2014年8月7日(木)



2014年8月6日(水)日本経済新聞 公告
合併公告
三菱重工冷熱株式会社
クサカベ株式会社
(記事)





2014年8月1日(金)日本経済新聞 公告
合併公告
森ビル株式会社
(記事)



【コメント】
各社のサイトを見てみたのですが、これら合併公告に関するプレスリリースはないようでした。
これら合併公告に関するプレスリリースを探していて、あるプレスリリースを見つけました。
三菱重工業株式会社が新株予約権を発行する、という内容です。


2014年7月31日
三菱重工業株式会社
株式報酬型ストックオプション発行に関するお知らせ
ttp://www.mhi.co.jp/news/story/pdf/1407315554.pdf

9. 組織再編における募集新株予約権の消滅及び再編対象会社の新株予約権交付の内容に関する決定方針
(2/4ページ)



このプレスリリースには総称して”組織再編行為”という表現が使われていますが、合併に即して端的に言えば、
「組織再編おいて、存続会社は、消滅会社の義務と文字通り全く同一の義務を承継する。」
となります。
このように書きますと、当たり前ではないかと思われるかもしれません。
異なる義務を承継することなどあるのか、と思われるかもしれません。
結論を先に言えば、「異なる義務を承継することがある」となります。
それはどういう場合かと言うと、まさにキャプチャーしました「新株予約権の承継」です。
以下、主に合併に即して書いていきたいと思います。
他の組織再編行為に関しても、事の本質は合併と同じと言えるかと思います。

 



「組織再編における募集新株予約権の消滅及び再編対象会社の新株予約権交付の内容に関する決定方針」とのことですが、
「組織再編における募集新株予約権」と「再編対象会社の新株予約権」の権利内容は果たして同じでしょうか。

Are these two stock purchase rights the same?
One is the extinct company's stock purchase right and the other is the surviving company's.
(これら2種類の新株予約権は同じものなのだろうか。
一方は消滅会社の新株予約権であり、他方は存続会社の新株予約権なのだが。)


合併に伴い新株予約権を承継すると言いますが、率直に言えば、
消滅会社発行の新株予約権と存続会社発行の新株予約権とは、権利内容が実は根本的に異なる、と言えるわけです。
なぜなら、消滅会社発行の新株予約権は消滅会社の株式を交付するという権利内容であるのに対し、
存続会社発行の新株予約権は存続会社の株式を交付するという権利内容となっているからです。
権利内容が同じだ(全く同一の義務を承継した)というのなら、
存続会社発行の新株予約権は消滅会社の株式を交付するという権利内容となっていなければならないはずです。

存続会社は消滅会社発行の新株予約権を承継したわけですが、
その新株予約権はあくまで「消滅会社株式を発行する」という内容の新株予約権です。
消滅会社は文字通り既に消滅してしまっているわけですから、
存続会社は当該新株予約権の行使が行われても新株予約権者へ株式を交付できないわけです。
これらの条項が意図しているように、存続会社は存続会社株式なら交付できるでしょう。
しかし、存続会社はどうやっても消滅会社株式は交付できないでしょう。

プレスリリースの記載内容を踏まえれば、合併前後で条件が同じになるよう、
存続会社の新株予約権を交付する旨を、吸収合併契約において定める、ということのようです。
存続会社は実は法的には全く新しい新株予約権を新たに交付するわけですが、
消滅会社の新株予約権者にとっては義務が存続会社に承継されたかのように見せているわけです。
ただ、交付する株式は消滅会社株式から存続会社株式に変更になるわけですから、
法律的に厳密に言えば、新株予約権の権利内容が変更になったと言わねばならないでしょう。
また、この義務の承継(権利内容の変更)には、他にも大きな問題点があると思います。

 


例えば、仕入債務であれば、合併前と全く同じ条件で弁済を受けることができるわけです。
消滅会社と約束した通りの弁済期日に約束した通りの金額の弁済を受けることができます。
ただ単に債務者が変更になったというだけです。
債権者にとっては自分の権利内容に全く変動はないわけです。
しかし、新株予約権の場合は、債権者にとっては自分の権利内容に変動が生じているのです。
債権者は消滅会社(債務者)と約束した通りの「物」を存続会社(義務の承継者)から受け取ることはできないのです。
約束した通りの「物」とは、ここでは、消滅会社(債務者)株式を指しているわけですから。
債権者は所定の期日に現金や会社財産を受け取るという内容の権利の場合は、
債務者が消滅会社から存続会社に変更になっても、債権者は全く同じ条件の債務の履行を債務者から享受できます。
現金は誰が持っていても現金ですし、不動産などの会社財産も誰が持っていても全く同一の会社財産であると言えるでしょう。
しかし、専ら消滅会社のみに帰属している義務内容と言いますか、その消滅会社だったからこそ負うことができた特有の義務というのは、
存続会社は承継しようと思っても承継できないわけです。
新株予約権者は当時、あくまで消滅会社株式を取得したいと思ったのです。
だから、新株予約権者は当時、「消滅会社株式の交付を受けることができる権利」を取得したわけです。
それなのに、今になって、代わりに存続会社株式はどうでしょうか、などと言われても新株予約権者は納得できないでしょう。
新株予約権者の立場になってみると、「当初の約束とは違うではないか」と言いたいでしょう。
「私は約束当時、消滅会社株式を取得したいと思っていました」と言う方に筋があるでしょう。
消滅会社株式よりも存続会社株式の方が価値が高いということであれば、まだ納得もできるかもしれません。
しかし、消滅会社株式よりも存続会社株式の方が価値が低い場合は到底納得できるものではないでしょう。

