2014年9月8日(月)



2014年9月4日(木)日本経済新聞
株主割当増資 東証が規制へ 10月から実施
(記事)





2014年9月5日(金)日本経済新聞
「不公正な増資防止」 日本取引所、取り組み強化 自主規制法人
(記事)

 



【コメント】
In the case of a stock purchase right, shareholders and investors do decide and a company offers only.
In the case of new stock issue by way of apportionment to shareholders, the shareholders must take.

新株予約権の場合は、株主や投資家が決めるのであって、会社は売りに出すというだけです。
株主割当増資の場合は、株主は引き受けねばなりません。

 

東京証券取引所は、不公正な増資を防止するべく、要件を厳しくするなど投資家保護に力を入れていく方針であるようです。
ただ、この種の議論には少しおかしなところがあります。
それは、「新株式を購入するかどうかを決めるのは、引き受け手の自由だ」という点です。
「この企業は有望だと判断した、だから、新株式を購入することにした」、これは全く投資家の自由であるわけです。
投資家が株式を購入することに関して証券取引所が規制をするというのはおかしな話であるわけです。
「本当に問題がある株式であれば投資家はその株式を買わないはずだ」、という論理の流れがあるように思います。
問題がある株式か将来有望な株式かは投資家が判断する事柄でありますし、また、投資家が判断しなければならない事柄でしょう。
証券取引所が口を出す問題ではないわけです。
証券取引所が取り組まねばならないことは、投資家が投資判断を間違えないよう、
上場企業が開示する財務情報の正確性を担保していくことでしょう。
簡単に言えば、粉飾決算が行われることがないよう取り計らうことに力を入れるべきでしょう。
判断をするのはあくまで投資家の側であって、証券取引所はその判断材料の正確性を担保することのみに徹するべきだと思います。

 


また、そもそもの話をすれば、株式を発行することを決めるのは既存株主であるわけです。
そして、株主割当増資の場合、既存株主は必ず新株式を引き受けねばなりません。
そうしますと、概念的には、「既存株主が不利益を被るような増資が行われるはずがない」という論理の流れが生じるわけです。
「株主割当増資では既存株主の利益を損なうような増資は絶対に行われない」、という論理の流れはあると言えるでしょう。
”企業が増資をする”と考えるからおかしな話になるのでしょう。
「既存株主が新株式を引き受ける」と考えると、増資に関する論理の流れがすっきりするような気がします。
株主割当増資というのは、株主平等の原則に沿った増資方法であるだけでなく、
経済的には利害関係者の信頼を決して損ねない増資方法である、と言えると思います。
仮にその増資が問題がある増資なのであれば、株式を引き受ける株主が損をするからです。
株主割当増資では株主は株式を引き受ける義務があるわけですが、論理的には、
「全株主が株式を引き受けたことがまさに問題のない増資であることの証」というような言い方できるのだと思います。

ただ、同時に、今までに何回か書いてきましたように、
論理的には、上場企業が増資をする場合は全て公募増資でなければならないのではないか、という考えを私は持っています。
その理由は、その証券は上場していますので、投資家保護の観点から言えば、
既存株主も含む市場の全投資家が平等にその証券を購入する権利が与えられなければならない、と思うからです。
上場企業が発行する株式というのは、株式会社の株式というより、上場している有価証券、という側面が極めて強いように思うのです。
もしそれが株式会社の一株式に過ぎないのであれば、上場企業も株主割当増資を行うべきでしょう。
しかし、もしそれが上場している有価証券という性質が極めて強いものであるのなら、市場において公募により発行されるべきでしょう。
「上場企業が発行する株式」をどのように見るか・どのようなものと捉えるか、によって答えは変わってくるとは思いますが。
証券取引所が規則や規制を設けるまでもなく、株主割当増資さえ行えば上場企業においても不公正な増資は絶対に行われないのです。
(ただし、市場株価は株式の簿価とは乖離していますから、株主割当増資前後で市場株価の連続性をどう保つかだけは問題ですが。)
しかし、私がここで言いたいのは、「上場企業は株主割当増資を果たして行ってよいのか」という点なのです。
市場の全投資家(既存株主も含みます)は皆平等であるならば、新株式を購入する権利も皆平等であるはずです。
特段に既存株主だけが独占的に新株式を購入できるというのは、投資家保護の観点に反する、という言い方ができるでしょう。
株式会社の理念や成り立ちから言えば、本来は株式の上場というのは株式譲渡自由の原則が一番理想的に体現化した状態であると言える
とは思うのですが、株式が上場したことにより、既存株主が均一化されただけでなく、市場の全投資家も均一化されないとおかしい
と言いますか、既存株主と他の市場の全投資家は皆平等でなければならないという側面が出てくるように思うのです。
「投資家は平等である」ということを、どの範囲・どの程度のことであると定義するのかで、答えは変わってくるかとは思いますが。
他の言い方をすれば、株式会社は上場後もどれほど株式会社か、という定義の仕方でも、答えは変わってくるかとは思いますが。
絶対的な答えは出ない問題だとは思いますが、増資方法に関しては、上場企業は戦前の方がはるかに株式会社であった、
という言い方はできるのだろうな、と思いました。