2014年11月2日(日)



2014年4月15日(火)日本経済新聞
井筒屋、来店者向け 駐車場会社を吸収 特損41億円計上へ
(記事)



 

2014年4月14日
株式会社井筒屋
持分法適用関連会社株式の取得(完全子会社化)及び吸収合併(簡易合併・略式合併)、並びに特別損失発生に関するお知らせ
ttp://corp.izutsuya.co.jp/assets/2014/04/140414_acquireOwnership.pdf

 


【コメント】
記事は、今回の買収に関連して計上する特別損失について、

>その後の地価下落で駐車場ビルの資産価値が目減りしているため、今期に約41億円の特別損失を計上する。

と書かれています。
記事だけを読むと、固定資産の減損損失を計上するのだろうと思ってしまいますが、
プレスリリースを読むと、計上することとなる損失の内容は全く異なるです。
プレスリリース(7/7ページ)には、

>4.今後の影響
>当社の平成27 年2 月期第1四半期の連結決算におきまして、上記の完全子会社化及び吸収合併により、
>抱合せ株式消滅差損として特別損失が約41 億円発生する見込みであります。
>当該損失は、被合併会社(エビス)から受け入れた純資産と当社が所有する同社株式の帳簿価額との差額として計上されるものであり、
>資金支出を伴うものではありません。

と書かれてあります。
合併に伴い計上する特別損失というのは、固定資産減損損失ではなく、「抱合せ株式消滅差損」のことだとのことです。
固定資産の減損云々はここでは全く関係ないようです。

 



ただ、固定資産の価額は、合併を実施するに際し全く考慮していない、というわけではないようです。
記事によりますと、このたびのエビス株式の取得価額は1株5000円とのことです。
しかし、プレスリリースを見ますと、株式会社エビスの1株当たり純資産は、
89,260円(平成23年2月期)→230,076円(平成24年2月期)→366,329円(平成25年2月期)と推移してきています。
直近の平成26年2月期の株式会社エビスの1株当たり純資産は記載されていませんが、
平成26年2月期に特段マクロ経済環境が大きく変動したわけでもないでしょうから、
どんなに少なく見積もっても、1株当たり純資産は300,000円以上はあるのではないでしょうか。
少なくとも、1株当たり純資産は5000円である、などということは絶対ないわけです。
この異常とも言える1株当たり純資産額と1株あたりの取得額との際に関してですが、
プレスリリース(5/7ページ)には、

>※取得価額については、法律事務所、不動産鑑定士などの外部専門家の協力に基づき企業価値評価を行っており、
>各取得相手先からの取得価額は適正であると判断しております。

と書かれてあります。
プレスリリースのこの記述や1株あたりの取得額の著しい低さが、記事の「資産価値が目減りしている」という記載と関連しているのだろうか、
と思いました。

 



結論を先に言えば、「1株当たり純資産額は5000円である」という考え方があり得るということではないだろうかと思いました。
簡単に言えば、
固定資産の減損処理をしなければ、「1株当たり純資産額は366,329円」なのだが、
固定資産の減損処理を適正に行ったならば、「1株当たり純資産額は5,000円」となる、
ということになるのではないか、と思いました。
株式会社井筒屋から見ても他の株主達から見ても、例えば税務上の処理に合わせる形で会計処理を行ってきたため、
固定資産の減損処理はしてこなかったというだけだ、という言い方ができるのかもしれません。
企業会計上は、旧商法に基づくなり企業会計基準に基づくなりして、
本来は固定資産の減損処理は必ず行わなければならないと定められているわけですが、
現実にはどれくらいの金額だけ減損処理をすればよいか分からない、という問題はあった(今もある)と思います。
貸借対照表価額を今後回収可能な価額まで切り下げるとは言っても、今後回収可能な価額というのは誰にも分からないわけです。
敢えて保守的に会計処理をすれば、価額は0にまで切り下げるということになってしまうわけです。
実務上は、全く稼動させていないなどいう極端な場合を除けば、たとえ回収が見込めなくても、
税務上の処理に合わせる形で会計処理を行っていれば、間違った会計処理とは言えない、というような形でやってきたのだと思います。
それで、株式会社エビスでは、従来から「資産価値が目減りしている」ことは分かっていたものの、特段の支障はなかったため、
会計処理としては固定資産の減損損失は計上せずにここまで経営を行ってきていた、ということなのだと思います。

