2014年11月22日(土)



2014年10月30日(木)日本経済新聞
クラレ、純利益8%増 4〜9月170億円 車向け樹脂好調
(記事)





2014年10月29日
株式会社クラレ
2014年12月期第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
ttp://www.kuraray.co.jp/ir/library/pdf/account/141029_jp.pdf

 



【コメント】
記事には、

>損益面は、のれんの償却負担と連結による利益増が相殺されるとみている。

と書かれています。
以前、のれんの償却はあくまで連結精算表上のみの費用項目に過ぎないため、
親会社個別上もしくは子会社個別上計上した利益とは理論上整合しない、
といったことを書いたかと思います。
連結損益計算書上の利益というのは、あくまで各個別財務諸表上の利益を合算したものに過ぎないわけです。
連結精算表上の利益というのはどこにもないわけです。
一方で、連結上ののれんというのは、個別上計上されたものではないわけです。
のれんとは、個別上は一切計上されていないのに、連結精算表上のみにある費用項目であるわけです。
そうしますと、連結上ののれんの償却の原資というのは、連結精算表上のどこにもない、という言い方ができるわけです。
そのことを考えますと、のれんの償却負担と連結による利益増とを相殺する・通算するということは、理論上はできないと言えるでしょう。

 


それで、以上の論点と関連する事柄が決算短信に記載されていました。


連結業績予想などの将来予測情報に関する説明
(5/12ページ)


>今後、DuPont社より譲り受けたビニルアセテート関連事業の取得価額の資産および負債への配分(Purchase Price Allocation)を
>進めていく中で、損益に影響が生じる場合には、改めてお知らせします。


と書かれています。
また、この点については財務諸表にも以下のように注記があります。


2. 報告セグメントごとの資産に関する情報
3. 報告セグメントごとの固定資産の減損損失又はのれん等に関する情報
(12/12ページ)


>資産の増加額は暫定的に算出された金額です。
>取得原価の配分等が完了していないため、のれんの金額は暫定的に算定された金額です。


と書かれています。

 



まず最初に、今日書きたいこととは異なる点について一点だけ指摘しておきます。
株式会社クラレが米DuPont社からビニルアセテート関連事業を取得したのは、
「2014年6月1日」付けのことであり、取得に関する手続きは既に完了しています。
米DuPont社のビニルアセテート関連事業の買収は、2014年6月1日にクロージングを完了した、ということで、
2014年8月21日には記者会見まで開催しています。


2014年6月2日
株式会社クラレ
米DuPont社のビニルアセテート関連事業譲受完了に関するお知らせ
ttp://www.kuraray.co.jp/release/2014/pdf/140602_jp.pdf


2014年8月21日
株式会社クラレ
DuPont社のビニルアセテート関連事業の譲受完了について
ttp://www.kuraray.co.jp/release/topics/2014/140821.html

配布資料
ttp://www.kuraray.co.jp/release/topics/2014/pdf/140821_jp.pdf


ところで、このたび株式会社クラレが発表した決算短信は、2014年12月期第2四半期の決算短信です。
株式会社クラレでは当期に決算期の変更が計画されているため時期が分かりづらくなっていますが、
これは、「2014年9月30日」を四半期末日とする決算短信、という意味です。
つまり、ビニルアセテート関連事業の取得は、当四半期末日時点で完全に終了していることなのです。
当四半期末日どころか、1四半期前の四半期末日、すなわち、2014年6月30日の時点で手続きは完全に終了していることなのです。
もう何ヶ月前にクロージングが完了している取引について、資産やのれんの金額は暫定的に算出された金額です、などと言われても、
ではその金額というのは何なのか、という話になるわけです。
資産やのれんの金額が確定した時点で、これまでの財務諸表は遡及修正するとでも言うのでしょうか。
投資家保護・財務情報開示の観点から言えば、金額が確定するまでは嘘の開示をしている、と言っていることと同じではないでしょうか。
本当にまだ金額が確定していないのならば、確定するまで財務諸表の開示を行わない、ということがむしろ大切だと思います。
そしてそれ以前に、取引は完了しているのに金額は確定していないということ自体がそもそもあり得ないのではないかと思います。

