2014年9月16日(火)



昨日のコメントで、

>会社法の第183条(株式の分割)と第185条(株式無償割当て)を読み比べても、
>率直に言えば条文からは両者の違いというのは明確ではないように思います。

と書きました。
今日は実際の条文を具体的に見てみましょう。
株式分割と株式無償割当てはどう違うのだろかと思って、改めて会社法の条文を読んでみました。
両者の差異を理解するために、株式分割と株式無償割当ての条文を並べて記載し比較することしました。


「株式分割と株式無償割当ての差異」



昨日は主に第183条と第185条を読んでいたのですが、今日改めて整理していますと、第186条が非常にトリッキーであることが分かりました。
特にその第二項が理解を妨げていると思いました。
第186条の具体的な条文は上の資料を読んでもらいたいのですが、第186条の第二項を簡単に要約すると次のようになります。


要約第百八十六条 第二項
株式無償割当ては、自社以外の株主の有する株式の数に応じて株式を割り当てることを内容とするものでなければならない。


 


別に私の要約が間違っているわけではないと思います。
この「第百八十六条 第二項」を読んで意味が分かる人がいるでしょうか。
私の解釈では、「第百八十六条 第二項」の記載により、実際には株式無償割当ては全く行えないのではないか、と思います。
第百八十五条から第百八十六条第一項までを読む限りは、既存の自社株主に対し株式無償割当てを実施できる、と読めます。
しかし、第二項において、
”当該株式会社以外の株主の有する株式の数に応じて株式を割当てねばならない”
と定められていますから、
会社法に現在定められている「株式無償割当て」というのは、
既存の自社株主に対して株式を割当てるどころか、その正反対に、
当該株式会社以外の株主(既存の自社株主以外の者)に対して株式を割当てること前提としているように思えます。
つまり、「第百八十六条 第二項」の記載のせいで、既存の自社株主に対し株式無償割当てを実施することができないのだと思います。
”当該株式会社以外の株主の有する株式の数”という文言の意味が分からないと言いますか、
「第百八十六条 第二項」が日本語になっていないような気がします。
第百八十五条と第百八十六条を素直に読むなら、実は現在、「株式無償割当て」は法律的に全く実施できない、
ということではないでしょうか。
現在会社法に基づいて法律的に実施できるのは、「株式分割」のみ、ということだと思います。
仮に、「第百八十六条 第二項」がなければ、会社法上、任意の者に対して株式無償割当てを実施できる、とも取れると思います。
ただ、第百八十五条と第百八十六条でいう「株主」が具体的に何を指すのかは明確ではありませんが。
「既存の自社株主全員」とも取れますし、「既存の自社株主の一部」とも取れますし、
「これから株主になる会社とは全く関係のない第三者」(全く任意の者)とも取れると思います。
第百八十五条と第百八十六条でいう「株主」が具体的には何を指すのか、定義を明確にしないといけないと思います。
いずれにせよ現在のままでは、率直に言えば、第百八十五条と第百八十六条の存在自体が意味不明かと思います。
これは「書きかけ」ではないのでしょうか。
もはやそう言いたいレベルです。

 


これは推測ですが、法務省としては当時、まさに一般の人が”株式の無償割当て”と聞いてイメージするように、
「会社は任意の者に対して新たに払込みをさせないで自社株式の割当てをすることができる」
という内容のことを会社法に定めようとしたのではないでしょうか。
例えば以下のようにです。

 

空想会社法
空想第三款 株式無償割当て

(株式無償割当て)
空想第百八十五条
株式会社は、任意の者に対して新たに払込みをさせないで自社株式の割当てをすることができる。

(株式無償割当てに関する事項の決定)
空想第百八十六条
株式会社は、株式無償割当てをしようとするときは、
その都度、その任意の者に割り当てる株式の数(その任意の者が所有することになる株式の数)を定めなければならない。

 