 



また、この場合の価値の高い低いは金銭的価額では表現し切れないわけです。
なぜなら、株式の場合は議決権割合が関係して来るからです。
例えば、消滅会社の新株予約権を大量に所有している新株予約権者がいるとしましょう。
新株予約権者は約束当時、有事の際は例えば3分の1超の株式を即座に取得する算段であったわけです。
その理由は、消滅会社の経営を守るためです。
新株予約権という形ではなく、はじめから株式を取得してもよかったのですが、
普段から大株主として名を連ねるのも何ですし、会社の他の株主のため会社からの配当金を受け取るのも自分は控えたいと考えていたわけです。
ですから、株式としては所有していなかった(株主にはならなかった)わけです。
ところが今になって存続会社株式を受け取っても、議決権割合はわずか数パーセントにしかならないわけです。
消滅会社の経営を守ろうと思っていたのに、消滅会社の義務が存続会社に承継されてしまったために、目的を果たせなくなってしまったわけです。
今さら存続会社株式を交付されてもな、という思いを新株予約権者が抱いていも何らおかしくはないでしょう。

 



以上の設定は架空の話ですが、より実務を踏まえた話をすると、このたびの合併公告には、

>この合併に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。

と書かれています。
いわゆる合併の債権者保護手続きですが、会社法上は、債権者が異議を述べた場合、
合併に異議のある債権者に対しては、債務の弁済又は相当の担保の提供等をせねばなりません。
しかし、同じ異議のある債権者でも、新株予約権者の場合は、債務の弁済又は相当の担保の提供等の行いようがないわけです。
この場合、債権者が行ってもらいたいのは弁済ではなく、株式の交付なのですから。
株主総会での承認決議が既に取られてしまっている場合は、潜在株主としても債権者としても、
新株予約権者は合併に異議の述べようがない、ということになると思います。
また、合併に際し債権者保護手続きが義務付けられている趣旨・目的というのは、
債権者の債権回収を事前に保護することであるわけです。
新株予約権者の権利行使を保護することは債権者保護手続きの対象外となるのかもしれません。
会社法上明文の規定はないのかもしれませんが、新株予約権者には個別催告の義務はないのかもしれません。
新株予約権者は株主でもなく、そしてまた、金銭面に関しては債権者でもない、という法的位置付けなのでしょう。
このことは間接的に、株式会社の概念に照らせば、
「株式を発行する義務」や「株式の交付を受ける権利」ということ自体が、法理的・概念的におかしい、
ということを示唆しているようにも思えます。
「株式の発行を約束する」ということ自体が、株式会社の成り立ちから言えばおかしいのだと思います。
株式の発行は、今払い込みを受けて即座に発行するか、未来永劫権利も義務もないか、のどちらかしかないのだと思います。

 



これもまた、株式会社の成り立ちにまでさかのぼる話なのだと思います。
例えば、Aという株主とBという株主が契約を結び、
「このような出来事が将来発生した場合は、AはBへ所有する株式を何株何円で譲渡する。」
という約束をすることは全く自由なのだと思います。
これは純粋に株主間の契約であり、私的自治の原則の範囲内のことであるわけです。
しかるに、会社自身とある人物Cとが契約を結び、
「このような出来事が将来発生した場合は、会社は新株式を発行しCへ何株何円で交付をする。」
という約束をすることは株式会社の概念に照らして考えみると根本的におかしいことなのだと思います。
株式というのは、そもそも「会社に対する権利を表象するもの」であるわけです。
議決権という権利に従う義務があるという意味において、株式会社は債務者であるわけです。
「会社に対する権利を表象するもの」を債務者である会社が発行することを約束するというのは概念的におかしいわけです。
「会社に対する権利を表象するもの」を発行することを意思決定する権利があるのは、
既にその「会社に対する権利を表象するもの」を所有している株主のみでしょう。
例えば、株主が1人のみ(D)だとして、その株主が、今後会社が新株式を発行し交付することを他の誰か(E)と約束したとします。
この約束自体は、純粋に私人間の契約であり、私的自治の原則の範囲内のことであるように思えます。
この場合、債権者はE、債務者はあくまでDです。
このような当事者間の約束であれば問題はないと思います。
しかるに、会社自身が当事者となって、今後会社が新株式を発行し交付することを他の誰か(F)と約束する、というのはおかしいわけです。
この場合、債権者はF、債務者は会社ということになります。
しかし、会社にはそもそも「将来株式を発行する」という義務など負えないでしょう。
なぜなら、会社には「株式を発行する」権利などないからです。
「株式を発行する」権利があるのは株主のみです。
会社は株主の意思決定に基づき、株式を発行するだけです。
会社はあくまで株式の「発行体」という法的位置付けに過ぎず、決して株式発行の意思決定者ではないのです。
ある法律行為を行う権利がない者に、その法律行為を行う義務を負うことは法理的・法概念的にできないのではないでしょうか。
ある法律行為の権利の主体でないならば、その法律行為の義務の主体となる資格は有しない、と言えばいいでしょうか。
もっと簡単に、権利があるから義務を負える、と言えばいいでしょうか。
あることに関する権利がないならそのことに関する義務も果たせないはずだ、という法の論理の流れがあるわけです。
会社には、「将来株式を発行する義務」の主体となる法的資格はない、他の言い方をすれば、
「将来株式を発行することを約束する」という法律行為を有効に行うための要件を会社は有しておらず、
商法概念に照らせば、特に権利能力と行為能力を有していない、と表現できるでしょう。
つまり、会社には法的に「将来株式を発行する義務」を負うことはできませんので、法理的には会社は新株予約権を発行できないのです。