2014年4月20日(月)
2014年1月13日
サントリーホールディングス株式会社
サントリーホールディングス(株)によるビーム社買収について
ttp://www.suntory.co.jp/news/2014/11942.html
January 13, 2014
Beam Inc.
SUNTORY HOLDINGS TO ACQUIRE BEAM IN $16
BILLION
TRANSACTION
ttp://files.shareholder.com/downloads/
AMDA-DRIR9/2893534676x0x718174/eaa4de9f-026a-474c-b8b4-9520da5f9666/BEAM_News_2014_1_13_Corporate.pdf
サントリーホールディングス株式会社
2013年(平成25年)12月期 第5期有価証券報告書
ttp://www.suntory.co.jp/company/financial/pdf/securities_201312.pdf
その後、サントリーホールディングス株式会社からは何の発表もありませんが、
Beam Inc.
からは逐次計画されている買収手続きについて発表がなされています。
Beam Inc.
は買収手続きの実施のため臨時株主総会を招集することになっています(そして2014年3月25日に承認決議を取ったようです)が、
サントリーホールディングス株式会社は2014年3月下旬に開催した定時株主総会では、特段何の承認決議も取っていないようです。
株式公開買付ではなく株式交換を実施するのだとしたら、これだけ大規模な組織再編なので、
完全親会社となるサントリーホールディングス株式会社でも株主総会の承認決議が必要となるはずだ、と思いました。
サントリーホールディングス株式会社は確かに非上場企業ではありますが、
これだけの規模の株式交換を実施するとなると、さすがに何らかの発表がありそうなものだが、と思いました。
「おかしいな。」と思ったのですが、理由が分かりました。
このたびの「サントリーホールディングス株式会社によるBeam
Inc.
に対する買収」は、
会社法でいう株式交換ではないわけです。
サントリーホールディングス株式会社にとっても、日本の会社法でいう株式交換ではありません。
また、Beam
Inc.
にとっても、現地米国法でいう株式交換ではありません。
では何という法手続きかとと言うと、実は何という法手続きでもないのです。
なぜなら、国が違うからです。
両社は適用される法律が違う、だから、法的に株式交換を実施できないのです。
日本の会社法には株式交換が定義されています。
そして、米国の会社法にも株式交換が定義されています。
しかし、日本の会社が米国の会社に対し株式交換を実施することはできないのです。
なぜなら、同じ法律が適用される場合のみ、株式交換は実施可能だからです。
同じ「株式交換」という法行為でも、サントリーホールディングス株式会社が適用される法律と、Beam
Inc.
が適用される法律は異なるのです。
両法律をまたぐ(つなぐ)国際的法機構(メカニズム)はこの世に存在しません。
ですから、サントリーホールディングス株式会社はBeam
Inc. に対し株式交換という法行為を実施できないのです。
以上書いたことは、「法の適法範囲・有効範囲とは何か」について考えるのに役立つと思います。
「国が違うと法律が違う」とはどういうことか、その一具体例になっているのではないかと思います。
では、サントリーホールディングス株式会社はBeam Inc.
株式の全てを取得すること(株式交換のようなこと)はできないのかと言えば、
間接的・擬似的な株式交換は実施できるかと思います。
その方法についてですが、論理的に考えていけば、「Beam
Inc. と同じ法律が適用される状態を作ればよい。」が解になるでしょう。
ではどうやって、Beam Inc.
と同じ法律が適用される状態を作ればよいのかと言えば、
「米国内にBeam Inc.
株式を取得するための会社を作って、その会社が米国の会社法に従い株式交換を実施すればよい。」、となります。
「米国内に株式を取得するためだけの特別目的会社を作る」とだけ聞くと、何かよく聞く話だな、と思うかもしれませんが、
その法理的背景としては、その目的は「相手方と同じ法律が適用される状態を作り出すこと」にあると思います。
「サントリーホールディングス株式会社」のままでは、米国の会社法が適用されないわけですから。
そういうわけで、厳密に法律的に株式交換を実施するとなりますと、
サントリーホールディングス株式会社が米国内に作った完全子会社(特別目的会社)が実際には実施する、
という間接的・擬似的な手法を取らざるを得ないわけです。
サントリーホールディングス株式会社が米国内に作る完全子会社(特別目的会社)の社名を、
ここでは仮に「Beam
Suntory Inc.」としましょう。
Beam Suntory Inc. が実際にはBeam Inc. に対し米国法に従い株式交換を実施する(Beam
Inc. の全株式を取得する)ことになるわけです。
株式交換実施後、Beam Inc. はBeam Suntory Inc.