ところが、ここにきて、エビス株式を譲渡する(エビス株式を譲り受ける、既存株主から取得する)、という場面が訪れたわけです。
そうしますと、「エビス株式の公正な価額はいくらか?」が途端に問題になるわけです。
固定資産の減損処理をしない価額での株式譲渡はおかしい、と株主の誰もが思っていたということなのでしょう。
それで、法律事務所、不動産鑑定士などの外部専門家の協力を得て、企業価値評価を改めて行い、
「エビス株式の公正な価額は5,000円である。」と算定した、ということかと思います。
株式価値の算定プロセスとしては、結局のところ、会計上は固定資産の減損損失を厳密に実施した、ということではないかと思います。
法律事務所、不動産鑑定士などの外部専門家の協力を得て、固定資産の回収可能額を算定し、
その回収可能額まで固定資産の価額を切り下げたところ、資本の額が大きく減少し、
「1株当たり純資産額は5,000円」となった、ということなのだと思います。
株式会社井筒屋から見ても他の株主達から見ても、固定資産の減損損失を厳密に行えば、
「1株当たり純資産額は5,000円」になる、ということで皆が納得をしたということなのだと思います。
それで、エビス株式の譲渡価額は1株あたり5,000円に決定されたのだと思います。

 


以上のような株式価値の算定プロセスを経て、「エビス株式の公正な価額はいくらか?」を決定したというのは、
もちろんそれはそれで正しいことであるわけです。
「1株あたり366,329円」でエビス株式を譲渡するのは、他の株主が明らかに有利であり、株式会社井筒屋が明らかに不利、
ということなのだと思います。
しかし、そうしますと、今度は逆に、減損処理前の価額というのは何を表すのか、という疑問も出てくるわけです。
例えば、税法上は減損損失は損金算入されませんが、税法に従った資本の額・株式の価額は過大なのか、
という疑問が出てくるわけです。
もしくはこのたびの株式会社エビスの事例とは正反対に、株主の誰もが資産の収益性は極めて高いということを認識しており、
「現在の1株当たり純資産額」での株式譲渡は公正ではないと考えている、という場面もあると思います。
会計で言えば、固定資産の減損損失の逆の「価額を大きくする方への評価替え」というようなことを、
株式価値の算定プロセスで行っていく必要があると株主の誰もが考えている、という場面はあると思います。
財務会計上はそのような評価替えは認められませんが、
株式譲渡に際して株式価値の算定を行うためだけに株主間でそのような価値評価を行うのは自由であるわけです。
この場合の株式の価額もまた、税法に従った資本の額・株式の価額とは異なることになります。
株主の誰もが納得する株式の価額と、税法上の(つまり、固定資産の評価替えを行わない)株式の価額とが、
乖離している状態が生じてしまっているわけです。
どちらが公正な価額なのか、それとも、どちらも公正な価額なのか。
明治期の株式会社制度では、会社の利益=株主の利益ということで、会社で固定資産の減損損失を計上することは認められなかったわけですが、
それでも、日々経営を行っていく中で、
業務執行者や株主や債権者が「今後固定資産の全額の回収は不可能だ」と認識することはあったかもしれません。
その場合、仮に固定資産の減損損失を計上していれば会社は本来は配当を支払えなかったはずなのだが、
税法の定めに従った結果、会社は配当を支払えてしまった、という場面が起こり得ることになるでしょう。
しかし、商法としては、その配当支払いは債権者の利益を害する行為であるとは見なしていなかった、ということになると思います。
減損処理をしないならば、配当により会社財産が流出するため、債権者の利益を害することにつながるわけですが、
商法としては、「今後固定資産の全額の回収は不可能である」という危険性については度外視していた、ということになるわけです。
明治期は会社の計算は税法一本だったからかもしれませんが、それでも、配当金額を減少させるような定めは置けたかもしれません。
ただそうすると税法と考え方が衝突するのも確かです。
税法は債権者保護は直接的にはそもそも目的としていませんが、配当金額を減少させるような会計処理を容認すると、
出資者が法人内に所得を不当に隠匿している、というふうに税法からは見えるのも確かでしょう。
税法は、将来債権者の利益が害される不確定な危険性は完全に度外視し、
透明性・客観性・公正性のある利益計算の方をあくまで優先している、という言い方ができるのでしょう。
株式の価額とは何か、簿価に基づく場合であってもこの問いは非常に難しいと思います。

