2014年8月9日(土)
2014年8月8日(金)日本経済新聞
■日清紡ホールディングス 4〜6月最終黒字に転換
(記事)
2014年8月7日
日清紡ホールディングス株式会社
平成27年3月期第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
ttps://www.nisshinbo.co.jp/ir/pdf/2015/1503q1.pdf
【コメント】
記事には、
>買収した欧州子会社のユーロ建てのれん償却費用が円安で膨らみ、
とありますが、これは間違いです。
結論だけを先に言えば、のれんの金額は支配獲得時に日本円建てで確定します。
ですから、その後ののれんの償却額は為替レート変動の影響を全く受けません。
ただ、支配獲得後の連結財務諸表の作成手続きのことまで考えてみますと、
実は、海外子会社を連結財務諸表に合算することそのことに極めて大きな問題がある、ということになると思います。
現在の基準では、子会社の財務諸表を連結するにあたっては、支配獲得日において子会社の資産および負債を公正な評価額(時価)で評価し、
時価評価による簿価修正額の純額を純資産の部に含めることとなっています。
私はこの子会社の資産負債の時価評価(評価替え)については根本的に間違いであると考えています。
支配を獲得したというだけでは子会社の資産も負債も(権利も義務も)全く変動していないでしょう。
資産負債の評価替えなどと言うのなら、子会社自身が作成・開示している財務諸表は公正な価額とはなっていないとでも言うのでしょうか。
それでは子会社は粉飾決算をしていることになるではありませんか。
そんなことはないでしょう。
子会社自身が作成・開示している財務諸表は公正な価額とはなっているはずです。
ですから、会計理論上、そもそも子会社の資産負債は帳簿価額で合算するべきなのです。
この論点を海外子会社に応用して考えてみますと、海外子会社の財務諸表を連結すること自体に矛盾にも近い問題点があることが分かります。
それは、海外子会社の資産負債は期末日毎に時価評価しなければならない、という点です。
海外子会社の各資産負債をどのように評価替えし、評価差額をどのように処理するか(損益とするのか純資産直入で処理するのか)は
資産負債の内容により異なりますが、いずれにせよ、
海外子会社の資産負債を期末日毎に各資産負債毎に応じた適切な為替レートで日本円建てに換算せねばならないわけです。
しかしそれは、連結子会社の資産負債を期末日毎に時価評価し直していることと同じでしょう。
つまり、価額という点では、連結子会社の資産負債に連続性がないわけです。
海外子会社の資産負債を期末日毎に時価評価し直しても、結局連結財務諸表そのものは期末日毎に作成できるとは思います。
連結貸借対照表の純資産の部の連結利益剰余金と為替換算調整勘定が一種のバッファーとなって、
一応為替レートの変動の結果生じた貸借の差額だけは埋めてくれる(貸借の辻褄合わせだけは連結純資産の部でしてくれる)でしょう。
しかし、その連結財務諸表は、連結子会社の経営の結果以外のことも反映しているという点で、
連続性を欠いた連結財務諸表と言わざるを得ないでしょう。
子会社の資産負債の評価替えなど支配獲得時からその後も最後まで一切行わず、子会社の財務諸表の帳簿価額をそのまま合算する場合のみ、
連結子会社の経営の結果を反映した連結財務諸表が作成できるのです。
例えば、支配獲得後、ある期に、連結子会社は、ある有形固定資産を巨額に減損処理(これも一種の時価評価・評価損でしょう)したとします。
この時、この期の連結貸借対照表上の有形固定資産の価額は前の期に比べ大幅に減少しており、また、
巨額の減損損失額を計上した結果連結利益剰余金も前の期に比べ大幅に減少していることでしょう。
一見、連結財務諸表に連続性がないように思うかもしれません。
しかし、そんなことはありません。
その連結財務諸表は、連結子会社の経営の結果を適切に反映した連結財務諸表です。
連結子会社では経営判断の結果、有形固定資産の減損処理を行った、それだけのことでしょう。
連結貸借対照表上の有形固定資産の価額が前の期に比べ大幅に小さくなっていることが経営の結果を表していることになるわけです。
この場合、連結財務諸表に連続性はあるのです。
しかるに、海外子会社の資産負債を期末日毎に時価評価し直おすとなりますと、連結子会社の経営の結果に加え、
為替レートの変動の影響も反映されてしまうことになります。
連結貸借対照表上のある資産の価額が前の期に比べ大幅に小さくなった理由は、
連結子会社の経営の結果なのか為替レートの変動の結果なのか分からない(もしくはその両方の影響が混在している)ことになります。
連結損益計算書の費用項目を見れば一定度は分かるとは思いますが、財務諸表と呼ばれる計算書類のそもそもの作成目的を鑑みれば、
経営の結果以外の理由で資産や負債の価額が変動することは本来おかしいわけです。
財務諸表と呼ばれる計算書類はそもそも、経営の結果を表現するものですから。
財務諸表は、「経営の結果のみ」を数字という手段によって忠実に像を映し出すものでなければならないわけです。
A financial statement is, as it were, the mirror of management.
How
business went along during the concerned period and
what financial position
at the end of the concerned period was like must be faithfully reflected on
it.
(財務諸表とは言わば経営の鏡なのです。
業績は当期はどうであったのか、そして、当期末の財務状態はどうであったのかを忠実に映し出すものでなければなりません。)
The fluctuation of an exchange rate should not be reflected on a financial
statement.