このように定めれば、既存の自社株主全員を対象にした株式無償割当て(=株式分割)だけではなく、
取締役や従業員や取引先など、任意の者を対象にした株式無償割当て(=株式による報酬支払いや商品代金の支払いなど)が
理屈ではできるようになるかと思います。
ただやはり、法理的には、株式を無償で割当てること自体がおかしいのだろうと思います。
正確に言えば、株式会社が株式を無償で発行すること自体がおかしいのだろうと思います。
その理由は、端的に言えば、株式発行の対価がないから、だと思います。
株式を無償で発行する場合(株式発行の対価がない場合)、資本金が増加しないわけです。
株主は会社に資本を払込むことにより、有限責任の地位が保証されるわけです。
会社に資本を払い込んだことが、会社(究極的には債権者)に対する責任を果たしたことの証になるわけです。
そして、会社(究極的には債権者)に対する責任を果たしたことの証が株式という証券なのではないでしょうか。
責任は全く果たしていないのに、株式だけを手にするのはおかしい、という論理の流れがあると思います。
株式の発行と資本金の増加とはイコール、ということだと思います。
また、他の説明方法としては、株式というのはいくらかの価値・価額があるわけです。
その株式を無償で相手に交付したとなりますと、それは会社は寄附を行った、という言い方ができるわけです。
商取引を行うことを前提としている以上会社は寄附は行えないわけですから、
会社は株式の無償発行はできない、と説明できると思います。

 


いずれにせよ、現在の条文のままでは会社法上「株式無償割当て」を行えない、という解釈になると思います。
第百八十六条第二項は、今後改正されるのか、それとも、トマソンのように無用の長物として会社法の中に埋もれたままであるのか、
そのどちらになるのかは分かりませんが、
法理的に一番いいのは「株式を分割する方法が株式無償割当てである」と整理することだと思います。
株式会社は株式の分割をすることができる(第百八十三条)、とは言いますが、
概念的には、株主が所有している証券が突然分割されるわけがありません。
会社の所有物であれば会社がその物を分割するということはできるかもしれませんが、
株式自体は株式会社の所有物でも何でもないわけです。
証券の数が自然に増えるということはないわけです。
概念的には、会社が株式の分割をする(できる)ということ自体がおかしい、と言えるわけです。
したがって、現行の定めのように証券が自然増殖すると考えるのではなく、
会社が株主に対して株式を無償で割当てる(そしてそれのことを株式分割と呼ぶ)、と考えるべきなのだと思います。
証券の数が自然に増えるのではなく、人が何かをして証券の数を増やす、という動作が必要であるように思います。
自己株式に関してはどう取り扱うべきかは難しいと思います。
株式分割により株式の数が機械的に増加すると考えるなばらば、自己株式の数も増加する(自己株式も分割される)でしょう。
しかし、会社が株主に対して株式を無償で割当てると考えるならば、昨日の株式会社NSDが理解のヒントになるかもしれませんが、
株式分割によっても自己株式の数は増加しない(自己株式には株式を割当てない、自己株式は分割されない)、と考えられるでしょう。
株式を無償で割当てている時点で整合性が十分に取れた説明は不可能かとは思いますが、
例えば「1株当たり1円で株主割当増資を実施する」場合のことを思い浮かべてみると、私が何を言いたいか分かるかもしれません。
自己株式以外の株式数は増加するでしょう。
しかし、自己株式の数は増加しないでしょう。
もちろん、株式分割と「1株当たり1円で株主割当増資を実施すること」とはイコールではありませんが、
現行の定めによる株式分割の場合ですと、自己株式の数まで機械的に増加してしまいますから、私としてはそこに違和感を覚えるわけです。
概念的には実は存在しないと言っていい自己株式の数がなぜ増加するのか、と。
「1株当たり1円で株主割当増資を実施する」場合のことを想定してみると、私が感じている違和感が理解できるのではないかと思います。
概念的に言えば、定款に定めたからと言ってある証券が自然に機械的に増加するというようなことはない、となると思います。
第百八十六条第二項は今後、正しい方向に改正されればよいのだが、と思います。


 


