産子会社の譲渡に関する譲渡契約”を締結した時点で、
構造改革費用をはじめとする一連の費用の見越し計上を2015年3月期に行う予定である、ということになるのだと思います。
実際の譲渡は2015年10月ということを考えると、2015年3月期に実際に関連する現金支出を行うということではないのだと思います。
いずれにせよ、ヤマハ株式会社としては、おおまかな基本合意だけで費用の見越し計上を行うのは時期尚早だと判断した、
ということになると思います。
逆から言えば、ヤマハ株式会社としては、正式な譲渡契約を締結すれば費用の見越し計上を行うのは時期尚早ではないと判断した、
ということになると思います。
言い方を変えれば、実際に譲渡は行われてはいないものの、お互いに債務を履行しないことはまず間違いなくないであろうから、
費用の見越し計上を行うのは時期尚早ではないとヤマハ株式会社は判断した、ということになると思います。
何が言いたいかと言えば、仮に譲渡契約を締結した会社がヤマハ株式会社以外の会社であれば、
正式な譲渡契約を締結しただけでは費用の見越し計上を行うのは時期尚早だと判断するかもしれない、ということです。
正式な譲渡契約を締結したのだからお互いに債務を履行しないことはまず間違いなくないのは確かだとしても、
実際にはまだ譲渡は行われてはいないのもまた確かであるわけです。
正式な譲渡契約を締結した後どちらかが債務を履行しない可能性は、0.1%か0.01%くらいはあるかもしれません。
しかし、実際に譲渡が行われた後、どちらかが債務を履行しない可能性は、0%であるわけです。
どちらで判断するべきか、すなわち、費用計上の基準は契約締結時であるべきかそれとも譲渡実行時であるべきか、
この問いに絶対的な答えはないと思います。
ただ一つ言えることは、正式な譲渡契約を締結しただけで費用の見越し計上を行ってもよいか行ってはならないかについては、
会社によって判断が分かれる場合があるが、
実際に譲渡が行われたか行われていないかについては、会社よって判断は分かれない、
ということです。
費用計上の基準は契約締結時であるべきかそれとも譲渡実行時であるべきか、絶対的な答えはありませんが、
客観性・公平性・透明性に重きを置くなら後者であるべきでしょう。
そして、債権者保護に重きを置くなら前者であるべきでしょう。

 


それから、決算短信に、以上の論点と昨日書きました論点と関連がある記載がありました。
四半期連結貸借対照表を見ますと、無形固定資産に「のれん」勘定があるのですが(4/10ページ)、
前連結会計年度(平成26年3月31日)は279百万円だったのが、
当第2四半期連結会計期間(平成26年9月30日)は12,545百万円に急増しています。
この理由については、以下のように注記があります。


報告セグメントごとの固定資産の減損損失又はのれん等に関する情報
(のれんの金額の重要な変動)
(9/10ページ)


>「楽器」事業において、Line6,Inc.及びその子会社の重要性が増し、連結の範囲に含めたことにより、のれんが発生しております。
>当第2四半期連結累計期間において、当該事象によるのれんの増加額は5,752百万円です。
>また、「音響機器」事業において、Revolabs,Inc.及びその子会社の重要性が増し、連結の範囲に含めたことにより、
>のれんが発生しております。当第2四半期連結累計期間において、当該事象によるのれんの増加額は6,546百万円です。


Line6,Inc. と Revolabs,Inc. がヤマハ株式会社の連結の範囲に含まれることになったのは、当第2四半期からのようです。
では、Line6,Inc. と Revolabs,Inc. がヤマハ株式会社の連結子会社となったのはいつのことだろうかと思って、
有価証券報告書を見てみました。
有価証券報告書の中には、Line6,Inc. と Revolabs,Inc. については数箇所に記載がありますが、一番詳細な記述をキャプチャーします。


2014年6月25日
ヤマハ株式会社
2014年(平成26年) 3月期 有価証券報告書 平成25年4月1日〜平成26年3月31日
ttp://jp.yamaha.com/about_yamaha/ir/accounting/pdf/qu-2014-q4.pdf

米国の楽器・音響メーカーLine6社株式取得による完全子会社化
米国の通信・音響機器メーカーRevolabs社株式取得による完全子会社化
(68/129ページ)

 


有価証券報告書の記載によりますと、Line6,Inc. については、2014年1月23日付で完全子会社の手続きを完了し、
Revolabs,Inc. については、2014年3月26日付で完全子会社の手続きを完了した、とのことです。
そして、今日の議論で重要な点になりますが、2社の完全子会社化の財務的影響については、どちらの会社に関しても、

>本件株式の取得に伴う当社の当期連結業績への影響は軽微です。

と書かれています。
さらに、連結の範囲に関する注記事項には(65/129ページ)、2社とも連結の範囲から除き、かつ、持分法も適用していない理由として、
2社の企業規模その他を考慮すると、全体として連結財務諸表に重要な影響を及ぼさないからだ、という内容のことが書かれています。
いずれにせよ、両完全子会社2社の株式取得が完了したのは「2014年3月期中」のことであったわけです。
念のため、1四半期前の決算短信も確認してみました。
すると、以下のような、驚くべき記載がありました。


2014年7月31日
ヤマハ株式会社
第1四半期決算短信 平成26年4月1日〜平成26年6月30日
ttp://jp.yamaha.com/about_yamaha/ir/accounting/pdf/2015q1_tanshin_yamaha.pdf

報告セグメントごとの固定資産の減損損失又はのれん等に関する情報
(のれんの金額の重要な変動)
(9/10ページ)


