2014年7月12日(土)



2014年7月12日(土)日本経済新聞 公告
第72期決算公告
株式会社ロッテホールディングス
第8期決算公告
株式会社ロッテ
(記事)


 



【コメント】
昨日のアイ・ティー・エックス株式会社の決算公告についてのコメントに追加をします。
私は昨日、アイ・ティー・エックス株式会社は会社分割に伴い設立されたか、事業譲渡の受け皿会社として設立されたかのどちらかだ、
と書きました。
この点に関してなのですが、アイ・ティー・エックス株式会社の貸借対照表には賞与引当金と退職給付引当金が計上されています。
また、今日の株式会社ロッテの貸借対照表にも、賞与引当金と退職給付引当金が計上されており、
さらに、役員退職慰労引当金と環境対策引当金が計上されています。
株式会社ロッテもアイ・ティー・エックス株式会社同様、会社分割もしくは事業譲渡により設立された会社です。
ここでの論点を簡単に言えば、どちらも会社分割もしくは事業譲渡により設立された会社なのですが、
既に両社に計上されている各種引当金はどのような経緯で計上されたものなのだろうか、という点になります。
言い換えれば、引当金は承継することができるのか否か、という点になります。
結論だけ先に言えば、引当金は承継できません。
なぜ引当金は承継できないのかについてはいくつかの説明方法があると思います。
一番簡単な説明は、法律面からの説明でしょうか。
すなわち、引当金は確定債務ではないからだ、という説明になります。
承継するためには、資産であれ負債であれ権利であれ義務であれ、法的な形を伴った物事・事物でなければならないわけです。
法律の器に入った資産負債権利義務でなければ、法的に承継させようがないわけです。
事業譲渡であれ会社分割であれ、「これとこれとこれとこれを承継する。これとこれとこれとこれは承継しない。」というふうに、
文字・言葉で承継内容を定めるわけです。
資産であれば現に所有権があるであったり弁済を受ける金額であったり、負債であれば今後現に弁済を行っていく金額であったり、
権利であれば権利内容が記載された書類であったり、義務であれば同じく義務の内容が記載された書類であったり、
具体的に資産負債権利義務の内容を記載できないといけないわけです。
漠然と、当該事業に関する経営資源を承継する、では承継ならないわけです。

 


では引当金はと言いますと、確かに会計上は負債性があるということで保守主義の原則の観点から引当金を計上したわけですが、
それは何ら法的義務や具体的弁済額を表してはいないわけです。
当期に帰属させるべき将来の現金支出額を会計上保守的に見積もりました、というだけでしょう。
その現金支出を行うことは法的には確定していないわけです。
仮にその現金支出を行うことが法的に確定している場合は、引当金勘定ではなく未払金勘定になると思います。
引当金勘定は保守的な会計処理の結果ですが、未払金勘定は法的義務の結果です。
引当金は負債性とは言います(確かに将来その価額分の現金支出を余儀なくされる可能性は非常に高い)が、
現時点ではまだ確定債務ではありませんし法的義務ということとも違います。
しかし、未払金は既に法的に確定した負債であり債務であり義務でしょう。
引当金計上の際も未払金計上の際も、仕訳により借方では費用計上を行うわけですが、
その費用の法的な確定度合いというのは、ある意味根底から異なることでしょう。
引当金は法的にはまだ確定していませんから、引当金勘定は取り崩し(戻し入れ)を行うことがあり得るわけです。
しかし、未払金は既に法的に確定していますから、未払金勘定には取り崩し(戻し入れ)など絶対に起こり得ないわけです。
相手方が債権放棄をするというのなら話は別ですが。
未払金勘定は紛れもなく支払う義務の金額を表しているわけです。
そういうわけで、未払金勘定であれば承継できますが、引当金勘定は承継できないわけです。
極端に言えば、引当金は法的には何も表していないのです。
引当金計上により、会計上は利益剰余金を減少させたかもしれません。
しかし、法律上はそれが一体何を意味するというのでしょう。

 