株式の無償割当てとは直接的には関係ありませんが、新株予約権の無償割り当て(ライツ・イッシュー)についての記事を紹介します。


2014年9月5日(金)日本経済新聞
アジア 注目銘柄
耀才証券金融集団(香港) ―1.33香港j(3.62%安)
増資発表受け大幅安
(記事)



耀才証券金融集団は英語では「Bright Smart Securities & Commodities Group Limited」というようですが、
この記事に関するプレスリリースは発表されていないようです。


Investor Relations
Press Releases
ttp://www.bsgbsg.com/brightsmart_eng/investor/investor_press_EN.aspx?LangId=1

 

代わりにと言っては何ですが、
同じ新株予約権の無償割り当て(ストック・オプション)についてのプレスリリースを紹介し訳してみたいと思います。
特にコメントはありませんが、ストック・オプションが報酬になるのは新株式の発行価額と市場株価とが異なるからであるわけです。
逆から言えば、会社は公正な価額とは異なる価額で株式を発行していることになるわけです。
実はそのこと自体がおかしいという言い方ができるのかもしれません。

 

June 26, 2013
Bright Smart Securities & Commodities Group Limited
BS GROUP ANNOUNCES GRANT OF SHARE OPTIONS
ttp://59.152.225.84/BrightSmart_portal/BrightSmart_asp/Admin/Upload/Media/PressRelease/BS_Bonus_Share_Options_E.pdf

 



ANNUAL RESULTS HIT RECORD HIGH TO SHARE SUCCESS WITH EMPLOYEES
BS GROUP ANNOUNCES GRANT OF SHARE OPTIONS

(June 26, 2013, Hong Kong)
Bright Smart Securities & Commodities Group Limited (“BS Securities” or the “Company”, stock code: 1428) is pleased to
announce the granting of 10,490,000 share options to all of its staffs, as the Group achieved outstanding performance
on its key operation indicators such as turnover, profit and number of clients for the year ended 31 March 2013.
The grant of share options will allow the employees to benefit from potential business growth, creating a greater
sense of belonging to the Group.
The share options have an exercise price of HK$0.98 per share and will expire on 25 June 2016.
Closing price of the shares on the date of grant is HK$0.98.
Mr. Yip Mow Lum, the Chairman of BS Securities, said, “In spite of a challenging business environment,
the Group recorded a remarkable results to the shareholders with turnover and net profit hitting record high.
These achievements would not be possible without our staff’s dedication.
We are delighted to share the Group’s success with our staffs.
We believe the newly granted share options would motivate our staffs as their benefits are closely tied to the business performance,
thereby fueling the Group’s long term growth.”

 



【参謀訳】
通期の業績は好調でした 従業員と成功を分かち合いたいと思います
耀才証券金融集団はストック・オプションを付与することを発表いたします


2013年6月26日、香港発―
耀才証券金融集団(以下、”耀才証券”もしくは”弊社”と書きます。株式コード:1428。)は、
10,490,000個のストック・オプションを弊社の全従業員に対し付与することを喜んでお知らせいたします。
この理由は、弊社は2013年3月31日を期末日とする事業年度において、取引高、利益額、顧客数といった主要な事業指標に関して
実に優れた業績を達成したからです。
ストック・オプションの付与により、従業員は潜在的な事業成長から利益を得ることができるようになりますし、
また、その結果従業員の弊社への帰属意識は強くなることでしょう。
当該ストック・オプションは、権利行使価額が1株当たり0.98香港ドルとなっており、2016年6月25日に失効いたします。
付与日の株価終値は0.98香港ドルとなっています。
弊社会長の葉茂林氏は次のように語りました。
「事業環境は厳しいにも関わらず、弊社は、取引高と純利益額は好調であり、株主の皆様に実に優れた業績を達成いたしました。
これらの業績は弊社従業員の献身がなければ不可能であったでしょう。
弊社ではこの成功を従業員たちと分かち合いたいと思っております。
このたびのストック・オプションの付与により、事業の業績と便益とが密接に結び付くことになりますので、
弊社従業員のやる気は高まることでしょうし、また、その結果弊社の長期的成長は加速されることと弊社では考えております。」