2014年7月4日(金)



2014年7月1日(木)日本経済新聞
■東北電力 社債を実質期限前償還
(記事)




過去の社債情報
ttp://www.tohoku-epco.co.jp/ir/stock/bond_info/archive.html

 


金融用語辞典
ディフィーザンス (defeasance)
ttp://money.infobank.co.jp/contents/T400039.htm

 



【設例】
東北電力は1996年4月に20年物の普通社債500億円(利率は年5%)を発行した。
このたび東北電力は、当該社債の期限前償還か利率を4%に引き下げることを社債権者にお願いしたが、社債権者は同意しなかった。
そこで東北電力は、信託銀行を使って、4%へ利率の引き下げを行うことにした。


この「実質的ディフィーザンス」という仕組みは財務的には2通りの見方ができる。
1つは、東北電力発行の当該社債と全く同じ条件の社債を信託銀行が発行し、現在の東北電力の社債権者に引き受けてもらうと同時に、
当初の東北電力発行の社債は償還に応じてもらう、という見方。
東北電力は社債を償還できたのでめでたしめでたし。
ただ、信託銀行に対しては謝礼として、今後年4%の利息を支払うことになった(もちろんそれでも5%よりは小さいのでメリットがある)。
これは社債権者から見ると、全く同じ条件の社債権の借り換え(一種のデット・デット・スワップ)となる。
条件等だけ見れば、社債権者にとっては実質的には何も変わっていないと言える。
ただ、利払いや元本の償還を行う相手が東北電力から信託銀行に変わるだけだ(条件は同じだから同意した)。

もう一つの見方は、信託銀行が年4%の利率の社債を新たに発行し、それを東北電力が引き受けると同時に、
当初の東北電力発行の社債権者には東北電力発行の社債の償還には応じてもらう、という見方。
ただし、元本は償還するが、社債権者には当初の約束通り年5%の利息を支払い続ける。
これは社債権者から見ると、全く同じ条件の社債権の借り換え(一種のデット・デット・スワップ)となる。
条件等だけ見れば、社債権者にとっては実質的には何も変わっていないと言える。
むしろ、利率は同じで元本の償還だけは先に行われた分有利と言える(条件が有利になったから同意した)。

 


実は上記2つの見方にはどちらも少しおかしなところがある。
記事には、東北電力は信託銀行に社債の元本と利息を振り込むと書かれているので、
信託銀行が利率の低い社債を発行しそれを東北電力が引き受けたもの、と考えた。
これが上記2つの見方のうち後者の見方。
また、記事だけ読むと、東北電力の社債権者が信託銀行発行の社債を引き受けるといったことは書かれていないが、
そう考えないと、東北電力の社債権者が信託銀行から利息と元本の返済を受け取ることの説明がつかないと考えた。
どちらにせよ、何か十分な説明がつかない感じがする。
この原因は、煎じ詰めれば、「利息や元本はあくまで債務者から債権者に対して支払われるもの」という基本的関係が、
「実質的ディフィーザンス」という仕組みでは崩れているからだと思う。
このたびの事例に即して簡単に言えば、東北電力の社債の利息や元本を信託銀行が代わりに社債権者に支払うということ自体ができない、
と言っていい(だから債権者と債務者の関係を無理やり作り出すために、上記のように敢えて信託銀行が社債を発行すると考えた)。
債務者の利息や元本を第三者が代わりに債権者に支払うというような債権債務の関係はない。
債権者から見ると、「債務者が変わっている」、という点が事の本質だと思う。


利息の関係だけを取り出して、この問題点を図を描くと以下のようになる↓。

「実質的ディフィーザンスとやらの問題点」




【問題点】
債権者から見ると、債務者が変わったことになる。
債務が当初の債務者から全くの第三者へ譲渡された、と表現してもよいだろう。
債権者は「当初の債務者なら債務を弁済できる」と判断したからこそ商取引を行ったわけなので、
債務者の第三者への債務譲渡に債権者が同意するのは、当初の債務者の保証がある場合のみだろう。

このようなことが可能であるためには、信託銀行は常に「必ず」5%を超える資金運用ができなければならない。
しかし、そのことは社債権者には分からないだろう。
「東北電力なら元本の返済はもちろん、5%の利息を支払える」と判断したからこそ、
社債権者は社債を引き受けたわけだ。
「信託銀行は5%を超える資金運用をできる」という保証(ここでは判断材料という意味だが)はどこにもない。
実質的ディフィーザンスとやらは、法理的にも経済的にもおかしいのだろう。