2014年10月7日(火)
>質権者には配当金を受け取る権利はない
>目的物は依然所有権者に帰属していますし目的物からの収益も所有権者に帰属している
となります。
しかし、「占有権の効力として、占有権を有する者は、占有物から生じた利益を得ることできる。」と定められている、というのも事実です。
この点が私が意味を伝え切れていない部分なのだろうと思います。
私が理解しているのは、「基本的には物の所有権を有している者がその物を占有する。」という点です。
「所有権がある、だから、占有する(占有できる)。」という考え方が基本にあると思います。
逆から言えば、「所有権がない者はその物を占有できない。」という考え方が基本にあると思います。
しかし、所有権を有している者との契約により、所有権を有していない者でもその物を占有できるようになる、というだけなのです。
まさに質権の設定が「所有権を有していない者が物を占有する」という典型例になると思います。
人の物を勝手に占有したりはできないでしょう。
それはなぜかと言えば、自分以外の人にその物の所有権があるからなのです。
物を占有するためには、自分がその物の所有権を有しているか、その物の所有権を有している人とその物を占有してよい旨の契約を結ぶか、
のどちらかをしなければならないわけです。
そして、例えば質権の設定を行った場合は、所有者の下からその物の占有が離れる(所有者はその物を占有できなくなる)、
ということになるわけです。
そこで、問題となっている、「物を占有している者は占有物から生じた利益を得ることできる。」という部分に関してなのですが、
「物を占有していれば占有物から生じた利益を得ることできる」というのは、それはそれで確かに正しいのは正しいわけです。
分かりやすい例を挙げると、占有権者が占有物を他の人に貸す、という行為でしょう。
「占有」とは、自己のためにする意思をもって物を所持する状態をいいますので、
「占有権者が所持している占有物を他の人に貸す」という行為は認められますし、それによって得た収益は占有権者のものに確かにできます。
それはそれで正しいわけです。
ではなぜ私は「目的物は依然所有権者に帰属していますし目的物からの収益も所有権者に帰属している」と言っているのかと言えば、
私が言っているのは、「占有物から生じた利益」の意味が違うのです。
「占有物から生じた利益」と「目的物からの収益」とは異なるということを言いたかったわけです。
どう違うのかと言えば、「占有物から生じた利益」というのは先ほど書きましたように、
例えば「占有権者が所持している占有物を他の人に貸す」という場合の利益のことです。
一方、「目的物からの収益」というのはどういうものかと言いますと、
質権の設定や占有の移転とは無関係に目的物そのものから生じる収益、という意味なのです。
質権の設定や占有の移転とは無関係に目的物そのものから生じる収益とは何かと言えば、
例えば、目的物が利息付の債権である場合の受取利息です。
利息付の債権というのは、より具体的には(当然有利子の)社債であったり貸付金であったり、です。
この、「債務者が担保として債権者に引き渡した目的物から生じる受取利息」は誰のものかと言えば、
その目的物(質物)の元々の所有者(債務者、質権設定者)のものでしょう。
占有者(債権者、質権者)のものではないでしょう。
そういう意味で、「目的物は依然所有権者に帰属していますし目的物からの収益も所有権者に帰属している」と私は書いてきたわけです。
重要なポイントは、「質権の設定や占有の移転とは無関係に」という部分でしょう。
目的物からの受取利息は質権者とは無関係、だから、その受取利息は元々の所有者のもの、と言ってもいいと思います。
このことは逆から言えば、「質権の設定や占有の移転を行う(そして自己のために何かをする)からこそ生じる利益」というのは
当然占有者(債権者、質権者)に帰属する、ということになるわけです。
その利益は元々の所有者(債務者、質権設定者)のものではないしょう。
占有者(債権者、質権者)が占有している物について自己のために何かをする、
それは元々の所有者(債務者、質権設定者)には何の関係もないわけですから。
質物から生じる利益には2つある、と言えばいいでしょうか。
質物を占有者(債権者、質権者)から見た占有物としての側面から言えば、占有者の行為によって生じる利益は占有者のものです。
しかし、質物を元々の所有者(債務者、質権設定者)が引渡した担保としての側面から言えば、担保から生じる利益は所有者のものです。
以上の議論を踏まえますと、昨日一昨日の議論に一つの答えが出ることでしょう。
株式に質権が設定されている場合、その株式(質物、占有物)の議決権や配当を受け取る権利はどちらにあるでしょうか。
質権設定後も利息付の債権が元々の所有者(債務者、質権設定者)のものなら、
やはり質権設定後も株式の議決権や配当を受け取る権利は元々の所有者(債務者、質権設定者)のものでしょう。
この意味において、私は「所有者は占有者よりも強い。」と書いてきたわけです。
株式に質権を設定した後、「占有者の行為によって」その株式(質物、占有物)から新たに生じる利益というのは、当然占有者のものです。
例えば、質権を設定し占有している株式を他の人に貸し株を行って賃貸料を得た場合、その賃貸料は占有者のものであるわけです。
元々の所有者(債務者、質権設定者)に、「俺の株式を利用して得た利益だからその賃貸料は俺のものだ」という権利はないわけです。
しかし、元々の株式そのものに帰属している権利や利益(議決権や配当を受け取り権利)は、
質権設定後も元々の所有者(債務者、質権設定者)のものなのです。
その理由は、元々の株式そのものに帰属している権利や利益(議決権や配当を受け取り権利)と株式の所有権とは
密接に結び付いているからだと説明できると思います。
これは私の造語ですが、「所有権は占有権を破る。」と言ったところでしょうか。
株式に質権を設定した場合は、株式会社に対し、株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる(会社法第148条)、
と会社法には確かに定められていますが、実は法理的には間違いなのです。
質権の設定では所有権の移転は伴いませんから、議決権の移転や配当を受け取る権利の移転も伴わないのです。
利息付の債権の場合質権設定後も債権者は債権者のままであるように、株式に質権を設定しても株主としての法的地位は移転しないのです。
質権を設定した株式は、債務不履行を起こした場合を想定して引き渡した担保というだけなのです。
一昨日のコメントに以下のように一言追加をしないといけません。
Those who have the right to earn a dividend are those who own a stock
itself.
