2014年5月9日(金)



2014年5月9日(金)日本経済新聞
オリックス67%増益 前期最終 リテール事業伸びる
(記事)





2014年5月8日
オリックス株式会社
平成26年3月期決算短信〔米国基準〕(連結)
ttp://www.orix.co.jp/grp/pdf/ir/library/financial_result/ORIXResults2014_4QJ.pdf

 



【コメント】
記事には、

>マンション大手の大京を連結子会社化したのに伴い、保有する優先株の評価益も計上した。

と書いてあります。
決算短信(4/23ページ)には、

>株式会社大京(以下、大京)を平成26年2月27日に連結子会社化したことに伴い評価益58,435百万円を計上した

と書いてあります。
これはおそらく、「負の連結調整勘定(負ののれん)の償却額」のことだと思います。
一応、決算短信(4/23ページ)には、

>大京の連結子会社化に伴い営業権やその他の無形資産を計上した

とも書いてありまして、米国基準(現行の日本基準でも同じかもしれませんが)ではのれんを無形資産に計上できはします。
ただ、支配獲得時の投資と資本の連結修正消去仕訳を書いてみますと、負ののれんが計上されるとしか計算されないことが分かります。
支配獲得時の投資と資本の連結修正消去仕訳を書いてみましょう。

 


株式会社大京を連結子会社化したことに関する、オリックス株式会社の支配獲得時の投資と資本の連結修正消去仕訳

(大京資本金) aaa     / (大京普通株式) ccc
(大京利益剰余金) bbb     (大京優先株式) ddd
                    (少数株主持分) eee
                    (連結調整勘定) fff


オリックス株式会社はこれまで株式会社大京へ出資するに際し、直接に株式会社大京の第三者割当増資を引き受けてきたのだと思います。
オリックス株式会社は発行済みの大京株式を既存株主から相対取引もしくは株式市場もしくは公開買付で取得したわけではないわけです。
つまり、「オリックス株式会社の出資額=株式会社大京の増加資本金額」となっているのだと思います。
すると、上記の仕訳で言えば、必ず、

aaa > ccc + ddd
bbb > 0

の2つが成り立っているわけです。
当然のことながら、

aaa + bbb > ccc + ddd

が成り立っています。
すなわち、

eee + fff > 0

が成り立っています。
貸借の差額を考えれば、簿記に即して言えば、
この場合(少数株主持分は当然貸方残高ですが)「連結調整勘定は貸方残高である」、ということが言えるかと思います。
そうしますと、支配獲得に際し負の連結調整勘定が計上されたと言うことで、
この負の連結調整勘定を当期末に一括して全額償却したのだと思います。
すなわち、「fff=58,435百万円」なのだと思います。

 



問題は、少数株主持分の価額である「eee」です。
話の簡単のために、以下のような設定にします。
大京資本金=900億円、大京利益剰余金=100億円(大京株主資本合計1000円)、
オリックスは大京の普通株式(議決権あり)の60%を所有(所有株式の価額は60億円)、
優先株式(議決権なし)の80%を所有(所有株式の価額は640億円)、だとします。
この場合、少数株主持分は、
(900億円+100億円)×(1−60%)=400億円
と計算されます。
したがって、貸借の差額より連結調整勘定は算出されますので、連結修正消去仕訳は以下のようになります。


(大京資本金) 900億円    / (大京普通株式) 60億円
(大京利益剰余金) 100億円   (大京優先株式) 640億円
                          (少数株主持分) 400億円
                          (連結調整勘定) −100億円


・・・連結調整勘定が借方残高になっています。
これはあり得ないかと思います。
どこが間違っているのでしょうか。

 



この原因は少数株主持分の計算が間違っていることにあると思います。
私が思うに、少数株主持分は「普通株式に関する少数株主持分」と「優先株式に関する少数株主持分」
の2つに分けて計算しないといけないのではないかと思います。
例えば以下のようにです。

普通株式に関する少数株主持分=(普通株式に帰属する大京資本金+普通株式に帰属する大京利益剰余金)×(1−60%)
優先株式に関する少数株主持分=(優先株式に帰属する大京資本金+優先株式に帰属する大京利益剰余金)×(1−80%)

この両者の合計が少数株主持分になる(もしくはこのまま両者を区分して連結貸借対照表に計上する)、ということになると思います。

ただ、昨日のアリババのコメントでも書きましたように、
大京の資本金と大京の利益剰余金を、普通株式に帰属する分と優先株式に帰属する分とに分けられないのではないかと思います。
一応資本金だけは株式毎の払い込み金額が分かりますから、払い込み金額を基準に分けられなくはないと思います。
しかし、優先株式は転換したり償還したりします。
優先株式の価額と資本金の増加額とは実際には全く一致しないでしょう(優先株式発行時のみ一致するだけ)、
利益剰余金に関してはもはや言うまでもないと思いますが、普通株式に帰属する分と優先株式に帰属する分とに全く分けられないでしょう。
各期の当期純利益額も分けられませんし、既存の利益剰余金も分けられないでしょう。
無理やり帰属基準を考えれば、例えば、資本金は株式発行時の価額で分けることにし(もしくは転換・償還後の現在の残高で分ける)、
利益剰余金は、既存の及び今後計上していく当期純利益は優先株式償還に必要な価額は全て優先株式に帰属、
それ以外の利益剰余金のみ普通株式に帰属、などという基準は考えられるかとは思います。
ただそれでも、”普通資本金”と”種類資本金”は本質的に異なるという点(償還したら種類資本金を減少させるべきではないか等)や、
十分な利益剰余金がない状況下では、大京利益剰余金を分けられないといった点が問題とはなります。
いずれにせよ、会計理論上整合性が取れないことになると思います。