>「楽器」事業において、Line6,Inc.及びその子会社の重要性が増し、連結の範囲に含めたことにより、のれんが増加しております。
>当第1四半期連結累計期間において、当該事象によるのれんの増加額は5,640百万円です。
>また、「音響機器」事業において、Revolabs,Inc.及びその子会社の重要性が増し、連結の範囲に含めたことにより、
>のれんが増加しております。当第1四半期連結累計期間において、当該事象によるのれんの増加額は6,388百万円です。

 



何と、Line6,Inc. と Revolabs,Inc. がヤマハ株式会社の連結の範囲に含まれることになったのは、
当第2四半期(7〜9月期)からではなく、実は第1四半期(4〜6月期)からだったようです。
財務諸表を累計するという考え方はないと昨日も書きましたが、
やはり、四半期報告制度における累計期間という考え方は極めて誤解を招きやすいと思います。
第1四半期と第2四半期は全く別の会計期間と捉えて財務諸表を作成するのが四半期財務諸表であるわけです。
第2四半期には第1四半期も含むという考え方自体が根本的におかしいわけです。
累計という言葉を付ければどちらの意味かは区別できるという考えが間違いなのはこの例からも明らかでしょう。
2013年3月期(通期)の財務諸表と2014年3月期(通期)の財務諸表は累計しないでしょう。
その理由は、2013年3月期(通期)と2014年3月期(通期)は全く別の会計期間だからでしょう。
2013年3月期(通期)の財務諸表と2014年3月期(通期)の財務諸表を累計するのはおかしいと分かるなら、
第1四半期(3ヶ月間)の財務諸表と第2四半期(3ヶ月間)の財務諸表を累計するのもおかしいと分かるはずです。
それで、話を元に戻しますと、「平成27年3月期 第2四半期決算短信」を見ただけでは分からなかったのですが、話を総合しますと、
ヤマハ株式会社が両完全子会社2社の株式取得が完了したのは「2014年3月期中」(2014年1月及び2014年3月)のことであったにも関わらず、
ヤマハ株式会社が両完全子会社2社を連結の範囲に含めたのは「2014年4月1日」からであった、ということになります。
決算短信の説明によると、その理由は、2015年3月期第1四半期(4〜6月期)から子会社2社の重要性が増したからだ、とのことですが、
重要性がないからという理由だけで100%子会社を連結の範囲から除いてよいのなら、
経営上重要であるからという理由だけで株式を全く所有していなくてもある会社を連結の範囲に含めてもよい、
という理屈も成り立つことになります。
ある会社が連結の範囲に含まれるのか否かの1つの明確な基準としては、持株比率(所有議決権割合)により判断することだと思います。
それから追加で書きますと、Line6,Inc. と Revolabs,Inc.を連結子会社化したことによるのれんの金額についてですが、
第1四半期決算短信によると、のれんの増加額はそれぞれ、5,640百万円、6,388百万円、
第2四半期決算短信によると、のれんの増加額はそれぞれ、5,752百万円、6,546百万円
と記載されています。
2社を連結子会社化したことによるのれんの金額が、第1四半期から第2四半期にかけて増加しているわけです。
これは絶対にあり得ないことであり、のれんの金額は支配獲得時に確定しますから、その後ののれんの償却のことを考えれば、
会計期間が後になればなるほど、のれんの金額は必ず減少します。
第1四半期に比べ第2四半期は重要性がさらに増したからのれんの金額も増加した、ということもあり得ません。

 



最後に、累計期間という考え方を所与のものとし、のれんはその後毎期規則的に償却していくことにしますと、この事例の場合、
第1四半期の財務諸表では、支配獲得日は2014年4月1日であり、のれんの償却は2014年6月30日に3か月分行うことになります。
そして第2四半期(累計)の財務諸表では、支配獲得日は2014年4月1日であり、のれんの償却は2014年9月30日に6か月分行うことになります。
何が言いたいと言うと、第2四半期(累計)の財務諸表では、支配獲得日は2014年4月1日であり、
のれんの償却は2014年6月30日に3か月分行い、2014年9月30日に3か月分行う、というわけではない、ということです。
その理由は、第2四半期(累計)の期首日は2014年4月1日であり期末日はあくまで2014年9月30日唯一つだけだからだ、となります。
要するに、第1四半期の財務諸表では、2014年6月30日を1つの明確な期末日として財務諸表を作成したわけですが、
期首日を再び2014年4月1日としてしまいますと、2014年6月30日という期末日は一体どうなったのか、という話になるわけです。
前期の期末日は2014年6月30日だったわけですから、再び2014年4月1日に戻るのは会計理論上おかしいわけです。
以上の議論を踏まえ、まとめになりますが、累計期間という考え方がおかしい理由は、
同一の会計事象が、2回も3回も4回も財務諸表に反映・計上されるのはおかしいからだ、という観点からも説明することができると思います。
このたびの事例で言えば、「Line6,Inc. と Revolabs,Inc. を連結の範囲に含めた」という会計事象は、
今後、第3四半期(累計)の財務諸表にも表示・計上されますし、第4四半期(累計)・通期(1年間)の財務諸表にも表示・計上されます。
全く同じ会計事象なのに、合計4回も財務諸表にも表示・計上されるわけです。
2013年3月期(通期)と2014年3月期(通期)は全く別の会計期間であるように、各四半期も明確に完全に区切らないといけないわけです。

 

A parent company judged a certain subsidiary important, therefore it acquired the subsidiary's stock, didn't it?

親会社はある子会社を重要だと判断した、だから、親会社はその子会社株式を取得したのではありませんか?


Whether a certain subsidiary is important or not is difficult to judge,
but whether its parent company holds the subsidiary's stock or not is no longer needful to judge.

ある子会社が重要か否かは判断が難しいのですが、親会社が子会社株式を所有しているか否かはもはや判断の必要がありません。


There is no aggregating financial statements.

財務諸表を累計することはとてもできません。