Those who merely occupy the stock don't have the right to earn a
dividend.
株式そのものを所有している人に配当金を受け取る権利があります。
株式を占有しているだけの人には配当を受け取る権利はありません。
>株式を使用し収益をすることも認められそうです
と書いてしまいましたが、ここが書き方がまずくて意味が伝わりにくくなった原因の一つかもしれませんが、少しだけ追記しますと、
まず、占有者(債権者、質権者)が質物である株式を使用し収益をすることは認められます。
しかし、それは、株式に質権を設定した後、占有者(債権者、質権者)が元々の所有者(債務者、質権設定者)とは別に(無関係に)、
質物の新たな使用をしそして収益をし、その収益は占有者のものとすることは認められる、という意味であって、
株式の議決権や配当を受け取る権利のように、何もしなくても発生している目的物固有の利益というのは
やはり元々の所有者(債務者、質権設定者)に帰属している、と考えるべきでしょう。
質物というのは、債務不履行を起こした場合の担保というに過ぎないわけですから。
法理的に言えば、占有者(債権者、質権者)からすると、質物は担保としての価値さえあれば十分であるわけです。
占有者が質物引渡しの他に何かさらに多くの対価を要求する場合は、利率・利息額を当事者間で調整するという手段を用いるべきであって、
質物そのものに変動を及ぼすような質権設定はどのような場合も行うべきではないのです。
質物の引渡しはあくまで担保の差し入れに過ぎませんし、債権債務関係そのものに関しては一定の利率・利息額の支払いを行うわけです。
元々の所有者(債務者、質権設定者)と占有者(債権者、質権者)とは、原契約である債権債務関係そのものが関係の中心であって、
質権の設定はあくまで二次的・補足的なその保証に過ぎないわけです。
原契約の方で両者の利害関係の調整は図るべきでしょう。
そして、法理の話とは少しズレますが、実務的なことを考えますと、質物の使用と収益(利益を目的とした占有物の活用)は、
占有者(債権者、質権者)にとってはさらにおまけ的な要素に過ぎないわけです。
なぜなら、質物(占有物)は、質権設定によって占有するに至ったに過ぎず、なおかつ、
いずれ元々の所有者(債務者、質権設定者)に返還する予定のものだからです。
質物(占有物)は、占有者(債権者、質権者)にとって、債務不履行に備えるという意味では確かに返還しないことは考えられますが、
本来は債務は無事に弁済されることが取引上の前提とも言えるでしょう。
少なくとも、元々の所有者(債務者、質権設定者)が債務を弁済すれば、質物(占有物)は必ず返還しなければなりません。
そうすると、株式や債権のような無体物であればまだしも、質物(占有物)が有体物の場合は下手に他の人に貸したりなどはできないわけです。
質権設定においては、占有者(債権者、質権者)が質物(占有物)を使用し収益をするというのは、
特に質物(占有物)が有体物の場合は前提ではないように思います。
有体物の中でも、土地であればまだしも、建物や設備や一般の物品の場合は、使用する最中に質物(占有物)が必ず痛んでしまうわけです。
質物(占有物)が痛んでしまうと、返還する際、今度は逆に占有者(債権者、質権者)が弁償しなければならなくなるわけです。
その意味では、法理上どう考えるべきかは難しいのですが、質権では質物(占有物)の占有者による使用は前提ではないように思えます。
この文脈での占有者(債権者、質権者)にとっての第一の利益というのは、あくまで原契約における利率・利息額であって、
質物(占有物)そのものではありませんし、質物(占有物)の使用収益でもない、と理解しなければならないと思います。