 



それで、以上書きましたことと一部関連していることなのですが、私が今日書きたいことは、
「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)についてであるわけです。
「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)とは何かと言いますと、
正確な説明は教科書やインターネット上の解説サイトを見ていただくとして、
大まかに言いますと、理論上は「株式を高い価格で買ったことをどう説明付けるか?」という論点になると思います。
簿価に基づけば株式の価額は100円であるはずなのに、ある会社がその株式を例えば150円で買ったとします。
その会社は株式を本来の価格(簿価に基づく価格)よりも50円高い価格で買ったわけです。
その会社が50円高い価格で買ったのにはそれなりの理由があるはずです。
例えば、本当は簿価で買いたかったのだが、株式市場において高い市場株価でしか買えなかったからかもしれません。
例えば、本当は簿価で買いたかったのだが、取得相手が売却に応じなかったので仕方なく高い価格で買うしかなかったからかもしれません。
例えば、本当はもちろん簿価で買うに越したことはなかったのだが、被買収企業の資産は非常に収益力が高いと評価したため、
取得相手との交渉の中でその価格に決まったからかもしれません。
例えば、本当はもちろん簿価で買うに越したことはなかったのだが、被買収企業のブランド力や顧客からのロイヤルティ、高い技術力、
製品市場における長年の信頼等を高く評価したため、取得相手との交渉の中でその価格に決まったからかもしれません。
その会社が50円高い価格で買った理由は、株式取得のケースにより様々であろうと思います。
それで、会社が株式を高い価格で買ったのには理由があるわけだから、会計処理の際、
その「50円」を理由に応じて適切に反映させよう、とするのが、「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)であるわけです。
高く買った理由が上記1番目の理由であれば、「50円」は(連結上の)「のれん」(連結調整勘定)として計上すべきでしょう。
高く買った理由が上記2番目の理由であれば、「50円」は(連結上の)「のれん」(連結調整勘定)として計上すべきでしょう。
高く買った理由が上記3番目の理由であれば、「50円」は(連結上の)「有形固定資産」として計上すべきでしょう。
高く買った理由が上記4番目の理由であれば、「50円」は(連結上の)「無形資産」として計上すべきでしょう。
他にも、高く買った理由が被買収企業が保有している魅力的な商品(を高く評価した結果)ということであれば、
「50円」は(連結上の)「棚卸資産」として計上すべきでしょう。
他にも、高く買った理由が被買収企業が保有している魅力的な高利率貸付金(を高く評価した結果)ということであれば、
「50円」は(連結上の)「投資有価証券」として計上すべきでしょう。
もちろん、以上の「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)が複合的に行われ、
取得原価が、一部はのれんに、一部は有形固定資産に、一部は無形資産に、というふうに配分されることもあるでしょう。
株式を高い価格で買った理由に応じて、適切に配分すればよいだけです。
「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)を所与のものとするなら、以上のような説明になります。
また、連結会計上、株式を取得して子会社の支配を獲得する際、子会社の資産負債を時価評価することがあるかと思いますが、
子会社の資産負債の連結時の評価替えというのも、以上の「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)についての考え方が
参考になるのではないかと思います(連結会計基準の定めでは、子会社の資産負債の時価とは第一義的には市場価格とのことですが)。

 


