2014年10月17日(金)



2014年10月17日(金)日本経済新聞 公告
公開買付開始公告についてのお知らせ
株式会社ピックルスコーポレーション
(記事)




2014年10月16日
株式会社ピックルスコーポレーション
自己株式の取得及び自己株式の公開買付けに関するお知らせ
ttp://www.pickles.co.jp/ir/pdf/press/20141016_1.pdf

 

 

【コメント】
この株式公開買付は、株式会社ピックルスコーポレーションが、その親会社である東海漬物株式会社が保有する
ピックルスコーポレーション普通株式を取得するために行われるもの、とのことです。
親会社から子会社への子会社株式の譲渡、ということになると思います。
計画通りに株式の譲渡が行われれば、親会社である東海漬物株式会社の議決権割合は、
現在の41.84%から19.96%へ減少し、東海漬物株式会社は株式会社ピックルスコーポレーションの親会社ではなくなるようです。
株式会社ピックルスコーポレーションからすると実に21.88%もの自社株買い(自己株式の取得)ということになります。
東海漬物株式会社からは、非上場企業ということもあるのでしょうが、
この件についてはプレスリリースは全く出ていないようです。

東海漬物 会社概要
ttp://www.kyuchan.co.jp/company/outline/index.html

 

 


昨日、「有価証券の募集」と「有価証券の売出し」の違いについて書きました。
その追加というわけでもありませんが、「オーバーアロットメント」について一言だけ書きます。
「オーバーアロットメント」とは、大まかに言えば、”投資家の需要が大きい場合に追加で株式を売り出すこと”と一般に言われます。
ただ、これは、法令上の定義というわけではなく、そのような株式の売り出され方があるというだけです。
法令上の定めとしては「オーバーアロットメント」という行為はないわけですが、
通常は、既存株主が「有価証券の売出し」を行う際、投資家の需要が大きい場合に、
既存株主が当初の株式数を超えて「有価証券の売出し」を行うことを「オーバーアロットメント」ということが多いようです。
ただ、厳密な定義があるわけではありませんので、「オーバーアロットメント」を「有価証券の募集」に即して使うことも
できないわけではないと思います。
つまり、発行者自身が「有価証券の募集」を行う際、投資家の需要が大きい場合に、
発行者自身が当初の株式数を超えて「有価証券の募集」を行うことを「オーバーアロットメント」と呼ぶこともできるとは思います。
ただ、増資というものにはそもそも目標調達額というものがあるわけです。
また、株式を新たに発行すれば発行するほど既存株主への影響も大きくなります。
「有価証券の募集」は、「有価証券の売出し」とは異なり、
投資家の需要状況を見て追加的に株式を発行するということは考えられないと思います。
参考までに、昨日紹介したプレスリリースから、「オーバーアロットメント」について記載がある部分について見ておきましょう。


2014年10月2日
シップヘルスケアホールディングス株式会社
新株式発行及び自己株式の処分並びに株式売出しに関するお知らせ
ttp://www.shiphd.co.jp/pdf/20141002.pdf

3.株式売出し(オーバーアロットメントによる売出し)
(3/7ページ)


売出人は野村證券株式会社となっています。
つまり、「株式売出し(オーバーアロットメントによる売出し)」では、
発行者自身ではなく既存株主が需要状況により追加的に売り出していくことを指しているわけです。

 



それから、比較すると参考になるかと思いますが、「オーバーアロットメント」について以下のような記事がありました。


2014年3月26日(水)日本経済新聞
Jディスプレ 株の追加売り出し失権
(記事)


記事の見出しと内容とに少しズレがあると言いますか、若干分かりづらい記事だと思います。
”株の追加売り出し失権”との見出しですが、予定していた第三者割当増資について、

>割当先の野村証券から申し込みがなく全株を失権した
>野村が全1800万株を引き受ける権利を放棄した。
>この結果、約160億円の追加的な調達ができなくなった。

と書かれています。
このことに関するプレスリリースはこちらです↓。


2014年3月25日
株式会社ジャパンディスプレイ
第三者割当増資の結果に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1135146

第三者割当増資による募集株式発行について
(1/1ページ)


>割当先である野村證券株式会社より発行予定株式数の全株につき、払込期日までに申込みを行わない旨の通知がありました
>野村證券株式会社より申込みのなかった発行予定株式数の全株につきましては、失権したものとして募集株式発行は行いません。