の完全子会社になります。
そして、Beam Inc. はサントリーホールディングス株式会社の完全孫会社になります。
仮にその後、Beam
Suntory Inc. がBeam Inc. と合併する(Beam Suntory Inc. が存続会社)と、
Beam Suntory Inc.
は実質的にはBeam Inc. であるわけですから、
概念的に言えば、この合併によりBeam Inc.
はサントリーホールディングス株式会社の完全子会社になるわけです。
サントリーホールディングス株式会社ではこのたびの買収に関し何ら承認決議を取っていないようなのですが、
その理由は、ひょっとしたら、以上のような法手続きによるからかもしれません。
つまり、サントリーホールディングス株式会社は、サントリーホールディングスによるビーム社買収の当事者ではない、ということです。
単に米国内に完全子会社を作るだけだ、と。
完全子会社を作るだけであれば、何ら株主総会決議は取らなくてよい、と。
この考え方・手法を日本国内において応用しますと、「株式交換を実施するのに株主総会決議を回避できる」ということになります。
また、完全子会社との合併も株主総会決議は取らなくてよいので、相手方を株式交換により一旦完全子会社を行えば、
結局のところ、「合併を実施するのに株主総会決議を回避できる」ということになります。
つまり、どんなに相手方の規模が大きくても、株式交換も合併も、株主総会は回避しようと思えば回避できるわけです。
注意が必要なのは、これらは「組織再編の対価が現金の場合」という点です。
対価が株式の場合は株主総会決議が必要になります。
ただやはり、株式交換や合併に際し、株主総会決議は取らなくてよいという問題点は、法制度上一考の余地はあると思います。
株式交換や合併の対価が現金でもよくなったという法改正以前から、この種の問題点はあったかと思います。
つまり、「同じことをしているのならば同じ法手続きが要求されなければならない」というのが法の基本的考え方ではないかと思いますが、
実際には、「同じことをしているのに、一方はある法手続きが要求され、他方は何の法手続きも要求されない」という場面があるわけです。
例えば、同じ「現金を対価とした全株式の取得」でも、
株式公開買付の場合は株主総会は取らなくてよいのに、株式交換の場合は株主総会決議を取らなければならないわけです。
もちろん、株式公開買付の場合は必ずしも機械的に全株式を取得できるわけではありませんが、
株式取得による財務的影響度(手許現金の減少額、会社財産の変化具合)は、株式公開買付と株主交換で全く同じであるわけです。
株式交換を実施するために株主総会決議が法律上必要とされているそもそもの理由は、
戦略面について株主の意思を問うという側面も確かにありますが、
財務的影響度(手許現金の減少額、会社財産の変化具合)に関して株主の意思を問うということだと思います。
また、組織再編は財務的影響度(手許現金の減少額、会社財産の変化具合)は大きいからこそ、
債権者保護手続きも定められているのだと思います。
そうしますと、財務的影響度(手許現金の減少額、会社財産の変化具合)が同じなら、
どのような行為を会社が行おうとも、同じ法手続きが要求されるべきだ、という考え方になるわけです。
そういったことを考えますと、会社法上定義された法行為(株式交換や合併など)であるか否かに関わらず、
一定の定められた財務的基準を超える場合は、会社が行う行為に関しては包括的に法手続きが要求されるよう、定めが必要なのだと思います。
「一定の定められた財務的基準」とは、例えば、総資産額の5分の1以上の額の資産を取得する場合や、
手許現金量の2分の1以上の額が社外流出する場合や、総資産額の5分の1以上の額の債務を新たに負う(負債調達する)場合、などです。
ここで要求されるべき法手続きとは、株主総会の特別決議と債権者保護手続きです。
簡単に言えば、法行為で判断するのではなく財務的影響度(手許現金の減少額、会社財産の変化具合)で判断しよう、というわけです。
これも、株主が定款に定めることにより、一定規模以上の事業運営上の意思決定は経営陣に委任した範囲を超えるものとして、
その都度株主総会決議を経るようにすることは現在でも十分できる(十分に定款自治の原則の範囲内)とは思います。
私としては、さらに株主保護及び債権者保護に重点を置くようにすべきであると考え、
この考え方を会社法自体に定めるべきではないかと思います。
特に、債権者は戦略面についても財務面についても、株主に対しても会社に対しても物が言えないわけですから、
今後の債務の弁済の影響があると考えられる行為に関しては、
会社には厳しい基準によって包括的に債権者保護手続きが課せられるべきだと思います。
現在の債務の弁済をしてもらわなくてはならない既存債権者の立場に立てば、
一定度以上の手許現金の減少と新たな債務の増加に関しては、その都度債権者の意思を問うようにして欲しい、という気持ちだろうと思います。
January 22, 2014
Beam Inc.
