2014年10月6日(月)
昨日、民法の「質権」と商法(会社法)上の株式の取り扱いについて書きました。
昨日私が書きました結論を端的に言えば、
>質権者には配当金を受け取る権利はない
>目的物は依然所有権者に帰属していますし目的物からの収益も所有権者に帰属している
となります。
現行の定めや解釈、判例などはどうなのかは分かりませんが、法理的には「質権」ついてはこの考え方で正しいように思います。
「質権」については、抵当権と対比させて理解するとよいと思います。
質権と抵当権は共に同じ担保物権あり、「担保」という点において両者は極めてよく似た法的機能を有します。
私の理解では、質権と抵当権とは、基本的には「留置(的効力)」の有無の違いがあるだけなのではないだろうか、と思います。
質権には留置的効力があり、抵当権には留置的効力はありません。
留置的効力とは、質権者が質物を留置することにより、債務者に心理的な圧力を加えて間接的に弁済を促すものです。
他の言い方をすれば、質権では目的物を実際に債務者から債権者に「引渡し」、そして債権者は目的物を「占有」しますが、
抵当権では目的物について占有を移転せず、目的物を債務者の下に残す、
という違いがあります。
「占有」とは、自己のためにする意思をもって物を所持する状態をいいます。
「占有」とは、物を支配しているという事実状態を指すわけです。
そして、物を「占有」していることにより認められる権利のことを「占有権」といいます。
ここで、占有権の効力として、占有権を有する者は、占有物から生じた利益を得ることができます。
そうしますと、質権者は目的物を占有していますから、目的物から生じた収益は質権者のものではないか、と思われるかもしれません。
ただ、私の理解では、昨日も書きましたように、目的物から生じた収益は質権者のものではなく、所有権者のものだと思います。
なぜならば、「占有権を有する者は占有物から生じた利益を得ることができる」というのは、
他に目的物を所有している者がいない場合の話だからです。
質権では、目的物を所有している者が他にいます。
それは目的物の所有者です。
基本的には、所有権を有している者に物を所有する権利があり、そしてその所有権を有している者が物を占有します。
その意味において、「占有権を有する者は占有物から生じた利益を得ることができる」わけです。
しかるに、質権では、所有権自体は移転しません。
所有権は債務者が有したまま、占有のみを債権者が行うというだけです。
ここで、「目的物から生じた収益は質権者のものなのか、それとも、所有権者のものなのか」という問いに戻りますが、
この問いは「所有権と占有権はどちらが強いのか」という問いとイコールでしょう。
私の理解では、所有権の方が強いのではないか、と思います。
この点については、抵当権についての説明が理解の助けとなると思います。
教科書の記述を引用しますと、抵当権では、
>元物に設定された抵当権の効力は、原則として果実には及びません。
>抵当権を設定した後も、抵当権設定者に目的物を使用、収益する権利があるからです。
と書かれています。
確かに、質権の場合は抵当権とは異なり、債権者が目的物を占有しますから、質権設定者には目的物を使用する権利はありません。
しかしながら、目的物から収益が発生する場合、その収益は所有権者に帰属していると考えなければならないと思います。
なぜなら、概念的には、「元物と果実とは一体のもの(元物から果実が生まれる)」だからです。
元物は所有権者のものです。
したがって、その果実も所有権者のものなのです。
昨日の「株式の取り扱い」との関連に即して言えば、株式に関して質権が設定されている場合(債権者が株式を占有している場合)、
株式の議決権は株式の所有者が有しますから、株式の質権者には議決権を行使する権利はありません。
また、株式の配当金は株式の所有者に受け取る権利がありますから、株式の質権者には配当金を受け取る権利はありません。
この文脈での「株式を占有する」ですが、
株式を占有すると言っても、物理的な意味で実際に株式を債権者の金庫の中に管理・保管するという意味ではありませんし、
概念的な意味で債権者に株式に関する権利があり債務者には株式に関する権利はないものとするという意味でもありません。
