2014年9月5日(金)



2014年9月5日(金)日本経済新聞 公告
基準日設定につき通知公告
ハートフォード生命保険株式会社
(記事)





2014年7月1日
ハートフォード生命保険株式会社
オリックス生命保険株式会社による当社株式の取得および子会社化について
ttp://www.hartfordlife.co.jp/press/pdf/company/press140701.pdf

 

2014年7月1日
オリックス株式会社
オリックス生命保険株式会社によるハートフォード生命保険株式会社の株式取得の完了に関するお知らせ
ttp://www.orix.co.jp/grp/news/2014/140701_ORIXJ2.html

 

2014年4月28日
ザ・ハートフォード・ファイナンシャル・サービシズ・グループ・インク
ハートフォード、日本の年金事業会社ハートフォード生命をオリックス生命に8 億95百万米ドルで売却へ
ttp://www.hartfordlife.co.jp/press/pdf/group/press140428_1.pdf

 

2014年4月28日
オリックス株式会社
当社連結子会社のオリックス生命保険株式会社によるハートフォード生命保険株式会社の株式取得に関するお知らせ
ttp://www.orix.co.jp/grp/pdf/news/140428_ORIXJ.pdf

 


【コメント】
ハートフォード生命保険株式会社が「基準日」を設定したとのことですが、
何の「基準日」かと言えば、「剰余金の配当を受けることができる権利者を定めるための基準日」、とのことです。
なんでも、ハートフォード生命保険株式会社は2014年8月27日に臨時株主総会を開催したようでして、
その臨時株主総会で「将来のある期日に剰余金の配当を行うこと」を決議したようなのです。
その「将来のある期日」が具体的にいつなのかはその臨時株主総会では決議しなかったようです。
しかしこれは完全に意味不明な株主総会決議や基準日の設定だと思います。
その臨時株主総会の基準日がいつだったのかは分かりません(推測するなら2014年8月上旬のある日が基準日だったでしょう)が、
剰余金を配当するなら、その臨時株主総会の基準日の株主に対して支払うということ以外は考えられないかと思います。
その臨時株主総会の開催日時点の株主に剰余金を配当するのもおかしいですし、
その臨時株主総会の開催日以降の株主に剰余金を配当するのもおかしいわけです。
その理由は、もはや理由になっていないほど当たり前のことになりますが、その株主が決議を行ったからです。
決議を行っていない株主に剰余金を配当するというのは完全に意味不明ではないでしょうか。
株主は剰余金の配当を受けたいから株主総会でその旨決議を取ったわけです。
それなのに、剰余金の配当を受けるのは他の株主、となりますと、株主総会決議の意味が完全になくなってしまうわけです。
剰余金の配当の基準日は、公告にありますような2014年9月22日などではありません。
基準日に関しては、

剰余金の配当の基準日=剰余金の配当の基準となる貸借対照表日=臨時株主総会の基準日(=当然この日付けの株主が配当を受ける)

という、会計上そして法理上の一意性があります。
剰余金の配当の基準となる貸借対照表は、仮決算という形でこの日付の貸借対照表を臨時に作成する他ないと思います。
「剰余金の配当を受けることができる株主は後で決める」では、株主総会決議そのものの意味が完全に失われてしまっているわけです。
それどころか、剰余金の配当を受けることになる将来の株主は、
経営上内部留保を重視したいと考えているのに言わば強制的に剰余金の配当を受けさせられる(義務的に会社財産が流出する形になる)、
という、ある種の経営上の矛盾(株主の意思と会社の行為とが乖離してしまっている)も生じかねません。
剰余金の配当は、剰余金の配当を受けたいと思っている(そして現に決議を取った)株主に対して行うべきです。
内部留保を重視したいと考えている将来の株主に対して剰余金の配当を行うべきではないのです。

 