とのことです。

 



記事やプレスリリースの文面だけを読むと、「オーバーアロットメントによる売出し」は野村證券株式会社が主体となっていると言いますか、
野村證券株式会社がイニシアティブ(主導権)を握って「オーバーアロットメントによる売出し」を行っている、
というふうに読めますが、実はそれは全く違います。
一連の株式発行に関する取引をトータルで見ますと、実は野村證券株式会社ははじめから
ジャパンディスプレイ株式の売り出し(有価証券の売出し)は一切行わない計画であるわけです。
なぜなら、取引トータルで見れば、野村證券株式会社はジャパンディスプレイ株式をオーバーアロットメントにて追加的に売り出した分、
そっくりそのまま第三者割当増資を引き受ける形で再びジャパンディスプレイ株式を取得する計画であるからです。
つまり、「オーバーアロットメントによる売出し」ということで、一見野村證券株式会社が株式を売り出しているふうを装っていますが、
取引全体を見ますと、野村證券株式会社が所有しているジャパンディスプレイ株式数は、
結局このたびの一連の株式発行前後で一切変化していない(所有株式数は取引前後で変化しない計画となっている)わけです。
これは正確に言えば、取引トータルを見ますと、売出人(既存株主)による「オーバーアロットメントによる売出し」ではなく、
発行者(株式会社ジャパンディスプレイ)自身による”オーバーアロットメントによる追加募集”と言わねばならないわけです。
野村證券株式会社への第三者割当増資は、表面上は「『オーバーアロットメントによる売出し』を受けた第三者割当増資」なのですが、
実質的にはこれは発行者(株式会社ジャパンディスプレイ)自身による公募増資(「1.公募による募集株式発行」と全く同じ)なのです。
記事やプレスリリースの字面だけよむと、計画されていた第三者割当増資は、
野村證券株式会社が主、株式会社ジャパンディスプレイは従、というふうに勘違いしてしまいますが、
実は計画されていた第三者割当増資は、株式会社ジャパンディスプレイがあくまで主であり、
野村證券株式会社はいい意味で仲介人(intermediary、元来の意味での証券会社)に徹している、と言わねばならないのです。
この記事やプレスリリースで言っている”失権”というのがどういう意味なのかは分かりませんが、
割当先の野村証券から申し込みがなかった(割当先の野村証券が申し込みを行わなかった)のは、あくまで、
発行者である株式会社ジャパンディスプレイ自身が、需給状況に応じた株式の追加発行をできなかったことを受けてのことに過ぎないわけです。
野村證券株式会社が何か約束を破ったり、野村證券株式会社が原因で株式会社ジャパンディスプレイに対し悪い財務的影響を与えてしまったり、
野村證券株式会社が恣意的な理由で第三者割当増資により新株式を引き受ける権利を放棄した、などということでは全くないわけです。

 



究極的なことを言えば、株式市場において需要がなかったジャパンディスプレイ株式自体に非があるということになると思います。


On whose own initiative is this "Over Allotment" carried out?
(誰がイニシアティブを取ってこの「オーバーアロットメント」は実行されるのか?)


という問いには究極的にはこう答えねばならないでしょう。


On investors' own initiative. Not Japan Display's, much less Nomura Securities'.
(投資家に主導権があります。ジャパンディスプレイではありません。いわんや、野村証券ではありません。)

 


株式会社ジャパンディスプレイからの一連の株式発行に関するプレスリリースはこちらになります↓。


2014年2月14日
株式会社ジャパンディスプレイ
募集株式発行及び株式売出しに関する取締役会決議のお知らせ
ttp://www.j-display.com/news/2014/20140214_3_j.pdf

 



ところで、以下のような記事もありました↓。


2014年3月27日(木)日本経済新聞
介護ロボのサイバーダイン上場 初値、公開価格の2.3倍
(記事)



