2014年11月13日(木)
「X1期の間違った決算パターンA」の注釈では、
企業会計上の税引前利益額と税法上の課税所得額とは理論上は全く別(完全に異なる計算過程を持つ)なので、
>税額計算だけ間違えてしまったということがあり得ると想定した。
と書きましたが、文脈を踏まえれば、
税額計算は正しく行ったが、企業会計上の費用計上のみ間違えてしまったということがあり得ると想定した。
となります。
この点について一言だけ書きます。
手元の少し古い解説書(2003年11月出版)によりますと(今でも基本的考え方や基本的な手続きは同じだと思います)、
「法人税申告書別表四」により、企業会計上の税引前利益額と税法上の課税所得額とを調整することになっています。
つまり、企業は、企業会計に関する各種基準にしたがって、一旦「企業会計上の利益額」を算出し、
その「企業会計上の利益額」に対して加算と減算(益金算入・損金不算入・益金不算入・損金算入)を行うことによって、
「法人税法上の利益額」を算出することになっています。
この「法人税法上の利益額」がいわゆる税法上の課税所得です。
つまり、税法上の企業の課税所得は、
企業会計上の利益額 → 法人税法上の利益額
の順番に算出することになっているわけです。
言い換えれば、税法上は、企業は「法人税法上の利益額」を直接算出はしないことになっているわけです。
税法上は、企業は、必ず先に企業会計上の利益額を算出することとなっているわけです。
税法上は、企業は、「法人税法上の利益額」は「企業会計上の利益額」から間接的に(調整を経て二次的に)算出する形を取っているわけです。
しかし、税務理論上はこの考え方は間違いであると私は思います。
税務理論上の正しい考え方は、「法人税法上の利益額」も「企業会計上の利益額」同様、直接算出する、だと思います。
その理由は単純であり、企業会計に関する各種基準と税法の規定とは異なる(両者は完全に別のルール)からです。
異なった定めに従って会計処理(利益額計算)を行っていきますから、当然、
「法人税法上の利益額」と「企業会計上の利益額」とは異なった金額になります。
金額が異なること自体は理論上は問題ないことだと思いますが、問題なのは、「法人税法上の利益額」と「企業会計上の利益額」との差異を、
加算と減算(益金算入・損金不算入・益金不算入・損金算入)を行うことによって、両者の調整を行っていることそのことなのです。
会計理論上は、「法人税法上の利益額」と「企業会計上の利益額」とは異なる(両者の会計処理方法は異なる)ことは問題ないのです。
しかし、現行の税法の定めのように、一方の利益額を通じて他方の利益額を算出する、という計算プロセスを経ることにしますと、
特段に「両者の定めの差異に注意を払う」ということに力を注がねばならなくなってしまうわけです。
企業は、「法人税法上の利益額」を正しく算出することに力を注ぐべきですし、また、
「企業会計上の利益額」を正しく算出することに力を注ぐべきなのです。
特段に「両者の定めの差異に注意を払う」ということに力を注ぐべきではないのです。
企業経営者は、会計基準研究者や基準策定当局者ではなく、経営者なのですから。
現行の税法の利益額算定プロセスですと、必ず「両者の会計処理方法の差異はどこか?」に注意を払わねばならないわけです。
実務上の話をすると、これは完全に無駄な労力なのです。
あるAという規定に従ってある利益額を算出することは比較的簡単ですし、
Aとは異なるあるBという会計基準に従ってある利益額を算出することは比較的簡単です。
しかし、Aという規定とBという会計基準の差異を洗い出し、「Aに従った利益額からBに従った利益額を算出すること」は極めて難しいのです。
ここでの簡単・難しいというのは、実務上計算間違いが間違いが生じ易いか生じ難いか、という意味です。
もちろん、ただ一つの定めに従う方が実務上計算間違いが生じにくく、他方から調整する方が間違いが生じやすいのは言うまでもありません。
企業会計に関する各種基準と税法の規定とでは、定めの趣旨や目的や本分が異なります。
学問としては、もしくは、立法その他の場面であれば、両者の差異に着目・分析・議論することは重要だと思いますが、
利益額の計算というだけであれば、それぞれの定めに従った利益額計算を行えばそれで済む話であり、
わざわざ一方の利益額を経て他方の利益額を算出する必要などどこにもないわけです。
むしろ、企業会計に関する各種基準はそれのみで統一・趣旨貫徹されていますし、税法の規定もそれのみで統一・趣旨貫徹されていますから、
わざわざ一方の利益額(算出プロセス)を経て他方の利益額を算出する(つまり、異なる2つの基準・規定を計算過程で経る)ことは、
利益額計算の本質からも外れることであるわけです。
たとえ、最終的に算出される利益額は同じになるとしても、
ある1つの定めに従って算出されたその利益額と、異なる2つの定めを計算過程で経た上で算出された利益額とでは、意味が全く異なるのです。
表面上の”数字”としては同じでしょう。
しかし、”数字の意味”が異なるのです。
現行の税法の定めのように、課税所得額の計算に際し、わざわざ(all
the
way)「2つの定め」を経ることは、
企業内における実務上の課税所得額の計算に際し計算間違いを生じさせやすい要因となるだけでなく、
会計理論上も「利益計算方法(利益算出過程)に本質的に間違いがある(たとえ課税所得額は同じになるとしても)」、と言わざるを得ません。
率直に言えば、一旦企業会計上の利益額を経由する課税所得額の計算などないわけです。
課税所得額の計算に際し一旦企業会計上の利益額を算出することは、利益額計算の本質にも外れることです。
利益額の計算において、あるのは企業会計に関する各種基準のみであり、あるのは税法の規定のみなのです。
課税所得額を算出するのにわざわざ全く関係がない利益額を計算するなど、
"Thanks for your too many calculations." (ご苦労さん。)
などと嫌味を言われても、文句を言えないと思います。
課税所得額は税法の規定に従って直接計算すればそれで済む話ですし、また、
そう計算することが会計理論に沿った計算方法でもあるのです。