次の説明方法は会計面からの説明になります。
会計面からの説明は以下のようになります。
引当金を計上するということは、引当金に相当する費用を会社が負担する、ということです。
では承継会社はその費用を負担したでしょうか。
してはいないでしょう。
なぜなら、その費用を負担したのは分割会社(事業譲渡会社)だからです。
今日のロッテ・グループで言えば、引当金の費用を負担したのは分割会社である株式会社ロッテホールディングス、
(引当金を承継しているとすれば)引当金を計上しているのは承継会社である株式会社ロッテ、となっているわけです。
株式会社ロッテホールディングスの利益剰余金は分割後の今も今後も減少したままですし、
株式会社ロッテは承継後の今も今後も費用負担のないまま引当金を計上することになります。
引当金の承継というのは、費用の負担と引当金計上の整合性が全くないわけです。
引当金を計上してよいのは、引当金計上の費用を負担した会社のみです。
費用を負担してもいないのに、引当金だけが承継会社に承継されるというのはやはりおかしいわけです。
以上が引当金は承継できない会計面からの説明になります。

 


このように説明をすると、では売上債権や仕入債務の承継はどうなるのか、と思われるかもしれません。
承継会社では売上を実現していないし仕入も発生していないではないか(分割会社にて実現・発生した収益費用であり債権債務ではないか)、
と思われるかもしれません。
この点については次のように説明できると思います。
すなわち、承継会社では売上が既に実現し終わっているし仕入も既に発生し終わっているからこそ、逆に承継可能と言えると思います。
つまり、取引は既に完了している(収益額と費用額も既に確定している)ので、債権債務だけを取り出して他者へ承継が可能である、
という説明になろうかと思います。
分割会社の方で利益額も確定しているわけです。
その利益額が今後変動することはないわけです。
もう取引は終了しています。
ですから、売上債権を法的に確定した一資産(一会社財産)として承継が可能なのです。
利益剰余金への影響を考えますと、会計上は利益額が確定しているという点が重要であるように思います。
この点、引当金は”ある意味”まだ発生していないのです。
費用額も確定しておらず、利益額も確定していません。
取り崩し(戻し入れ)もあるかもしれません。
取引はまだ完了していないのです。
したがって引当金は承継のさせようがないわけです。
確かに売上も仕入も分割会社で実現・発生したものだが、取引は分割会社内で既に完了しているため、
売上債権と仕入債務は承継させることが可能、と説明できると思います。
引当金というのは、悪く言えば、便宜上のものに過ぎない、という側面があるのだと思います。
もちろん、保守主義の原則(債権者保護)の観点から言えば、会計上は引当金計上は適切に行っていかねばなりませんが。

 


売上債権も仕入債務も未払金も、取引は終了しています(支払いや受け取りだけがまだというだけ)ので、
一債権債務ということで収益計上や費用計上とは独立した形で他の会社への承継が可能なのです。
これに対し、引当金は取引はまだ継続中であり、費用計上とまだ深く関連したままであると言えるので、
引当金を他の会社へ承継させることはできないのです。
取引は終わっていませんから、引当金計上に関する仕訳を今後も切ることでしょう。
その時、その仕訳は分割会社、承継会社、どちらで切るというのでしょうか。
分割会社ではそもそもちぐはぐでしょうが、承継会社で切るとしても引当金額と同じ費用は承継会社で計上していないではありませんか。
引当金と呼ばれる勘定科目の本質を考えれば、ある意味引当金計上に終わりはないと表現できるかもしれません。
なぜなら、将来の現金支出額は厳密には確定していない・まだ決まっていないからです。
現時点で、将来の現金支出額が正確に分かるはずがないでしょう。
そういうわけで、引当金は承継させることができないのです。
以上の議論を踏まえ、やや乱暴に言えば、法律上は引当金などない、と言っていいのかもしれません。

 

Strictly speaking, provision does not actually accrue.
To put it differently, a company does not actually burden the provision.
In still other words, on corporate accounting provision accrues, but on cash basis accounting it actually doesn't.

厳密に言えば、引当金は実際には発生していないのです。
他の言い方をすれば、会社は引当金を実際には負担していないのです。
さらに他の言い方をすれば、企業会計上は引当金は発生しているのですが、現金主義会計上は引当金は実際には発生していないのです。