 



参考までに、ここでは各価額は全く適当に決めるとして、
普通株式に帰属する大京資本金=100億円、普通株式に帰属する大京利益剰余金=10億円、
優先株式に帰属する大京資本金=800億円、優先株式に帰属する大京利益剰余金=90億円、
としますと、次のように計算できます。

普通株式に関する少数株主持分=(100億円+10億円)×(1−60%)=44億円
優先株式に関する少数株主持分=(800億円+90億円)×(1−80%)=178億円

すると、少数株主持分はこの両者の合計ということで、222億円ということになります。
すると、連結修正消去仕訳は以下のようになります。


(大京資本金) 900億円    / (大京普通株式) 60億円
(大京利益剰余金) 100億円   (大京優先株式) 640億円
                          (少数株主持分) 222億円
                          (連結調整勘定) 78億円


それとも、こう書いた方がよいでしょうか。


(普通株式帰属大京資本金) 100億円   / (大京普通株式) 60億円
(優先株式帰属大京資本金) 800億円      (大京優先株式) 640億円
(普通株式帰属大京利益剰余金) 10億円    (普通株式に関する少数株主持分) 44億円
(優先株式帰属大京利益剰余金) 90億円    (優先株式に関する少数株主持分) 178億円
                                     (連結調整勘定) 78億円

 
連結調整勘定はただの貸借の差額に過ぎません。
連結調整勘定は全額が親会社株主に帰属しています(と連結会計では考える)。
連結調整勘定の償却は連結損益計算書に損益として計上されます。


次のようなプレスリリースもありました↓。

 

2014年5月8日
オリックス株式会社
剰余金の配当に関するお知らせ 
ttp://www.orix.co.jp/grp/pdf/news/140508_ORIXJ.pdf

1.配当の内容
(1/1ページ)


>本件は、当期(2014 年3 月期)にかかる計算書類の法定監査を経て、
>2014 年5 月22日に開催される取締役会において正式に決定される予定です。

と書いてあります。
2014年5月22日までに、会計監査人(監査法人)による計算書類の監査と、監査役会による監査報告の作成・提出が完了する、
というスケジュールのようです。
配当の効力発生日(実際の支払日)は2014年6月3日と書いてあります。
一方、株主総会は2014年6月24日の予定です。
つまり、株主総会の開催の前に会社は配当を支払う、と言っているわけです。

株主はまだ、委任した経営陣から事業報告を受けていないにも関わらずです。
配当を受け取ってから事業報告を受けてどうするのでしょうか。
配当というのは、経営陣から事業報告を受けてから株主が決定するものです。
当期の経営の結果がどうであったか分からないのに、どうやって株主は配当を決定できるというのでしょうか。
それならいっそのこと、取締役の選任も株主総会開催の前に行ってしまってはどうでしょうか。
取締役の選任を株主総会開催の前に行うのはおかしいというのなら、配当額の決定を株主総会開催の前に行うのも本来おかしいわけです。

 



それにしても、委員会設置会社というのは本当におかしな会社制度だと思います。
株主が決定・選任できるのは「取締役」という会社機関だけなのですから。
各委員会の存在意義も株式会社の概念からはかけ離れた設計になっています。

監査委員会→監査は全取締役が共同して行うべき職務であるはず。
報酬委員会→業務を執行するものと監査を行うもの(要するに会社機関)へ支払う報酬は株主の専決事項のはず。
指名委員会→業務を執行するものと監査を行うもの(要するに会社機関)の選任は株主の専決事項のはず。

現行の委員会設置会社では、株主は「取締役」しか選任できないわけです。
しかも、株主総会へ提出するその「取締役の選任に関する議案」を作成するのは取締役自身(指名委員会)です。
もちろん、株主総会へ提出する議案を作成するのも経営陣が行うべき(株主から委任された)会社の業務の一つであるわけですが、
それはあくまで「株主の代わりとして(株主の代理人として)」行っているに過ぎない(手続き上の理由に過ぎない)わけでして、
概念的には本来は株主が株主総会へ提出する議案を作成しなければならないわけです。
何もわざわざ、「取締役の選任に関する議案」を作成する指名委員会などを設置する話では決してないわけです。
さらに、「業務を執行するもの」を株主が選任できないという点が根本的に間違っているわけです。
現行の委員会設置会社では、株主は「監査を行うもの」しか選任できません。
まあこの点は現行の監査役設置会社でも同じではありますが。
監査は監査でもちろん大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、「業務の執行」そのものではないでしょうか。


株式会社は概念的に表現すれば、
「株主」が (代理人 (agent) に対して)「本人」(プリンシパル、principal)、
「経営陣」が(本人(principal)に委任された)「代理人」(エージェント、agent)、
という機関構造になっています。
「株主−経営陣」という関係は、「本人(principal)−代理人(agent)」という関係と全く同じです。
株主が主、経営陣はあくまで従です。
一般には(法律的には)、経営陣が雇用者、従業員が被雇用者という関係かと思いますが、
概念的には、株主が雇用者、経営陣も株主に雇われているという意味で被雇用者(雇用契約ではなく委任契約ですが)と言っていいと思います。
ところで、英語の「man」には、適任者、代理人、(雇用者に対して)労働者や使用人、という意味があります。
何もかもを経営陣で決定してしまうというのなら、
株式会社という法人は株主のいない「Low Man's Land」(代理人しかいない場所)とでも表現する他ないのではないかと思います。