(為替レートの変動は財務諸表に反映させるべきではありません。)
と言ったところでしょうか。
連結財務諸表作成に関する現行の基準では、支配獲得後に子会社株式を追加取得しても、
子会社の資産および負債の時価評価の見直しは行いません(追加取得後も子会社の資産負債は支配獲得時の時価評価の価額で合算し続ける)。
もちろん会計理論上はそもそも子会社の資産負債は帳簿価額で合算すべきではありますが、支配獲得時の時価評価を所与のものとするなら、
一応子会社の資産および負債の時価評価の見直しは行わないというこの考え方は正しいわけです。
この考え方・基準は、子会社株式を追加取得しただけなのだから、
連結財務諸表上の子会社の資産負債の価額の連続性が失われることがあってはならないから、ということが背景なのだと思います。
支配獲得時に時価評価するというだけですと、一応「連結財務諸表上の」子会社の資産負債の価額の連続性は保たれると言えるわけです。
もちろん、子会社単体の財務諸表と連結財務諸表上の子会社の資産負債との連続性・整合性は支配獲得時の時価評価により完全に失われますが。
以上のことを考えますと、海外子会社の資産負債を期末日毎に時価評価し直おしてしまうと、
支配獲得後に子会社株式を追加取得した時に子会社の資産および負債の時価評価の見直しを行うことと同様、
連結財務諸表上の海外子会社の資産負債の価額の連続性が完全に失われてしまうわけです。
かと言って、海外子会社の資産負債を期末日毎に時価評価し直おさないとなりますと、海外子会社の財務諸表を合算できないわけです。
日本企業の連結財務諸表に合算できる財務諸表は、日本円建ての財務諸表だけなのですから。
支配獲得後の各期末日に支配獲得時の為替レートで日本円建てに換算するわけにはいかないでしょう。
それは既に、時価でも帳簿価額でもないでしょう。
究極的な結論を言えば、海外子会社の財務諸表は連結財務諸表に合算できない、となります。
この理由は、通貨が異なるからと言うより、より正確に言えば、変動為替相場制だから、となります。
固定為替相場制であれば、少なくとも連結財務諸表上の価額の連続性だけは保てると思います。
仮に、固定為替相場制であり、1ドル=100円だとしましょう。
貸借対照表の全勘定科目も、損益計算書の全勘定科目も、全ての勘定科目を一律に1ドル=100円で日本円建てに単純換算すれば、
少なくとも価額の連続性だけは担保された連結財務諸表が作成できると思います。
ここでの「価額の連続性だけは担保された」とは、「経営の結果のみを最大限反映した」というような意味です。
経済的には、1ドルと100円は等しい(等価である)と思います。
銀行に1ドル硬貨を持っていけば、100円玉と交換してくれるでしょう。
しかし、商取引の上では必ずしも1ドルと100円は等しい(等価である)とは限りません。
例えば近所のスーパーやコンビニで1ドル硬貨は使えるでしょうか。
使えないでしょう。
その理由は結局のところ、1ドルと100円は違う、ということではないでしょうか。
利便性、使い勝手、取引相手の許容度、社会での認知度、信頼性、自社で債務の弁済に充てられるか、自社で給与支払いに使えるか、などなど、
そういったことまで含めて一つの通貨(日本でいえば「円」)なのではないでしょうか。
仮に固定為替相場制であっても、どこまでいっても1ドルと100円は違うのだと思います。
それは結局のところ、国や社会的背景といった非常に大きなことが理由となろうと思います。
そういったことを考えますと、実は「通貨を他の通貨建てに換算すること自体ができない」と言わねばならないのだと思います。
売上高100円と売上高1ドルはやはり違うでしょう。
売上高1ドルを売上高100円というふうに円建てに換算しても、売上高は合計200円にはならないのではないでしょうか。
売上高はやはり、100円と1ドルのままでしょう。
数字だけは1ドルを100円に換算できるものですから、表面上売上高は合計200円だと言っているだけなのではないでしょうか。
概念的な話になりますが、各国での経営や商取引を考えますと、仮に固定為替相場制であっても、
海外子会社の財務諸表は連結財務諸表に合算できない(会計上海外子会社を連結の範囲に含めることはできない)と言わねばならないのでしょう。
まあ、この話を深めていきますと、たとえ日本国内のみであっても、結局、親会社の売上高と子会社の売上高は違うのではないか、
つまり、親会社の売上高と子会社の売上高を合算することはできないのではないか、というところまで話がさかのぼるかもしれませんが。
概念的な話になりますが、実は連結財務諸表は作成できない(表面上数字を合算しているだけ)、という見方もなくはないかもしれません。
これらの違いはどこまでを所与のものとするかの違いに過ぎないとは思います。
個人的には、時価評価などせず子会社の帳簿価額をそのまま合算するのなら、概念的には連結財務諸表はあり得ると思います。
ただ、海外子会社の場合ですと、子会社の帳簿価額をそのまま合算しようと思っても合算できない(財務諸表が外国通貨建てだから)
わけでして、その場合は合算に際して不可避的に子会社の資産負債の評価替えのようなことを行わなければならないわけです。
海外子会社の財務諸表を合算した連結財務諸表は概念的にあり得るかどうかは話は難しいと思います。
要するに、どこまでをありと考えるか、つまり、どこに線を引くかにより、物の見方や見解が違ってくるのだと思います。
個別財務諸表(法人単位の計算)のみが正しいのか、それとも、海外子会社の財務諸表も時価評価の上合算した連結財務諸表も正しいのか、
この問いに絶対的な答えはないと思います。
何を基準に物事を見るかで答えは変わってくるでしょう。
ただ、基本的考え方としては、価額の連続性を失わせるような会計処理はいずれの場面においても最大限避けるべきであろうと思います。