では例えば、当該剰余金の配当の効力発生日までに、新しい株主が配当に関して再度臨時株主総会を開催し、
2014年8月27日の臨時株主総会で決議した剰余金の配当を取り消す旨、決議を取るとしたらどうなるでしょうか。
理屈では、剰余金の配当の決議は取り消すことができると思います。
二度目の臨時株主総会決議を受けて、会社は剰余金の配当を実施しなくなるわけです。
株式会社において「株主」とは、今現在の株主のことを指すわけであって、過去の株主のことを指すわけではありません。
ですから、この取り消しの決議は一見何の問題もなさそうです。
しかし、これではある疑問が浮かびます。
2014年8月27日の臨時株主総会で、
「2014年9月22日に剰余金の配当を受けることができる株主は当該臨時株主総会の基準日の株主(=まさに決議した自分達)である」、
と決議を取っていたとしたらどうなるでしょうか。
臨時株主総会で決議を取った株主は剰余金の配当を受けたいから、正式にその旨決議を取ったわけです。
それなのに、なぜその決議を他の株主が取り消すことができるのだ?、という話になるわけです。
つまり、新しい株主には当該剰余金の配当の決議を取り消す権利などないのではないか、と思えるわけです。
確かに、株式会社において「株主」とは、今現在の株主のことを指すわけであって、過去の株主のことを指すわけではありません。
しかし、この場合、当該剰余金の配当の効力発生日がまだ到来していないというだけのことであって、
当該剰余金の配当の決議はあくまで法的に正式に効力を持っているものなのです。
法律的に正式な手続きを踏まえている、法的に正式に効力を持っている決議(法的に有効な決議)を、
効力発生日がまだ到来していないというだけで、取り消すことができるものなのだろうか、と思うわけです。
法的に正式に効力を持っている決議を取り消すことができるのは、その決議を行った者のみ(他の者には取り消す権利はない)、という、
法理上のつながりはあるのではないかという気がします。
役員の選任や定款変更であれば、あくまで新しい株主が新たに決議したという位置付けであって、
決して前の株主が決議して決めた内容を後になって新しい株主が取り消しているわけではないわけです。
2014年8月27日の臨時株主総会で決議を取った株主からすれば、
剰余金の配当を受ける権利はまさに2014年8月27日の臨時株主総会の決議により確定債権になっているわけです。
配当を受ける権利が確定債権になった後は、商法(会社法)云々ではなく、民法上の債権債務(金銭債権)の関係になるわけです。
法的に正式に、株主は債権者となり、会社は債務者となるわけです。
確定債権(会社から見れば確定債務)を株主総会決議で取り消せるのか、という話になろうかと思います。
民法上の確定債権・確定債務を取り消すという法理は、商法理・商法の概念にはないと思います。

 


ではどうすればいいのかと言えば、何のことはなく、株主総会で配当を決議したならば即座に支払ってしえばいいわけです。
これは奇をてらって言っているのではありません。
正確に言えば、株主総会で配当を決議したならば即座に支払ってしまわねばならないわけです。
配当を受けるまでが株主の権利であり、配当を支払うまでが会社の義務でしょう。
新しい株主の意思を会社に十分に反映するため、以前の株主の意思は会社からなくしてしまわねばならないわけです。
以前の株主の意思を会社からなくさないから、株主総会決議を取り消す云々の話が出てきてしまうわけです。
どんな内容・どんな種類の決議内容であれ、株主総会決議を取ったならば可及的速やかに決議内容の効力を発生させる、
ということが会社と株主との関係のためには大切なことなのです。
決議内容の効力を発生させた後(配当金であれば配当金を支払い終わった後)、
新しい株主が改めて新しい決議を行っていくのは、もちろん全く自由なことだとなるわけです。
というわけで、このたびのハートフォード生命保険株式会社の剰余金の配当というのは、
様々な意味において法理上問題があるということになると思います。
決議の行った株主とは異なる株主が配当を受けるという点、そして、
仮に決議の行った株主と同じ株主が配当を受けるとしても、確定債権を他の者が取り消せるかのような余地を残してしまっている点、
主にこの2点が法理上問題であろうと思います。

 


最後にもう一言だけ書きます。
プレスリリース「当社連結子会社のオリックス生命保険株式会社によるハートフォード生命保険株式会社の株式取得に関するお知らせ」には、

>1.株式の取得の理由
>オリックス生命は、本件株式取得後、早期にハートフォード生命との合併を行うことで資本強化と経営の健全性の向上を図り、
>今後の成長を目指します。

と書かれています。
ハートフォード生命保険株式会社は2014年7月1日付けでオリックス生命保険株式会社の完全子会社になったようです。
(したがって、上記の剰余金の配当に関しては、たまたま株主は全く同じということになります。)
これから合併しようという完全親子会社間で、合併に先立ち、完全子会社から完全親会社へ配当を行う、と言っているわけです。
合併して一つになるわけですから、当然会社財産(現金等)も一体になります。
一見、配当を行っても何の意味もないのではないかと思うかもしれません。
確かに、会社財産という観点では何の意味もないと言えると思います。
しかし、完全親子会社間であっても完全親会社と完全子会社は別の会社ですから、
完全親会社が完全子会社から配当金を受け取りますと、完全親会社には損益計算書上受取配当金が計上されますし、
当期純利益を増加させる効果があります。
また、その分、完全親会社の利益剰余金は増加します。
完全親会社自身の配当財源が増加するわけです。
会計理論上は、合併をしても完全親会社の配当財源は増加しません。
したがって、特段に「完全親会社の損益計算書の利益額を増加させたい」という意図があるのなら、
合併前に完全子会社から完全親会社に配当金を支払うことには合理性があるのです。