 


それで、現代に戻りまして、先ほどは株式の価額を算定する際、価値評価のためだけであれば資産の評価替えを行ってもよい、
というようなことを書きました。
では、株式の評価とは別に、合併の際、存続会社は消滅会社の資産をどのような価額で承継するべきなのでしょうか。
このたびの株式会社エビスの事例であれば、「資産価値が目減りしている」ということで、
株式の譲渡価額を貸借対照表上の「1株当たり純資産額」よりも切り下げているわけです。
では、株式会社井筒屋はどの価額で株式会社エビスの資産を承継するべきなのでしょうか。
減損処理前の価額でしょうか、それとも、減損処理後の価額でしょうか。


株式会社エビスの事例を参考に、以下の設例Aから設例Dの4つの場合を考えてみました。
それぞれの場合について合併を仕訳を考えてみましょう。
ただし、ここでは、存続会社が消滅会社を一旦完全子会社化するのではなく、
存続会社が消滅会社株主に自社株式を割当交付して合併する、と考えました。
また、話の簡単のために、存続会社は消滅会社株式を一切所有していないとします。

(注:抱合せ株式消却差損益というのは、結局のところ、いわゆる”のれん”(貸借の差額)のことのようです。
”のれん”を発生時に損益として処理したもののようです。
ですので、ここでは話の簡単のため、”のれん”という勘定科目名を使うことにします。)

 

以下の設例で使う合併前の消滅会社の貸借対照表はこちらです↓。

「PDFファイル」

 

「キャプチャー画像」


On the cccasion of reorganization, should a company restore the values of assets on a balance sheet
to their respective original book values or not.
(組織再編行為に際して、会社は資産の貸借対照表価額を元々の帳簿価額に戻すべきか否か?)

 



設例Aの合併仕訳

(諸資産) 200 / (諸負債) 100
              (資本金) 100

 

設例Bの合併仕訳

(諸資産) 0 / (諸負債) 100
(のれん)100

 

設例Cの合併仕訳

(諸資産) 100 / (諸負債) 100

 

設例Dの合併仕訳

(諸資産) 200 / (諸負債) 100
              (のれん) 100

 


設例Aの場合、諸資産の正しい価額は0ですので、減損損失を200計上することになります。
すると、合併による存続会社の資本に対する影響額は、トータルでは、
+100−200=−100
となります。

 

設例Bの場合、諸資産の価額ははじめから正しく、
あとはのれんを償却する必要がありますので、のれんの償却を100計上することになります。
すると、合併による存続会社の資本に対する影響額は、トータルでは、
+0−100=−100
となります。

 

設例Cの場合、諸資産の正しい価額は0ですので、減損損失を100計上することになります。
すると、合併による存続会社の資本に対する影響額は、トータルでは、
+0−100=−100
となります。

 

設例Dの場合、諸資産の正しい価額は0ですので、減損損失を200計上することになります。
また、計上された負ののれんを償却します。
すると、合併による存続会社の資本に対する影響額は、トータルでは、
+100−200=−100
となります。

 