サイバーダインは議決権数の多い種類株式も発行しているのですが、この点については、

>今回上場した普通株とは別に、買収防衛のために特定の株主に議決権を集中させる「種類株」を発行しているが、
>株価への影響は限定定期だった。

と書かれています。
上場後の議決権比率は、社長と社長が代表を務める一般財団法人が合計で88%を占める、とのことです。
市場株価の話をし出すと説明がつかなくなりますので、ここでは簿価のみで考えていきますと、
大まかに言うと、資本の簿価総額のうち、普通株式による資本額がおそらくほとんであり、種類株式による資本額はごく少額だと思います。
ここでの終類株式では特段に大きな議決権を握ることがのみ目的ですから、種類株式は発行価額自体が著しく小さいものになります。
極端な例を挙げますと、普通株式は1株100円、この種類株式は1株1円で発行するとします。
普通株式を1株、この種類株式を100株発行しますと、資本額は合計200円になりますが、
普通株式1株の議決権割合は0.0999%、優先株式1株の議決権割合は0.999%となります。
種類株式が資本額を占める割合は50%なのに、種類株式が議決権を占める割合は実に99.9%となります。
普通株式が資本額を占める割合は50%なのに、普通株式が議決権を占める割合はわずか0.0999%でしかないのです。
資本というのは全株式に平等に帰属していなければならない(それもまた株主平等の原則でしょう)わけですが、
普通株式と種類株式とで著しい差が生じています。
「株式が占める資本の割合」というものに目を向けますと、種類株式の問題点が浮かび上がってくると思います。

 



もう少し「株式」そのものについて書きますと、まず理解しないといけないのは、実は「証券は分割できない」という点なのです。
債権も分割できません。
そして、債務も分割できません。
債権者と債務者は、その契約の終了(債務の弁済や契約の解除等)の時まで、常に1対1に関係にあります(契約の当事者はその2人のみ)。
民法には、「分割債権債務の原則」(427条)という考え方があるようですが、法理的にはこの考え方は間違いなのです。
その理由は、当事者が複数ですと、権利義務関係が錯綜してしまい契約が複雑なことになってしまいトラブル時収拾がつかないからです。
例えば、債務者が一部の権利者にのみ有利な取り扱いをする恐れや、
債務者「ちゃんと弁済したぞ。」、債権者「いや俺は受け取っていないぞ。」などというトラブルが発生する恐れが生じるでしょう。
取引において、当事者が有するべき「等しい割合」というものを担保するのが難しくなってしまうわけです。
債権者と債務者が1対1であれば、そのようなトラブルは絶対に生じないわけです。
法理的には、複数の債権者や複数の債務者がいること自体がおかしいのです。
ただ、何と言いますか、一種の商行為の特則とでも言いましょうか、株式会社制度を構築する上での例外的な考え方ということで、
株式というのは、本来は分割できないはずの証券を小口に分割したものであるわけです。
そこで絶対的に求められるのは、「株式は完全に同じ取り扱いを受けねばならない」という点なのだと思います。
株式というのは、出資を行ったことを証するものであるわけです。
出資を行ったことを証する証券と会社の資本とは、概念的には同一のものであり一体不可分のものであると考えなければなりません。
ここで、資本が1つのみであるならば、それに対応する証券は均等に分割すれば概念的には分割できるわけですが、
出資を行ったことを証する証券が2種類という状況を想定しますと、
証券を均等に分割することを考えれば、資本も分割しないといけない、ということになるわけです。
しかし、会社は1つのみです。
資本を分けることなどとてもできないでしょう。
また、出資自体であれば、「資本金(普通株式)」、「資本金(種類株式)」というふうに勘定科目を分けることもできなくはありませんが、
例えば利益剰余金はどのように帰属するのか、という問題が生じます。
経営上は、例えば優先株式を発行している状況下では普通株式には利益剰余金は一切帰属しない、という取り扱いも可能かもしれませんが、
株式間で平等な取り扱いをしているとはとても言えないでしょう。
さらに、最初に書きましたように、種類株式の発行価額自体も問題になります。
種類株式を発行するに際し、発行価額はいくらであれば普通株式と比較して平等と言えるでしょうか。
そこに答えなど全くないでしょう。
発行価額は単に10倍ということであれば、それこそ「それは普通株式10株と何が違うのか」などという本末転倒な話になってしまうでしょう。
もちろん、資本額や発行価額に対応する議決権割合というものも、株式の種類が2種類あると整理ができないことになるわけです。
「資本額と議決権割合」という点に目を向けますと、株式の種類は1種類のみ、という結論に行き着こうかと思います。
簿価から、そして、民法から、考えますと、巷で話題になっている株式会社(制度)の問題点が浮かび上がってくるのではないかと思います。