ただ単に、債務者が債務不履行を起こしたら目的物である株式の所有権は債務者から債権者に移転する、という意味に過ぎないわけです。
有体物であれば、実際に引き渡すということができますが、株式のような無体物の場合は引き渡すということができないわけです。
質権では、質物を質権設定者が質権者に引き渡したときに効力が生じる、と定められていますが、
有体物であれば文字通り引き渡すことができますが、無体物の場合は「引渡し」といっても概念的な行為になってしまうと思います。
いずれにせよ、目的物を債権者が留置するか否かというよりも、
「目的物には質権が設定されている」ということ自体に債務者に心理的な圧力を加えて間接的に弁済を促す効果がある、
ということになると思います。
民法の教科書によりますと、質権には、動産質、不動産質、債権質の3種類がある、と書かれています。
しかし、これは私の推測ですが、私の推測が正しいとしますと、本来は質権は「動産のみ」が設定の対象だったのではないかと思います。
目的物が不動産となる場合を抵当権と定義されていたのではないかと思います。
そして、債権を担保にするという法律行為などはなかったのだと思います。
昨日は、
>株式は「動産」です
と書いてしまったのですが、正確に言えば、株式は動産でも不動産でもありません。
株式は民法上の「物」ではないので、株式は動産でも不動産でもないのです。
民法上は「物」とは有体物を指します。
有体物ではない株式は民法上は「物」ではなく、したがって、動産でもありません。
ただ、民法上の定義よりも広く「物」を捉え、人が持ち得るもの全てを「物」ととらえますと、
株式も「物」の一種であると捉えることも決して間違いではないと思います。
その意味において、株式は不動産ではないことから、昨日は”株式は「動産」です”と書いたわけです。
株式は「株式会社に対する権利を表象するもの」と定義されるものであり、敢えて分類すれば「権利」やその「証券」と分類されるでしょう。
それで、本来の質権の考え方から言えば、株式は質権の対象にはなり得なかったと思います。
なぜなら、株式は民法上定義される厳密な意味の動産ではないからです。
債権質などというものは元来はなかったと思います。
なぜなら、厳密に言えば、元来は債権は譲渡できないものだからです。
過去民法が改正されて、債権は譲渡できると定められたことと質権に債権質が定められたこととは同時だったのではないでしょうか。
なぜなら、債権者(質権者)は債権(質物)が譲渡(売却)できないことには元々の債権の回収ができない(担保にならない)からです。
私の推測が正しいなら、元来は質権と抵当権は同じ法的機能を持ったものだったと思います。
担保となる目的物に関して、質権は動産が対象、抵当権は不動産が対象、という違いがあるだけだったのではないかと思います。
ただ、質権は債権者が目的物(動産)を占有するのに対し、抵当権は債権者は目的物(不動産)を占有しない、
という違いはあったのでしょう。
それは動産と不動産の「物」としての性質の違いに由来するものだと思います。
不動産というのは基本的には「その所有者が何かに使用してる」という前提のようなものがあるのだと思います。
したがって、不動産を債権者が占有するというのは、不動産の性質を踏まえればそぐわないのだと思います。
一方、動産の場合は、債務者にとっては大切なものではあるが当座は手元になくても支障はないような物が目的物となったことでしょう。
そして、所有権はどちらも移転しないことから、どちらの場合も目的物から生じる収益は債務者(所有権者)のものだったのだと思います。
抵当権の場合は、対抗要件は登記だったでしょう。
一方、質権の場合は、対抗要件は占有の継続だったと思います。
その理由は動産の場合は登記ができない(動産を登記するという法制度はない)からです。
質権者は、「担保として引渡しを受けた物を返さない」という方法により、担保としての効果を生じさせる他はなかったのだと思います。
そういうわけで、昨日書いた結論を一般化して書きますと、「元物の帰属先とその果実の帰属先は同じである」となります。
元物は債務者に所有権があるのならその果実も債務者に所有権がある、ということになるわけです。