「個別上の金額に比べ、なぜ連結上の金額は大きくなったのか?」
を、説明する役割・効果が「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)にはある、と言えるのではないでしょうか。
取得原価を全て(連結上の)「のれん」(連結調整勘定)として計上してしまうのではなく、
取得原価は、会社が高い価格で買った理由に応じて各資産勘定に配分する方が、
会社の経営戦略をより細かく・より正確に反映した連結貸借対照表となる、と言えるわけです。
それで、取得原価を全て(連結上の)「のれん」(連結調整勘定)として計上する場合と、各資産勘定にも配分する場合とで、
連結損益面では何か相違点が生じてしまうのかと言えば、
結論だけ言えば、取得原価を全て償却してしてしまうと、トータルでは連結当期純利益の金額には影響を与えないことになります。
取得原価をそのように配分しようが、トータルでは連結利益剰余金の金額は同じになる、と言えばいいでしょうか。
取得原価の償却方法によって、各期各期の連結当期純利益は変動してしまうわけですが、
どのような取得原価の償却方法によっても、取得原価を全て償却してしてしまうと、償却合計額はどの配分方法でも同じであるため、
トータルでは連結損益面には変動を与えません。
この点について簡単に説明すると、以下のような説明になります。


Which of an asset or a consolidation adjustment account a purchase price is allocated to
has the same effect on a consolidated net profit.
(取得価額が資産とのれんのどちらに配分されようとも、連結当期純利益には同じ影響を与える。)

(PDFファイル)

 

(キャプチャー画像)


上の説明は設例をちょっと簡略化し過ぎたかもしれませんが、取得原価をのれんに計上しようが有形固定資産に計上しようが、
トータルでは連結損益面に与える影響は同じになる、という点が分っていただけたらと思います。
差異の部分だけを取り出して書きましたので、ひょっとしたら上の説明だけではかえって分かりづらいかもしれません。
例えば、「@取得価額をのれんに配分する場合」であれば、有形固定資産の毎期毎期の減価償却費は20(=100÷5年間)であるにも関わらず、
「A取得価額を有形固定資産に配分する場合」は、連結上の有形固定資産の毎期毎期の減価償却費は30(=150÷5年間)となるわけです。
したがって、連結上の有形固定資産の毎期毎期の減価償却費は本来の減価償却費よりも「10」多いということで、
B社の有形固定資産の償却が連結当期純利益に与える影響は、毎期「−10」であり、5年間トータルでは「−50」である、と書いているわけです。
連結当期純利益に与える影響が5年間トータルでは「−50」であるのは、取得原価をどのように配分する場合も同じだ、と言いたいわけです。

 



最後に、決算期の変更についてです。
記事には、

>12月期決算に変更するため、今期は9ヶ月の変則決算となる。

と書かれています。
決算短信には、以下のように書かれています。


平成26年12月期の連結業績予想(平成26年4月1日〜平成26年12月31日)
(1/12ページ)

>経過期間となる平成26年12月期は、当社ならびに3月決算の子会社につきましては、
>平成26年4月1日から平成26年12月31日の9ヶ月間を連結対象期間としています。
>なお、12月期決算の子会社につきましては、従来とおり、平成26年1月1日から平成26年12月31日の12ヶ月間を連結対象期間としています。


四半期連結財務諸表に関する注記事項
(11/12ページ)

>決算日変更の経過期間となる当連結会計期間は、2014年4月1日から12月31日までの9ヶ月間となりますが、
>在外連結子会社については、従来とおり2014年1月1日から12月31日までの12ヶ月間の損益を当連結会計年度の連結損益計算書に取り込みます。
>当第2四半期連結累計期間において、在外連結子会社については、連結決算日の変更前と同様に
>2014年1月1日から6月30日までの6ヶ月間の損益を四半期連結損益計算書に取り込んでいます。


結論だけ言えば、以上の考え方は間違いです。
親会社の会計期間が「2014年4月1日から12月31日までの9ヶ月間」なら、
連結子会社の会計期間も「2014年4月1日から12月31日までの9ヶ月間」でなければなりません。
親会社の期首日・期末日と、連結子会社の期首日・期末日は全く同じでなければなりません。
なぜなら、期間がずれていますと、内部取引が相殺消去できなくなる期間が出てくるからです。
また、内部取引が一切ない場合であっても、損益の期間や貸借対照表日が一致していないとなりますと、理論的整合性を欠くでしょう。