いずれの場合も、存続会社の資本に与える影響額は、トータルでは「−100」となりました。
のれんの償却は全て損益だとしますと、結果として、
会社は資産の貸借対照表価額を元々の帳簿価額に戻そうが戻すまいが、
存続会社の資本に与える影響額は全く同じ、ということになります。
ただ、以上の考察は極めて話を簡略化していています。
例えば、のれんの償却は税法上損金・益金となるのか否かということは全く考えていません。
仮に、のれんの償却は税法上損金でも益金でもないなら、存続会社の資本に与える影響額は全く同じと言えると思います。
また、払込資本と損益取引で稼いだ利益とは、資本としての性質が完全に異なりますが、その点もここでは度外視しています。
また、合併であれば、消滅会社の資本は直接的には承継されないため、
減損処理した価額を元に戻すこと(減損損失の戻し入れ)が結果として可能になりますが、
他の組織再編行為の場合は、各企業は引き続きそのまま存在し続けるわけですから、
減損処理した価額を元に戻すこと(減損損失の戻し入れ)は、保守主義の原則の観点から認められません。
今日の議論で私が言いたいのはまさにこの部分ということになるわけですが、
税法上の帳簿価額というのは、いつも不変であるわけです。
税法上は、存続会社は税法上の帳簿価額で消滅会社の資産を承継するわけです。
この時、企業会計上はと言いますと、消滅会社の方で資産の減損処理を行っているかもしれないわけです。
その減損処理の影響というのが、合併において、存続会社にどのような影響を与えるかについて今日は考察してみたわけです。
上記の例で言えば、設例Bや設例Cのように、実は資産の減損処理を行っているのだが、
合併に際し資産の価額を200に戻し承継させる、ということは間違いだろうかと思ったわけです。
「減損損失の戻し入れ益」というのは、資本は承継されないため、結局合併には全く影響を与えないのではないかと思ったわけです。
後は、消滅会社の株式の価額をどう評価するかだけで、合併仕訳が変わってくるというだけではないかと思ったわけです。
簡単に言えば、
@合併に際して承継させる資産の価額はどの価額が公正なのか?
A消滅会社株主が納得する株式の価額(公正な価額)とはどの価額なのか?
の2つが会計上合併仕訳では大切かと思いますが、この2つの要因が変動した場合、
存続会社の資本はどのような影響を受けるだろうか、と思ったわけです。

 


結論としては、上記の4つの仕訳を見る限り、
”のれん”が調整をする形で、トータルの影響額は同じになりそうだな、と思っているところです。
また、設例Bと設例Cの場合ですが、合併後、承継した資産を存続会社で減損処理しないとしたら、資本への影響額は変わってきます。
有形固定資産の場合ですと、減価償却手続きにより、減損処理はしてもしなくてもトータルでは同じになりますが、
減価償却手続きを行わない例えば棚卸資産の場合ですと、消滅会社では切り下げられていた価額が、
存続会社では減損処理前の大きな価額のまま計上され続けることになりますから、
承継した資産を存続会社で減損処理するかしないかで、存続会社の資本への影響額は異なってきます。
消滅会社で合併前に行った減損処理した価額を元に戻すこと(減損損失の戻し入れ)の影響をなくすためには、
存続会社においても、消滅会社で合併より前に実施していたように適正に減損処理をする必要があるのではないかと思います。
他にも、設例Dの場合ですが、存続会社は税法上の公正な価額(消滅会社の税法上の簿価)よりも低い価額で消滅会社株式を取得した、
という言い方ができるのではないかと思いました。
税法上の消滅会社の公正な価額は100のはずです。
しかし、存続会社が消滅会社株式に割当交付した株式の価額は0であるわけです。
株式の公正な価額と取得価額との間に差異があるわけですが、その差額が”のれん”ということになるのでしょう。
すると、この”のれん”は税法上は益金ということになるのでしょう。
旧商法で定められていた合併差益(合併時の負ののれん)は、企業会計上は償却をしないのではなかったかと思いますが、
債権者保護の観点から言えば償却すべきでないのですが、税法の観点から言えば償却すべきだったのでしょう。
そして、存続会社株式の割当交付を受けた消滅会社株主についてですが、
合併前後で所有株式に一種の含み損を抱える形になるのだと思います。
所有している株式の価額が小さくなるわけですから。
実際に含み損があるのか含み益があるのかは、トータルではその株主の消滅会社株式の取得原価次第であるわけですが、
概念的には、割当交付を受けた株式の価額が小さくなっているわけですから、
その点においては差額分は一種の含み損ということになるのではないでしょうか。
概念的には、存続会社で計上した負ののれんの分、消滅会社株主が含み損を抱えている、ということになるのではないでしょうか。
もちろん、存続会社で資産の減損処理をすれば、負ののれんを計上したといっても存続会社が得をしたことにはならないわけですが。
存続会社にとっては、どの場面であれ、のれんがトータルの資本額を調整しているように思います。
結論としては、承継する資産の価額が減損処理前の価額であろうが減損処理後の価額であろうが、
存続会社で減損処理を行えば、のれんが貸借の差額を調整することにより、トータルでは存続会社の資本には影響を与えない、
ということになると思います。
まだ詰め切れていない論点や抜けがある論点などあると思います。
また後日改めて考えたいと思いますが、今日はこれで終わります。