BEAM DECLARES REGULAR
DIVIDEND
ttp://files.shareholder.com/downloads/
AMDA-DRIR9/2893534676x0x720353/190dd7b8-beb1-44a0-a2e0-757cdc785e25/BEAM_News_2014_1_22_Dividends.pdf
February 5, 2014
Beam Inc.
Beam Reports 2013 Fourth Quarter and
Full Year
Results
ttp://files.shareholder.com/downloads/
AMDA-DRIR9/2893534676x0x723534/ce94c54f-8f82-48ae-8134-0fef4da345c5/BEAM_News_2014_2_5_Earnings.pdf
February 5, 2014
Beam Inc.
BEAM REPORTS 2013 FOURTH QUARTER AND
FULL YEAR
RESULTS
ttp://files.shareholder.com/downloads/
AMDA-DRIR9/2893534676x0x723443/ee9f997d-0f06-44fd-af9b-13a3080706e3/BEAM_News_2014_2_5_Earnings.pdf
【コメント】
Beam Inc.
は2013年12月期の期末配当も支払うようです。
分配可能な利益剰余金はあるのでしょうから、株主に配当を支払うことは法律上何の問題もないことです。
2014年3月3日から支払開始とのことです。
ただ、2014年2月6日の最終の株主名簿に記載されている株主に支払うというのはおかしいと思います。
会計理論上、配当は貸借対照表の日付である「2013年12月31日」の最終の株主名簿に記載されている株主に支払わなければなりません。
分配可能な利益剰余金はあるのでしょうから、株主に配当を支払うこと自体は法律上何の問題もないことですが。
私がここで思うのは以下の2点です。
一つ目は、サントリーホールディングスが全株式の取得を目指し株式公開買付を実施していたとしたらという仮定の話になりますが、
株式公開買付に応じた株主と応じなかった株主との間で、配当に関して不公平が生じないようにしないといけません。
いわゆる二段階買収の際、株式公開買付の期間と配当支払いの基準日との関係次第では、
株式公開買付に応じなければ配当を受け取ることができ、株式公開買付に応じてしまうと配当を受け取ることができない、
という不平等が生じ得ます。
株式の買い取り価格は、「買付価格=スクイーズ・アウトの価格」で同じなのですから、
その場合は配当ははじめから支払わないという方針にしなければならないでしょう。
二つ目は、サントリーホールディングスが全株式を取得していくことが、法的にはまだ決定ではないものの、
実際には事実上既に決まっている、という点に関連した事柄です。
サントリーホールディングスは2014年1月13日、時価よりも非常に高い価格で株式を買い取ることをビーム社と共同で発表しました。
考えようによっては、この「時価よりも非常に高い価格」に配当分も既に含まれているというような考え方ができないだろうか、と思いました。
つまり、一つ目の問題点とどこか近い話になるのですが、
サントリーホールディングスもビーム社も、株主に配当については気を使わないで欲しい、と、
買い取り価格としては十分高いわけですから、2013年12月期の配当は支払わない方針にしたい、と、
今後のサントリーとのグループ経営・共同事業推進のためにもビーム社の内部留保・手許現金は少しでも厚くしておきたい、と、
そういった解釈・考え方はできないだろうかと思いました。
つまり、サントリーホールディングスは事実上ビーム社の完全親会社になることが決まっていますから、
あとは株式取得のタイミング(スケジュール)だけの話なのですから、
「サントリーホールディングスの意思に基づき」ビーム社は当期は配当を支払わないことを決定する、
というのは法理・法概念上、どのようなことが考えられるだろうかと思いました。
サントリーホールディングスには法律上議決権はないが、配当額と同等かそれ以上の価額を上乗せした買い取り価格を提示することによって、
経営上サントリーホールディングスに擬似的な議決権を発生させる、そして、法的な株式取得に先立ち、
サントリーホールディングスの意思に基づいたサントリー・ビーム・グループの経営を早速開始する、
というような考え方はどうだろうかと思いました。
ビーム社は2013年12月期の期末配当は取締役会決議のみで決定しているようなのですが、
例えば通常通り配当額の決定のためには株主総会決議が必要である場合、
サントリーホールディングスは法的な議決権の取得に先立ち、以上書きましたような手段で既存株主に自らの意思内容を訴えかける、
というような早期グループ経営推進・意思反映方法はどうだろうかと思いました。
非常に概念的な話になってしまったわけですが、市場株価がなく株主数が少ない非上場企業の場合ですと、
私が以上書いたようなことがより当てはまり得るのではないかと思います。
February 19, 2014
Beam Inc.