 



従来から12月期決算である在外子会社については、例えば当第2四半期連結累計期間においては2014年4月1日から9月30日までの6ヶ月間を、
そして、2014年12月期(通期)においては2014年4月1日から12月31日までの9ヶ月間を合算する(要するに親会社と同じ会計期間とするだけ)、
という連結方法が正しい考え方です。
結果として、従来から12月期決算である在外子会社については、2014年1月1日から2014年3月31日までの損益に関しては、
株式会社クラレの連結決算に全く合算されないことになります。
株式会社クラレの2014年3月期(通期)の連結決算においては、
従来から12月期決算である在外子会社については、2013年1月1日から2013年12月31日までの個別財務諸表が合算されていたわけです。
従来から12月期決算である在外子会社については、2014年1月1日から2014年3月31日までの損益は連結決算上、
そっくり抜け落ちてしまうことになります。
しかし、そうしますと、従来から12月期決算である在外子会社については、
合算する個別貸借対照表が不連続になるということになるでしょう。
2013年12月31日の貸借対照表に、2014年1月1日から2014年3月31日までの損益(そしてその他の全取引)を反映させた結果が、
2014年3月31日の貸借対照表であるわけです。
連結財務諸表の連続性を考えた場合、
前会計年度において合算したのは2013年1月1日から2013年12月31日までの個別財務諸表であり、
当会計年度において合算するのは2014年4月1日から2014年12月31日までの個別財務諸表、となりますと、、
在外子会社における2014年1月1日から2014年3月31日までの損益の分、何らかの勘定が合わないのではないでしょうか。
それとも、合算する2014年12月31日の貸借対照表は、2014年1月1日から2014年12月31日までの損益(そしてその他の全取引)を
既に反映させてしまっているわけだから、途中の損益が抜けていても連結上合算する分には問題が生じないのでしょうか。
それはそれで会計理論上おかしな気もしますが。
前回に合算した貸借対照表と今回合算する貸借対照表との間に途中の損益が抜けている分連続性がないのに、
連結上は問題がないというのもおかしな気がします。
連結上においても、前期末利益剰余金+前期末から当期末までの全期間の利益剰余金の増加額=当期末の利益剰余金、
という関係は成り立つはずだと思いますが。
ちょっと頭がこんがらがってきました。
どこがおかしいか、改めて考えたいと思います。

 


今日は、「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)を所与のものとして書きました。
会計理論上は、任意の「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)を行いますと、
各期各期の期間損益が恣意的になってしまいますので、価額の客観性という観点から言えば、
やはり、子会社の資産負債は時価などではなく帳簿価額のまま合算する、という考え方が正しいと思います。
今日書いた「取得原価の配分」(Purchase Price Allocation)についての説明は、名付けて、


Another way of interpreting of a consolidation adjustment account.

連結調整勘定のもう一つの解釈のしかた


と言ったところでしょうか。


A purchase price is allocated to an asset, a debt or a consolidation adjustment account.

取得原価は、資産か負債かのれんに配分されます。


といったことが決算短信には書かれていますが、負債というのは会社外部の者(債権者)に対する債務額(特に確定債務)を表すわけですから、
その価額については債権者の同意になしには変動のさせようがない(経営戦略によって義務の金額が変わるわけではない)でしょうから、
さすがに取得原価を負債に配分するという考え方には無理があるのではないかと思います。
連結財務諸表に合算する個別財務諸表の期首日と期末日については、以下の一言になります。


On consolidated financial statements, an accounting period of a parent company and an accounting period of its subsidiary
should be the same completely.

連結財務諸表においては、親会社の会計期間と子会社の会計期間は完全に同じでなければなりません。