BEAM SETS SPECIAL SHAREHOLDER MEETING FOR
MARCH 25TH TO VOTE ON ACQUISITION BY SUNTORY
HOLDINGS
ttp://files.shareholder.com/downloads/
AMDA-DRIR9/2893534676x0x727135/bac1f2dc-d9a2-4904-b74f-66c34e9e6570/BEAM_News_2014_2_19_Corporate.pdf
March 5, 2014
Beam Inc.
Beam Announces U.S. Regulatory Clearance
For Proposed Acquisition By Suntory
Holdings
ttp://files.shareholder.com/downloads/
AMDA-DRIR9/2893534676x0x731727/18c99efc-ce55-465f-b15e-43ddbb9720f2/BEAM_News_2014_3_5_Corporate.pdf
March 25, 2014
Beam Inc.
Beam Inc. Stockholders Approve Acquisition
by Suntory
Holdings
ttp://files.shareholder.com/downloads/
AMDA-DRIR9/2893534676x0x736941/362b3f57-4f34-45d5-9716-625c95269568/BEAM_News_2014_3_25_Earnings.pdf
2014年2月19日付けの「BEAM SETS SPECIAL SHAREHOLDER MEETING FOR MARCH 25TH TO
VOTE ON ACQUISITION BY SUNTORY HOLDINGS」には、
>Beam Inc. (NYSE: BEAM) today announced that it will hold a special
meeting of its shareholders on Tuesday, March 25, 2014
>to consider and
vote on the proposed acquisition of Beam by Suntory Holdings for $83.50 per
share in cash.
と書いてありますが、この文中の"Suntory
Holdings"は、法的に厳密に言えば「サントリーホールディングス株式会社」ではありません。
サントリーホールディングス株式会社が米国内に設立した新しい別の"Suntory
Holdings"という社名の会社です。
サントリーホールディングスの総称として"Suntory
Holdings"と書いているだけかもしれませんが。
ところで、Beam Inc. は自社のことを、
"a leading global premium spirits
company"(世界一流のプレミアム・スピリッツ会社)と表現しています。
私はお酒には詳しくないのですが、厳密な分類名・カテゴリーとしてプレミアム・スピリッツというお酒があるわけではないようです。
輸入洋酒とは・・・
ttp://www.youshu-yunyu.org/spirits/
製造工程において、蒸留回数を増やしたりろ過技術を工夫するなどしたスピリッツのことを俗にプレミアム・スピリッツと呼んでいるようです。
「組織再編の株主総会回避のしかた 発見的教授法による会社法シリーズF 水道橋レクチャー叢書」
昔人生参謀今経営参謀
著 マジョルカ大学法学部商法研究室 共著
(マクグロウ・ヨル・ラーニング書房)
【推薦の言葉】
株主総会を回避することによる利点は、本来しなくてもすむ複雑な株主対応を一生懸命やって不愉快な思いをするよりは、
株主総会を回避することでエラー(法手続きの瑕疵)をおこす可能性を低くすることにある。
この本を読むことにより、上場企業法務部の諸君は、論理や経験に裏打ちされた株主総会回避技術の修得が可能である。
―伊東塾 英語科主任講師 船井悟